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J/53  作者: 池金啓太
二十話「とある家族のアイの話」

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彼の目的

「いやぁ申し訳ない、大したものではありませんが」


そう言って娘らしき少女に持たせて泉田が出してきたのは紅茶とクッキーだった、賞味期限は切れていないようで一安心すると、静希は少し間を置いてから泉田に向き合う


「まずはお話をしたくて来ました、貴方が一体何をしようとしているのか、それをお聞きしたい」


その反応を見て、泉田は近くにいた小さな少女を睨む


「お前は出て行きなさい」


「・・・はい」


少女は反論することなく僅かに目を細めて部屋から出て行った、それを見届けると泉田は静希の目をまっすぐと見つめる


「・・・それは協力してくれると解釈しても」


「何のことやら、まずは話を聞きたいんですよ」


相手の思惑も何もわからないというのに自分がまだ悪魔の契約者であると認めるわけにはいかない、まずは泉田が一体何を考えているのか、何がしたいのかをはっきりと見極める必要がある


そのうえで静希が協力してもいいと感じることができるのであれば、協力するのも吝かではない


「・・・この写真を見せるのが一番早いですね」


そう言って泉田は一枚の写真を持ってくる、そこには三人の人が写っていた

一人は泉田、一人は女性、そしてもう一人は先程静希達を出迎え、先程までいた少女だった


三人仲睦まじく写った写真で、三人ともとてもいい笑顔で写っているのがわかる、場所はどこかの公園だろうか、緑豊かで背景に小さな池のようなものがあるのが見て取れた


「家内と娘です、残念ながら家内とはすでに離縁してしまっていますが・・・」


「・・・なるほど・・・どうぞ続けてください」


余計なことを言うよりも、自分の口から言葉を出させた方がいいと静希は感じたのだ


「私が悪魔の力をお借りしたいのは、娘のことです、名を愛と言います」


愛、先程あった子の名前だろう、恐らくこの家のどこかにいるだろうが、今は静希達の応対の邪魔にならないところで静かにしているようだ


「愛はある病気でして・・・少なくとも今の医学では治すことはできません、ですが私の能力を使うなら、治すことが・・・!」


「・・・以前一度悪魔の力を使って何かしたようなことをおっしゃっていましたが、それは?」


静希の言葉に泉田はつらそうな表情をする、それは父親としてかそれとも医者としてか、拳を握り自分の額に手を当てる


「以前、愛の治療行ったのです・・・その時一度治した・・・治したはずだった・・・でも治せていなかった・・・!」


その言葉を聞いて、そして泉田の表情と声を聞いて、強い後悔と自責の念があるという事がわかった、少なくとも嘘は言っていない、どうやら明利も静希と同意見のようで気の毒そうに泉田を見ている


ようやく話が分かり始めた、つまり過去悪魔の力を借りて娘の治療を行ったが、後々それが失敗していたという事を知った、だがその時にはすでに悪魔との契約を満了してしまい、同じ手を使うことができなくなってしまった


だが時間を経て静希という存在を偶然から知った泉田、助けを求めずにはいられなかったのだろう、確認せずにはいられなかったのだろう、本当に静希が悪魔の契約者で、また娘を治療できるのではないかと希望を抱いてしまったのだから


「・・・一つ確認したいのですが、悪魔とはどのようにして接触したんですか?」


「・・・あれは本当に偶然のようなものです、妻と別れ、しばらく各地を転々としていた時、ある山の一角で出会いました、彼が言うには力が集まりやすく、道が開きやすい場所なんだとか」


力が集まりやすい、道が開きやすい


その言葉に静希は眉をひそめる、今まで聞いたことのない表現だったからである


『メフィ、今の言葉どういう事だかわかるか?』


すぐにトランプの中にいるメフィに伺いを立てると、悪魔である彼女は納得したように何度かうなずいている


『なるほどね、とりあえず嘘は言ってないと思うわよ、詳しいことはまたあとで教えてあげるわ』


二つの言葉だけで悪魔の信用を勝ち取ったのだ、恐らくは偽りはない、彼が過去悪魔の契約者であったという事、これはほぼ確定でいいだろう


「では、娘さんの治療を行うために、悪魔の力を必要とし、自らの能力を高めて治療しようと、そういう事ですか?」


「・・・そういう事です・・・どうか・・・どうかお願いします」


そう言うと泉田は深く頭を下げてしまう、その声は絞り出すような必死さがあったが、まだ確認したいことは山ほどある


「時に、その病気とは何ですか?多少超法規的な手段をとれば大抵のことは治療できる人間に心当たりはありますが」


「・・・恐らく君が言っているのは『神の手』の事でしょう、彼女でも治すことはできない、本当に不治の病ともいうべきものです」


あの神の手、有篠晶にも治療できないような難病、そんなものがあるのかと静希は訝しむ


なにせ彼女は生きているのであればどのようなものでもどのような形にでも変換できるようなかなり高位の能力者だ


彼女の言う素材さえ集まれば意のままに生物の形を変えることもできる


それこそ全く新しい形の生物を作り出すことだってできるだろう


治療だけではない悪魔のような所業を無視すれば、彼女に治せない病はこの世界に無いのではないかと思えてしまう


事実静希はそう思っている、だからこそ彼女にも治せないという言葉がどうにも信じられなかった


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