悪魔と絵本
「そういえばさ、あの一件以来私悪魔のことちょっと調べてみたんだけどさ、正直悪夢でも見てるんじゃないかって気分よ」
悪魔との対話を見て鏡花は大きくため息をつきながら額に手を当てている
その顔は本当に顔色が悪そうでメフィと静希を見比べながらどんどん嫌な顔になっていく
「メフィと静希のやり取り見てるとそんな感じしないけど、悪魔って相当やばい連中よ?」
「そうなのか?たとえば?」
悪魔なんてメフィ以外に見たことのない静希達はメフィを見るが、当の悪魔はそんなに見つめないでよと茶化している
「伝説とか童話にもなってるくらいだけどさ、大概は史実を参考にしてるみたい、山を消しとばしたり巨大なクレーター作ったり、一番驚いたのは史実が絵本にもなってることよ」
「絵本?」
悪魔の登場する絵本があったとは驚きだ
そもそもそんなものがあったのなら静希たちもある程度悪魔の存在を知っていてもおかしくないはずなのだが
「悪魔の出てくる絵本か・・・女神とか妖精とかだったらよく出てくるイメージあるけどな、斧を湖に落とす奴とか」
「実際に悪魔って描写してるのなんてないわよ、ほとんどは抽象表現、狼なんかに例えられてるわ、『三匹の子豚』とか『赤ずきん』とかが有名かしら」
「え!?あれって悪魔なの?つか史実だったの!?」
意外な事実に静希は想像する
家を破壊する狼もとい悪魔
人を丸のみにする悪魔
容易に想像できてしまうだけに恐ろしい
「ちなみに三匹の子豚に関しては家じゃなくて村や町単位よ、最後の退治した描写は転送の能力、昔は魔術ってなってたけどそれで遠くへ飛ばしたってだけ」
「あぁ、破壊の規模が明らかに大きいな・・・それでも普通にできそうだ」
そして能力が魔術と表されているということはかなり昔の話だ、それこそ通常の科学技術がまだ開発されていなかった頃の話だろう
そんな時代に村一つ、そして街一つ滅ぼす悪魔
そりゃ資料やら伝記が残っていてもおかしくない
「豚三匹はいいけど赤ずきんは?どんな話だ?」
「あれはどっかの高官が誰かを暗殺するために悪魔を召喚したって話だったわ、絵本で説明すると高官がお婆さんの所に行くように指示した母親、暗殺されそうなのが赤ずきん、悪魔が狼、おばあさんはその時悪魔が油断を誘うために憑依した人物となってるわ」
「うわぁ、自らの子を暗殺しようとする母親の話かよ・・・」
「微妙に解釈違うけど、しかも母親狼とグルだったのか・・・道理で狼がおばあさんの家を知ってるはずだよ」
「でも絵本では狩人が出てきて赤ずきんもおばあさんも助かるよね?」
明利の指摘はもっともだ
確かに物語の後半、赤ずきんはおばあさんと同じように狼に丸のみされそこを狩人に救われるはず
「あれ?おばあさんは助からないんじゃなかったっけ?ちがったっけ?」
「雪姉がみた絵本だとそうなのか?」
「いや、よく覚えてない・・・どうだったかな?」
絵本によっては赤ずきんしか助からないものもあったような気がするが、この際それは置いておこう、話がややこしくなる
「そこも史実通りよ、実際はその暗殺計画に気付いた神官が殺される寸前で悪魔の存在を看破して退散の魔術をかけ、高官を裁いたとなってるらしいわ」
「なんかこれから絵本を見る度に今までのファンシーな感じを打ち砕くような事実だな」
「できるなら知りたくなかったっつーの・・・」
「もしかしてもっと別の絵本も実は悪魔が絡んでたなんてこともあるのかな」
「猿蟹合戦が実は悪魔との戦争を描いた物語だった!とか?」
「妙にリアルだからその考えは捨てろ深山」
実際、過去の絵本などが悪魔との物語を描いているものが多いのであればあり得そうな話だ
猿蟹合戦が悪魔との戦争を描いているのであればカニ、栗、臼、蜂、馬糞それぞれが何かしらの軍隊かそのスペシャリストだったという感じだろうか
想像すれば想像するほどにあり得る気がする
「絵本に在るかどうか知らないけど、白雪姫は悪魔との関係を基にした史実らしいわ」
「え!?マジ!?」
意外な事実に全員驚く
白雪姫と言えば魔法の鏡に「世界で一番美しいのは誰だ」という有名なセリフがある童話だ
確かにそう考えると魔法の鏡なんてものがある時点で悪魔に近いような気がする
「それは誰が悪魔なんだ?鏡?それとも王妃?」
「いいえ、誰でもなくその裏で操っていた人物とされてるわ、王妃に魔法の鏡を手渡して堕落への道を示した悪魔がいたってことになってる」
「なるほど、別に破壊や殺しが悪魔の本分ってことでもないんだな」
「そうよ?私だって史実に残ってるし?上級悪魔なら史実くらいには残らないと」
メフィストフェレス、彼女もそもそもは破壊に重きを置いた悪魔ではない
人と契約をかわし誑かし魂を奪う悪魔とされている
そんな悪魔と契約してしまっている静希の魂が心配ではあるが、今更そんなことを言っても仕方がない




