表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
J/53  作者: 池金啓太
二十一話「生命の園に息吹く芽」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

741/1032

動物園の中での

「奇形種が相手なら・・・そうだな、装備はそれぞれ用意、陽太は体調管理を万全にってところか・・・相手が一匹だけじゃなぁ・・・」


「そうね・・・完全奇形とかならまだわかるけど、普通の奇形種じゃねぇ」


すでに何回も戦闘を経験している静希達にとってもはや普通の奇形種では危険すら感じないのだ


無論油断するつもりは毛頭ないが、緊張感に欠けるというのもある


「とはいえ雪姉の反応も気になるんだよなぁ・・・いったい何があるのやら」


「今からでも聞けないの?見た感じこれと言って何も無いように思えるけど」


鏡花の言う通り、与えられた資料からはこれと言って何か仕掛けがあるようには見えない


だが雪奈があのような反応をしたのだ、何かしらある可能性が高い


もちろんただ単に静希達を怖がらせようとしている、つまりはブラフの可能性だってあるが


「さすがにまたあの惨状を引き起こすのはなぁ・・・あそこまでやって話さなかったんだし、たぶん何聞いても言わないと思うぞ」


「・・・じゃあ行き当たりばったりでいくしかないってわけね・・・資料には奇形種の能力のことも書かれてないし・・・今回不確定要素多いわね」


目標の写真があるというのはこちらとしてはありがたいのだが、能力についても何もわかっていないというのはある意味怖い


今までもそういう事ばかりだったが、事前情報に少しだけ期待していたのだ

なにせ相手は動物園だ、動物の事なら何でも分かるのではないだろうかというイメージがあっただけに少し落胆してしまう


名前や全長、体重、そして好きな餌など書かれてもこちらとしてはどうすればいいのか戸惑ってしまうばかりである


「じゃあとりあえず捕縛を一番に考えて・・・どうやって捕まえるのこれ」


全員で鹿の写真をのぞき込みながらその姿を確認して眉をひそめる


今まで対象の処分は多く行ってきたが、生きたまま捕獲となるとなかなかに難易度が高い


いつだって殺すより生かすほうが難しいとはよく言ったものだ、今まで動物とまともに接したことのない静希からすれば完全に未知の領域である


「・・・生き物の事なら明利担当だな」


「えぇ!?わ、私がやるの!?」


明利が仮に近づいてこの鹿にしがみついたところで簡単に振り落されるのが関の山だろう


ロープか何かを首に巻き付けてもこの剛脚では簡単に連れて行けるとも思えない


何より捕縛ということは生かしておきながら意識は喪失させなくてはならないのだ


そうなると薬物などを投与するのが最も楽な行為であることは全員が理解できた


「動物用の睡眠薬とか麻酔って・・・入手できるか?」


「んと・・・手続きすれば手に入るかもしれないけど・・・時間が・・・」


資格を持った人間があらかじめ書類を用意してきちんとした理由で申請すれば、薬物などの類は致死性の高いものを除き割と楽に手に入る


