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J/53  作者: 池金啓太
二十話「とある家族のアイの話」

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彼女の出自

翌日、静希は今回のことで最後の確認をするべく明利を連れて泉田の家にやってきていた


確認というより、これはもはや詰問に近いかもしれない、だがこれは絶対に必要なことでもある


呼び鈴を鳴らすと先日と同じように小さな謎の少女、自称泉田愛が現れる


この無表情な少女と、あの写真の少女が同一人物ではないことは確定している


だが似すぎている、偶然ではないことだけは確かだ


「あ・・・昨日の」


静希と明利のことを覚えていたのだろうか、二人の顔を見た後で小さくつぶやくと静希は先日と同じように身をかがめて少女と同じ高さになるように視線を合わせる


「こんにちは、またお父さんに会いに来たよ、今いるかな?」


泉田愛は頷いておくにいるであろう泉田順平を呼びに行く、その間静希は視線を鋭くしながら明利に一枚のトランプを渡した


それは邪薙の入っているスペードのトランプだった


「明利、お前はあの子と一緒にいて事故の痕跡があったかどうかを調べてくれ、可能なら少し事情も聴いてくれると助かる、万が一のために邪薙に守ってくれるように言ってある」


事前に今回の、特に泉田愛についてのことを明利には教えてある、そしてそのことを知った時明利自身もう一度あの子に会いたいと言ってきたのだ、これは明利の要望でもあるのだ


すでに死んでいるはずの少女、そう聞かされて明利はひどく動揺した


当然と言えるだろう、なにせ死者がよみがえるなどという事はあり得ない、あり得てはならないことだ


だが現実に起こっている時点で、明らかな矛盾が生じている、静希も明利もその眼で確認してしまっているのだ、確かめずにはいられない


もう興味や好奇心で片付けていい問題ではなくなっているのだ


「わ・・・わかった、けど静希君は・・・?」


邪薙の入ったトランプを明利に預けるという事は、邪薙は静希の動向を知ることが難しくなる、人外同士で状況を教え合っても限界がある、つまり静希は一時的に邪薙の守りから外れ無防備になるのだ


