受話器の向こうから
静希と明利は泉田の家を出てから学校に向かっていた
まず第一として城島に今回のことを報告するという事と、陽太や鏡花たちと一緒に訓練と称してダイエットしている雪奈の様子を見るためだ
いつものようにコンクリートの演習場へと向かうといつもと同じように炎をたぎらせている陽太とその傍らで様子を眺める鏡花、そして演習場の外周を延々と走っている雪奈の姿を見つけることができる
陽太と鏡花は中心でじっとしているのに雪奈だけ走っているのを見ると何か罰を受けさせられているのではと思えてしまう
「明利、とりあえず雪姉の状態を確認してくれ、俺は鏡花たちの所に行ってくるから」
「うんわかった、ついでに飲み物も渡してくるね」
途中で買ってきた飲み物を手に明利は駆け足で雪奈に追いついて併走し始める、単純に走るだけなら明利もそれなりに体力がついてきただろうから問題はないだろう、静希はとりあえず鏡花たちに顔を見せるべく演習場の中心へと歩みを進める
「お疲れさん、どうだ調子は」
「今日はなかなかいい感じよ、集中状態が持続できてるわ、あと先生から聞いたわよ?また面倒事引き受けたんだって?」
耳が早いことでと静希は苦笑してしまう、城島から聞いたという事もあって、大まかな話の内容は理解しているようでこちらを見ながらため息をついている
「なんだってあんたはそうやって面倒事を引き寄せるのかしらね、しかも今度は自分から引き受けたんでしょ?」
「まぁ、ちょっとな・・・」
鏡花に軽く事情を説明すると、彼女は陽太の炎を見ながら再度ため息をついて見せる
どうやら心底呆れている様だった
「あんたね、誰かに優しくするのはいいことかもしれないけど、それで自分を危険にしたら元も子もないのよ?特にあんたの場合ただでさえ立場がいろいろ面倒なんだからさ」
「返す言葉もありません」
鏡花の言うように、静希が今回のことに首を突っ込むことになった理由は泉田愛の存在が大きい
あのような小さな子を救おうとする父親としての泉田の姿に、情がわかなかったわけではないのだ
静希はネジが外れていようと鬼畜や外道ではない、人の心は最低限持ち合わせている
相手が自分の敵であるなら情け容赦もしないし躊躇もしないが、それがただの親子であるなら人として普通に接することくらいはする、当然情も湧くし、情けもかけたくもなる
「で?何とかなりそうなの?」
「・・・ちょっとそこら辺が厄介でな・・・いろいろ聞き込みやら調べものやらするつもりだ」
やっぱり面倒なことになってるんじゃないと鏡花は呆れて静希を睨む、毎度毎度面倒に巻き込まれて危険な目に遭っている静希に対して、何も思わないほど鏡花は無関心ではない
明利という友人を持ち、雪奈という世話になった先輩を持った鏡花にとって、その二人の恋人でもある静希が危険な目に遭うのは本意ではないのだ
「安心してくれ、危険は無いようにするから」
「それならいいんだけどね・・・まぁこっちは今回手は貸せないっぽいし、好きなようにしなさいな」
鏡花は鏡花で静希のことを信頼してくれているのだろう、呆れながらもその行動を肯定している節もある
毎回後始末を任せる静希としては心苦しくもあるが、こういう何かを受け入れられるだけの懐の深さを持っているというのは鏡花のいいところだ
「そういえば雪姉のダイエットはどうだ?いい感じか?」
「あぁ、あの人なら問題ないわよ、普通に動けばその分余計な肉が落ちるようなタイプみたいだし・・・毎日しっかり運動すれば一か月もすればたぶん元に戻るわ」
たった数週間の間についた肉をおとすのに一か月もかかるというのは、何とも複雑だがそれほどダイエットとは苦しい物なのだろう
静希は今まで体重にこだわりはなかったためにそこまで気にすることはなかったが、女性として体型の維持は一生関わり続けるものに他ならない
鏡花も鏡花でいろいろな努力をしているらしいが、彼女は自分が努力している姿と言うものを人に見せたがらないものである
より正確に言うなら、静希や明利の前ではしっかりとした姿でいたいのだと理解した
そして陽太の前ではすべてを見せる、それは彼女が自分で決めたことだ、外野である静希がどうこういう事ではない
「ぷはぁ・・・休憩ぃ・・・」
