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J/53  作者: 池金啓太
十九話「年末年始のそれぞれ」

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年越しまであと少し

静希がゲーム機を購入して、鏡花が能力でその重量調整をしてからメフィ達の生活は一変した


具体的にはオルビアが人外二人に日本語の指導をし始めたのである


最初乗り気ではなかったメフィも、ゲームに出てくる日本語を理解するために必要な言葉を理解するべく積極的に日本語を習得しようとしていた


メフィ達がやろうとしているのは狩りのゲームだ、素材などを集めて装備を作り強くなっていくのが基本であるゆえに、素材の名前を理解できなければ進めることができないのだ


つまり少々複雑な日本語の習得が必要最低条件ともいえる


今までテレビの前に張り付いているか、適当にふわふわしているのが日常だったメフィが机に向かって日本語の読み書きを覚えているところを見るのは本当に新鮮だった


その姿勢に感動し、普段より多めに糖分をとってしまったのは別の話である


「こうしてお前らが日本語の勉強をしてくれるとはなぁ・・・俺は嬉しいよ」


「まぁゲームのためよ、今までいた時代にはなかった娯楽だしね、楽しむためには頑張らなきゃ」


シャーペンをもってノートに字を書き続けているメフィは受験生のそれを彷彿とさせる、必勝鉢巻でも着ければまさにそれっぽく見えるだろう


「邪薙もゲームとかには興味ないと思ってたんだけど、ちょっと意外だな」


「まぁ、そこまでやりたいというわけではないが何事も経験だ、せっかくシズキが用意してくれたのに無碍にするのも気が引けるのでな」


メフィと同じくシャーペンを持ちながら現代の文字を書いて覚えている邪薙は鼻を鳴らしながら少し嬉しそうにしていた


過去長い間日本にいた彼としては、人々の文化の変化に直接触れることができるというのが嬉しいのだろうか


「ところでマスター、先日購入していただいたゲームなのですが、おおよそ何時間ほどあればクリアできるのですか?」


「ん?あれはやりこみありきのゲームだからな、やろうと思えば何百時間もかかるぞ、九日間休まずにやったら・・・まぁ大体はクリアできるだろうけど、やりこみがどこまでいけるか」


三人で協力することを条件に入れればとんでもなく早くクリアすることも可能だろうが、ほとんど全員がゲーム初心者、しかもこの三人が協力して遊ぶという場面が想像できないせいでクリアする光景が浮かばない


もしかしたらとんでもなく荒れることになるかもしれないが、そこはトランプの中だ、多少暴れても問題ないとは思うが、心配な部分もある


バッテリーもいくつか購入し交換していけば何日も持つようにはしたが、年末年始は忙しい、そろそろ大掃除も始めたいところである


もっともオルビアが日々掃除をしているために掃除するべきなのは気体生成用の機械の下だったり、水回りや窓といった普段掃除しない部分に限定されるが


そんな人外の日本語勉強会が続いている中インターフォンが鳴り静希が出迎えるとそこには雪奈と明利がいた


「おや、今日はお出迎え静なんだ」


「あぁ、今オルビアはあいつらにつきっきりだからな」


「お邪魔します」


最近オルビアが対応してばかりだったために静希が玄関先で誰かを迎えるという事が本当に久しぶりになった、優秀すぎるというのも考え物である


「日本語の勉強だっけ?普通に話せてるのにそういうの必要なの?」


「話すのと読むのは違うらしいぞ、これが結構苦戦してる」


「へぇ、じゃあ差し入れしてあげなきゃね」


そう言って明利は持っていた手提げ袋の中からいくつか小さな小包を取り出す


そして人外たちが勉強しているリビングに向かうと、そこには集中力が途切れたのか机に突っ伏しているメフィと黙々と字を書き続けている邪薙、そして二人にやらせるための問題を作っているオルビアがいた


