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J/53  作者: 池金啓太
二十一話「生命の園に息吹く芽」

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動物とのふれあいの結果

鹿のチェックが終わった後、静希達は近くにある檻から順々に調べていくことにした


大型の草食獣から小型まで、それこそ隅から隅まで調べるのだが、これがまた骨が折れる作業だった


人に慣れているとはいえ静希達はいわばよそ者、中には縄張りに入ってきたと判断したのか威嚇してくる動物までいる始末


護衛としてついてきて本当によかったと思う、明利だけではこの状況をさばききれなかっただろう


とはいえ静希だって動物の扱いがそこまでうまいというわけではない、怪我をさせないように可能な限り手加減しながら明利が触れられるように押さえたりすることも多く、チェックは非常に難航していた


「あ、お前達・・・大丈夫か・・・?」


「・・・なんだその格好・・・ひでぇな」


静希達がやってきた猿の檻にいたのは石動と樹蔵だった、職員に話を聞きながら二人で協力しながら明利の言ったとおり一か月分の食事と投薬物を確認している様だった


そんな二人が向ける静希と明利の様相は、凄惨という言葉が最も適切だろう


体中涎まみれ、ところどころに動物の毛や羽などが付着し、体からは強烈な動物の匂いが付着している


これを大丈夫と言えるほど静希と明利は気丈にはなれなかった


「ははは・・・もう当分動物園には来たくない気分だよ・・・」


「早くお風呂入りたいぃぃ・・・」


男である静希でさえこの匂いは耐えがたいものがある、そんな中で女子である明利にとってこの状況は耐えがたいものがあるだろう


石動もそのことを察したのか同情しながら明利を慰めるが、一刻も早く調査を終わらせたいのか明利は涙目になりながらも猿たちのいる檻の中へと進んでいこうとする


だが静希が明利を制止する、猿は危険だ


人に慣れているためにこちらを容易に攻撃する事もできるし何より身軽で速い、たとえ静希が肩車しても簡単に登ってくるだろう


「石動、ちょっと明利に鎧を作ってやってくれないか?」


「鎧?あぁなるほどそういう事か」


静希が猿たちを見てからそういうと石動は静希の懸念を察したのか、持っていた血液のパックをいくつか取り出し能力を発動する


チューブの中から出てくる血液が明利の体を服ごと覆っていき、一気に凝固していく


体の動きを阻害しない程度に形成された血液の鎧は完全に明利を覆い尽くした


「多少動きにくくなるかもしれないがそれは許せ、手のひらだけは鎧を外しておく、これで同調できるだろう?」


「ありがとう石動さん、頑張るね」


明利は意気込んで猿たちのいる檻の中に入っていく、さすがに石動の能力で守られていれば問題はないだろうと静希は彼女たちが持っている資料を覗き見る


そこには当然のようにこの一か月に与えられた餌と投薬した薬品などが書かれている


だが猿たちはこの数か月は風邪はひいていないらしい、二匹ほど怪我をした猿はいたらしく、傷薬を処方してあるがそれ以外に変わったところはない


「お前はついていなくていいのか?鎧くらいなら作ってやるぞ?」


「遠慮しておくよ、それに明利もだいぶ慣れたから多少は」


そう言いかけた瞬間明利の悲鳴が辺りに響く


静希が視線を向けるとどうやら爪や牙で攻撃されることはなくとも、その体に引っ付かれて身動きが取れなくなってしまっている様だった


「・・・やっぱ頼むわ、明利を助けないとな」


「ふふ、任せておけ」


再び血液の入ったパックを取り出し、石動は静希の体の周りに血液の鎧を作り出す


それほど厚みは無いものの、石動の能力で強化された血液だ、恐らく銃弾程度なら防ぐことができるだけの強度は持ち合わせているだろう、猿の爪や牙などあってないようなものだ


