悪魔の戻る場所
「コインの表と裏か・・・メフィはどうなんだ?最近帰りたいとか思わないのか?実家がむこうにあるってことなんだろ」
「実家っていうとまた妙な感じだけど・・・本当にたまぁに戻りたくなることはあるわね、今はこっちの方が刺激的だからいいけど、たぶん帰りたくなるのはあと百年くらいあとじゃない?」
相変わらずぶっ飛んだ時間感覚をしているなと思いながら静希は少しだけ安心する
なにせメフィは気まぐれだ、唐突に静希の元から去っても何もおかしくない、そうなった時、寂しくならないかと言われると、少し返答に困るところがある
そんな静希の心境を察したのか、メフィはニヤニヤと笑って静希の首元に絡みつくように抱き着いて見せる
「なに?ちょっと安心した?いなくならないって思って安心しちゃったの?」
「・・・くそ、変なところで勘が鋭いなお前」
否定しない静希にメフィはさらににやにやと笑みを浮かべて静希にまとわりつく
「安心しなさいシズキ、悪魔は契約にはうるさいの、シズキが不死身にならない限り、一生私はシズキのものよ、そしてシズキは一生私のものなの」
「・・・そうかい、そりゃ安心したよ」
対等契約とはそう言うものだと言い聞かせながら静希はメフィを引きはがす
気まぐれな悪魔の言葉がどこまで信用できるか怪しいところだが、とりあえず今は静希から離れるつもりはないようだった
安心であると同時に、それはそれで厄介の種が増えている気がしてならない
「ところでメフィストフェレス、後学のために聞いておきたいのですが、その向こう側という世界はどうなっているのですか?」
今までメフィの話を聞いていたオルビアが不意にメフィへ問いを投げかける、どうやら知的好奇心を刺激されたのだろう
オルビアは未知のものへの探求というか勉強が好きらしく、メフィのいた向こう側の世界に興味を持ったようだった
「ん・・・別に変わったところはないと思うけど、悪魔とか別の種類の人外とかが固まってたりバラバラだったりしながら過ごしてるだけで、あ、魔素はあっちの方が多いかも」
向こう側に住んでいるのが人外というだけあって独特の文化を築いているのかと思ったら、どうやらそういうわけでもないらしい
メフィの話では徒党を組んでいる者もいれば、一人で勝手気ままに過ごしている者もいるのだという
人間のように社会を構築することで生きながらえてきた種族とは全く違う価値観と生活様式を持っているのは、やはりそれが人外だからだろうか
生物はその種族によって全く違う文化を築く、それこそ人は強い肉体を持たない代わりに社会を構築し自らの身を守るために法を作り、破るものが出ないようにすることで多くの命を守っている
動物などの群れも同じようなものだ、何匹も固まることで他からの攻撃に備え、身内を守ることができるようにしそれぞれが役割をもって生活する
だが人外のような確固たる強さと独特の価値観を持った存在は群れる必要そのものがないことがある
寿命が長ければそもそも繁殖活動を行い種を存続する必要もない、そこまで考えて静希はふと疑問を抱いた
「なぁメフィ、お前らみたいな悪魔ってどうやって増えるんだ?」
「また唐突ね・・・どうやって増えるって・・・いくつか方法はあるけど・・・」
どうやら神格と同じくいくつか悪魔が生まれる方法はあるらしい
そして興味があるのか、邪薙もオルビアもメフィの言葉に耳を傾け始めていた
「えっと、まずは生き物が悪魔になることがたまにだけどあるわ、生きてる時になる奴も死後なる奴もいる、方法は・・・それこそいろいろね、ほとんど違うケースだったし」
どうやら悪魔の中には生き物から悪魔になったようなものもいるようだ、もしかしたら人間から悪魔になったような存在もいるのかもしれない
「あとは生き物以外、ものが悪魔になったり、現象が悪魔になったこともあったわね、それこそいろいろあるわよ?神格とかじゃないけど人間の畏怖の感情が悪魔になったことだってあるし」
神格などでいう付喪神のようなものだろうか、悪魔はどのように増えるのかと言われてもずいぶんと数と種類があるようでメフィも完全には把握できていないようだった
そもそも神格と悪魔の明確な違いというと、静希もよくわかっていないことが多い
「そもそも精霊とか神格と悪魔ってどう違うんだ?」
「そりゃ力の源でしょ?私も詳しく知らないし、悪魔もいろいろ呼称があったりするくらいだし」
妖怪、妖魔、悪魔、妖精、堕天使、悪魔または悪魔に近しい存在をあらわす単語はいくらでもある、メフィに言わせると悪魔の中でもいくつも種類があり、それぞれ力の源にしている物が違うのだとか
神格が信仰を力の源にしているように悪魔にも力の源になっているものがあるのだという
「ちなみにメフィは何を力の源にしてるんだ?」
「知りたい?かなり大事な情報になるからそれなりに高いわよ?所謂プライベート情報だし」
どうやら悪魔にとってスリーサイズなどは全く気にするようなことではないが、源を話すことはかなりの重要事項であるらしい
静希もそこまで気になることではないため、それならいいやとはねのけるとメフィは口を尖らせながら宙を旋回し始める
聞いてほしかったのかなと思いながら新たに知ることができた悪魔の情報について記憶にとどめておくことにした




