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J/53  作者: 池金啓太
十九話「年末年始のそれぞれ」

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聖夜の藍色

小さくつぶやいた鏡花の言葉に、陽太が気がつき、顔を向けようとした瞬間、それが目に入った


「あ、静希達だ、あんなとこで何してんだ?」


陽太の言葉を聞いたとたんに鏡花は身を強張らせて、陽太の視線の先、つまり鏡花の背後へと顔を向ける


そこには店の角からこちらをうかがっている静希と明利、そして雪奈の姿があった


そして気づかれたという事に気付いたのか、三人は気まずそうな顔をしてすごすごとその場から出てくる


「い、いやぁ悪いな、わざわざ外してもらってて」


「いやいいって、珍しく高そうなもん食えたし」


静希はわざとらしく、陽太はあっけらかんとして互いに笑うが、鏡花は顔を赤くして三人を睨んでいた


そしてそのにらみの意味を理解しているのか、静希と明利、そして雪奈の頬からは僅かに冷や汗が滲んでいる


「ま、まぁとりあえずだ、うちでまた騒ごうぜ、お菓子やらなんやら買ってさ、町にいると補導されるかもしれないし」


もう少しちゃんと隠れるべきだっただろうかと悔やむ中、とりあえず静希は場を取り持つために全員を自分の家へと誘導する


途中スーパーなどで飲み物とお菓子を購入し、静希の家にたどり着くといつものように人外たちが飛び出し、思い思いの場所に自分の居場所を確保していた


「鏡花ちゃん、ごめんね、二人っきりだったのに邪魔しちゃって」


「・・・はぁ、いいわよ、十分二人きりにはなれたし・・・まだまだかかりそうね」


明利の謝罪に、さすがに機嫌を悪くしているのは空気を悪くするというのを自覚したのか、鏡花は小さくため息をついてから小さな同級生の頭を強めに撫でる


先程の陽太との会話で、あまり自分に意識が向いていないと判断したのか、もう少し積極的に陽太に接触したほうがいいのかもしれないと思い始める鏡花


だが実際は、その効果は確かにでている


今まで全く意識していなかった陽太が、少しずつだが鏡花のことを意識し始めているのだ


彼女の行動は無駄ではない、結果がまだわかりにくいだけのことである


「そういうそっちはどうだったの?なんかいいことあったわけ?」


「え?あ・・・うん、すごくおいしかった、それにすごくうれしかった」


鏡花は明利達がいったいどのようなことをしていたのか、どこにいたのかを知らない、だがその表情から十分以上に満たされたのだろうという事だけは理解できた


静希に甲斐性があって何よりであると言わざるを得ない


もう一人の彼女である雪奈はすでに切り替えているのか、メフィを相手にゲームを始めている


あの人のようなフットワークの軽さがあればもう少し違うことができたのだろうかと思いながら、鏡花は明利を引き連れて自分もその輪に混ざることにした


「ようよう静希ぃ、そっちはどうだったんだ?それなりにいい思いしたか?」


鏡花と雪奈、そして明利がゲームをやっている中、静希と陽太はそれを眺めながらお菓子や飲み物を食べて時間を潰していた、さすがに五、六人で同時にできるゲームは静希の家にはないのである


「それなりにな、そっちは?鏡花と飯食ってたんだろ?」


「ん、あぁ美味かったぞ、御馳走様な」


陽太の反応からしてどうやら陽太の認識としてはただ奢ってもらっただけという認識のようだったが、下世話な話を振ってきておきながらこの反応はさすがに鏡花に失礼ではないだろうかと思えてしまう


