表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
J/53  作者: 池金啓太
二十一話「生命の園に息吹く芽」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

751/1032

嫌な予感は

この動物園の動物を見て来てわかったことがある、それは動物にしては珍しくゆっくりこちらを観察するという事である


今まで遭遇した野生動物などだと観察の時間などは極端に短く、餌か、天敵か、同種かそれを判断するのに数秒と掛からなかったが、この動物園の生き物たちはその判断にかける時間が妙に長い


恐らくは自分の世話をしてくれている人か否かを見極めようとしているのだろう、人に慣れるという事は、人を判別できるようになるという事と同義なようだった


「陽太、こいつの相手頼む、傷つけるなよ?」


「おうよ、睨み返してやる」


静希と明利はそそくさと移動し、眠っている熊に静かに近づいてマーキングを終わらせていく、そしてその間陽太は起き上がった熊を思い切り睨みつけていた


明らかに喧嘩腰だが、人間の表情までは熊も読み取れないのか、じっと陽太の顔を見たまま動かない


二人の距離は一メートルもない、よくあの状態で停止できるものだと熊に感心しながら静希と明利はマーキングを終え檻の中から早々に脱出する


「陽太、もう済んだから次行くぞ」


「おうよ、んじゃライオンと虎に会いに行くか」


熊に背を向けないように陽太は檻を脱出し、次の動物の元へと向かうことにした


「明利、今のところ動物たちに変わったところは?」


かなりの数の動物に同調を行ったことで、それなりに情報は出そろってきたが、今のところ妙なところは見つからない


唯一あげるとすれば明利の言う一定の成分が動物の体内から見つかっている位のものだろうか


「えっと、体調には問題ないけど、やっぱり今までの子たちと同じでいくつかの成分が見つかってるよ、やっぱり餌に混ぜてるのかな?」


「職員の人に聞いてみたけど、餌に混ぜ物はしてないって言ってたわよ?薬の副作用とかはあり得ない?」


明利が仕事をする間に、鏡花は鏡花でしっかりと自分にできることはこなしていた、軽く聞き込みをする程度だが十分役立つ情報だった


「副作用・・・でも一か月薬を入れてない子にもあったし・・・副作用ってことはないと思うけど・・・」


「勝手に何か食べてるとか?虫とかネズミとか」


「ありえなくはないんじゃね?食べ物もたくさんあるし、これだけ広ければいくらでも隠れられそうだ」


動物たちの体内にある成分が餌や薬ではなく、他の生き物から得た物であるならそれはそれで理屈は通る


無論今まで同調したすべての動物から見つかっているという点から、その可能性はかなり低い


一つの檻全てから、あるいは動物の中のいくつかから見つかったというのであればまだわかるが、動物園内の全ての生き物からとなると少し事情が変わってくる


「動物が調べ終わったら餌とかも調べてみようか、何か見つかるかもしれないし」


「そうね、そうなると今度は私の仕事かしら」


「俺らは相変わらず仕事なしか」


「調べものくらいできるだろ、サボろうとすんなよ」


そんな話をしながら静希達がある檻を通過しようとすると、檻の奥から大きな音が聞こえてきた


金属音と動物の声のようだが、一体何が起こったのかと静希達がちらりとそちらを見る


断続的に聞こえてくる金属音と悲鳴のような動物の声に何かあったのだろうかと静希達はその中に向かうことにした


その檻はサイが入れられているらしく、何匹かのサイが眠ったり食事をしているのが見られるが、金属音の元はすぐに見つけられた


「落ち着け!頼むから動くな!」


「薬!睡眠薬とか持ってきてください!」


「は、はい!」


そこにはちょうど資料を作りに来たのだろう、石動と樹蔵がいた、そしてその先には石動の能力である血を全身に纏ったサイが檻を破壊し脱走してしまっていた


「おいおい、これどういう状況だ?」


「おぉ!五十嵐達か!丁度いい!こいつを押さえこむのを協力してくれ!」


どうやら石動の能力である血の鎧を拘束具代わりに使っているのだろう、必死に動きを止めようとしているがもともとの地力の強い動物相手では動きを阻害するくらいしかできていないようだった