「お疲れ様です、体を冷やさないようにしてくださいね」
明利と一緒に休憩に戻ってきた雪奈は全身汗をかきながら息を荒くしている
それほど速いペースで走っていたようには見えないが、恐らくそれだけ長時間走っていたのだろう、首に巻いているタオルには汗がかなり滲んでいた
「静、どうだいこの体は?だいぶ肉が落ちたんじゃないのかい?」
「一日二日でそんなに変わるかよ、なんなら肉を掴んでやろうか?」
「そ、それは勘弁して!」
さすがに自分で余分な肉が落ち切っていないというのは自覚しているのか、腹や尻を抑えながら雪奈は明利の後ろに隠れてしまう
と言っても明利の小さな体では雪奈の体が隠しきれるはずもなく、ほとんど丸見えになってしまっている
汗だくの体のせいで雪奈の体臭が強く香る中明利の体の向こうにある雪奈の肢体を見て、静希は一瞬顔を背ける、もう少しこの姉がおとなしくなってくれれば自分もいう事はないのだが、何年もそう思い続けているため、今さらだなと感じながら静希はため息をつく
雪奈たちの様子を見終えた静希は一度城島に会うべく職員室に向かっていた
休日だというのに、静希が今回関わっていることを調べるためにわざわざ学校まで来てくれたらしい
ついでに陽太たちの監督をするという目的もあったようだが、どちらにしろ有難いことである
「・・・つまり、娘を救いたいただそれだけのために奴の力を貸すことにしたが・・・その娘に不信感を抱いている・・・というわけか」
「大まかにいうとそういう事です」
城島に事情を説明した後静希は直立不動の姿勢をとっていた、なにせ自分で勝手に決めておきながら城島に頼み事をしているのだ、殴られても文句は言えない立場である
「・・・娘のことに関して調べるのに何故奴に会って話す必要がある?」
奴というのは神の手こと有篠晶のことである、泉田の話の中で彼女でも治療できなかったという話が出たため、何か知っているのではないかと思い、提案したのだ
「以前泉田愛の治療を打診したことがあるとか、ですが彼女でも治せないと言ったらしく、そのことについて二、三確認できればと思いまして」
「・・・その程度ならわざわざ足を運ぶ必要もない、電話をつないで話すだけでは不十分か?」
城島の提案にそれでも問題はありませんと静希が答えると、城島はすぐにファイルを取り出して何かを調べ始める、どうやら電話番号を調べているらしい
刑務所内の人間に電話を掛けることは不可能ではない、もちろん看守や警備の人間が厳重に見張りをする、有篠晶の場合、雁字搦めの拘束の状態で受話器だけ近づけるという会話方式になるかもしれない
それでも確認するべきことが確認できればいい、写真を送る必要があるかもしれないがその程度であればメールやファックスなどでも可能だろう
「それにしても、お前がそんな娘に不信感を抱くとはな・・・何か嗅ぎ付けたか?」
「ん・・・なんと言いますか、まだ確証はないんです、そう言う病気なのかもしれないし、明利もそういう症状が出ていると言っていました・・・でも、なにかこうおかしいというか・・・」
随分と言い淀んでいる静希に城島はなんとなく察して目を細めた
静希は今まで高校一年生にしてはそれなり以上の経験を積んでいる、それもちょっとやそっとのレベルの物ではないものが多い
面倒事の根本を見分ける観察眼と一緒に、独特の勘が備わってきているようだと城島は納得する
それだけのことを静希はしてきている、班の中で考えることが主な仕事である静希にとって、問題解決の糸口となりえる違和感を察知する感覚が鋭くなっているのだ
「お前がそう感じたのであれば好きなように調べてみるといい、頭だけじゃなく勘を鍛えるいい機会だ、お前は少々思考に振り回される節があるからな」
思考に振り回される、なまじ頭がいいだけにあらゆる可能性を考え付いてしまうために現状に対して思考が追い付かないことがあるのだ
陽太のように直感で動ければ思考時間ゼロで最適な行動を起こすことができるのだが静希は行動までの間に思考を重ねるためにどうしても行動開始が遅くなる
前衛と後衛の圧倒的な違いでもあるが、静希は人一倍思考を重ねることが多い
静希の中に芽生えつつあるのは陽太のような動物的な勘ではなく、経験則に基づいた独自のそれである