「おら猿ども、明利から離れやがれ」


半ば強引に猿を引き離し、身動きが取れなくなっていた明利を救出すると静希は安堵の息を吐く


流石石動の鎧だ、まったくと言っていいほど傷がついていない、これなら最初から石動を明利の護衛にするべきだっただろうかと少し後悔してしまう


「うぅ・・・まだたくさんいるから、静希君、またお願い」


「はいよ、にしても歓迎ムードじゃないよなこれ」


辺りにいる猿たちは静希達に向けて牙を剥き出しにしているものの方が多い


個体にもよるが、気性が荒い猿が多いのかやたらと威嚇しているのがわかる


「おい五十嵐、怪我させんなよ?ムカついても手とか出すなよ?」


「誰に言ってやがる、猿の行動にいちいち反応するほど馬鹿じゃねえよ」


樹蔵の言葉を軽く流しながら静希と明利は着々と猿にマーキングを施していく


これが陽太だったら猿の行動にいちいち感情をむき出しにして対応していたかもしれない


陽太を明利の護衛にしなくて正解だったという事でもある


とはいえ人に近い動物なだけあって行動が面倒というのは間違いなかった


臆病な個体や子供は一塊になっているためにマーキングも簡単だったが好戦的な個体はこちらを鎧越しにでも噛みついて来たり爪を立ててきたりしている


敵わない相手にもこうして攻撃してくるあたり所詮は動物、野生で育っていないために警戒心が弱すぎるというのも考え物だった


その後数時間かけても、明利のマーキングはすべては終わらなかった


一つ一つの動物が多すぎるのもそうだが、それにかかる時間が長すぎるのだ


昼過ぎから始めてすでに五時間以上、マーキングを終えた動物は約六割、明日には終わるだろうがそれでもまだ比較的楽な草食系の動物が終わっただけである


一度携帯で連絡を取り合って宿舎近くに集まった時の静希と明利はそれはもう酷い有り様だった


二人の姿を見つけた瞬間鏡花と陽太が言葉を失ったほどである


「あ・・・その・・・まぁ・・・お疲れ」


鏡花が精一杯振り絞って出した言葉がこれだった


静希と明利は体中、動物の毛や糞尿にまみれ、今までずっと動物と格闘していたためか疲労困憊ですぐにでも倒れそうなほどだった


傷つけず触れる、ただそれだけの事なのにここまで難しいとは思っていなかったのだ


動物は非常に気まぐれで、扱いが難しい


そのくらいのことはわかっているつもりだったが、まさかここまで困難極まることだとは予想だにしていなかったのである


最初は一か月の食事内容と投薬内容をすべて書き記すという事に難色を示していた樹蔵や他の班員たちも二人のその様子を見て文句を言う気などなくなったのか、二人に同情のまなざしを向けていた


「と、とりあえず今日は先生に報告をして休みましょ、お風呂にも入りたいだろうし」


「そ、そうだな、早く切り上げることにしよう、あとでこちらで書いた資料は部屋に届ける、今は休んでおけ」


それぞれの班長がさすがに居た堪れなくなったのかそう言ってまとめる中、静希と明利は大きくため息をついていた


生き物が好きな明利でさえ少し辛かったほどだ、鏡花の家にいるベルと違い、動物たちはすべて躾がされているというわけではない、同じ檻の中に入れられているという事はその檻の中で一種のコロニーのようなものを形成しているようなものだ、飼育している人間ではなく、同じ檻の中にいるボスの言うことの方がよく聞くのである


そうなると躾などは意味がない、勝手気ままに生きるだけ、無論人を傷つけることだってあり得るし喧嘩することもある


草食動物は基本大人しかったり臆病だったりするタイプが多いが、雑食動物は気性が荒いものもいる、そう言う動物には非常に手を焼いた


「とにかく風呂に入ろう・・・この匂いは耐えがたい・・・」


「うん、早くゆっくりしたいよ」


静希と明利は疲れた体を引きずりながらそれぞれ風呂へと向かっていく


動物の汚れがたっぷりと染みついた服はビニール袋に入れ、あとで鏡花に何とかしてもらうことにした


男子と女子で風呂場が分かれているのは本当に運が良かった、もしこれで男女一緒の浴場だったら静希と明利は人目もはばからず一緒に入っただろう


男女に別れそれぞれ入浴している中、静希はとにかく体についた汚れと匂いをおとすべく徹底的に体を洗っていた


「なんつーか・・・相当きつかったんだな」


「まったくだよ、もうあんなのはごめんだ、明日もあんなのがあると思うと嫌気がさすね!」


先に入浴しているのは静希と陽太だ、静希と明利の様子を見た石動達が先に風呂を譲ってくれたのである


「しかも体だけならまだしもこの腕の方にも匂いがついた可能性がある!あとでメンテナンスしなきゃいけないからもうやってられん!」


「あー・・・まぁ・・・お疲れ」


静希は左腕を付けたり外したりしながら苛立ちを隠そうともせず体を泡立たせていた


長時間動物と触れ合っていたせいか、左腕の霊装にも匂いがついてしまったような気がしているのだ、中にある刃や砲身に汚れが入ってしまっているかもしれないため一度ばらして確認しなくては気が済まなかった


「ていうか動物にそんだけ触れあったんだからいいじゃんか、俺らは檻の外から眺めてるだけだったぞ?」


「ほう?なら明日の明利の護衛はお前がやるか?」


その言葉に陽太は目を逸らしながら答えを保留した


先程までの静希と明利の惨状を目の当たりにして自らそれを買って出る程陽太は無謀にはなれない


面倒なことは極力避けたい、それに何より明利の相手は静希がしなくてはという暗黙の了解があるのだ


「あぁもうこれで何も収穫がなかった日には動物の毛をむしり取ってやる!ハゲができる程引っこ抜いてやる!」


「・・・まぁほどほどにな」


静希がここまで苛立っているのは珍しいなと思いながら、陽太は自分に飛び火しないようにあまり刺激しないようにしていた


良くも悪くも何をするかわからない静希だ、苛立ちが頂点に達したとき何をするか陽太の頭では予想もできない


もしかしたら動物の毛を丸裸になるまでむしるかもしれない、それこそ体毛だけではなく髭まですべてむしり取るかもしれない


流石に丸裸の動物を見るのは気が引けるため、そんなことになったら止めるつもりではいるが、陽太で止められるかは疑問である


もしもの時は班長である鏡花にも出動してもらうかもしれないと思いながら陽太は自分の体についた泡を流していく、隣では体中に泡を付けた静希がさらに泡を作り出していた


日曜日なので二回分投稿


風邪が流行っているようなので皆さんどうか風邪などひかぬようにお気を付けください


これからもお楽しみいただければ幸いです

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