「あ・・・メーリにユキナ、いらっしゃい・・・シズキィ、ちょっとでいいからトランプの中に入れて、頭が溶けそうよ・・・」


「あーはいはい、お前ら明利が差し入れ持ってきてくれたぞ、少し休憩したらどうだ?」


即座にトランプの中に入れてから出すと、精神状態がリセットされたのか恍惚とした表情をしてメフィはふわふわと宙をうきながら明利の持っている小包を目ざとく見つける


「なにこれ?」


「クッキー作ってきたの、よかったらみんなでとおもって」


「食うのは主に俺だけどな」


どうやら雪奈も手伝ったようで、その体にはわずかに甘いにおいがこびりついている


邪薙にオルビアも二人が来たことで一時休憩することにしたのか、ペンを置いて一息ついていた


邪薙は甘いにおいにつられ、オルビアはクッキーにもあうような紅茶を用意し始める


「にしてもゲームのために勉強かぁ、随分と俗物的になったねぇ」


「いいじゃないの、ゲーム面白いんだし、なんだったらユキナも一緒にやる?」


私は日本語達者だから必要ないですよーだと、静希を引きずってソファに座らせると、その横に陣取ってその体を摺り寄せている


「ちょっとー、イチャイチャするのはよそでやってよね、勉強の邪魔よ」


「勉強なんて図書館でやればいいじゃん、ここは静の家だよ」


「むむむ」


一瞬図書館で必死に勉強しているメフィ達を想像して静希は頭が痛くなる


そんなことが起こったら城島にお小言を言われるのは確実だ、とはいえメフィ達の勉強のモチベーションを下げるのも心苦しいのも事実である


「皆様、お茶が入りました、どうぞ」


「ありがとうございます、それじゃあクッキーどうぞ」


明利がテーブル周りにいる人外たちにそれぞれクッキーを渡すと、包みの中から甘く芳ばしいにおいが漂ってくるのがわかる


静希も明利から手渡され、その中を開けてみると中から甘いにおいが鼻をくすぐり、僅かに熱を帯びたクッキーが露わになる


「ひょっとして焼きたてか?」


「うん、こういうのは焼きたてが美味しいらしいから」


口の中にクッキーを入れると甘いにおいが鼻を突き、噛むたびに甘さがはじけるように口内を満たす


焼きたてという事もあって美味い


そしていつの間にか味覚同調をしていたのかメフィとオルビアも満たされた表情をしている、さすがに疲れている時は甘いものが嬉しいのだろう、邪薙も机の上に置かれたクッキーを前に何度も頷きながら嬉しそうにしている


「おじさんおばさんが帰ってくるまで時間ないんでしょ?頑張りたまえよ君たち」


「言われるまでもないわよ・・・ところでユキナもこのゲーム持ってる?」


メフィが買ってもらったソフトを見せびらかすと、雪奈は勝ち誇ったようにふふんと笑って見える


「無論さ、静が持っていて私が持っていないとでも思ったかい?私は双剣をメイン武器にしてるけどね」


双剣、静希達がやっているゲームの中ではガードができない代わりに攻撃回数が多く、ステップなどの回避行動をとることで被弾を避けながらダメージを稼ぐことのできる雪奈らしい装備である


リーチが短く使い手を選ぶが、マッチすれば無傷で勝利することもできる武器だと言える


「ふぅん、私は何にしようかな、やっぱ一発一発が強いのがいいわね」


「だったら大剣だな、雑魚を掃除しやすい武器だし、お前向きかもな」


そもそもにおいて精密動作に向いていないメフィとしては、確かに巨大な武器を振り回すというのはあっているかもしれない


大雑把すぎるのも問題かもしれないが、あくまで暇つぶしの話だ、これから静希が暇になった時に相手をしてくれることもあるかもと少し期待もしている


「じゃあやっぱり勉強の邪魔しちゃ悪いかな・・・私たちどこかに行ってたほうが・・・」


「んん・・・あ、じゃあ私んち行こうよ、すぐ隣だし」


雪奈の提案にそれがいいかもなと静希も同意する、こういう時に家が隣だと本当にありがたい、何かあればメフィなら壁をすり抜けてすぐに知らせられるし、何より勉強の邪魔をしなくて済む