あれだけしっかりした場所に食事に行って何の意識もせずに帰ってくるというのは静希では想像できない


だがそういうところも逆に陽太らしいところなのだろう


「あいつとは何もなかったのか?結構な時間一緒にいたのに」


「あー・・・何もなかったってわけじゃないな・・・手が柔らかかった」


鏡花とつないだ手をまじまじと見ながら、その感触を思い出しているのか陽太は何度か手を開閉して見せる


その反応を見て静希はほうと小さくつぶやく


今までの陽太には見られなかった反応だ、恐らく陽太自身意識していないところで鏡花を意識し始めているのだ


無意識で意識するというのは少し矛盾するかもしれない、陽太自身それを自覚できていない、だが鏡花の思惑は確実に前に進んでいるとみて間違いない


「きちんと帰りは送って行ってやれよ?夜道は危ないからな」


「もちろん、明利はどうするんだ?」


「今日は泊まってくってさ、せっかくのクリスマスだし」


「おーおー、お盛んだねぇ、今度経過報告してくれよ」


陽太の下卑た笑いを受け止めながらその頭に軽くチョップを浴びせると、丁度鏡花たちのゲームの決着がついたようで下位二名と陽太と静希が交代しゲームに参加することにする


抜けたのは当たり前のようにメフィと僅差で負けてしまった明利だった

まだアクションでは実力が及ばないのか、メフィは悔しそうに宙を舞いながら頭を抱えている


対戦という名目上、手を抜くことができない性分なのだろうか、ゲームの事なのに強く悔しがるのはメフィらしい


負けず嫌いとでもいえばいいのか、達観した考えを持つ悪魔にしては珍しい


無論静希も負けるつもりはなく、全力でゲームに向かうことにした






「それじゃまたな、遊ぶときは連絡してくれ」


時間が二十二時に近づこうとしている頃、静希達はお開きにすることにし、片づけを終えてから家に帰る陽太たちを見送っていた


「はいはい、気を付けて帰れよ・・・あと鏡花、ちょいこっちこい」


「ん?なによ」


「陽太の奴、少しお前のことが気になりだしてる、成果は出てるぞ」


静希の言葉に、鏡花は視線を陽太の方に向けて僅かに決意を強くした


別れを告げた後で静希と家の扉が閉まると、外に出された陽太と鏡花は白い息を吐いた後で一瞬視線を合わせて二人同時に歩き出す


マンションから出て少ししてから、鏡花は息を手に向けてはいて寒気を和らげようとする


「寒いか?」


「うん、寒い」


「・・・ほい」


陽太はそれ以上何も言わずに、自分の手を鏡花に向けて差し出す


それにどういう意味が込められているのか、鏡花は理解していた


「・・・ん」


鏡花は特に何をいう事もなく、その手を握る、ごつごつとした、自分よりも大きく力強い手


陽太は特に何をいう事もなく、その手を握り返す、しなやかで柔らかい、自分よりも小さくか細い手


お互い感触を確かめるように時に力を込め、時に力を緩め、滑らせるように、確かめるようにその手を触れ合わせていく


肌が擦れるたびにくすぐったさと、自分の手とは違う僅かな感触が伝わる


十二月も終わりに近づいた夜、周りは冷え切り、息も白い、その中でつないだ手から伝わる体温が、不思議と二人をつなぎとめていた


「あ・・・」


なにに気が付いたのか、陽太が不意に足を止める


視線の先にはいつも自分たちが通っている喜吉学園が見えた


すでに校門は閉まっており、完全に明かりも消えてしまっている


さすがにこの時間に残っているような教職員はいないだろう


「なぁ鏡花、ちょっと寄ってかないか?」


「え?学校に?」


寄り道、というには意味があるようには思えない場所だ


どこか店に入るならまだわかるが、今日終わったばかりの学校に行く意味が、鏡花にはわからなかった


「勝手に入ったら怒られるわよ?それに門も閉まってるし」


「ちょっとだけだからさ、な?」


陽太はそう言って笑う、一体何を考えているのか、鏡花には理解できない

だが、付いていくのも悪くない、そう思ってしまった


「はぁ・・・ちょっとだけよ?」


「そうこなくっちゃ!」


陽太は鏡花の手を引いて足早に校門の前までやってくると、軽々と鏡花を両腕で抱きかかえる


「ちょっ!?なにを!?」


「暴れんなよ?行くぞ!」


下半身にだけ能力を発動し、陽太は力強く跳躍して見せると容易にしまっていた校門を飛び越え学園内に侵入することに成功する


いきなり抱きかかえられたことで、驚いたのか、心臓が高鳴る中鏡花は荒く息をつく


「も、もうちょっとあらかじめ話くらいしておいてよ」


「悪い悪い、んじゃ行こうぜ」


行こうぜと言っても、一体どこに


そう聞く前に陽太は鏡花の手を取って早足に移動を始めてしまう、どうやら目的地があるようだったが、一体何を目的にしているのか


鏡花が不思議に思っていると、徐々にその場所がわかり始めた


陽太が向かっているのは、いつも自分たちが訓練に使用しているコンクリートの地面の演習場だった


当然のように誰もおらず、周りには光もないためほとんど真っ暗な状況だった


月の光のおかげで僅かに地面が見える程度、遠くまで見渡すこともできず、自分の周りしか見えない暗闇


そんな中、陽太は道が見えているかのように迷いなく突き進む


陽太が足を止めたのは、いつも陽太が立っている場所、演習場のほぼ中心

そこについた途端に、陽太は鏡花の手を離した


名残惜しくなりながらも、鏡花はそれに従い、自分の手に残っている陽太の体温と手のひらの感覚を逃すまいともう一つの手で覆い隠す


陽太はその場に立ったまま、目をつむって深呼吸をしていた


その行動を見て、鏡花は陽太から少し距離を置く


この深呼吸の意味を、鏡花は理解していたからである、毎日のように訓練する中で、陽太が集中するときに行う深呼吸、それが何を意味しているのか鏡花は毎日見てきた


陽太が大きく息を吸い、集中が最高潮に達すると同時に、あたりが光に包まれた


いや、正確には鏡花の眼前に光が現れた


真っ暗闇だった空間の中に現れた光の色は、藍色


目の前に突然熱量が現れたことで、空気がかき乱されていくが、陽太の体を纏う炎はそのくらいではびくともしなかった


暗闇の中に現れた、美しい藍色の炎、そしてそれを纏う鬼の姿の陽太


街にあふれていた電飾よりも、店で見た照明よりも、ずっと綺麗だと、鏡花は思った


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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