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J/53  作者: 池金啓太
二十話「とある家族のアイの話」

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契約者の話

「確認しますが、泉田さんは能力者ですよね?一体何の能力を?」


「・・・私の能力は発現系統です・・・もしかしたら少し変わるかもしれないけれど」


その言葉に静希と明利は僅かに反応する


授業で城島が言っていた話を思い出したのだ


発現系統の中で新たに提唱された系統の話、今はまだ正式に認められていないが今後新しい系統が生まれるかもしれないという可能性の話だ


「ひょっとして・・・創造系統ですか?」


「よく知っていますね、勉強熱心で何よりです」


創造系統、それは発現系統に属しているものの、その本質が大きく変わった系統である


本来発現系統は能力を発動した後、その制御が使用者から離れたり、使用者が能力の発動をやめたりすると自然消滅するものがほとんどである


だが創造系統は、発現によって作り出された現象あるいは物質が、この世界に現存し続ける、それこそまさに無から有を作り出す能力であるのだ


もちろん能力によって作れるものも、その量もかなり限定され、使用する魔素の量もほかの能力に比べるとかなり多いらしいが、一度作り出した物が消えないというのはかなりの有用性がある


「私の能力は、簡単に言えば生き物を作り出すことができる能力で、臓器や骨、血や筋肉などを作り出すことができるんです」


「・・・それはまた・・・随分と・・・」


聞いているだけで静希はその状況を想像してしまう、手からひとりでに肉が現れるなどホラー以外の何物でもない、少なくともそんな状況に出くわしたら泉田を何らかの傷害の罪で通報しようかと考えるほどだ


だが彼が医者であったという事実がその異常さを少し和らげる


「もしかして、患者などにもその能力を?」


「えぇ、作れる量は本当に少ないですが、目や髪、皮膚や臓器などと言った重要な部位を移植するのには役に立っていました」


どうやら泉田の能力はその人の遺伝情報に合わせて創り出すことも可能なようで、それこそ移植手術などの時にドナーを必要としないタイプの能力らしい


目を無くした人も、臓器に異常がある人も、違う臓器を作り出して入れ替えるという単純ながら一見すると少し恐ろしい治療ができるらしい


そして、自分の能力のことをそんなに簡単に話す、敵か味方かもわからない静希相手に


つまり、自分の手の内を明かして静希に信用してもらおうとしているのだ

彼が一体何をしようとしているのかいまだ不明だが、静希の信用を得たいという考えは理解できた


だがそれだけで静希の手の内を明かすわけにはいかない


静希の隠している事柄は、人の能力一つ二つだけで補えるほど軽くはない


どのように切り出したものかと悩んでいると屋上の扉が開く音がしてから、こちらを大声で呼ぶ声が聞こえた


「そこの人!そこは立ち入り禁止ですよ!早く戻ってください!」


やってきたのはこの病院の看護師だった、その手にはいくつかのシーツが入った籠があり、干しに来たのだろうことが覗えた


静希達はすぐに給水塔から降りて一緒に看護師に謝罪することにする、だがどうやら給水タンクに登る人は少なくないようでまた登ってるよという印象だったようだ


そして屋上から戻る際、泉田は一枚の紙を取り出した


「ここが私の住所です、今日はここまでにしますが、もし興味を持ったのであれば・・・ここに来てください、待っています」


そう言って泉田は静希達を置いて病院を去った


静希と明利は顔を見合わせて、今回のことをどう判断するべきか、少し困ってしまっていた


「明利、あの人ってなんで医者を辞めたんだ?」


「え?・・・えっと確か、事故か何かで腕が思うように使えなくなったからとかだったかな・・・?」


事故、そんな曖昧な言葉で済まされる程度のものではない、片腕と片足が奇形化しているような事故などあるはずがない


恐らく悪魔と契約し能力を強化した際の副作用であのような状態になり、医者として生きていくことが難しくなったのだろう


外科医から内科医になることをしなかったのは偏に彼のプライドだろうか


「ちょっとあの人のことを調べる必要がありそうだな・・・明利、協力してくれるか?」


「うん、一応先生にも伝えたほうがいいかな?」


「そうだな・・・少なくとも日本に俺以外の契約者がいるかどうかも確認しなくちゃな・・・」


静希は悪魔の契約者のことについてあまり知識がない、聞きかじる程度で、世界に数える程度しかいないという事しか知らず、今まで日本に契約者がいたかどうかという事さえ知らないのだ


