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J/53  作者: 池金啓太
二十話「とある家族のアイの話」

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父が想う娘の姿

「君は・・・今まで親しい人を亡くしたことがないからそんなことを言える・・・一度それを味わえば君にだって」


「そうかもな、生き返らせることができるならそうしたかもしれない・・・だけど俺は今それを味わってない、そんな感情も理屈も持ち合わせてない・・・だからあんたを止める」


泉田の言うように、もし静希が明利や陽太や鏡花と言った親しい人を亡くしていたら、泉田のように生き返らせる方法を全力で探し、それを実践したかもしれない、そして泉田の意見に同調することもあったかもしれない


だが静希は今そんなことは経験していない、だからこそ、同調もしないし、同情もしない


そこにどんな想いがあろうと、努力があろうと、それが人道に反した犯罪であるなら、それらすべてを踏みにじってでも止めるのが同じ能力者として静希がするべきことだ


決して何も感じないわけではない


娘を生き返らせようと奮闘し、自らの体を犠牲にしてまで我が子を想う、その姿に何の感情も抱かないと言えば嘘になる


だが、今この場でそんなことを考えていれば、この人を止めることはできない


これ以上間違った道を進ませるわけにはいかないのだ


「あんたは一度、死んだ娘を自分の能力で創り出した、そしてあの子が生まれた!その体がそんな様になってまで作り出したあの子に、何の感情も持っていないのか?」


「・・・そう・・・確かにあの時・・・私はあの子を作った・・・だがあれは・・・娘じゃない・・・!愛じゃない!」


泉田は自分の記憶の中を掘り返していた


あの時、自分が契約した悪魔と協力し、自らの娘を創り出した時のことを


体に走る激痛と、その中でも思い続けた娘、そして人一人を生み出すために研究しつくした人体の全て


そして、創り出されたのが、今この家にいる泉田愛の紛い物


体も顔も声も娘のものに相違ない、だが圧倒的に違うものがあった


性格とその笑顔


本物の泉田愛は明るく、楽しそうに笑う子だった


だが今いるあの子は、大人しく、歪んだ笑みを浮かべる子だった


自らの知識と記憶を総動員して、娘を完璧に作り上げたつもりだったのに、できたのは紛い物、泉田は絶望した、そしてそれに気づいたときには悪魔はすでにいなかった


だからこそ、静希の存在を知った時には、天から救いを与えられたような気持だった


「私は・・・娘を救う・・・救って見せる・・・!何度失敗しようと・・・!必ず!」


「この分からず屋が・・・!」


もう言葉ではこの男を止めることはできない、言葉程度で止まるほどこの男の覚悟は甘くない、そう察した静希は気絶させることを目的に胸ぐらを掴んでいる左手を操り、壁に押し当てる形で首を絞めつける


首が絞められることで徐々に意識が薄れてきたのか口が何度か開閉するが、息はできていないようだ、このまま絞め落し、警察に引き渡すしかない


『シズキ!その場から離れろ!』


静希が歯噛みしている瞬間、明利に預けていたトランプの中にいる邪薙から怒声が響く


ほぼ反射的に警戒するが、轟音と共に部屋の扉が吹き飛び、静希が反応するよりも早く『何か』が襲い掛かり、その体を部屋の端まで吹き飛ばした


壁に叩き付けられ、一瞬呼吸困難に陥りながらも、静希は泉田の方を見た

そこには敵意と殺意をこちらに向ける、少女の姿がある


泉田順平がその能力によって創り出した、人造人間、泉田愛の紛い物


先刻までの大人しい姿や表情からは一変、まるで獣のような形相を浮かべ静希から泉田をかばっている


「パパを・・・虐めるな・・・!」


そして静希はそれに気づくことができた、その体を黒い何かが覆っていることに


固体ではない、流動的で脈動するように蠢きながらその小さな体を覆っているのがわかる


腕や足に集中し、まるで拳や足を守るように顕現しているそれが能力だと気づくのに時間はかからなかった


静希は歯を食いしばった


失態だ、彼女が人工的に作られた人間であることを見抜けた、だが彼女が能力者である可能性を失念していた


彼女が泉田の協力者だったことを考え、明利を守るために邪薙を預けたが、これはある意味いい形で功を奏したと言える


体の細胞や臓器の動きが人間の持つそれと違うとはいえ、ほとんど人間と変わらない


動物だって能力を持つのだ、人造人間が能力を持つ可能性だって十分にある

そこまで考え付かなかったのは静希の失態に他ならない


『邪薙、明利は無事だな?』


『それは問題ない、急に黒い何かを噴出したと思ったらそちらに走り出してな、肝が冷えた・・・そちらに戻るか?』


『いいや、お前は明利を守ることに集中しろ、傷一つ付けるな、フィアをそっちに行かせて外に誘導する』


静希はトランプを飛翔させ客間の外でフィアを取り出し明利の元へ向かわせる


トランプの中の人外たちが明利とも意思疎通できたならすぐに城島経由で警察や軍を呼んでもらうのだが、さすがにそこまでうまくいかないだろう


『マスター私が明利様に指示を書きます、紙とペンを入れてくだされば』


『オーケー、頼んだ』


相手から見えないように静希の背中でオルビアの入ったトランプの中に紙とペンを入れ、すぐに明利に指示を送れるように紙を書いておく、あとはこの紙を明利に渡し、目の前の泉田親子を何とかするだけである


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