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J/53  作者: 池金啓太
二十一話「生命の園に息吹く芽」

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園内行動開始

静希達が中に入ると園内にある少し大きめの建物から一人の男性がこちらにやってくるのが見える


職員の制服に身を包み、柔和な表情を浮かべているのが見て取れた


「喜吉学園の方ですね、ようこそ当動物園へ、私はここの管理を任されてます、遠藤と申します、今回はよろしくお願いします」


「これはどうも、喜吉学園の城島です、こちらこそよろしくお願いします」


城島に続きもう一人の教員も挨拶をしたところで、静希達もよろしくお願いしますと頭を下げた


「とりあえずまずは荷物を置いた方がよさそうですね、宿舎にご案内します、どうぞこちらに」


そう言って遠藤が案内したのはここに勤める職員が住んでいるという宿舎だった


実際に園内にあるのではなく、動物園の敷地のすぐそばにあり、宿舎から直接園内に入ることができるような通路が設置されている様だった


「学生さん用の部屋は二つ用意させてもらいました、部屋割りはまぁ・・・ご自由にどうぞ」


中を案内しながらそういう遠藤の言葉に静希達はふと思う、どういう風に部屋を分けるべきか


案内された部屋はそれなりに広く、一つの部屋に五人ほどなら余裕で寝られそうだった


「どうする?班で分けるか男女で分けるか」


鏡花の言葉に全員が唸る


信用できるという意味では班で分けたいところだが、異性と同じ部屋で寝泊まりするというのは少々抵抗があるようだった


「ここは無難に男女で分けるのを提案する、ブリーフィングを行う際などはどちらかの部屋に集まるという事でどうだろうか」


石動の提案にとりあえず全員納得し、男女の部屋割りでそれぞれ荷物を置き、装備を整えた状態で再び遠藤の元に向かうことにした


流石に何度も実習をやっているとそれぞれ装備を整えるのも手早くなる、ものの五分も経たずに再集合した静希達を前に遠藤は心強そうにしていた


「じゃあとりあえず問題の子のいる場所に案内しますね、途中職員とすれ違うこともあるかもしれませんが気にしないでやってください」


そう言えば職員の研修を同時進行で行っているのだったということを思い出して、静希達は何度かすれ違う職員にあいさつをしながら目標のいる場所までやってくる


その場所は檻というより大きな穴のようだった


人が立ってみる場所と動物が過ごす場所の間には堀があり、万が一にも客に被害が無いようになっている様だった


そしてその穴の中にそれはいた


屈強な下半身を持った鹿、それは写真で見るより一回りほど大きいように見えた


「あれが目標ですか」


「えぇ、突然あんなふうになって・・・なるべく傷つけず穏便にしてくれると・・・」


遠藤の言葉に確認するべきことがあると思い出したのか、明利が彼の近くに駆け寄る


「あの、動物用の睡眠薬とかの備蓄はありませんか?もし飲ませるタイプのものがあれば餌に混ぜて眠らせることもできると思うんですが・・・」


明利の言葉に遠藤は申し訳なさそうにしながら頬を掻く、あまりいい反応とは思えなかった


「えぇ、備蓄はあったんですが、一度あの子に使用してから睡眠薬の入った餌は食べてくれなくて・・・どうやら警戒されてしまっているみたいなんです・・・」


恐らくはこの穴に閉じ込める際に一度睡眠薬入りの餌を与えたのだろう、だがその結果、他の鹿との隔離には成功したがその後睡眠薬入りの餌を食べなくなったのだという


今までずっと餌を与えて来てくれた人間の餌でさえ薬が入っているとなると食べなくなったのだという


今までそんなことはなかったのだがと遠藤は心苦しそうにしていた


奇形化して、本来の草食動物としての警戒心が強く浮き彫りになったのだろうかと思いながら静希は小さくため息をつく


「わかりました、できる限りのことはします、明利、お前は遠藤さんに頼んで餌をいくつか、それと睡眠薬を貰ってくれ、注射の奴と飲むやつ両方な、あと種を全員に渡しておいてくれ」