「俺は泉田さんに聞くことがある、もし・・・俺の考えが当たってたら・・・ちょっとばかし面倒なことになるけどな」


面倒なことになる


もし静希の考えが本当に的中していた場合、大問題だ


それこそ静希達個人で終えるレベルのものではなくなってしまう、そうなれば城島を経由して警察や軍に出動を願うべき事態になってしまうだろう


すでに城島に話は通してあるとはいえ、可能ならとりたい手段ではない、面倒になることがわかりきっているからだ


そこまで言うと、丁度扉を開けて泉田順平が現れる、その顔は笑顔でどうやら静希達の来訪を喜んでいる様だった


「あぁどうも、さぁ中へ、今日はどういったご用でしょうか?」


「ちょっとお聞きしたいことがありまして、明利はあの子に会いたいと言ってついてきただけですのでお構いなく」


そう言って静希は泉田と一緒に客間へ、明利は一瞬静希と視線を合わせた後でリビングにいるであろう泉田愛の元へと向かうことにした


客間のソファに腰を下ろし、とりあえず話す内容を考えた後で、同じようにソファに腰掛けた泉田が小さく息を吐く


「聞きたいことというと、なんでしょうか?手術の日取りか、必要なものの確認でも?」


「いえいえ、そう言うのは全部専門の明利に任せてますから、今日は本当に簡単な確認に来ただけですよ」


静希は医学に関しては完全に門外漢であるためにそう言ったことを確認するつもりは毛頭なかった、それよりも確認しなければならないのはもっと根本的な事である


「となると、一体なんでしょうか?答えられることならいいんですが」


泉田は不思議そうに静希を眺めているが、静希の視線がわずかに鋭くなった瞬間何かを感じ取ったのか、その表情が強張る


「確認したいのは二つ、まずは以前行ったという治療についてお聞きします、貴方は病に侵される部分を取り換えるという手術を行ったと言っていましたね?」


「・・・えぇ、そうです、愛の体をむしばむ病魔は取り除くことができなかったため、体のほとんどを」


「その時、悪魔以外に誰か協力者はいましたか?」


人の体を取り換えるなどと言う事をする時点で、かなり大規模な手術が必要になる、となれば悪魔以外に医療器具の揃った場所、そして腕の立つ医者が必要だ


悪魔の力を使ってその体の部位を生成したとして泉田の体はすでに奇形を始めていたはず、となればまともに手術が行えたとは思えない


「・・・それは・・・」


泉田は答えない、答えられないのか答えたくないのか、恐らく後者であろうという事を察して静希は身を乗りだす


「泉田さん、今日俺が来たのは、今回の貴方の依頼の根本の部分なんです、これを聞かない限り俺は貴方に力を貸すことはできない」


それは静希の考えるうえで最悪の想定と言ってもいいだろう、考えてはいけないようなことだ、だがそれをできる人間がこの場にいるのだ、考えずにはいられない


だからこそ、それは口にしなくてはいけなかった、聞かなくてはいけなかった


「あの子・・・俺たちのあったあの泉田愛を名乗る女の子は、一体何ですか?」


それは根本にもつながる質問、『誰』とは聞かず『何』と聞いたことで静希の言葉を理解したのか、泉田の表情が一瞬険しくなり、そして悲しそうな表情になる


それを見て静希は確信してしまった、自分の考えていた最悪の想定が、的中していたことに


泉田は静希の質問を受けた後、数秒間うつむいた後で静希の方を向いた


「・・・何時頃お気づきになりましたか?」


それは静希の言葉の意味を理解したうえでの疑問だった


静希がいったい何時、そのことに気付いたのか、純粋な疑問だったのだろう


「・・・気づいたのは昨日、あの子に会って話した後です、最初は違和感でした、それからあの子について調べて・・・可能性に気づきました」


静希が抱いたのはほんの些細な違和感だった、その子の表情とそこに含まれる視線、写真の中にいる少女と目の前にいた少女が同一人物だとは思えなかったのだ


そして静希がある可能性に気付いたのは、彼女がすでに死んでいるという事実と、泉田の能力を思い出した時だった


あり得てしまう


人道的に道徳的にあまりにも逸脱した行為であろうとも、それを行わなかったという事を否定しきれなかったのだ


特にそれに悪魔が関わっているのであればなおさらである


悪魔の力は強力だ、長く一緒にいる静希だからこそそのことが理解できる、そしてその危険性と、最悪の状況を予想していた


結果的にその予想は的中してしまったわけだが


「泉田愛本人はすでに死んでいる・・・それだけならまだよかった、別人をそっくりに仕立てているんだと思えた・・・だけどあの子も自らを泉田愛だという・・・それも何の疑いもなく」


以前実習中に保護した巫女のように幼少時から『教育』され続けたのならまだわかる、だがそれだけでは体の異常の説明がつかない


ただの病とするには、あの体は異常過ぎる


そこまで考えて静希はようやく思いついた、その可能性に


「俺も一度無茶をやらかしてますから、あの子の体が何であんな風になったのか、理解しているつもりです、それでもなお、貴方はあの子を・・・」


「・・・あぁ・・・私は、愛を治して見せる・・・絶対に」


その言葉に静希は眉をひそめてしまう


ここまで言ってもなお考えを変えるつもりがないというのは少し意外だった

てっきり諦めるとばかり思っていたのだ、なにせ静希はもうすでに協力する気がないのだから


「泉田愛はすでに死んでいる、それでもですか?」


「・・・あぁ治して見せる、死という今まで誰も治すことのできなかった病を・・・私は・・・!」


泉田が力なくそう言いながら、自分の拳を握ると静希はその姿をにらみつける


正気を保てているとは思えない、この人は、泉田はすでに、狂ってしまっているのかもしれない


死という誰にでも訪れてしまう絶対的な終末を、彼は病だと言った、覆すことができない、できるはずのない物を彼は治すと言った


認めたくないのか、それとも認められないのか、彼は娘を『生き返らせる』のではなく『治す』という事に固執している気がした


医者として、いや人として狂った考えだ


そこまで考えがいたった時点で、静希は左腕で泉田の胸ぐらを掴む


「いい加減にしろ、死んだ人間は生き返らない、生き返ったように見えるだけだ、実際に生き返ったわけじゃない」


「・・・それは今までの話、これから先どうなるかはわからない・・・私は・・・!私は絶対に!」


泉田の目を見て静希は気づく


もうだめだと


泉田の目は目の前にいるはずの静希を見ていない、自分の記憶の中にいる泉田愛を見続けている


今この家にいる、明利と一緒にいるあの子を、見ていない


「あの子じゃダメなのか?あの子はあんたが」


「・・・違う、あれは愛じゃない・・・!愛は楽しそうに笑っていた・・・!あんな笑みは浮かべなかった!」


泉田の言葉に静希は思い出す、あの泉田愛が浮かべていた笑顔の違いに


写真の中にいる彼女は楽しそうな満面の笑みを、この家にいる彼女は不慣れな歪んだ笑みを


泉田はあれが自分の娘だという事を認められないのだ、だからこそ、死という絶対的な病から娘を救い出そうとしている


だがそれは絶対に叶わない


「ふざけるな、あんたがやってるのは娘の代替品を作っているだけだ、そんなことに手を貸すつもりは全くない」


左腕の霊装が泉田の胸ぐらを強く締め上げ、ゆっくりとその体を持ち上げていく


座っていた泉田は立たされ、静希を弱弱しく睨んでいる


「あの子は・・・あんたが自分の能力で『創り出した』・・・一度できなかったから二度目を試す?ふざけるな、そんなことのために俺は力は貸せない」


静希がしていた最悪の想定、それはこの家の中にいる泉田愛が、泉田順平の能力によって一から創り出された存在であるという事だった


泉田の能力は体組織を創り出すこと、一度作ってしまえば消えることはなく未来永劫残り続ける


移植することが可能という事は生きている物質を創り出せるという事でもある、そして悪魔の力を借りて、作り出せる限界量を無理やり増量した、だがその代わりに能力が変質し、その体が本来人間に無い反応や動作をするようになってしまっているのだ


あのように人として生きていられる、話すことができているだけでも十分以上に奇跡だ、なのにこの男は笑い方一つ違うだけで、今いるあの子を見限って新しい泉田愛を創り出そうとしている


今度こそ成功させる、本当に娘を生き返らせてみせる、ただそれだけの想いだけで今まで生きてきたのだ


誤字報告が五件分溜まったので二回分投稿


誤字が少なくなれば読みやすくなるはず、そう信じてチェックを続ける毎日です


これからもお楽しみいただければ幸いです

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