静希の麻酔や睡眠薬がその例の一つだが、動物に対しても強い効き目を持つ薬物となると人間用のものではなく、動物用のものが必要になる可能性もある


明利が申請すれば間違いなく手に入るだろうが、その書類の申請と受理に時間がかかる、実習までにそれが完了しないことも十分考えられる


「一応申請だけはしておいて、あとは物理的な拘束か・・・網とか、私の能力とかで拘束してもいいけど・・・絶対暴れるわよね」


動物は自らに身の危険を感じた場合は一目散に逃げようとする、そして自分の近くに外敵あるいはそれに近しい存在がいた時も同様である


今回の相手が草食獣である鹿という事もあって、そこまで危険なことにはならないかもしれないが、あの角を振り回されると非常に困るだろう


下手に慣れてしまったせいで、可能なら生きたままという条件にやたらと振り回されている気がするのだ


そしてそれは今回の目標が、動物園にもともと住んでいたものであるというのが原因でもある


今まで遭遇した奇形種はほとんどが野生の生き物だったが、今回のは奇形化するまで何の不自由もなく管理飼育された動物なのだ


いわばペットのそれに近い、これはエゴや自己満足かもしれないが、可能なら生きたままいてほしいというのが静希達の共通の考えだった


「確か奇形化してから暴れることが多くなったんだろ?狂暴化してるってのはちょっとなぁ・・・」


これで今までの鹿と同様の動きをしてくれるのであれば全員で協力して鹿を誘導するだけで済んだかもしれないのだが、そう上手くはいかないようである


能力者がそろいもそろって鹿を誘導している姿を想像すると少しシュールだが、そんなことにはまずならないだろう


「ちなみにそいつがいる場所は?檻の中か?」


「いいえ、他の鹿と喧嘩があってから別の場所にいるらしいわ、だからその子だけの対処に集中できる」


他の鹿に対処しなくていいとなると幾分か作業は楽になる


なにせ周りが鹿だらけの中で下半身だけ筋肉質な鹿を見つけて捕縛するというのは意外と厳しいものがある


狂暴になっている分発見はしやすいかもしれないがそこはやはり草食動物


飼育員がどうやって隔離したのかは気になるが、群れで行動することが多い中でよく成功したものだと感服するしかない


「矢面に立つのは俺か陽太だろうな、鏡花と明利はフォローで」


「まぁそうなるでしょうね・・・せいぜい気を付けなさい、いざとなった時の草食動物は怖いわよ」


鏡花の言う通り、草食動物は時として肉食動物を打倒するほどの力を見せる

それは弱肉強食の世界であるサバンナでたまに見られる光景なのだとか


肉食動物が襲い掛かる最中、シマウマなどが放つ蹴りが頭部を直撃しそのまま動かなくなったライオンなどの姿は稀に発見される


草食動物の脚力は肉食動物のそれとはまた違うレベルで高い


元より大きい体とそれだけの重さを支えられるだけの筋力、そしてさらに言えばその体重でも速く走ることのできるだけの脚力を有していることになる

人間が蹴られれば一撃で骨の二、三本は持って行かれるだろう


しかも今回の相手はどういうわけか足に奇形が見られている、不釣り合いなほどに筋肉質になった脚部、こんなもので蹴られた日には確実に骨折、さらには内臓破裂くらいはしそうである


