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J/53  作者: 池金啓太
二十一話「生命の園に息吹く芽」

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協力体制

「一応戦力の確認とかしておくか?鏡花と石動に説明することも兼ねて」


「そうね、お願いできる?」


この場にいる鏡花と石動は互いの能力を完全に理解しているわけではない


以前軽く説明されたくらいでどういう場面で使うのか、どういう効果があるのかは知らないのだ


知っていると知っていないとでは連携のしやすさが異なる、今後のために知っておいて損はない


「まずうちの班から、班長清水鏡花、能力は変換で大概なんでもできる、困った時の鏡花姐さんだ」


「当てにされ過ぎても困るけどね」


実力でいえばエルフのそれにも匹敵するのではないかという変換能力はかなり強力だ、静希のいうように困った時には鏡花に頼れば大体何とかなってしまうのである


「んで、俺、五十嵐静希、収納系統で五百グラム以下のものを入れる、陽太、炎の鬼に変身できる、明利、種とか使って索敵できる、応急処置も体調管理も任せてる、これがうちの班だ」


その説明に石動と同じ班員である三人は苦笑しているが、能力の紹介をさせた以上、自分たちもしなくてはいけないだろうという事を理解しているようだった


「では・・・私が班長の石動藍、能力は血液の操作とその量に応じた身体能力の強化だ、そして右から樹蔵、遠視ができる、そして下北、音によって効果が変わる発現の力を持っている、上村は同じく発現系統で曲げる能力を有している、これが私の班だ」


互いの能力の確認もできた中で、初めて能力を確認したであろう鏡花と石動が互いに疑問を持ち始める


「上村の曲げる能力って、具体的にはどういう力なの?ちょっとわかりにくいんだけど」


「そのまんまだよ、俺は指向性を持ってる物や力の向きを変えられるんだ、例えば飛んできたボールのコースを変えたり、この班だとこいつの能力の補助と防御の方が多いかな」


そう言って上村は下北の頭を軽くなでる、彼女の能力は音によって効果が変わる力を発現する事


音の違いによって効果が変わるために幾つかの楽器を有し、その方向や場所を上村の能力で調整するのがこの二人の戦い方なのだ


音は基本的に三百六十度全方位に放射的に広がる、だが上村の能力で一点に集中させたりある一定範囲にだけ向けたりすることができるのだ


そして上村の能力は攻撃の補助だけでなく防御にも有効である


飛翔物や肉弾戦でも反応さえできればその向きを変えられるのだ、物理的ではなく現象的な防御ができるというのはかなり有用である


なるほどねと鏡花が納得しているとではこちらもいいだろうかと石動がこちらに向き直る


「響の能力なんだか、炎の鬼というのは具体的にどういう能力なのだ?発現系統だというのはわかるのだが」


「ん・・・なんか今ある系統じゃないっぽいんだよな、難しいことはよくわかんないけどとりあえず炎の量と熱に応じて身体能力強化がかかるって感じ」


詳しくは鏡花とか静希に聞いてくれと、自分の能力なのにもかかわらず解説をすべて他人に丸投げする行為に石動はわずかに笑いをもらしながら、苦労しているようだなと静希と鏡花の方に目を向けた


まったくその通りだよと呆れながらため息をついているなか、あと数分で目的地に到着しようとしていた


「それじゃ、とりあえず今日の予定でも確認するか・・・お前達と俺らの目的って同じか?俺らは鹿だったけど」


「私たちも同じだ、奇形化した鹿の捕縛あるいは処分が実習内容になっている」


目標が一つなのにもかかわらずそれを実行する班が二つあるという事がさらに実習での難易度を高める行為につながるのだろう、どちらがやるか、現場での話し合いと調整の仕方が問われるという事だろう


自分たちの方が高い評価が欲しい、となれば積極的に問題解決に勤しむのは当然のことだ


他人の手柄を横取りするような趣味はないが、多少折り合いをつけて協調する必要があるだろう


「俺の案は、とりあえず園内に明利の索敵網を敷いて、鹿がいる檻を全員で囲んで逃げないように監視しながら中に前衛を一人配置、外に一人配置して万が一に備えようと思ってる、そっちは何かあるか?」


「こちらは檻の外側から攻撃して気絶したところを捕縛しようと思っていたのだが・・・それではいけないのか?」


安全性をとるのであれば静希の用意した案よりも石動の言うように相手の攻撃できない場所から一方的に攻撃するのが一番だ


だが今回の相手は動物園の生き物とはいえ奇形種である、下手に手傷を負わせるのが得策とは思えなかった


「攻撃するなら殺すつもりでやったほうがいい、反撃される前に仕留めるのが一番だ・・・俺らは動物園の中に動物用の睡眠薬とかあればそれを使おうと思ってた、戦うのも攻撃するのも最終手段だ」


「なるほど、わざわざ傷つける必要はないというわけか」


捕縛するにせよ傷は少ない方が手間も面倒も少なくて済む、なにせ奇形種という事は能力を持っている可能性が高い、命の危険を感じれば能力を発動しどのような効果が発生するかわからないのだ


