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J/53  作者: 池金啓太
二十話「とある家族のアイの話」

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人外の昔話

「それじゃ、どちらでもない契約のお話をしましょうか・・・えっと、あれはいつだったかしら、その子はね、生まれつき体が弱かったのよ」


彼女が出会ったのは小さな女の子だったのだという


どこかの国のどこかの町で彼女は暮らしていた、父親が裕福という事もあり生活には困らなかったが生まれつき病弱という事もあり部屋からはほとんど出ることはできなかったのだという


メフィとその子が出会ったのは、本当に偶然としか言いようがないようなものだった


まるで道端ですれ違う人と目が合うかのような些細なことだったのだという

始まりは紙飛行機


外に出ることのできないその子がとばした紙飛行機が、偶然メフィの体にぶつかったのが始まり


最初メフィはただ文句を言うつもりでその子の元へと向かうと、その子はメフィの姿を見ても物怖じすることもなく喜んだのだ


その子は、所謂人にうつる病を抱えていた


だからこそ他人との接触はほとんどなく、隔離されるように生活していた


そんな時に現れた不思議な存在が、メフィだったのだ


メフィは不承不承ながらその子の話し相手になり、今まで経験してきたいろんなことを話したのだという


実際に経験した物語は、どんな絵本よりも心躍り、脚色も何もないつまらなくも面白いような話ばかり


メフィとその子の奇妙な談話がどれほど続いただろう、その子が一人の時間を見計らってやってくるメフィは自分の話を楽しそうに聞いてくれることが嬉しく、今までのことをたくさん話した


そんな中、その子が言ったのだという


『私がいつか大人になったら、本を書きたいの、もしできたらお姉さんに一番に見せてあげるね、びっくりさせてあげるから』


メフィはその約束を契約として受け取ったのだという


だが、その子は大人になる前に病で亡くなった


奇跡も感動もなく、彼女は病に負け、大人になったらという条件すら満たすことなくその短い一生を終わらせたのだ


「あの子が大人になったらっていう条件で契約した、けどあの子は大人になることができなかった、条件を満たしていないんだもの、契約はそもそも成り立たない、だから完遂でも、未完遂でもないってことよ」


その子のことを思い出しているのか、メフィは僅かに愁いを帯びた表情を見せた


この表情もメフィにしては珍しいものだった、今まで人間を楽しみの対象としか見ていない彼女とは少し違った印象を受ける


「他にもたくさんあるけど、契約そのものが成り立たなかったのはあの子だけだったかもしれないわね、他の契約者はたいてい何かが欲しいだとか何かをしたいだとかそういうのばっかりだったし」


あの子の書いた本が読めなかったのは少し残念かなと言ってメフィはふわふわ浮きながら天井を見上げている


その子がどんな表情で、どんな風にメフィの話を聞いていたのかはわからない


だがメフィにとっては自分の話を聞かせて、初めて自分で楽しませた人間だったのかもしれない


誰かに付き従って得た楽しみではなく、自分からその子に話すことで、その子を楽しませ、そして自分自身も恐らく楽しんでいたのだろう


メフィは楽しいことが好きだ、刺激的で予想もできないことが好きだ


その時メフィは、その子を通して自分の中にある、今まで見てこなかった自分を見て楽しんだのだろう


楽しみ方は人それぞれ、だが人に何かをして楽しむという経験は、その時が初めてだったのだ


「なんていうか意外だな、お前はそういうセンチメンタルなことは言わないと思ってたのに」


「なによ、私だって乙女よ?物思いにふけることも、ちょっと打たれ弱くなることだってあるわよ」


陽太の全力の拳をまともに受けていながらびくともしないような存在が何を馬鹿な事をと思ったが、メフィは悪魔のくせに変なところが人間臭い


ドラマやアニメを見て楽しむこともある、ゲームだってやるし暇さえあればダラダラしているし、かと思えば積極的に面倒事を起こそうとしたりもするし


好きなことを好きな時にする


堕落に近い形とはいえ、メフィは本当に自由を地でいっているような生き方をしている


だからこそ悪魔のらしく飄々としている時もあれば、人間のように物思いにふけることもある


つかみどころがないからこそ、いつの時代でもそうして楽しんで生きてきたのだろう、ふわふわとどこにいるのかもわからないような風船のような生き方で、今もこうして楽しんでいるように


