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J/53  作者: 池金啓太
十九話「年末年始のそれぞれ」

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一年の始まり

「なによ静、私にはないの?」


「年上が年下からお年玉せがむなばかたれ、ほら、父さんたちも戻ってきたしそれぞれ帰るぞ」


年明けのちょっとした遭遇も終え、静希達はそれぞれ帰宅しまたのんびりとした数日を過ごすことになる


後に聞いたことなのだが、陽太は実月に自分の能力の成長を見せたのだという


槍を作って見せ、藍色の炎を灯し、この一年で自分が得た力をすべて披露したらしい


そうしたら実月は感極まって泣いてしまったのだとか


自分の弟が成長したことが嬉しいのか、それとも自分の手から離れていったことが悲しいのか、静希には判断できなかったが鏡花と随分と仲良くなったようでそれぞれ安心していた


そして、年末年始の独特の空気も終わろうという頃、静希の家にいた父和仁と母麻衣が再び仕事へと向かおうと準備を終え出かけようとしていた


「それじゃあ気を付けて、生水とかには注意してな、時折連絡してくれよ?」


「わかってるよ、留守番任せたよ」


「戸締り火の元はしっかりするのよ?また五月くらいには戻ってくるから」


一月に出発して四か月近く家を空けるというのも問題だろうが、もはや慣れたものだ


扉を閉めようとしたとき、和仁が僅かに扉の向こうからこちらを向いて薄く微笑む


「静希、話す時が来たら話してくれれば構わない、だからあんまり気にするな」


その言葉に、静希の心臓は止まりそうになった、表情には出さずそのまま手を振って二人を見送った


気付かれていた、一体何を?


悪魔の事?両腕の事?それとも二人の恋人の事?


心当たりがありすぎてどのことを言っているのか静希はさっぱりだったが、恐らく和仁は静希の抱えている『何か』に気付いている


それがどの事柄であるかは静希も分からない、だがいつか話すべき日が来るのだろう、それがいつになるのか、静希にはわからない


扉が閉まり二人の姿が見えなくなると静希は扉に鍵をかけて大きくため息をついた


そして即座に両腕につけていた肌スキンを外し、大きく伸びをする


なにせ両親がいる九日間ほとんど外すことができなかったのだ、長時間着けていることがここまで苦痛になるとは思っていなかっただけに少し意外だった


気付かれていたのがこの腕のことだとしたら、どう話したものかと悩んでしまう


一体どういう顔をして両腕がおかしなことになっているなどと伝えればいいのか


そんな苦悩を抱えながらもようやく一人暮らし(?)になったのだから人外たちも出してやらねばと思い、リビングに戻ってトランプの中から人外たちを取り出すと、三人はそれぞれが向かい合うように座り、黙々とゲームをやっていた


「九番にいるわ、すぐに来て、ペイントしたから」


「了解、向かいます、邪薙罠の準備を」


「任されよう、痺れ肉も置いておこう」


この九日間で完全に慣れたのか、いやこの口数の少なさはもはや慣れたというレベルではない


しかも集中しているせいかもうトランプの中から出たという事に気づいていないようだった、メフィはともかく邪薙やオルビアまでこんな風になるとは予想していなかったために少し吃驚していた


どのくらいゲームが進んだのか、こっそり後ろから覗き見ると、すでに三人の装備はほぼ最高レベルの物にまで仕上がっていた、無論それぞれの武器にあったスキルを発動するために別々の装備ではあるが、もはややることと言えばやりこみ要素だけになってしまっている始末


今戦闘を始めたのもかなり上位の敵で静希達も苦戦した覚えがある


二十四時間ずっとゲームができるという環境を九日間も続けるとこういう事になるのかと静希は少し恐ろしくなりながら小さく咳払いしてから数回、大きな音が出るように拍手する


「お前ら、もう父さんたちは出かけたぞ?」


その言葉に人外三人は一瞬でゲームを一時停止し、あたりを見渡しもうトランプの中ではないという事を把握した様だった


「あー・・・もう九日経ったのね、結構早かったわ」


「うむ・・・これはこれでいい経験になった・・・」


「も、申し訳ありませんマスター!このような醜態をお見せしてしまい・・・!なんとお詫びすればよいか・・・!」


一番反応が大きかったのはオルビアだった、どうやらゲームをしていて主の存在に気付けなかったという事を恥じているのかわなわなと体を震わせ必死に頭を下げていた


メフィや邪薙はようやく外に出られたという事でソファや床といったいつもの定位置に居座っているというのに、この霊装は本当にまじめである


「いいっていいって、たまには息抜きも必要だよ、どうだお前ら、ゲームは」


「んー・・・なかなかうまくなったと思うわよ?もうこのゲームは極めたわね」


「最初は戸惑うことも多かったが、何度かやるうちに慣れた、人の作り出すものは興味深いな」


「こ、このような娯楽をして過ごすことはあまりなかったので、新鮮でした・・・その・・・楽しかったと、思います」


反応を見ても人外それぞれ、いろいろな顔を見せる、メフィは得意げに、邪薙は満足げに、オルビアは少し恥ずかしそうに


少しずつだが人外たちが現代社会に染まっていっている、これは喜ぶべきことだろうかと悩みながら静希はとりあえず人外たちをねぎらうことにする


なにせ娯楽があったとはいえ九日間同じところでじっとするというのは苦痛だ、少なくとも静希はそれをしたいとは思わないだろう


「とりあえずお疲れ様、今日の晩飯何かリクエストあるか?好きなもの作ってやるぞ?」


「じゃあチャーハン!豚肉の奴で」


「そうだな・・・焼き鳥を頼む」


「で、でしたら、グラタンなどを・・・」


三種三様なリクエストに静希は苦笑しながらとりあえず料理をリストアップし、それぞれ必要な食材をメモに書き記し始める


これから食材を買って、ついでに明利や雪奈にも声をかけることにした


料理は量が多ければ人手も必要になる、それにせっかくまた一人暮らしになったのだ、また恋人との時間を過ごせるのだからそうしたいと思うのは当然だろう


「それじゃあ買い物行くか、お前らもついてくるだろ」


「もちろん、あそうだ、さっきの途中だったクエストやってましょうよ」


「ふむ、そうだな」


「・・・仕方有りませんね」


どうやら人外たちはそれぞれ親睦を深められたようで、比較的真面目な邪薙やオルビアもまんざらではないようだった


これはいい傾向かもなと思いながら静希は買い物メモを片手に家を出た

静希達の新しい一年、どのようなことが待ち受けているのかはわからない、だが何とかなるだろうという漠然とした感覚が静希にはあった


誤字報告が五件分溜まっているのでもう一回投稿します


話をまたぐように連鎖投稿が入ってしまったのが運のつきというやつですね


これからもお楽しみいただければ幸いです

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