「それじゃ移動するか、一応全員リフレッシュしておくぞ」


そう言って静希は全員一度トランプの中に入れて最善の状態にしてから静希の家に残し雪奈の家へと移動する


「いやぁ、静をうちに入れるのって地味に久しぶりな気がするよ」


「そうかもな、おじさんおばさんは?今日も遅いのか?」


雪奈の両親は共働きだ、基本朝早くから夜遅く、あるいは夜勤などで朝帰りの時もある職種であるため普段接触する機会は少ない


「うちの親は年末年始は仕事休めるって、でもやっぱ忙しそうでさ、三十日から数日くらいだよ」


「そうか、一度おじさんたちともしっかり飯食べに行きたいな」


雪奈の両親とは昔から交流があったため、静希の両親との都合がつくなら食事会などを催したいところである


手にクッキーをもって雪奈の部屋に入ると僅かに鉄臭いにおいと、大量の刃が飾られている光景が静希達を迎えてくれる


「・・・リビングの方がいいかな?」


「そうだな、ここはさすがにのんびりする気にはなれない」


「・・・雪奈さん、ひょっとしてまた増えました?」


明利の指摘にあ、わかる?とさも当然であるかのように言ってのけるが、静希は少し頭が痛かった


女子が好んで集める物が刃物というのはどうなのだろう、雪奈の場合は能力を使う段階で必要なものだからしょうがないのかもしれないが


「さて、せっかくクッキーとかもあるんだし、なんか他にもないかあさるか」


「ど、どうせなら、その・・・食べさせ合ったりしたいね・・・」


「お、明ちゃん随分と積極的にいくねぇ、なら口移しでもするかい?」


明利の提案をどう曲解したらそうなるのかと静希はわずかに呆れているが、明利はその場面を想像したのか顔が赤くなってしまっている


キスも何もかもほとんど経験済みだというのに何を恥ずかしがることがあるというのか


こういうのは別のカウントなのだろうか、静希はにやりと笑ってから口にクッキーを咥えて明利の顔の前に突き出して見せた


「・・・え?あ・・・あの・・・えぇ!?」


まさか本当にやるとは思っていなかったのだろう、明利は本気で動揺してしまっていたが、軽く震えながら静希が咥えていたクッキーを口で受け取る


サクサクと小気味良い音が聞こえ明利が顔を真っ赤にしながらも咀嚼しているのが聞き取れる


「うわぁ・・・冗談だったんだけど・・・いいないいな!静!私にもプリーズ!」


「はいはい、仰せのままに姉上」


三人でゆっくり過ごせるのも両親が帰ってくるまでの間だけ、静希達は恋人としてしっかりとした甘い時間を過ごしていった






そして年末までのカウントダウンが本格的に始まり、今年もあと数日となった頃、その日は来た


十二月の二十九日、電話では今日両親が帰ってくると言っていたためこの日までに大概の掃除はほとんど終わらせた


普段使わない父の書斎から気体生成用機械の底から窓を洗い、窓やカーペット、炬燵布団などもすべて洗って干した


静希の準備はほぼ完璧、そして人外たちはというと


「では次の問題、これは何と読みますか?」


「えっと・・・や・・・じゃりゅうの・・・ぎゃく・・・げきりん・・・?」


「正解です、では次」


「・・・きん・・・こんごうりゅうの・・・こうかく!」


などとゲームに登場する素材の名前をフリップに掲げて読ませるというクイズ形式での最終チェックを行っていた


正解率を見るにこの数日間の日本語の勉強は決して無駄ではなかったことがわかる


「ふむ、ようやくメフィストフェレスも合格ラインにたどり着いたか・・・これで安心してトランプの中に入れるというものだ」


「さすがに日本の神様は覚えが早かったな、んじゃゲーム機渡しておくぞ、予備の充電も始めておくから電池が危なくなったら教えてくれ」


全員に鏡花によって重量調整されたゲーム機を手渡し、これから九日間、ゲーム漬けの日々を送ることになる人外たちを見ながら小さく息をつく


「なんか必要なものとかあったら言えよ、すぐには難しいかもだけどできる限り用意するから」