「ちなみに聞きたいんだけど対等契約を結んだのって俺以外にいるのか?」


「もちろんいるわよ?片手で数えられる程度だけどね、中には女もいるわよ?」


「・・・お前そっちもいけるのか・・・」


メフィの不敵な笑みにこれからは明利や雪奈に近づけさせないようにしようか本気で検討し始める静希だった


「なんだか私ばっかり暴露してたんじゃつまらないわね、あんたたちはなんかないの?」


今まで静観を決め込んでいた邪薙やオルビアは急に話を振られ少し驚いた様子だった


なにせ今まで多くの人間と共に過ごしてきたメフィと違い、邪薙やオルビアはそう言った経験に乏しいのだ


邪薙は村を守り続け、オルビアは数百年の間地下に閉じ込められ続けていたのだから


「話か・・・とはいっても何を話せばよい物か」


「なんでもいいわよ、なんかこう、いい話でも悪い話でも」


メフィの特に何も考えていなかったことがありありとわかる言葉に邪薙もオルビアも困り果ててしまうが、そんな中一つ思いついたのか邪薙がポンと手を叩く


「いい話かどうかは分からんが、まだ守り神として過ごしていた頃信仰を集めるための神社があってな、いや神社というより社と言った方がいいのかもしれんが」


邪薙が思い出すように話し出す、彼がかつて守っていた村の話


村として形を成し、数百人程度の規模の村であったがそこには確かに人の営みがあり、邪薙をまつる神社のようなものもあったのだという


村の人々は作物ができればその一部を神社に供え、邪薙への供物として捧げ信仰の証としたのだという


そんな中、時折ではあるがあるものが一緒に置かれていたのだという


それは綺麗に作られた泥団子であったという


供えたのは村の子供たちだったらしい


作物を供えようにもそれは大人たちの仕事だと言われ、何もすることができなかった子供たちは邪薙に何か供えようと綺麗にかたどられた泥団子といくつかの花を神社に供えていったのだという


場合によってはいたずらととられてしまうかもしれないが、邪薙には違ったように感じられた


なんでも神格は供えられたものに込められた感情に敏感らしい


その泥団子は子供たちの感謝が込められていたのだという


もちろん大人たちが込めるそれと比べ圧倒的に劣り、稚拙で単純なものだったらしいが、邪薙はその小さな感謝が忘れられないのだという


「結局、その幼子たちの孫の代で村は過疎により滅びたが・・・今でもあの泥団子と草花は思い出せる、単純な感謝程嬉しいものは無い」


邪薙の話はまさに神独特の物だった


今までのメフィの話は悪魔の、そして邪薙の話は神の視点からそれぞれの体験を語っている、こういう話を聞けるのは本当に貴重なものだろう


「なぁ、神社とかって必ず神様がいるものなのか?」


「ん・・・難しいな、中にはいないものもいるだろう、例えば人が作り出した偶像だったり、神格自体が別の所に縛られていたりと、何も神社に常にいるというものではない」


神格はその力によって自らさえもしばりつけてしまう


例えば大きく有名な神社があり、多くの人がそこに集まり信仰をささげたとしてもその場に神がいるとは限らない


神格の本体とでもいえばいいのか、その力の源に留まっている可能性だってあるのだ


静希は知る由もないが、過去静希の父である五十嵐和仁が出会った神格もその類の典型的な例と言える


「さて、次はオルビアの番か?」


「わ、私も何か話さなくてはならないのですか?」


「当然でしょ、人外たるもの昔話の一つもできないでどうするのよ」


その言葉には同意しかねるが、人外としてオルビアに話をさせるというのはどうなのだろうか


静希よりは経験豊富だろうが、それでもオルビアの年齢は十八前後、静希とそうそう変わらないのだ、昔の話をすること自体重要だろうが、為になるかと言われれば微妙である


だがオルビアとしてはほかの人外に後れを取るわけにはいかないのか、少し悩んだ後で思い出すように顔を上げる


「では、私が騎士として過ごしていた時の話をしましょう・・・ご存じのとおり私は性別を偽り騎士として国と主に仕えておりました」


はるか昔、男の子に恵まれなかった親の中で性別を偽り子を男として育てるのは何も珍しいことではなかったのだという


地位や立場の違いあれど、男を演じるという事に慣れたオルビアに、ある少女が言い寄ってきたのだという


わかりやすく言えば、オルビアは同じ女から告白されたのだ


当時は男装に身を包み、鎧や剣を身に着けていたことが多かったために中性的で顔だちの整った男性ととられていたのだという


声ばかりはごまかしがきかなかったため、信頼できる人の前でしか多く話すことはなかった為寡黙と認識されていたというが、それすらも美徳ととられ、女性からの人気は高かったのだという


「時折暴走する女性もおりまして・・・半ば強引に唇を奪われたこともあります・・・あればかりは未だにトラウマでして・・・」


「・・・まぁなんていうか・・・その・・・ドンマイ」


オルビアがへこんでいる姿というのは地味に珍しい、常に凛としている印象があったのだが、実際は年相応の女の子という事だろう


「そういえばオルビアの部隊って女の子が多かったのよね?部隊内でそういうのあったの?」


「・・・黙秘権を行使します」


あったんだなとその話を聞いていた全員が気の毒そうにオルビアを眺めながら同情の視線を送る、同性に好かれるなど普通の人間であれば嫌がるところだろう、こればかりは静希も慰めの言葉が見つからなかった


今回から試験的に月曜日も二回分投稿日にしようと思います


土日月の三日間がダブルの日になるかと思いますので、その点ご容赦ください、こうやって少しずつ投稿量を増やせていけたらと思っています


これからもお楽しみいただければ幸いです


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