そして悪魔と契約したのがいつなのか、その『事故』とやらの時期を確認すればそれも分かる


悪魔の事件と関わるせいで少々過敏になっているかもしれないが、悪魔の匂いがするのであれば徹底的に調べるべきだろう


もし仮に泉田の背後にリチャード・ロゥの影が見え隠れするようであればそれこそ逃がす手はない


多少無謀でも相手の懐に飛び込むのも必要なことかもしれない


そう考えながら静希は病院を出ながら携帯を取り出して城島の携帯に電話をかける準備をしていた


『なるほどな・・・私の方でもいくつか調べておこう・・・ちなみに泉田本人から悪魔の気配はしたか?』


「いいえ、まったくと言っていいほど、恐らく今はいないと考えたほうが妥当だと思います」


静希は一度家に帰ってから城島に報告がてら相談していた


ただの個人的な勘や思考で静希が悪魔の契約者だと感じ取ったのか、それとも誰かに入れ知恵されたのか、まだ判断できないからでもある


第三者であり、交友関係の広い城島なら何か知っているかと思ったのだが、城島も明利が知っている情報と同じような知識しか持ち合わせていないようだった


ただ一つ、事故とやらの時期についてのことを除いて


「で、その事故っていうのは何があったんですか?」


『私も詳しいことは知らんが、自宅で何らかの臨床実験に近いことを行っていた時に能力が暴発したという報告を上げているな、その時に片腕と片足を奇形化させ、医者としての人生を終え教職に就いたそうだ』


足ならまだしも、外科手術などで繊細な動きを必要とする中で、どうやらあの奇形はそこまで精密な動きをしてくれないらしい


何度かリハビリをしたものの、日常生活以上のことはできなかったのだという


「背後関係に関しては何か心当たりはありませんか?」


『ここ数年は教授として活動していたらしく不審な点は見当たらないな・・・少なくとも自分から面倒に首を突っ込むような真似はしていない、かつての同僚などから相談を受けることは多々あったようだが・・・』


どうやら泉田はかなり医者として優秀だったようだ、それこそ医学界から去ってもその技術と知識を頼る人は少なくなかったのだという


今のところ不審な点は見当たらない、静希と接触してきたのもただの能力者が唐突に奇形化したという事で興味を持っただけなのかもしれない


判断できないのなら、判断できるようにするしかない


少々危険かもしれないが、相手の希望通りに自宅に足を運んでみるのが一番手っ取り早いだろう


「先生、もし俺が悪魔の契約者だという事を泉田さんに伝えた場合、どうなりますか?」


『・・・そうだな・・・泉田本人が黙秘するのであればそれでもいいが・・・人の口に戸は立てられぬというしな・・・私はあまり勧めない、そもそもお前にメリットがないからな』


確かに城島の言うように静希が今泉田に悪魔の契約者であることを認め、協力することにメリットはない


むしろデメリットしかないという状況だ、わざわざ面倒を増やすようなことはしたくないものだが、一つ引っかかることがある


「あの人は昔悪魔の契約者だったと言ってました、その関係で例の奴の後を追える可能性は?」


『ふむ・・・と言ってもその事件の時に悪魔の力を借りてお前と同じ様になったのだとして、すでに十年近く経過しているぞ、今さら何か出てくるとは思えない』


城島の言葉は淡々としている、なおかつすべて正論だ、静希が反論する余地はない


だがどこか気になるのだ、あの泉田という男が


今までエドモンド以外にあったことが無い、悪魔の契約者


今となっては過去の話かもしれないが、自称悪魔と契約したという人間は初めてだった


どんな経緯で悪魔と接触したのか、そしてなぜ今悪魔と共にいないのか、同じ悪魔の契約者として興味は尽きない


そして電話の向こうの城島も、静希が悪魔の契約者という存在に興味を惹かれているという事に気付いたのか小さくため息をついた


『私は相談されれば私なりの答えは出してやるが、最終的に決めるのはお前だ、好きにしろ、それでもし面倒になったら、その時は自分で後始末をすれば私は何も言わん』


「・・・すいません、とりあえず明日行ってみることにします」


そう告げた後礼を言い、静希は通話を切る


なんだかんだ、城島は優れた教師だ、多少暴力的なところはあれど教師として生徒のことを考えられ、察することができる


知的好奇心と自らの危険を秤にかけるというのは静希としては珍しい行動かもしれない


「結局行くんだ、いってどうするの?」


「さぁな、とりあえずは世間話でもするさ・・・本題を交えながらな」


本題、それは泉田が言っていた、悪魔を貸してほしいと言うものだった


本来悪魔を貸すなどという事はありえない、信頼できる人間相手であればメフィを向かわせることくらいはするが、つい今日あったばかりの人間にそう簡単にメフィを貸すわけにはいかない


