尋問開始
「へぇ、鏡花ちゃんが行き詰っていたと・・・」
「そうみたいです・・・陽太君がもうちょっとしっかりしてくれてたらよかったんですけど」
静希の家で当然のようにくつろぐ雪奈と、彼女に抱きかかえられるように収まっている明利は先刻行われていた鏡花と陽太の恋愛談義の話をしていた
長年一緒にいた陽太の方が簡単に非難できるからか、明利は頬を膨らませながら陽太のふがいなさを嘆いている様だった
「まぁまぁ、明ちゃんだって陽のことはよく知ってるでしょ?あいつもようやく変わり始めたってことだよ、変えたのは鏡花ちゃんで、変わり始めたのはつい最近、時間はまだかかるよ」
人間はそう簡単には変われない、いい意味でも悪い意味でも
だからこそ雪奈はそこまで悲観していなかった、自分の目で見て、陽太と鏡花がどんな人物であるかしっかり把握しているのもある
そしてある種の直感のようなものもあるのだ、鏡花なら陽太を任せられると、逆に陽太なら鏡花を支えられると
二人が出会ってまだ一年も経っていないのだ、そんなに簡単に行くとは思っていない
そしてそれは静希も同意見だった
むしろこの短期間での陽太の変化が急激過ぎただけのことだ
鏡花の指導のおかげか、陽太がもともと持っていた才能なのか、能力に関していえばその成長は劇的だ
そして性格面では、本当に少しずつだが変わってきている、ようやくそう思えるほどの変化量になってきたのだ
「あとは鏡花ちゃんがへたれないできちんと言いたいことを言えるかだね、そして陽がどんな反応をするか」
「悪い反応はしないだろうけど・・・こればっかりはな・・・」
相手の考えを読むことができれば手っ取り早いのだが、生憎とそんな能力を持ち合わせている人間は身近にいない
たとえいたとしても陽太のことだ、何も考えていないこともあり得る
静希が『鏡花のことどう思ってる?』などと聞いても『ん?いいやつだと思うぞ?』と返すに決まっている
鏡花が何を言うのか静希も分からないが、もし告白したときに陽太がどんな反応をするか、長年一緒にいた幼馴染である静希達にも全く予想できないのだ
「まぁ心配なのはわかるけど、鏡花ちゃんが決めたのなら私たちが口を出すことじゃないさ、気長に待ってあげよう」
「ん・・・そういうもんか」
そう言うもんだよと年上の度量を見せながら、雪奈は明利に抱き着いて体をわずかに揺らしている
鏡花と陽太に関しては何の心配もしていないようで、上機嫌なままだ
「そういや静、そろそろ一年は校外実習じゃないの?」
「あぁ、来週末だからそろそろだな、まだ何も知らされてないけど」
それなりに苦い記憶もある校外実習だが、回を重ねるごとに少しずつだが経験を積むことができていると思いたい
以前の樹海の実習程の難易度はさすがにないと思いたいが、どんな面倒事をぶつけられるかわかったものではないだけに不安は募る
だがそんな中、雪奈がわずかにニヤニヤしているのが印象的だった
「どうかしたか?」
「いいや、なんにも・・・こういうのは公平さが大事だからね」
その言葉に雪奈は何か知っているのだろうかと感じ視線を細めるが、雪奈が公平などと言っているという事は何か裏があると思っていいだろう
自分たちだけでなく一年生全体に何かサプライズでもあるのだろうか、それともただ単に静希達にあらかじめ何かを教えるのは不公平だと思っているのか
年明け一発目の校外実習、ただでは終わらないような雰囲気がしている
ここは雪奈という情報源がいるのだ、せっかくだからとれる情報は絞り出すべきだろう
「そう言わずに教えてくれよ、なんかあるのか?」
「んん・・・こればっかりはダメだね、いくら静の頼みでも教えられないよ」
どうやら今回のことに関しては雪奈はかなり固く口を閉ざすつもりのようだった
悪戯っぽく微笑みながら静希を見る目に、僅かに対抗心が燃えあがる
「そういうことなら・・・明利」
「了解!」
「うぇ?」
静希が合図するのと同時に、雪奈に抱かれていた明利が体を返して雪奈の体を拘束する
拘束すると言ってもただ抱き着いて動きにくくしただけだが、まったく警戒していなかった雪奈は明利に押し倒されるような形で床に転がってしまう
「ちょっ!明ちゃんどうしたの!?まだ日も高いうちから積極的だなぁ」
どうやら何か勘違いをしているようだが、静希はゆっくりと近づいて軽く手のマッサージを始める、これから激しく動くことになるかもしれないためゆっくりと手先をほぐしておく必要がある
「教えられないというのなら、教えたくなるまで体に直接聞くことにしよう、せいぜい我慢してくれよ姉上?」
「し、静?笑顔がとっても怖いよ?一体何をするつも」
雪奈の台詞が終わるより早く、静希は雪奈に襲い掛かる
次の瞬間静希の部屋には断続的に雪奈の悲鳴と笑い声が響くことになる




