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J/53  作者: 池金啓太
二十話「とある家族のアイの話」

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父を想う娘の姿

「パパ!大丈夫!?」


自らを紛い物と呼ぶ父親を守ろうとする娘、健気なものだ、父親が自分を見ていないというのがわかっていながらも、父親を守ろうとしているのだから


一方泉田は酸欠で意識が朦朧としているのか、荒く息をつきながらその場にうずくまっている


泉田を気絶させるには、目の前にいる泉田愛を何とかしなくてはならないだろう


まさか人造の生き物にまで能力が宿るとは思っていなかった


しかも見た限り、かなり高速で移動することができるようだ、身体能力の強化でも入っているのか、どちらにせよ危険な相手に違いはない


「君はどいてろ、俺が用があるのは君の父親だけだ」


「いや!パパを虐めるな!」


理屈が通用するようなタイプではない、子供と同じだ、自分が嫌なことはたとえ理屈が通っていても、正しくても突っぱねる


となると、無理やり抑え込むか、気絶させるしかない


静希は彼女の体を覆っている黒い何かが不安定にうごめいているのに気付く

その動きには規則性がなく、どうして動いているのかもわからないほど無秩序な状態になっている


時には顔の近くに移動して視界を塞ぎ、本人さえ邪魔な場所に動いたりしている


もしや、これが初めての能力の発動なのだろうか


泉田から創り出された命だ、何らかの形でリンクが形成されていてもおかしくない、そのリンクによって泉田の危険を察知し、感情が膨れ上がったのだとしたら、今まで大人しくしていた少女が能力を発現しても不思議はない

確認してみる価値はある


「泉田順平!目の前の娘を見ろ!その子がお前の娘だ!泉田愛だ!あんたが創り出した自分の娘だ!」


泉田は静希の言葉を聞いたのか、目の前にいる愛を見た


そして驚愕に目を染めた


「・・・なんだ・・・それは・・・」


泉田の目は、愛の体を覆っている黒い何かに注がれている


今まで見たことがないようなものを見る目だ、そしてそれはやがて汚物を見るような目に変わる


「そうか・・・能力まで持ったのか・・・紛い物め・・・」


「パパ?どうしたの?大丈夫だよ、アイが守ってあげるから!」


泉田の言葉は聞き取れなかったのか、愛は歪んだ笑みを浮かべながら静希に向き合っている


恐らく本物の泉田愛は無能力者だったのだろう、なのに、自分が創り出した娘は何の因果か能力を持ってしまっていた


もはや目の前にいる泉田愛を、自分の本当の娘と認めるつもりは毛頭ないようだった


だがこれで確認できた、能力が発現したばかりだというのならやりようはいくらでもある


『マスター、明利様への手紙が書き終わりました』


『了解、届けておくよ、それが終わったら始めるか・・・』


静希はすぐにオルビアの入っているトランプから紙とペンを別のトランプに移し替え、明利のいるであろう家の外へトランプを飛翔させる


邪薙と協力して明利の元へ送り届けたトランプから手紙を排出し、指示を伝え終えると静希は軽く体の状態を確認しながら目の前の少女をにらみつける


「泉田順平、およびその娘泉田愛、お前達を拘束させてもらう、あまり暴れるなよ」


静希がゆっくりと近づくと、泉田愛は警戒状態に入った


その拳と足に黒い何かが集中し、構えているのがわかる


まずは能力の確認が必要だ


あの黒いものが一体何であるのかを確かめなければならない


扉を破壊してきたことから物理的な攻撃手段であるというのは理解できるが、それが身体能力強化なのか、それともあの黒いもの自体に物理的な威力が備わっているのかまだ不明である


攻撃を受けた部分に単なる打撃以外の感覚はほとんどない、衣服が焼けていることもなく斬れてもいないし汚れてもいない


吹き飛んだドアにも強い衝撃を与えられた以外変わったところはないように見えた


こんな子供を相手にしなくてはいけないという事態に嫌気がさすが、こちらに敵意を向けているのであれば是非もない、なるべく無傷で制圧するのが第一条件だ


幸いにも泉田は戦闘を行えるタイプの能力者ではない、そう言う意味では一対一、相手は今さっき能力を発現した素人


さすがにこの相手に負けるわけにはいかない


自らの拳が届く位置まで歩み寄ると、静希はゆっくりとその手を泉田愛に伸ばしていく


もう少しで届く、その瞬間、少女が身をかがめ姿勢を低くしながら静希めがけて拳を振う


だがその動きに静希も反応する、反応できるレベルの速度で彼女が動いているからだ


少女が振るう拳は確かに速い、だが雪奈の振う剣ほど速くはない


黒い何かを纏った拳を受け流そうと腕を添えると、黒い何かには触れられず、その中にあるであろう少女の腕に触れることができた


瞬間黒い何かに包まれる静希の腕に妙な感覚が伝わる


腕に通う血液を強く感じる、そして妙に力がこもる


反射的に愛の腕を掴んだ静希はその状態をほぼ正しく理解できた


黒い何かが覆っている部分だけ、筋力や感覚が強化されている、使用者だけではなく第三者にも有効な肉体強化状態にする黒い霧を発現する能力、それが泉田愛の能力であると静希は瞬時に把握する