「鏡花」


「はいはい!」


鏡花はすぐに地面で足を叩くとサイの体を拘束していき、その動きを阻害しながら、壊されていた檻をすぐに修復して見せた


拘束されていてもサイは全く落ち着く気配がない、むしろ体を大きくひねって動き出そうとしていた


「何よこいつ!反抗期かなんか!?」


「明利、あいつの同調ってもうやってるっけ?」


「ううん、まだ・・・落ち着けば調べられるんだけど・・・」


流石にこんなに暴れてしまっているのでは明利を近づけるわけにはいかない、職員が睡眠薬を持ってくるのを待つしかなかった


数分して職員が注射器などの医療道具と輸血用の血液と睡眠薬の入った瓶を持ってくると、石動は即座に血液に睡眠薬を混入しサイの体内に注入していく


だがやはりというべきか、傷をつけないように、傷が少なく小さいようにすると注入できる量も少なくなるため、効きが弱い


鏡花と石動の能力で抑え込んではいるものの、サイの体は大きく、そして力も当然強い


いつまで抑え込んでいられるかは全く分からないのだ


「ちなみに聞くけど、何がどうしてこうなったんだ?」


「俺も分からねえよ、ここの人に餌とか薬の資料を貰ってたらいきなり暴れだしたんだ、突進して檻も壊しちまうし・・・ほんとビビったよ」


大まかな事情は把握している樹蔵はそのように話すが、唐突に暴れだしたと言われても何が原因なのかは全く分からなかった


静希と明利はとりあえずそのサイがいた檻の中を覗いてみるがほかの檻に比べ特に変わった様子もなく、暴れるような原因があるようにも見えない


樹蔵の持っていた資料を覗いても、投薬もなし、餌も他のサイと同じものを与えている


他の檻にいるサイは大人しくしているというのになぜこの個体だけが暴れだしたのかが分からない


一体何が原因でこのサイは急に暴れだしたのだろうかと悩んでいると、ようやく薬が効いてきたのか、先程まで体を動かしてしきりに鳴き声を上げていたサイがおとなしくなり脱力していく


それを見越して鏡花と石動が目で合図をしながらゆっくりとサイの拘束を緩め檻の中へと移動させていく


そして完全に眠っているのを確認した後、拘束を解除するとその変化を全員が見ることができた


「え・・・おいマジか!?」


サイの背中、本来そこには何もないはずなのに、眠っているサイの背には魚の背びれのようなものが形成されていた


紛れもなく、奇形の証でもある


「おい石動、こいつ最初からこんなのあったのか?」


「いや、暴れている時はこんなものはなかった・・・拘束している時にできたのか・・・?」


押さえこむことに集中していたせいか、サイの変化には気づくことができなかったようで石動も驚いているような声を出している


すぐさま明利が近づいて同調し、レポートを作成し始める


「とにかく先生に報告、その後また委員会の方にも連絡しなきゃな・・・目の前で奇形種が生まれるって・・・どういう状況だよこれ」


鹿だけだと思っていた奇形種が、今度は目の前で生まれる、後天的な奇形種の誕生に静希を始めその場にいた全員が自分の目を疑い、同時に何が起こっているのか僅かに警戒心を高めていた


鏡花が城島に連絡する中、明利が不意に顔を上げた


そして辺りを見渡すように集中していく、その変化を静希をはじめとする一班の人間は気づくことができた


「明利?どうしたの?」


鏡花の問いに明利は答えず、集中を高めているのがわかる、大量の動物たちに同調した明利にとってそれがどこの何かを特定するのに時間はかからなかった


「・・・動物が・・・あれは・・・鳥・・・クジャク!?」


「・・・まさか・・・石動!ここは任せたぞ!」


嫌な予感がした静希はそう言って鏡花に視線を向けると、彼女も何が起こっているのかをほぼ把握した様だった


鏡花は眠っているサイに拘束を施し、簡単には逃げ出せないようにして見せる


職員から注射器と睡眠薬を受け取りながら、明利の索敵に引っかかったその反応に一班の人間は石動の返答も待たずに移動を開始する


鹿一匹だけなら、その鹿が特別な何かである可能性が高かった、だがサイまで奇形化するとなるとこれはもう偶然である可能性も、特別である可能性も低い


そして、嫌な予感とは当たるものだ


静希達がクジャクのいる檻にやってくると、けたたましい鳴き声と共にわずかに血を流しながらクジャクが暴れているのが目に入る


職員が止めようとしているのだが暴れるクジャクを止めることができていないようだった


そしてその腹に異常があるのがはっきりと分かった


本来鳥類の腹部は羽毛で覆われているのだが、体内の骨が肉と皮を突き破り、棘のようなものを作り出しているのだ


腹部から骨が突き出しているために激痛により暴れているのだ


もうただの奇形化騒ぎではない、何かが起こっている


確信めいたものを感じながら静希と鏡花は視線を合わせて暴れるクジャクに立ち向かう


鏡花は能力を使ってクジャクの体を押さえこみ、静希は注射器の準備を始める


「明利、注射はどこに打っても平気か?」


「細い針なら・・・鎮痛剤もあればいいけど・・・」


「そこまでは時間が足りないな、注射したらすぐに治してやってくれ」


静希は拘束されたクジャクの体に細い注射針を突き刺し、睡眠薬を注入していく


そして針を引き抜くと同時に明利が能力を発動しその傷を塞ぎ、腹部に生じた奇形部の治癒も開始した


痛みが和らいだことでクジャクは少し大人しくなるが、それでも暴れようとするのをやめなかった


奇形化することによって凶暴になっている、すでに明利が同調していた動物だったからよかったものの、もしほかの動物が奇形化するとなると、もう手が付けられないかもしれない


誤字報告が五件たまったので二回分投稿


今昔の文を見直しているんですが、いやぁひどいものですね、特に書きはじめ当初なんて赤面するレベルです


これはこれで教訓になるのであえて修正はしませんが案外誤字が見つかりました、なんというかかなりへこみました


これからもお楽しみいただければ幸いです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