「あらシズキ、随分と優しいじゃない?どういう心境の変化かしら?」


「まぁ、九日間も引きこもれっていうのはさすがに酷な頼みだってわかってるからな・・・」


九日間ゲームをやり続けるというのは意外とストレスがたまるものだ、外に出たいという人外の気持ちがわかるために静希は苦笑しながら全員を一つのトランプに入れようとする


「それじゃ九日間、頑張ってな」


「そっちもね、ピンチになったらちゃんと私たちを呼ぶのよ?」


そうするよと言いながら静希は全員をスペードのキングのカードの中に入れていく


そしてさっそく三人はゲームを起動し始めたのか、早々にこれどうすればいいのとメフィがオルビアに質問している声が聞こえてきた


どうやらたがいに上手くいっているようだ、少し安心しながら、人外たちがいない部屋を眺めて静希は小さく息をつく


この部屋はこんなに静かだっただろうか、そしてこんなに広かっただろうか

ソファに陣取る悪魔もいない、床で座禅を組む神格もいない、忙しなく家事をしてくれる霊装もいない、いるのはケージの中にしまわれた奇形種の使い魔であるフィアだけだ


人外たちがいない静かさを堪能していると、家の鍵が開く音がする


どうやら帰ってきたようだ


静希が玄関先まで歩いていくと、丁度玄関が開き、半年以上あっていなかった両親がそこにいた


「ただいま、久しぶりだな静希、元気にしてたか?少し背が伸びたか?」


「あらほんと、男の子ってすぐ背が伸びるわね」


二人の声と顔を間近で感じるのは久しぶりだと苦笑しながらも、静希は二人が持っていた荷物を預かる


「おかえり、半年もあってなきゃそう思うよ、とりあえず今日はゆっくりしてな」


「そうさせてもらうよ、もう大掃除は終わらせたのか?」


「とっくにね、もう父さんたちがやることはないよ」


僅かに皮肉を込めながらも静希は久しぶりの両親との再会に微笑む、二人に会うのは本当に久しぶりだ、五月に会ったきりだったからこそそう思える


今年は本当にいろいろあったせいで何年もあっていなかったような錯覚を受けてしまうほどだ


「あぁそうだ、取引先の人がお前のことを知っていたぞ?以前お世話になったとか」


「あぁエドの事かな、まぁちょっといろいろあってね」


そう言えばエドは以前和仁に会ったことがあったと言っていた、話題に上がるという事はかなり深いところまで話したのかもしれない


大人の付き合いだ、静希にはわからないいろいろな話をしたのだろうと推察する


「お前がグローバルな人間になっていて驚いたよ、いつの間に英語なんてしゃべれるようになったんだ?」


「あー・・・いや、能力を使って意識を伝えただけだよ、そういう事もできる奴がいたってだけの話だ」


「へぇ、能力ってそんなこともできるのね」


母は感心しながらも荷物をまとめ、洗濯物を即座に洗濯機の中に放り込んでいく、旅に慣れているという事もあって非常に手際がいい


「いやぁ・・・やっぱり我が家はいいな・・・落ち着くよ」


「そうかい、それならもう少し帰ってきたらどうだ?」


静希の言葉に和仁は笑いながら悪かったよと言っているが、本当に悪いと思っているかは怪しいものである


自分の父親の仕事のことは重々承知しているつもりだし、仕方がないというのも分かっているが、年に数回しか戻ってこないのでは息子としてはいろいろ心配してしまうものだ


「さて・・・静希、せっかく帰ってきたんだ、今年一年何があったか、いろいろ聞かせてくれ」


その言葉に静希は少し考え込む、この言葉にどれほどの意味が込められているのかを測りかねているのだ


何のことはない家族の会話か、それとも雪奈から聞いているという左腕の事か


どうしたものかと静希は考え込んで小さく息をついた


土曜日+累計pvが11,000,000突破したのでお祝い含め3回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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