自分の腕が掴まれていることを把握したのか、泉田愛は腕を振り回して力ずくで振りほどこうとするが、自分の能力のせいで静希の身体能力も強化されてしまっている


元々持っている身体能力は静希の方が高いため、同じ能力で強化すれば必然的に静希の方が力が強くなってしまう


どうやらまだそのことに気づいていないようだった


だがこのままでいていいはずもない、静希は力任せではなく、相手の動きを読んで泉田愛の足をひっかけて転倒させる


いくら身体能力が強化されていても、体の動かし方を理解していないのでは宝の持ち腐れだ


能力者としては恐らく優秀な能力の部類になるだろう、前衛としても戦えるし、仲間のフォローと強化もできる


だが圧倒的に訓練が足りない


関節を極めた状態で押さえつけようとしたが、腕をひねる瞬間、少女は目の前で体を反転させた状態で静希に蹴りかかる


捻りあげられる前に自ら体を宙に投げ出し、その回転を利用して蹴りかかる、理に適っているのだがあまりに無茶苦茶な動きだ


子供ならではの動作に静希は手を離してその蹴りを避ける


ただの蹴りであれば受け止めるところだが、身体能力強化がかかっているとなれば多少消極的になっても回避するほかない、いくら静希の体が自動的に回復すると言っても時間がかかる、それにもしこの場で気絶でもしようものならこの少女はまず間違いなく父親を連れて逃げるだろう


再び静希と泉田順平の間に自らの体をすべり込ませ、こちらに敵意を向ける泉田愛に静希は僅かに眉をひそめた


外見が子供というのもやりにくいが、動きが全く読めない


子供は何をするかわからないから怖い、東雲姉妹のように、子供でありながら訓練を重ねた能力者であればその動きを読むのに苦労はしないがまったくの素人が身体能力強化をかけた状態で何をするのかわかったものではない


可能なら手傷は負わせたくないが、そんな悠長なことを言っていられる場合ではないようだ


彼女の能力は強力だ、強力な強化系統の能力だ


静希は基本的に身体能力を強化するタイプの人間を苦手としていた、策を巡らせようと、作戦を練ろうと、その身体能力で、その体一つのみで突破する強さを持つタイプが苦手だった


そう、まさに陽太のようなタイプが苦手であった


彼女が自分の能力の性質を正しく理解する前に制圧する必要がある、そうでなければ静希はこの少女にも敗北する可能性がある


そんな無様は晒せない、今ここで止めるために、そんな様になるわけにはいかない


今度は逃がさない、反応する暇もなく制圧して見せる


静希は先程と同じようにゆっくりと近づき、また少女に向けて手を伸ばそうとする


だが今度は少女が先に動いた


近くにあった花瓶や本、置物などを手当たり次第にこちらに投擲してきている


投げ方は無茶苦茶、コントロールも悪い、だがその身体能力で投擲された物体は高速で静希めがけ襲い掛かってくる


最低限の動きで投擲物をかわしながら静希は泉田愛との距離をゼロへと近づけていく


すでに投擲は有効ではないと気づいたのか、小さな少女は意を決してこちらに突撃してくる


だが、体を前に運ぼうと地面を蹴った瞬間、少女は大きく跳躍して部屋を何度かバウンドしてしまう


自分のどこの部位に身体能力の強化をかけているのか、まだ把握も制御もできていないようだった


前に突撃しようという意識が先行してしまったせいで、脚部に黒い霧を集めすぎたのだろう、自分の動くイメージに、体と能力がついていっていない


早く拘束なりして動けなくしないと、彼女は自滅してしまう


泉田よりも先に抑えるべきはその娘


そう判断した静希は弱弱しく座り込んでいる泉田を一瞥し、部屋の片隅で何が起こったのかを未だ理解していない少女に向き合う


泉田愛は静希がこちらに向いていることに気付いたのか、黒い霧を噴出させながらこちらに敵意を向けている


だが静希の背後に父親がいることにも気づいたのか、むやみに物を投擲するつもりはないようだった


状況判断もできる、士気も維持できる


彼女はいい能力者になれるかもしれないと思いながら、静希はあえて腰を落とし、拳を構える


徒手空拳はそこまで得意というわけではないが、武器を出せば相手に余計な警戒をさせ、予想外の行動をとらせるかもしれない


ここは静希が素手であることを強調するのが最善だと判断したのだ


そして静希の思惑通りに、泉田愛は拳を握りお世辞にもいい構えとは言えない状態で戦闘態勢に入る


リーチは静希の方があるとはいえ、相手には一瞬で間合いを詰められるだけの速度と、恐らく一撃で静希を打倒できるだけの力を持ち合わせているはず

一瞬たりとも気は抜けない


何の合図もなく、静希が前に出る、そして数瞬遅れて少女も前へと進む


どうやら、身体能力強化がかかっていても、感覚器官、所謂動体視力や反応速度までは強化されていないようだった


それがわかれば、もう怖くない


「・・・悪いな」


静希は繰り出された少女の拳を余裕をもって受け流しながら、もう片方の手にスタンバトンをトランプから取り出し、少女の体に強力な電流を流し込む


小さな体がわずかに痙攣し、その場に倒れ伏した


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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