「ところでメフィ、お前今までたくさん人間と契約してきたんだよな?」


「えぇそうよ?何か気になることでも?」


「契約を破棄したことはあるのか?そいつが生きている間に、あるいは契約を完遂したとか」


その言葉にメフィは少し考えだす、いや昔のことを思い出そうとしていると言った方が正確だろう


泉田の話が本当なら、彼は生きていながらにして契約を破棄、あるいは満了したのだと考えられる


静希とメフィの契約は対等契約だ、静希が生きている限りメフィは静希のものであり静希はメフィのものだ


今さらだが、その契約に不満はない、だからこそ気になったのだ、他の契約者の契約方式とその内容について


「今まで契約破棄したことはないわ、契約を完遂したこともあるし、逆に完遂する前に人間が死んじゃったこともある、その時それぞれって感じよ」


悪魔は契約にうるさいものと付け加えるとメフィはふわふわと静希の周りを飛び回る


「ちなみに今まで契約したのって、対等契約だけじゃないんだよな?」


「もちろんよ、私はそんなに軽い女じゃないわ・・・まぁ重さないけど」


重さのない悪魔に軽いもなにもあったものではないと言いたいが、今は流しておくことにする


本当に静希は流れに身を任せてメフィとの契約をした、というか半ば無理矢理に契約させられたというべきだろう


悪魔との契約についてもほとんど何も知らないような状態だという事に今さらに気付くというのもなんとも間抜けな話である


「興味本位なんだけどさ、今までの契約内容とか話せるか?話したくないなら別にいいけど」


「問題ないわよ、えっと・・・じゃあそうね、完遂と未完遂、あとはそのどっちでもないのを一つずつ紹介しようかしら」


完遂未完遂はまだわかるのだが、そのどちらでもないというのは静希も首をかしげてしまった


契約というからには何かしらの目的か制約があって然るべきである、だからこそ完遂するか否かしかないはずなのに、どちらでもないというのは少々理解に苦しむ


「まずは完遂したのから、あいつは私が三人目に契約した奴だったわ、旅商人でいろんな国に行っていろんなものを買って売ってを繰り返して、そんな中で私と会ったの」


それははるか昔、まだインフラなどもまともに整備されていないような時代で、人が馬などの家畜に頼り生きていた時代の話だという


彼はどこにでもいるような商人だった、人から物を買い、それを別の土地で売る、それを繰り返して生計を立てていたという


そんな中、彼は幸か不幸かメフィと遭遇した


悪魔や精霊など、ほとんどおとぎ話のような存在でしかなかったため、彼は驚くと同時に目を輝かせたのだという


好奇の目に晒されながらもメフィは気を良くし、彼と契約することにしたのだとか


彼が求めたのは至極単純で、山ほどの金銀財宝だった


ただメフィは金銀財宝をポンと出せるような存在ではなかったため、主に彼の仕事の手伝いをしたのだという


と言っても当時は事務などの書類仕事などほとんどなく、どちらかというのなら道中襲ってくる盗賊や盗人などから彼を守ることが彼女の仕事だったのだという


そして普通の人なら立ち入れないような場所にもメフィの力を借りて入り込んだ彼は、彼が望んだとおり、金銀財宝の元となる貴重な物品をいくつも見つけ、無事契約を満了したのだという


「よく驚く上に、よく笑うやつだったわ、一緒にいて飽きなくてすっごくいい笑顔をするの、静希のそれとはまた別、子供っぽい感じかしら?」


思い出してつい記憶の中の彼の笑みにつられたのか、メフィは頬を緩ませる

こういう表情を彼女がするのは珍しいかもしれない


「契約が終了したときの別れの時に言われたのよ、こんなにたくさんの物を見ることができたのは君のおかげだ、とても楽しかった、君のこれからが楽しさにあふれていることを祈るよって」


その言葉は、金銀財宝を手に入れたことへの感謝ではなく、自らの時間を輝かせてくれたことへの感謝であるように思えた


彼は金銀財宝よりも、よほど貴重な時間と経験を手に入れたのだろう、少なくとも静希はその言葉からそう受け取った


「じゃあ次は契約未完遂の内容ね・・・これは何というか・・・バカらしい内容なんだけど、私求婚されたのよ、しかも二人同時に」


その言葉に話を聞いていた静希は眉をひそめた


確かにメフィは絶世の美女というにふさわしい外見をしている、目と髪の色と角を除けばの話だが


だからと言って悪魔に求婚するとはどういう事だろうかと思えてしまう


「それでそいつら言い合いになってね、決闘して勝った方と結婚してほしいとか言い出して勝手に決闘始めて、結局相討ち・・・両方死んじゃって契約未完遂で終了よ」


「ふぅん・・・じゃあどっちかが勝ったら結婚してやるつもりだったのか?」


静希の質問にメフィは唸り始める、自分に求婚してきた相手のことを思い出しているのか、腕を組んでかなり悩んでいる様だった


「まぁ人間の人生なんて短いもんだし、少しの道楽に付き合ってもいいかなって思ったけど・・・あいつらじゃ二年持てばいい方ね、たぶん途中で飽きるわ」


どうやらメフィの男性を見る時の感覚としては顔とか財力よりも飽きるか否かという一点に尽きるらしい、人間をそもそも恋愛対象としてみていない悪魔らしい返答である


そもそも悪魔と結婚してその二人とやらはどうするつもりだったのか、昔の人が考えることはよくわからないものである


「じゃあ仮に俺とか陽太がお前に求婚したらどうするんだ?」


「あら求婚してくれるの?嬉しいけどダメよ、私は私だけを見てくれるような人がいいわ、あっちもこっちもなんてのは嫌ね」


悪魔は独占欲が強いのよと言って静希の額に指を突き立てる、静希自身ちょっとした話のタネに言っただけだったためそこまで気にするつもりはなかったが、メフィが案外普通な感情を持っているという事に驚いた


独占欲が強いというのは、意外ではなかったが


誤字報告五件分と日曜日なので合計三回分投稿


雨のせいで洗濯物が乾かなくて困っている最近です、一日でいい、晴れてくれ・・・!


これからもお楽しみいただければ幸いです

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