父との電話
雪奈がそんなことを言っている丁度その頃、静希の家の電話が音を立ててなり始める
彼女の見立ては正しく、その連絡先は静希の父親、和仁の携帯からだった
人外たちは完全に警戒体勢へ移行し、まったく音をたてないようにしている
静希が全員に視線を向け、一度頷くとゆっくりと受話器を取る
「もしもし?父さん?」
『おぉ静希、久しぶり、元気にしてるか?』
ぼちぼちねと答えながら静希は手元にメモを用意しながら受話器の向こう側に意識を集中させる
向こうから聞こえてくるのは僅かにだが人の話す声と雑踏、どこか人の多いところにいるのだろう
「今年はどうするの?とりあえず帰ってくるのか?」
『あぁ、さすがに年末年始くらい息子の顔が見たいしね』
「はは、息子の誕生日に帰ってこなかった親のいう事じゃないな」
静希の返しに手厳しいなと笑いながら和仁はいったん受話器から離れ、二、三誰かと会話している、恐らく静希の母、五十嵐麻衣だろう
『あぁすまない、で、一応二十九くらいにそっちにつくように飛行機を予約したから、お出迎えの準備を頼むぞ?』
「はいはい了解、いつまでいられるの?」
『んん、たまにはのんびりするからね、六日くらいまではいようかと思ってるよ』
静希は手元のメモに二十九日から六日までと記して眉間にしわを寄せる
ほぼ九日間家に両親がいるという事になってしまう、息子としては喜ぶべきところなのだが、能力者としては少し厄介な期間である
「了解、お土産よろしく・・・ところで今どこにいるの?」
『今?今はオーストラリアにいるよ、こっちはあったかくていいな、それじゃあそういう事で、しっかり戸締りするんだぞ』
まるで変ったことはないかというかのような間延びした声で和仁は通話を切る
静希が受話器を置くと同時にその場にいた全員がため息をつく
「で?どうだった?何日間?」
「・・・二十九から六日まで・・・九日間だな・・・」
「九日か・・・なかなかに長いな・・・」
「ですがマスターのためを思えばこの程度の期間は仕方ないかと・・・」
人外たちが静希のとったメモをのぞき込みながら何やら複雑な表情をしている
そう、あらかじめ静希は人外たちにある提案をしていたのだ
両親が帰ってくる間、彼らをトランプの中に入れ続けるという事を
あらかじめ伝え、了承していてくれれば彼らとて無為にそれを破るようなことはしない
しかもこの人外三人は以前静希の両親と会っている、トランプの中から突然出てきたらそれはそれで問題になる
和仁は人外たちが人間ではないと認識しているが静希はそのことを知らない、この反応は致し方ないものであるともいえる
「でもさ、九日よ?九日間以上も何もしないでただじっとしてろっての?さすがに退屈よ・・・」
「だがメフィストフェレス、ここでシズキの父君たちと会うのはさすがに得策ではないぞ・・・事情が事情だ」
「邪薙の言う通りです、一週間とちょっとではないですか」
「その一週間でどれだけゲーム進められると思ってるのよ!」
メフィの考えが次第にニートのそれに近づいているような気がして静希は頭が痛かったが、今はそんなことよりももっと問題がある
「お前らはいいかもしれないけどな、俺はどうすればいいんだよこの両手、片腕ないし片手は形変わってるし、スキン着けてても限界があるぞ」
静希の言葉にメフィをはじめとする人外たちは気の毒そうな顔をする
家にいれば入浴や着替えなどで肌を晒すことが多くなる、そうなれば必然的にばれる可能性が多くなるのだ
両親にそこまで深く事情を伝えていない上に、左腕のことに関しては完全に雪奈が伝えていたためにどんな反応をされるかわかったものではない
腕が奇形に変わってから、静希は新しく得た黒いジョーカーの性能を調査するべく何度かその力を使用していた
その結果、いくつかのことが判明したのである
静希の肌の変色や奇形は、使用ごとにその範囲を少しずつ増やしている、今は手首から一センチほど進んだ場所まで侵食している
一度『神の手』有篠晶に治療してもらうことも考えたのだが、これからこの力を使っていくことを考え、一度治したくらいでは意味がないことを悟り、完全に放置していたのだ
そしてその性能、黒いジョーカーは今までのように五百グラム以上の物を入れることはできない、だがその効果がわずかに変わっているのだ
今までは入れた道具や存在を『最善の状態』にすることができた、その際にマイナス効果や余計な力が付与されていた場合かき消すことができた
そして今は最善のさらに上の状態にすることができるようになったのである
いうなれば、『一時的に道具の限界を超えた性能を得る』ことができるという事である
効果時間は一度その道具が使用されてから五分まで、つまり使用しなければその状態は維持され、一度使用すればその五分後にその効果は消える
雪奈や邪薙、鏡花に協力してもらい、ナイフや銃弾などでその効果を測った結果、得た見解だった
道具の性能のランクを一つ底上げする能力と言えばわかりやすいだろうか、その効果を得た代わりに静希の右腕は奇形化したわけだが、今問題なのはこの奇形を両親に隠すための方法である