「勘を鍛えるっていうのもまた妙な話ですけど・・・そういうのって危なくないですか?」
「勘に頼りすぎるのは危険だ、だがお前の場合は問題に直面したときに半自動的に対処できるようにしておいて損はない、思考とは別の部分で行動を補うというのは案外役に立つ」
城島の言葉に静希は雪奈との訓練の日々を思い浮かべる、途中までは見てからでなくては反応できなかった雪奈の剣撃も、最近では雪奈の初動を確認してから反射的に防御できるようになってきている
確かに半自動で行える行動というのは役立つことが多いかもしれない
雪奈との訓練は前衛との接敵時に緊急防御を行えるようにしているという方が正しい、だが城島が言っているのは問題解決において思考を置き去りにして解決の糸口を掴もうとしているようなものだ
静希の言うように、勘に頼りすぎるのは危険しか呼ばない、だが城島の言うように役に立つことも確かだ
思考を駆使しすぎる静希はそのくらいがちょうどいいのかもしれない
「ところで、確認しておくが泉田の家に悪魔の気配はなかったんだな?」
「えぇ、それは問題ありません、そのほか人外の気配も感じませんでした」
静希が感覚を鋭敏にして泉田の家をチェックしてみても悪魔をはじめとする人外たちの気配は全く感じられなかった
あの家に静希と同じく人外を収納できる能力者がいない限りはあの家に人外がいるという事はまず間違いなくないだろう
「となると、泉田の動向と、その娘のことに注意を向けるべきだろうな・・・奴に話を聞いた後はどうするつもりだ?」
「とりあえず話を聞けたら病院の方に行ってみようかと、泉田さんの娘さんが病気になったっていうならカルテくらいあるかなと・・・見せてもらえるかは別ですけど」
医者には本来守秘義務と言うものがある、第三者が見せてほしいと言ってもまず見せてもらえないだろう
明利もそうだが、カルテはほとんどが別の言語、具体的にはドイツ語などで書かれる、静希ではそもそも解読ができないこともあり得る
勝手に見るというのも考えたのだが、何とか口八丁手八丁で言いくるめてみたいところである
「・・・お、あった、じゃあかけてみるぞ」
どうやら城島が探していたのは刑務所関係の電話番号だったのか、学校の電話を使って通話を始める
静希はとりあえず反応があるまで待つことにした、実際にかけるにしてもあの拘束の具合ではその準備にも時間がかかるだろう
城島が二、三話をすると、彼女は一度受話器を置く
「準備ができ次第掛けなおすそうだ、それまでここで待機していろ」
「了解です、やっぱ時間かかりますか」
「時間もそうだが、事務的な手続きにも時間がかかる・・・まぁ一時間もかからないだろう、適当に座って待っていろ」
そこらに置いてある椅子を指さしながら城島は他にもいくつかファイルを取り出して中を閲覧し始める、一体何を保管してあるのかはわからないが、その中身を見る城島の目は鋭い
何かしらの重要案件なのだろうことがうかがえる
「・・・時に五十嵐、お前は幹原や清水、深山達と親しいな」
「え?はい、それなりに」
実際は明利と雪奈に関してはそれなり以上に親しいが、さすがに教師を前にいう事ではないと口をつぐむことにする
だがなぜ急に彼女たちの話になるのか少し疑問だった
「・・・お前なら女性と行くならどこに行きたい?」
「え?えっと・・・どういう」
「いいから答えろ」
唐突な質問に静希は疑問符が止まらなくなるが、とりあえず想像してみることにする
明利と雪奈を連れてどこに行きたいかと言われると、反応に困る
遊園地などは静希達が能力者であるために入ることができない、行くとしたら公共施設の中でそれなりに楽しめるところだろうが、あまり遠いところは面倒だ、近場であるのが好ましい
それに男女隔たりなく楽しいと感じられる場所、そう考えるとある場所が思いつく
「温泉とか行きたいですね、泊りがけでのんびりと過ごしたいです」
たまにはのんびりゆったりと過ごすことができるところがいいなと思ったのだ、プールや海なども思いついたが今は真冬であるためにそもそも寒くて行きたくない、となれば温まることのできる温泉が一番であると考えたのだ
「温泉か・・・なるほど・・・」
