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J/53  作者: 池金啓太
二十一話「生命の園に息吹く芽」

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鹿の対策

陽太が少しずつ接近するのと一緒に、ある一定の距離を取ろうと鹿も本当に僅かにだが動いていた


絶対安全圏とでもいえばいいのか、確実に身を守るためにこの距離を保っているように見える


岩山や平地のある場所での移動は慣れているのか、鹿は軽々と段差を苦にもしないで陽太との距離を空けることができている、もともとの鹿としての脚力だけではなく、奇形化して得た脚力もすでに使いこなしている様だった


そして数十秒、両者が停止する、そんな中一瞬陽太が鏡花の方に目を向ける


準備はできたのだろうかという最終確認のためだ


鏡花は頷き、同じように今度は石動に視線を向ける


その手にはすでに薬品を混入済みの血液が腕に固形化されている、あとは針状にして鹿の体内に流し込むだけだ


それがわかると陽太は胸の前で拳を二回叩き合わせる動作をする


静希達全員の緊張が高まる中、陽太が動いた


能力を全開にし、鹿に襲い掛かる


と言っても跳躍して一気に距離を詰めただけだ


飼育されていたとはいえそこは草食動物、陽太から危険を感じ取ったのか陽太が動く数瞬早くすでに回避行動に入っていた


回避したその先の地面に足を付けた瞬間、その地面が崩れ、下に落ちてしまう


だが鏡花が用意したのはただの落とし穴ではなく、その内部に頑丈なネットを配置したものだった


ただの落下だと落下先で怪我をすることもあるかもしれないがネットだとその足がネットの中に入り、体は受け止められる、結果動きをほとんど阻害することができるのだ


鹿がトラップにかかった瞬間、石動が飛び出した


目標のかかっているトラップめがけ一直線に跳躍した石動はあらかじめ明利から言われていた場所に正確に血液に混入された睡眠薬を注入していく


「やったか?」


「・・・いや、どうやらまだのようだな」


極細の針状にしたために傷を小さくすることもでき、血液の凝固による止血も楽だったが、同時に混入できた量も僅かになってしまう


もとより何度か睡眠薬での昏睡を行っていたのか、薬に対する耐性のようなものもできていたのかもしれない


トラップの上で暴れまわる鹿だが、網に足がとられて上手く動くことができないようだった


石動は一時的にその場から離れ、再び静希達のいる場所まで戻ってくる


陽太は警戒しながら近づき、再び注意を自分の方に向けようとしたが、第三者からの攻撃があったことで鹿の注意を自分の方だけに向けることができなくなっていた


どうしたものかと悩んでいると、不意に鹿が角をネットに絡ませるように頭を下ろす


そんなことをしたら雁字搦めになってしまうぞと全員が心配した瞬間それは起こった


鏡花の能力で作られたネットが角に吸収されたのだ


いや正確に言うなら吸収ではない、まるで角を覆い隠すように材質が変わり、鎧のように変わっている


目標の鹿の能力が発動したのだと瞬時に全員が理解した


陽太は能力を発動し臨戦態勢に入る、そして上で待機している静希たちも警戒を強めた


すでに睡眠薬は打ちこんだとはいえ、相手は奇形種、しかも自分のことを手負いだと思っているだろう


眼前にいる陽太を完全に敵視しているのは間違いない


角を上手く使い、ネットをすべて角にまとわりつかせるようにし鏡花のトラップから脱出すると、その角は一回り太くそして鋭くなっていた


強靭な足腰によって穴からも楽々脱出し、目標は足を地面に叩き付け陽太を威嚇している


「どうする静希?またトラップ作る?」


「・・・いや、このままでいい、下手に足元に注意を向かせるよりもタイマンの方が陽太もやりやすいだろ」


これ以上トラップを作れば鹿は足元への注意もむけ、それだけ不規則な行動をするかもしれない、それなら一対一で戦っている陽太に任せた方が安全だと静希は踏んだのだ


「陽太!傷つけないように時間稼ぎ!できるな!?」


「おぉよ!」


静希の言葉に陽太は大きく吠え自らの体を包む炎を猛らせていく


動物は先天的に炎を恐れる、それは奇形種も同じ、時折例外的な個体はいるが、目の前にいる鹿はしっかりと炎を恐れている様だった


角をこちらへ向け、地面に足を叩き付け突進をするようなしぐさをしているが、僅かに後方に下がるようなしぐさも見受けられる


一呼吸、そして二回ほど地面を蹴った後、鹿は一気に陽太めがけて突進をかける


鋭く尖った角が陽太に襲い掛かる瞬間、陽太はその角を両腕で掴んで見せる

数メートル後方に体が運ばれるが、身体能力強化がかかっている陽太を押しのけるためには圧倒的に力が足りない


「いいねぇ!角あり同士仲良くやろうぜ!」


自分の頭についている角を鹿の角とぶつけ音を出すと、鹿はまるで同種と縄張り争いでもするかのように角を左右に振って陽太の頭にぶつけようとしてくる


陽太が全力で押し返しても引かないその脚力、恐らく通常の鹿の数倍近い力がある、そして足場は鹿に地の利がある、陽太には少し不利な状況だがそこは自慢の身体能力で耐え抜いていた


今回は倒さなくてもいい、なにせ時間をかければ後は勝手にダウンしてくれるのだから


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