危険を増やすくらいなら多少手間を増やした方がまだましなのである


一瞬の時間的余裕があれば相手は能力を使ってくる、それくらい彼らの生きようとする意志は強い


動物相手は特に油断してはならない、静希達は今までの経験上それを理解していた


「ところで石動さんの班って今までどれくらい奇形種の相手してきたの?」


鏡花の質問に上村と下北が何やら手帳のようなものを取り出してカウントを始めている


どうやらあの手帳の中に今までの実習の内容が記されている様だった


「えっと・・・合計で五体くらいかな・・・そっちは?」


「・・・静希、覚えてる?」


「数えてねえよそんなもん」


今まで何体の奇形種を倒したかなどわざわざカウントするような趣味は静希は持ち合わせていなかった


一学期の頃だけならまだしも、一度富士の樹海に行ってから数えるのも面倒になってしまったのだ


「だが以前の優秀班の時に確か完全奇形を打倒したときの写真を見たぞ、あの時点では何体目だったんだ?」


「・・・えっと・・・四・・・かな?」


あの時点で戦闘を行い倒した奇形種は孤島で出会ったイノシシの片方、そして完全奇形のザリガニ、そして研究所内にいた奇形種、エルフである暴走状態だった東雲風香を入れれば四体という事になる


「一学期の時点で四か・・・ちなみに二学期は?」


「・・・あの時点で数えるのやめたな・・・何せ富士の樹海に行ったからな・・・」


その言葉に石動の班員たちは静希の言葉を疑った、富士の樹海、その言葉が何を意味するのかを知っているのである


「マジか、お前ら富士行ったの!?どうだった?」


「どうだも何もねえよ、その時ひどい目に遭って大失敗だ、本当に死ぬかと思った」


冗談ではなく、静希は実際死にかけた、そして左腕を失ったのもこのころだ

静希と一緒に鏡花たちの表情が曇ったのを見てそれがどれほど大変だったのかを石動達はなんとなくではあるが察することができた


「でもそうなるとそっちの方が実戦経験は上みたいだな・・・どうする石動」


「ふむ・・・今回の指揮はそちらに頼んだ方が確実かもしれんな、清水、頼めるだろうか?」


随分とあっさり指揮権を放棄する石動に静希と鏡花は顔を見合わせる


こういう場合はあまり簡単に自分たちの行動を他人に任せるべきではないと思うのだが、どうやら客観的に見て静希達の方が自分達よりも場馴れしているという事を察したようだ


「それはいいけど・・・実際に指示を出すのは私より静希の方が多いけど、それでもいい?」


「もちろん構わない、こちらも意見があるときはしっかり主張するようにしよう、今回は頼むぞ」


そう言ってお互いの班の班長同士が握手し、一時的とはいえ協力関係が形成される中、静希は現状動かせる戦力を頭の中に入れ、これからの行動を構築しなおしていた


石動達の協力が得られるのはかなり大きい、それこそ戦力が倍以上になったようなものだ


「時に五十嵐、先程の案だが、私と響どちらを檻の内部に入れるのだ?」


「ん・・・まぁぶっちゃけどっちでもいいんだけど・・・どうする陽太?檻の中と外、どっちの配置がいい?」


ほとんど話を聞いていなかった陽太でも自分の関わる部分だけは耳を傾けていたのだろうか少し悩んでから自分が戦う相手を思い出してにやりと笑う


「俺は檻の中がいいな、あの鹿と一戦交えたい」


理由として鹿と戦いたいから中に入るというのはどうなのだろうと思いながら静希はとりあえず納得し今度は石動の方を向く


「そうか、石動はどうだ?どっちの方がいいっていうのがあれば聞くけど」


「いや私は外で構わない、外に班員全て配置してもらったほうが連携もしやすいからな」


実戦経験で劣る石動としては、手柄よりも確実性をとることにしたのだろう、連携のしやすさを重視した配置に特に異論はないようだった


そうこうしているともうそろそろ目的の動物園に到着するようで、静希達は下車の準備を整えだした


そんな中、先程まで石動の班の担当教官と話していた城島が軽く静希の肩を叩く


「五十嵐、今回は人数が多い、自分だけで考えようとせず周りの人間を上手く使え」


「了解です、確かにこの人数を動かすのは初めてですね・・・鏡花や石動にちょいちょい協力を求めますよ」


静希は自分を含めて今まで最大でも六人までしか指示を送ったことはない、今回は初めて八人だ、普段の四人編成に比べ指示を出す人間が倍になったという事はその苦労は倍以上に跳ね上がる、以前樹海に行った時の簡易的な指示などでは通じない、指示する相手のレベルが違いすぎるのだから


あの時は拙い指示でも、部隊の人間がある程度察して動いてくれたが、今回はそうはいかない、一つ一つ確実に指示していく必要がある


そこまで急を要するような内容ではないのは幸いだったかもしれない、これで時間に追われるような内容の実習だったら静希の情報処理能力が追い付かないことだってあり得る


バスが停車し、全員が荷物をもって下車すると静希達の目の前に看板やアーチと一緒にかなり大きな敷地と建物があるのがわかる


動物園


人生で来ることはないと思っていただけに、非常に感慨深い


残念ながら今日は休園という事になっており、正門や各所の店は閉まっているようだったが動物園の中の独特の空気というのはそこにあるように感じた

守衛に城島ともう一人の教官が話しかけると、横にある小さな扉を開けて中に入れてくれる


中に入るとその広さと景観を正しく見ることができた


たくさんある檻や堀、動物の放つ独特の匂い


「ここが動物園か・・・」


ついそう呟いてしまったが、どうやら他の班員たちも同じような感想を抱いているらしく、周りを観察しながら視線を上下左右に向けて動物園の中を目に焼き付けようとしていた


誤字報告が五件たまったので二回分投稿


動物園のイメージはあくまで自分の想像とあやふやな記憶で作り上げていきますのでご承知ください


これからもお楽しみいただければ幸いです

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