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J/53  作者: 池金啓太
三話「善意と悪意の里へ」

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石動藍

午前中を座学のみで過ごすとどうにも肩が凝っていけない


伸びをしながらそう自覚する静希が昼食のパンを取り出しているとクラス中がざわめき始める


何やらクラスメートは教室の入り口に視線を送っているようだった


その視線の先には見覚えのある顔、いや仮面があった


「五十嵐静希はいるか?」


あたりを見回しながら声をあげると静希はひらひらと手をあげる


静希の姿を確認したのか、エルフ石動藍は真直ぐに静希のともにやってくる


「なに?なんかやったのか静希?」


「知らねえよ、この前の実習の件じゃないのか?」


「じゃあなんであんただけ名ざしなのよ、一班の連中でいいんじゃないの?」


「本当に何かしたの?」


「話の途中悪いが、失礼するぞ」


小声で相談している最中に石動はすでに間合いを詰めて目と鼻の先まで来ている


座っている状態からその仮面を見上げると想像以上に威圧感がある


そしてその声音は以前のものとは違い非常に高圧的だ、東雲の心配をしていたあの時とは全く違う


「五十嵐、先日は東雲が世話になった、その件だ」


すでに何とはなしに予想はついていたがなぜこうも高圧的なのだろう


周りのクラスメートがざわつき始めている


「あの引き出しがエルフにご指名だよ」「何やったんだあいつ」「なんかの間違いじゃないのか?」「意外ね、五十嵐なにやったのかしら」


どうやらあまり良いうわさ話ではなさそうだ


「場所を移そう、ここじゃ話しにくい、お前らも来てくれ」


「えー、俺関係ないじゃんか」


「そうよ、静希だけいきなさいよ」


「わ、私はついていってもいいけど」


薄情な二人はさておいて明利はさすがまるで菩薩のような懐の広さを持っている


そんなことを想いながら静希は邪笑を浮かべる


「なあ石動、この前の件なら俺だけじゃなく俺達一班の問題だ、そうだろう?」


「あ、あぁ・・・できるならお前達にも聞いておいてほしい」


逃げ場はねえんだよと視線で死刑宣告をしながら悔しそうにしている二人を射つく


一蓮托生、死なばもろとも、旅は道連れ


情け容赦など一切ないがこの際どうでもよかった


「けれどどうする、私は場所にはあまり詳しくないぞ」


「それなら場所はある、行くぞお前ら」


「へいへい、お供しますよボス」


「ボスはあたしでしょ?っていっても説得力ないか」


「静希君がボス・・・か・・・いいかもね」


勘弁してくれと吐き捨てて静希は誰もいなさそうな校舎裏にやってくる


日陰で誰かが好むような場所でもない、逆に隠れて何かをするにはうってつけの場所だ


近場に座り込んでパンや弁当を広げる中、石動もそれにならって弁当を広げる


「ここは相変わらず昼は人が少ないな、来るのは久しぶりだ」


「まったく、中学のころはよく来てたんだけどな」


「最近はめっきり来なくなったよね」


校舎の近くに塀がありちょうど校舎と塀の間にあるこの奇妙な四mほどの隙間、腰をおろして談笑するにはもってこいの場所である


「こんな場所があったとは、意外だ」


「なんだよ知らないのか?小等部からの上がりなら大概知ってるぞ、ま、知ってるから隠しごとって意味ではほとんど意味ないけどな」


「ひょっとして石動ってずっとここにいたわけじゃないのか?」


言葉なくうなずいて石動は仮面の下半分を取り外し地面に置いて口元を覗かせた


「私たちの村でもきちんとした教育はされていた、というより教育機関はあったのだ数年前までは」


「もうないの?」


「あぁ、生徒が少なくてな、今はそこは村の集会場代わりだ、今の幼い子たちはお前達の言う普通の学校生活を送っている」


やはりエルフとなると色々と面倒事があるのだろう、これ以上は詮索しない方がよさそうだと静希は話を切り出す


「そんで、話ってなんなんだ?この前の実習のことみたいだけど」


「あぁ、お前達、東雲は覚えているか?」


東雲風香、エルフの女の子で牧崎村の作物をあさっていた張本人、そして静希達が初めて対峙し戦闘したエルフ、そして悪魔を宿していた少女


「当分は忘れられそうにないな」


遠い眼の静希に残りの三人は同意する


あそこまで強烈な初対面を果たせば誰の印象にも残るだろう、それはきっと二年生の二人も同様のはずだ


「その東雲が改めてお前達、特に五十嵐に礼を言いたがっていてな、電話でさんざんせがんでくるんだ」


「電話?近くに住んでるんじゃないのか?」


石動は村からここまで長時間通っているならともかく彼女は確実に一人暮らし、同じく東雲もきっと小等部の寮に入っているとばかり思っていた、別にすぐに会えない距離でもないだろう


「私はこちらに住まいを構えている、東雲は本来は寮に住んでいる、だが今は療養中だ」


「療養って・・・そんなに悪いの?」


彼女の体をじかに診断した明利は不安そうにしている、さすがに治療に関しては自信があったのだろうが、それでも万一がある


「いや、彼女の症状は幹原の言うとおり軽い栄養失調程度だ、大事をとってゴールデンウィーク明けまでは休学届を出しているだけだ」


「そう・・・」


安堵して自分の弁当を口に含む


「話を戻そう、そこで四人、もっといえばあの事件に関わったもの全員に礼を言いたい、ので今度の週末にでも私の村に来てくれないか?」


「エルフの村に?俺達が?」


「そうだ、頼めないだろうか?」


全員が互いの顔を見比べてしまう


エルフの村


以前隣のクラスの石動の班が向かったとされるエルフだけが住む村


想像してみるが歩く人みな仮面をつけている姿しか思い浮かばない


「でもさすがに俺達だけじゃなぁ、先生も同行してくれないかな?」


「それなら助かる、村長がお前達の先生にお話があると言っていた、ちょうどいいかもしれない」


その言葉を聞いて静希の顔が歪む


村長が直々に事件の全貌をほぼ知っている先生にお話とは、嫌な予感しかしない上にきな臭くなってきた


「んじゃ飯食い終わったら先生のところに行ってみっか、許可取れるかもしれねえし、もしかしたら電車代くらい出してくれるかもしれねえぞ?」


「それは無理があるわよ、先生だって無駄な出費はしたくないでしょうに」


「あと雪姉達にも声かけとくか、一応関わってるし」


「そうだね、あとでメールしておかなくちゃ」


とんとん拍子で話が進む中、静希は嫌な予感とエルフの村への不安で内心気が気でなかった


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