城島はふむふむとファイルの中の何かに印をつけていく、一体何を見ているのかとのぞき込むとそこには何かの雑誌が入っている、内容は『彼氏と行くデートスポット百選』というものだった
恐らくは婚約関係になった前原とのことなのだろうが、何故この場所でそんなものを見ているのかと突っ込みたくなってしまう
「先生、そういうのって生徒に聞くことじゃないですよ」
「やかましい、親しい男性など同僚かお前らしかいないんだ、笑いたければ笑え」
笑えませんよと返しながら静希は僅かに居た堪れなくなる、城島も自らの幸せのために努力し始めているのだろうが、如何せん今までが攻撃的過ぎたためにこういった事柄にはまったく不向きなようだった
今までだって普通にデート位したことがあるだろうに、何やら心境の変化でもあったのだろうか
先程の鋭い視線を向けながら見ているのがこんな雑誌だっということ自体がおかしい、真剣になるにしてももう少し眼光を抑えられないものだろうか
「ていうかそういうのって互いに行きたいところを言い合ったほうがいいと思いますよ?」
「・・・そういうものか?」
「まぁ俺がそうってだけかもですけど、一緒に話して計画したりするのもまた楽しいですし、当日が楽しみになりますし」
静希自身が明利や雪奈と一緒にどこかへ行こうと企画するときもそうだが、一緒に考えるというのはそれなりに楽しいものだ、相手の行きたいところ、自分の行きたいところ、それぞれに何があって何ができるのかを確かめて考えを巡らせる、それだけで当日が楽しみになる
無論先日静希が行ったサプライズというのもいいのだが、それは女性が用意するというのは男性にとって多少ふがいなさを感じさせるかもしれない
城島自身が考えるのではなく、城島と前原が一緒に考えるという事に意味があるのだ
もっとも両者ともに社会人という事もあり時間がなかなかとりにくいというのもあるかもしれないが
「だが・・・温泉か・・・いいかもしれんな、今度打診しておくことにしよう」
「助けになれたなら良かったです、前原さんとはその後どうなんですか?」
「・・・まぁ、良好だ」
城島がわずかに顔を赤くし顔を逸らせたところを見ると、しっかりと仲は進展しているようだ、今度城島の弟、聡にいろいろ聞いてみるのもいいだろう
とはいってもさすがにあまり突っ込みすぎるのも問題だ、ここは微笑ましく見守ることも必要かもしれない
「結婚式の日取りとか決まったら教えてくださいね、全員で祝いますから」
「茶化すな・・・まぁ、一応呼んでやる」
城島もまんざらではないようで、笑おうとするのを抑えようとしているのだが、口元は緩みっぱなしだった、こうして誰かが幸せそうにしているのはいつ見てもいいものだ
「・・・このことは響たちには話すなよ?もし話したら・・・」
「・・・わかってます・・・俺も命が惜しいですから」
城島の瞳にわずかに殺気がこもったのを見逃さず、静希は冷や汗を流しながら苦笑いしてしまう、今さら何を恥ずかしがっているのかとも感じたが、ここは大人の体裁というべきなのだろうか、何とも気難しい生き方をしているなと思ってしまう
数十分してから折り返しの電話がかかってきて、静希は要望通り『神の手』有篠晶と会話することが可能になった
だが会話が可能な時間は限られている、話す内容をあらかじめ考えておいて正解だった、そして泉田の家で撮影しておいた写真もすでに向こうに送信してある、すでに会話の態勢は十分整ったと言っていいだろう
「五十嵐、準備ができたようだ」
「ありがとうございます」
城島から受話器を受け取り、耳に当てると、向こう側から息遣いと共に聞いたことのある声が聞こえ始める
受話器の向こうはすでに監獄奥深くの有篠晶のいる場所につながっているのだという
僅かに鼓動が強くなるのを感じながら静希は向こう側から聞こえる音を聞いていた
『もしもし?どこのどなた様だ?』
有篠晶、犯罪者、高位の能力者、外科手術の天才、狂った医者
静希の中に幾つかのワードが浮かび、あの時、初めて会ったときに有篠が浮かべていた表情と写真に写ったいびつなオブジェが脳裏に浮かぶ
だが今はそんなことに気を取られている場合ではない
「もしもし、五十嵐静希だ、城島美紀の生徒と言えばわかるか?」