そうなると前衛としての能力の高い陽太と、回復能力のある静希が直接対応するのが妥当なのである


「どっかの柱とかに極太のワイヤーとか結んで、首につなげるっていうのでなんとかなるかな?」


「それで大人しくしてくれればいいけどね・・・あとは最後の手段としてコンクリ詰めかしら」


それは普段鏡花が陽太の教育の一環としてよく行う生首説教の状態である


体をそのままコンクリートの中に沈めてしまえば普通の力では身動きはできなくなる


陽太の場合は密着している状態だと酸素が無くなり体に炎を灯せなくなるためにかなり有効に働くが、他の能力に有効かと言われると微妙である


変換系統の人間にはほとんど効かないし、強い強化能力のある相手だとコンクリートを砕きながらでも出てくることがある


元々の筋力からして人間のそれとはケタ違いに強い動物が身体能力強化を行うようなものだとしたら、それこそ手が付けられなくなる可能性もある


「・・・鹿の好物って何かな・・・」


今まで話にほとんど参加していなかった陽太が不意にそう言ったことで、全員の視線が陽太に集まる


鏡花は何言ってるんだこいつという視線を向け、静希はなぜ唐突に好物の話をしたのだろうかと首をかしげている


「・・・なに?何でいきなりそんなことを?」


「いやさ、どんなに暴れたって相手は動物だろ?餌で釣って罠とかにおびき寄せられないかなと」


陽太らしい単純な案だが、確かに動物相手なら十分通じるかもしれない内容である


特に相手は今まで餌を与えられて生きてきた動物、置かれる餌は何の警戒もなしに口にする可能性もある


「なるほどね・・・そういえばよく動物の番組で餌に薬混ぜるとかあるじゃない?それと同じで睡眠薬とか混ぜられないかしら?」


「そういえば確かにあるね・・・もしかしたら動物用の睡眠薬とかも動物園に保管してあるかも」


「それなら話が早くなるな、餌を置いてそれを食わせて眠らせて、その間に拘束・・・問題はその薬の効果時間と、委員会が手早く搬送してくれるかどうかだな」


生かした状態で研究対象とするためには、安全に研究が行える場所に搬送する必要があるが、場合によってはその途中で薬の効果が切れることだってあり得る


動物は自分に降りかかる何かしらの事象については非常に敏感だ、それがストレスの原因となって能力を発動するかもしれない


最悪静希達も付き添いで移動することになるかもしれないが、それも致し方なしである


まだ前提として動物園に薬があるかどうか、そしてしっかりと餌を食べてくれるかどうかさえ分かっていないために机上の空論でしかないが、少しは楽になるかもしれない


「ちなみに静希、どういう方針で動こうとか考えてる?」


「・・・大まかにだけどな」


班の司令塔である静希の言葉に全員の視線が集まる、まだ情報も少なく、その場その場で変える可能性も十分にあるが、とりあえず静希は自分の考えを班員に話すことにした


「まず園内に入ったら、門を閉めて誰も出入りできないようにする、そして全体に明利の索敵網を敷く、もし逃げた時にすぐ発見できるようにな、そして目標に接敵、あとは適宜対応ってところか」


今回はやることもできることも少ないために静希の案としては非常にシンプルだ、現段階では事前情報しか与えられていないため仕方ないともいえる


「・・・鹿にはどうやって対応するの?」


「可能な限り傷はつけたくないな、薬の有無、餌への反応、凶暴性、それら全部加味したうえで判断だな・・・最悪殺すことも視野に入れる、その時は俺と陽太で始末する」


問題ないなと陽太に視線を送るともちろんと陽太は意気込んで見せる


この中で動物を直接殺したことがあるのは静希と陽太だけだ


今まで奇形種と多く接敵してきたが、明利も鏡花もその手で直接生き物の命を奪ったことはない


そう考えればこの人選は妥当だと思える


危険に対して真正面からぶつかれるだけの能力と、その気概を持っているのが男子二人だけなのだ


そして男子二人もそれを自覚したうえで矢面に立とうとしている


「・・・ねぇシズキ・・・一つ聞いていい?」


今まで班の実習の話だったため、話を聞くだけに徹していたメフィは資料の中にあったパンフレットを眺めながら首をかしげている


「なんだ?そんなもん見て」


「・・・このドーブツエン?ってのは何をするところなわけ?」


メフィの質問に全員は一度視線を交差させた後、また宙に浮くメフィに目を向ける


「そりゃ・・・動物を見るところだろ?」


「動物を見て何をするの?」


そもそもに置いての動物園の本質を理解していないようで、メフィは不可思議そうに動物園の存在意義について考えている様だった


何故動物園があるのか、動物園で何をするのか


そう聞かれても静希達だって行ったことがない以上わかるはずがない


「あれじゃねえの?見たことない動物とかいるから見てみたいっていうのがあるんじゃねえの?」


「それならテレビで事足りるじゃない、3チャンとかでよくライオンとかシマウマとかキリンとか映してるわよ?」


流石ニート悪魔というだけあって、放送局をチャンネル数で覚えているというのは少し困ったものだが、メフィの言う通り、動物をただ見るだけならテレビで事足りる


動物園などの身近にあるそれではなく、限りなくリアルに近い形で送られるドキュメントのような形ではあるが、見るだけならテレビやインターネットなどでも十分に見ることはできるのだ


