左腕にこもる重さ
新しい年が始まり、もう年賀状も届くことが無くなり、本格的に一年の始まりを告げようという頃、静希はある場所にやってきていた
それはある意味、静希が待ちに待ったものというべきだろうか、長い間頼んでいたそれが、ついに完成したのである
そこは静希が世話になっている大峡刃物店、静希や雪奈の使うナイフや刀をすべて作っている店である
その裏手、作業所とでも言うべき場所に、静希はいた
「よし・・・取り付け完了だ、静坊、付けてみろ」
大峡刃物店の店主、源蔵が静希の左腕の霊装、ヌァダの片腕を掴んで渡して見せる
そこには今までなかった重量が確かにそこに込められていた
そう、静希の左腕に内蔵する砲身が遂に完成したのである、種別としては銃身と言った方が適切かもしれないが、大きさ故に大砲のイメージの方が大きい
「やっぱ少し重くなるな」
「当然だ、それだけの物を撃つんだ、それに耐えられるだけの物を作らにゃならん」
砲塔を内蔵した状態で腕の駆動を阻害しないか、静希は上下左右、捻りも加えた動きをして見せるが、まったくその動きを妨げることなく腕は稼働していた
どうやら源蔵の仕事は完璧に近い仕上がりのようだった
「うん、動きはよし・・・あとは撃ってみないことには・・・」
「ふむ、ここでは撃つなよ?そして人には撃つな、一応撃ち方を説明しておく、肘を取り外すか、大きくずらすことで砲口を露出させたら、腋の部分から出る取っ手を握って思い切り引け、そうすることで内部の撃鉄が弾の薬莢を叩く仕掛けになっている」
静希はとりあえず弾を装填しない状態で肘から先を取り外し、狙いを定めるようなしぐさをしてから自分の腋にあるという取っ手を探す
丁度装甲と装甲の隙間から覗くそれを引くと、砲身の内部で確かに金属音が響いた、今のが撃鉄の音だろう
「弾はどうやって入れるんだ?」
「そこは少々面倒だが、砲口から直接入れるしかないな、腕の装甲が加工できればまだ他にもやりようがあったが、まぁ道具も作っておいたからこれを使え、ある程度固定できるように細工はしておいた」
どうやら弾丸が一番奥まで挿入されると自動的に固定されるような機構を取り付けておいてくれたようだ
弾丸を入れる仕草はまるで中世の大砲や戦国時代の火縄銃の弾を込めるようだった
砲口部分から弾を入れ、鉄の棒を使って奥に押し入れる、まさに火縄銃のそれに近い
違うところがあるとすれば、それを取り付けてあるのが腕で、詰め込むために使う鉄の棒もある程度使いやすいように曲げたりして加工してくれているところだろうか
「うん、ありがとう源爺、これは頼りになるよ」
「くれぐれも言っておくが、人に向けて撃つんじゃないぞ?あと日常では弾は込めるな?暴発させるようなことがあってはかなわんからな、それに必ず手入れしろ、弾は三種類一応渡しておくぞ」
まくしたてるように注意事項と、専用の弾を渡してくれる源蔵、真剣に静希の事を心配してくれているのだという事がすぐに分かった
当然と言えば当然かもしれない、幼いころから知っている少年が、片腕に大砲もどきを装備しようというのだ、心配しない方がどうかしている
「わかってるよ、取り扱いには十分注意する、ありがとな」
「礼を言う前にまず謝罪だバカモンが、こんな様になりおって・・・まったく心臓がいくつあっても足りん」
源蔵は静希の左腕だけではなく、右手を見てため息をついていた
静希は今両腕のスキンを外している状態だった、腕を取り外す際につい癖で両腕のスキンを同時にはずしてしまったためにその全容を源蔵に見せてしまったのである
奇形化した右手を見てこっぴどく叱られ、同時に心配させたが、もう源蔵も諦めている様だった
いや、左腕を無くしたあの時から、静希がまた傷ついて帰ってくることをどこか予見していたのかもしれない
静希の右手の黒い皮膚と、手の甲から覗く白い鱗をめずらしそうに見ながらため息をついていたのが印象的だった
「あはは・・・悪かったよ、もう無茶はしない・・・あとこれお代な」
そう言って静希は以前見せてもらった金額に少し色を付けて源蔵に渡す
源蔵は小さくため息をついてその金を確認することもなくポケットの中に無造作に突っ込んだ、金額を確認しなかったのは単に静希を信頼しているからか、それとも本来であれば受け取りたくない金だったからか
「いいか静坊、若いうちの苦労は買ってでもしろとは言うが、自分の抱えきれないものまですることはない、自分のできることだけやればいいんだ、いいな?」
それはまるで自分の今までの経験からくる、人生の先輩からの助言のように聞こえた
珍しい言葉に静希は僅かに笑ってしまう
「あはは、珍しいな、お説教か?」
「忠告だバカタレ、ほら片付けの邪魔だ、とっとと帰れ、雪嬢ちゃんによろしく言っとけ」
そう言って源蔵はシッシと手で払うような動作をして静希を追い出そうとしている
こうなってしまうと静希はさすがに口出しすることができずに作業場を後にしようとする
「じゃあな源爺、また来るよ、ありがとな」
静希の言葉に源蔵は手を振るだけで答えた、相変わらず気難しい人だと思いながら静希は大峡刃物店を後にした
僅かに増えた重みを感じ、源蔵に改めて感謝しながら静希は帰宅する
新たに増えた攻撃手段、まだ試していないこの武器がどのような結果を引き寄せるのか、静希は少し楽しみに、そして少し不安に思っていた
誤字報告が五件分溜まったのでもう一回投稿
話をまたぐ時が一番厄介ですね、まぁ自分の誤字のせいなんですが
これからもお楽しみいただければ幸いです