「うん、わかった」


明利はとりあえず持っていた索敵用の種を全員に渡す、そして大量に種の入った袋を代表して静希に渡した


これから忙しくなる、とりあえず静希は頭の中で情報をまとめながらこれからやるべきことを考え始めていた


「まずこの園内を明利の索敵下に置く、この種をまんべんなく蒔けばそれでいい、俺と上村、下北、石動でこれを配置する」


静希から種を受け取り、石動達はわかったとポケットの中にその種をしまう

その中で何も指示を受けていない陽太と鏡花は僅かに首をかしげていた


「・・・俺と鏡花は?」


「お前と鏡花はあいつの見張りだ、陽太はあいつに自分の存在をしっかり見せろ、鏡花はあいつの一挙一動に注意だ、万が一にも逃げることがないようにな」


「なるほどね、了解よ、さっさと終わらせてきてよね」


鏡花は納得したのかすぐに鹿の方を向く、それに陽太も続き、これでとりあえずの指示は終えた


「よし、全員地図と種は持ったな?じゃあ行動開始」


静希の指示と同時に全員が動き出し、今回の実習が本格的に始まろうとしていた




動物園はその性質上、園内がかなり広い傾向にある


テーマパークというのは基本広いものだが、動物園のそれは遊園地とほぼ同等かそれ以上と言ってもいいほどに広い


手分けして種を蒔いても相当に時間がかかるのだ


園内に種を蒔き終わったのは目標を確認してから約一時間後、まばらではあるが園内のほとんどを明利の索敵下に置くことに成功する


そして一度集合すると、明利は動物用の医療器具と薬の入っているであろう瓶をもって陽太と鏡花とともに待機していた


「明利、索敵は大丈夫か?」


「うん、ところどころ穴はあるけど、ほとんど確認できるよ」


明利の索敵さえすめばあとは目標に対してアクションを起こすだけである


だが問題はどうやって目標を捕獲するかだ


「陽太、準備はできてるか?」


「おおよ、いつでも行けるぜ」


すでに準備運動は済ませたのか、陽太は軽く体を捻りながら自分の調子を確認している様だった


随分とやる気にあふれているらしく、行動の節々から今すぐにでも向かいたいという気持ちが漏れ出ている


これ以上待たせるのはやる気の減退にもつながりそうだった


「んじゃ、鏡花、確認だけど今目標がいる場所まで能力使えるか?」


「もちろん、簡単に届くわよ」


鏡花の能力が届くのであれば物理的に拘束した後で睡眠薬をぶち込むこともできる、餌での誘導よりも直接手を下した方が早いかもしれない


「オッケー、下北、動物を眠らせたり意識を混濁させるような音ってあるか?」


「なくはないけど、今持ってる楽器じゃ出せないわ」


下北が今持っているのは笛の一種のフルート、彼女の能力は音の種類によって効果が変わるために一定の効果を出すためには楽器そのものを変えなくてはいけない


恐らく昏睡などと言う状況を想定していなかったのだろう、そう言った類の楽器は持ってきていないようだった


「んじゃ・・・そうだな・・・陽太、とりあえずお前はあいつの気を引け、その間に鏡花がトラップ作成、身動きできなくしたらすぐに注射だな・・・」


注射をするという方向で固まるのはいいのだが、問題は誰が注射をするかというところだ


どこに打っても問題ないと言うものならまだしも、睡眠薬というのは良くも悪くも効果が強い、もし間違った場所に打てば命の危険にもつながる


本当なら獣医あるいは職員に直接打ってもらうのが一番手っ取り早いのだが、一般人を危険に晒すわけにはいかない


「それなら私がやろう、これを使えば問題なさそうだしな」


立候補したのは石動だった、そして彼女が持っているのは恐らく動物用の輸血パック、そしてあの中には目標の血液が貯蓄してあったのだろう


血液であれば問題なく能力を発動できる石動であれば、血液と一緒に睡眠薬を注入することもできる、しかも彼女は前衛、万が一に対応できる、願ってもない案だった


「よし、予定とちょっと変わったけど陽太が囮、鏡花がフォロー、石動が投薬だな、俺らは相手の動向に注意しながら逃げ出さないように警戒、なんか他に意見あるか?」


静希が全体を見渡すがとりあえず今のところ他に案はないようで、全員が頷く


陽太に頼むぞと声をかけると、静希はトランプを数枚出して臨戦態勢に入る

一体どんな能力を持っているかわからない以上、最大限の警戒をしておくのが必要だ


「んじゃちょっくらいってくる!」


陽太が能力を発動し、その身を炎で包みながら跳躍、目標のいる場所まで数秒もかからずにたどり着くと、目標も陽太の姿を確認したのか目を向けて警戒態勢に入っている様だった


あまり怯えさせてはいけないと判断したのか陽太は一度能力を解除し、人の姿に戻る、だが鹿の警戒体勢と敵意は変わらず陽太へと向けられている


「今まで飼育されてたっていうのに人に慣れてないのか?妙に警戒するな」


「奇形化してそこら辺が変わったのかもな・・・凶暴化したとか書いてあったけど・・・集中しろよ?」


上村と樹蔵の会話を聞きながら静希や明利、そして石動と鏡花、下北も集中状態を高めていた


今目標と対峙しているのは陽太だが、いつ自分に攻撃が飛んできてもおかしくないのだ


上村は防御のために、樹蔵は警戒のために、静希や明利はいつでも陽太のフォローができるように、鏡花はトラップの作成に、石動はいつでも突っ込めるように体の準備も整えている


陽太は陽太で目標を前にして集中を高めていた


今まで野生動物などは多く相手にしてきたが飼育されてきた動物というのは初めてだし、何より極力相手を傷つけずにいるというのも経験が少なかったのだ


奇形種と戦う時は一撃必殺が基本、だが今回は相手を必要以上に刺激してもいけないし攻撃する事自体危険、そうなると陽太ができるのは目標の視界に存在し、少しずつ距離を詰めることくらいである


動物が最も警戒するのは自分への接近だ、その目的に違いこそあれ、身を守るためにはまず相手から離れることが第一、陽太は少しずつ近づくことで鹿の注意を自分だけに向けようとしているのだ


そしてその意図を察したのか、鏡花も陽太に合わせてトラップを作り替えていく、ほとんど会話もしていないのに考えを予測できるというのは、さすが鏡花だというべきだろうか


自分のことをお気に入りユーザーに登録してくれている方が200人を超えたのでお祝いで二回分投稿


こんなにたくさんの方に登録していただけるとは嬉しい限りです


これからもお楽しみいただければ幸いです

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