重さ
「じゃれあいはそこまでだ、とりあえず現状は十分に確認できただろう、臨時校外実習を今週末に実行する、日時は金曜の授業が終わり次第出発、それまで当日の行動を緻密に計画しておけ、以上、解散」
全員に直立不動をとらせて声をあげその場を締める
「あ、そうそう五十嵐」
「はい、なんですか?」
「その悪魔はしっかりと隠しておけよ?」
出しっぱなしにしてすっかり忘れていたメフィに気付き、すぐにトランプの中に入れてしまう
『なによもう、必要な時以外出さないわけ?都合のいい女扱い!?』
『家では自由にしてるだろうが、さすがに外でお前が出たらパニックが起こる、そしたら確実に討伐か、全面戦争だ』
それもそうねとつまらなそうにして黙ってしまう
「あの、静希君」
「お?どうした明利」
「今日、今日ね・・・静希君の家に行こうと思って」
その声に鏡花と雪奈が激しく反応した
「あぁいいぞ、散らかってるけど・・・いいのか?」
「うん、散らかしちゃったなら片付けるよ」
「毎度悪いな」
「平気だよ」
そのやり取りを聞いて鏡花と雪奈がこそこそと近付いて内緒話を始める
「本当に明利は通い妻ですね、なんですかあれ」
「こうなったら内部調査だね、私の部屋に来なさい、ベランダから静の部屋覗いちゃおう」
「話がわかりますね雪奈さん」
「だてに長く静の姉貴分やってないって」
何やら不穏な会話をしている二人に気がつきながらも、陽太は静希に向けて合掌する
込めた思いはとりあえず頑張れの一言
前回の実習後から静希の部屋はさらに慌ただしく気体の生成を急いでいた
何せ酸素、水素、硫化水素、静希の使用する気体系の物質をほとんど使い切ってしまったのだから
急ピッチで作ってはいるが、五百グラムの生成はまだほど遠い、何せ家にいる間しかできないのだ
放置した状態では危険も多い、可燃物質を扱うとはそういった危険もある
完全に安全に、なおかつ早く
「だっだいまー!あ~もうやっぱり外はいいわね」
「もはや自分の家かよ・・・上がってくれ」
「うん、お邪魔します」
家のドアを開けた瞬間に静希のトランプから抜け出したメフィはさっそくとリビングに向けて飛翔しくつろぎ始めている
「うわ、いつにも増してすごいね」
「あぁ、今回はかなり使ったからな、作るのが追い付かないよ」
リビングに置かれた機材や材料、作成方法の書かれた書類や試験管があちこちに散乱してしまっている
「まったく大変よね、こんなことしなくちゃいけないんだから」
「それを全部使わせておいて無傷だったお前が言うと非常に腹が立つなおい」
「ま、まぁまぁ落ちついて落ちついて」
何日か生活したことで悪魔も静希が怒ると非常に怖いということを理解しているのかその額には冷汗がにじんでいる
「とりあえず窓を開けて、軽く掃除機かけちゃうね」
「あぁ、ホント悪いないつも、今度お前の部屋でも掃除に行こうか?」
「へぁ!?だ、大丈夫だよ!全然そんなこと必要ないよ!綺麗!普通に・・・たぶん・・・綺麗・・・だよ!」
まるで確認しているかのように思い出しながら綺麗であることを強調する
「そうか?なら今度飯でもおごるよ、何がいい?」
「い、いいってそんなの、気にしないで・・・だったら今度うちにご飯食べに・・・」
「あぁ、そういえば前もそんなこと言ってたもんな、いつか行こうとは思うんだけど、迷惑じゃないか?」
「う、ううん!そんなこと・・・ないよ」
「あぁもうこの子可愛いわねえ、シズキこの子頂戴!」
「ダメ、おとなしくしてろ」
「ぶーぶー・・・」
こんな会話が繰り広げられている一方、隣の深山家、雪奈の部屋では
「あぁもうあの二人はやきもきするわね本当に!」
「明ちゃん!あとひと押しなのになぜそのひと押しができないのか!この壁ブリーチングして無理やりに抱きつかせてやりたいわ!」
壁に耳を押しつけながら会話を盗み聞きしている女子二人の姿、なんとも異様な光景である
「それにしても雪奈さんの部屋も静希同様すごい部屋ですね」
「そう?静のリビングよりはましでしょ?」
「いや、あれもすごいけど、これは・・・」
静希の部屋はナイフやその他小型の刃物や武器で埋め尽くされ、リビングは妙な機材で埋め尽くされている
だがこの部屋は大型の刃物で覆い尽くされている
刀、剣、槍に斧
「これ全部能力用ですか?」
「もちろん、八センチ以上の刃渡りを持つ一級品の数々よ」
「これも全部用途違うんですか?」
「当然速さ重視の物もあれば、重さと破壊力重視の物もある、一番のお気に入りは」
『め、メフィさん!何やってるんですか!』
『あら、シズキにのしかかってるのよ?』
『ど、どいてください!静希君苦しそうです!』
『ほらほら、メーリも静希の上に乗っちゃいなさい!』
『ひぃやぁあああぁぁあぁぁ』
「おおう!なんて状況だ!くそうこの目で見れないのが悔やまれるぜい!」
「本当にこの人静希の姉貴分・・・?」
向うの状況が気になって仕方がない雪奈をよそに鏡花は部屋を眺める
そこには使い古された武器の数々、中には布がかけられている物もある
手入れが行き届いている物もあれば、あまり使わないのか放置されている物もある
だがそのどれもが手入れされていて刃の部分は強く鋭く輝きを放っている
「しょうがないわ、鏡花ちゃんベランダに移動するわよ!」
「へ?覗くんですか?」
「侵入するわ、手伝って」
「不法侵入には加担したくないんですけど・・・」
「乗りかかった船よ、沈没するまで一緒にいなさい!」
「ええええ!」
やはりこの人は静希の姉貴分だなと納得しながら鏡花は渋々後に続く
場面は戻って静希の部屋
明利とメフィにのしかかられながら静希は機械によって生成される水素と酸素の様子を眺めていた
「し、静希君、お、重くない?」
「あぁ、明利は全然重くないよ」
むしろ軽いくらいだ
「私も重くないでしょ?」
「お前は重さないだろうが」
重さゼロなくらいだ
「そろそろどいてくれるとありがたいんだが」
「ダメよ、男なら女の子の一人や二人背負って見せなさい」
「あの、下ろしてくれても・・・」
どうやら明利をメフィが取り押さえて静希の上に載せているらしく、明利には拒否も抵抗もできなさそうだ
「しょうがないな、うりゃ」
「おおう!いいわね!」
二人、実質的な重さは一人だが軽々と持ち上げる
明利が軽すぎるのだ
平均身長を余裕で下回り、肉付きもよくない身体、体重があるはずがない
「ふふん、なによメーリもまんざらでもないじゃない」
「そんなことないです・・・」
「あら?そう?じゃあ私が一人占めしちゃってもいいの?」
「・・・」
明利はもう何も言えなくなっていた
顔を真っ赤にして静希の背中に顔をうずめている
静希は特に気にした様子もなく明利を背負いながら作業を続けている