「えっと・・・あれね、たぶん実際に見てみたいとか、触れてみたいとか、そう言うのがあるんじゃない?」


「ただ動物に触りたいだけでお金とるの?人間のやることはわからないわ・・・」


メフィは人間のこの行動に理解できないのか首を傾げながらパンフレットを眺めている


そう言われると確かに静希達も動物園の存在意義について確固たる考えがあるわけではない


行ったことがないためにそのいいところも悪いところも知らない上に、そもそもどの客層を狙っているのかもわからない


水族館などはそれこそ体験コーナーやイルカショー、そして普段見ることのできない魚などが多く存在するうえに、その見た目が幻想的な事もあって家族連れだけではなく恋人同士でも行くことがあると聞く、だが動物園となるとどうだろうか


主に家族連れ、特に子供を客層としている節があるような気がする


「・・・確かに動物園って何であるのかしら?動物見るだけ?」


「いや、大きな動物園とかだと乗馬コーナーとか、牛の乳しぼりとかふれあいコーナーとかあるらしいぞ」


静希も聞きかじった知識でしかないために、どの動物園でもそれが行われているかは微妙なところである


だが普段動物に触れることのできない家庭に育った子にとってはとても有意義なのかもわからない


「他にも生き物と触れ合ったり命の大切さを知るための場所なんじゃないかな?」


「・・・それなら山に行って狩りしてたほうが身につくと思うけどな」


陽太の言葉に明利は絶句してしまうが、確かにそれも一理ある


この中でその言葉の真の意味を理解しているのは陽太と静希だけだ、なにせこの二人は幼少時雪奈と共に山に遭難して実際狩りをして生き延びたのだから


自分を生かしているのが同じ生き物で、生き物を殺すことで自分たちが生き延びることができるという事を実感したのは、山での遭難の時であったことを静希と陽太は明確に覚えている


なにせ実際に動物を殺し、そして肉を焼いて生き延びたのだ、何よりも強い実体験であり、経験として静希達の中に根付いているものである


「普通の無能力者の子が狩りなんてできるわけないだろ、もっと段階をおとして普段飲んでる牛乳とか、食べ物がどういう風にできてるとか、そういう事を学ぶところなんじゃないか?」


「・・・学校で鶏とか豚の飼育ってしないのかしら?」


鏡花の言葉に一瞬静希達は首を傾げ、その意味を理解した


無能力者の学校の低学年の子供たち用に用意される道徳の授業などで行われることがあると聞く、生き物の授業


自分たちで育てた動物を食べるかライオンの餌にするかという苦渋の選択を生徒たちにさせるという、ありがたくも恐ろしい内容の授業


所によっては農家の方と共同で米などを作り、食べ物のありがたさを知るという内容もあるそうだが、場所によっては過激な生き物の授業を行う場所もあるのだという


「さすが鏡花姐さんだ、俺たちの考えもよらないような恐ろしいことを思いつきやがる・・・」


「だ、だってさ、いちいち家族で行くより学校で全員に教えたほうが効率的じゃない?」


効率的な道徳の授業というのも何ともおかしな話だが、いいたいことはわかる


だが動物園に行く家族連れの中には単なる家族サービスという内容のものも含まれるであろうことを考えればすべてがすべて授業や好奇心で行くというわけではないだろう


「でも確かに用意された物より自分で育てた物の方が美味しく感じるよね」


「・・・明利、今までの流れからそれいうとお前がすごく残虐な人間に見えるぞ」


今までの流れから動物を殺して食べるという会話が成立している中で明利の台詞を聞くと、明利は育てた動物を丸々太らせてから殺して頻繁に食べているという風に聞こえてしまう


無論彼女の場合は家庭菜園などで育てた野菜を食べるという意味なのだろうが、内容からしてそう思えなくなってしまうのが恐ろしいところである


日曜日+誤字五件分で三回分投稿


ちなみにうちの3chはN○K教育テレビでした


これからもお楽しみいただければ幸いです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