静希が名乗るとその名を聞いた途端に有篠は笑いだす、何がおかしいのかはわからないがその笑いを聞いて静希は目を細めた
『なんだお前か、今度は何だ?また取引でもしたいのか?』
「その件では世話になったけど、今回は別件だ、ちょっと聞きたいことがあってな」
もしかしたらまた素材が手に入るかもしれないという期待からか、声音が高くなっていたが聞きたいことがあるという静希の言いぐさに一気にやる気をなくしたのか有篠はえー・・・という間延びした声を受話器の向こうから響かせている
『おいおいお話しするためにわざわざ電話してきたのかよ、暇な奴だな』
「こっちは暇じゃないんだよ、ちゃんと目的があってやってんだ」
静希の言葉にそうかいそうかいと言いながらも有篠はまだやる気が出ていないようだった
さすがに話しが前に進まないというのは問題だ、とっとと進めたいところである
「とりあえず聞くだけ聞く、きちんと話してくれると助かる」
『ん・・・まぁそうだな、お前とは仲良くしておいて損はなさそうだ、いいぜ前のこともある、話くらいならしてやるよ』
今後静希と関わっていくうえで恩を売って損はないと判断したのか、有篠は楽しそうな声を出しながら協力を承諾する
ようやく話を前に進められるという事で静希は小さくため息をついた後で一番聞かなくてはいけないことを思い浮かべる
「時間がないから本題に入るぞ、お前泉田愛っていう女の子を知ってるか?」
『あぁん?イズミダアイ・・・?イズミダ・・・あぁ泉田・・・ってあれか、泉田順平の関係者か?』
同じ医者として知っていたのか、どうやら彼女の脳内の人物の中で一番に検索に引っかかったのは泉田愛の父、泉田順平だったようだ、父親の方を知っているのであれば話は早い
父親を覚えているのであれば彼から伝わった娘のことを覚えているはずである
「その子は泉田順平の娘だ、お前に一度治療してもらえるように依頼したっぽいことを言ってたぞ?」
『あぁ?治療・・・?あのおっさんそんなこと・・・』
記憶を探している時、どうやら近くにいた誰かに静希が送信した写真の画像を見せられたのか、少しの間沈黙が流れてからあー・・・と記憶を探っているような声が響く
そして数秒後にあぁ思い出したという声が聞こえてくる
『そういえばあのおっさんが娘を助けてくれだの言ってきたような・・・』
どうやら泉田の言う通り、話は通してあったようだ、問題はそこから先の所である
「お前その子を治せなかったんだって?一体どういう病気なんだ?」
『病気もなにもねえよ、ただの病気なら俺に治せないわけないだろ』
有篠の言葉に静希は眉をひそめる、ただの病気なら、という事は少なくとも泉田の娘が侵されているのはただの病気ではないという事である
生物に対して同調と変換を行える有篠の能力は強力だ、生きた人間を即座に殺すことだって、まったく違う動物の形にすることだってできる
そんな彼女の能力でも治せないとなると医学での治療は絶望的に近い、悪魔の力に頼るのも納得できそうだった
「ちなみにどんな症状なんだ?具体的に教えてくれると助かる」
『だから症状もなにもねえんだよ、そもそも病気でもないんだから』
有篠の言い方に静希はわずかに首をかしげる、何か話が通じていない気がする、有篠は一体何が言いたいのだ
ただの病気ではない、症状もない、病気ではない
一体何が言いたいのかわからない
どこか静希と有篠の間で認識の齟齬が起こっているような気がしたのだ
「えっと、確認するぞ?お前は泉田順平に頼まれて娘の愛って子を治すように言われたんだろ?お前もう手遅れって言ったって泉田さん言ってたぞ、その子に同調とかしたんじゃないのか?」
一から確認するように順序良く話をもう一度する、
明利もそうであるように、有篠もまた同調系統を含んだ能力を持つ人間だ、直接触れることで同調し、相手の状態を把握する
治せないと、手遅れと言ったからには実際に同調したのではないだろうか
『同調なんかするか、お前も知ってるだろ、俺は『死体』は同調できないんだ』
日曜日なので二回、そして誤字報告が十件分溜まったので合計四回分投稿
もう四回程度では驚きもしなくなりました、慣れって怖いです
これからもお楽しみいただければ幸いです




