GWへの期待
教室に入ると、班員である陽太が気付いたのか軽く手を振ってパスポートを見せびらかしてきた、その近くにはあきれ顔の鏡花もいる
「どうよ静希、これで俺も海外に行けるってことだな、今から楽しみでしかたないぜイギリス」
「気が早いわよバカ、あんまり浮かれないでよこっちが恥ずかしいから」
「なんだと!?お前楽しみじゃないのかよ」
「楽しみよ?でもそんなにはしゃがないでっていってるの」
「相変わらずだなお前ら、ちょっとは仲良くできないのか?」
席に座りながら言う静希の言葉に「「無理!」」と同時に返す二人
本当に実は仲がいいのではないかとの疑念がそろそろ確信に変わりつつある
「イギリスと言えばロンドン!そんなところに行けるなんて俺達はすごくラッキーじゃないか!観光し放題だぞ」
「今回行くのはロンドンじゃないし、観光なんて一日できればラッキーよ、目的は交流だってこと忘れてるの?」
ちなみに、陽太の言っているイギリスとは、五月のゴールデンウィークに予定されている喜吉学園の行事の一つ、海外交流だ
海外にある喜吉学園と懇意にしている能力専門学校との交流会がゴールデンウィークにあり、そのために一年生全員イギリスに飛ぶことになっている
ちなみに鏡花の言うとおり、静希達の目的地はロンドンではなく、ロンドンから北に位置し、海に面している都市エディンバラ
静希も今回の旅行がなければきっと一生知ることはなかっただろう
「気が早いってのだけ同感だ、そもそもゴールデンウィークっつっても学校行事で潰れるってことなんだから、そうまで喜ぶか?」
特にどこか別の姉妹校に行くというのならまだ気が軽かった、だが海外となれば話が違う
言語も違えば人種も違う、それに何より衣食住何もかもが違う
海外には海外の独特の空気がある、その空気を味わっておくのも旅行の目的なのだろうが、能力を保持しているとはいえ静希達は所詮高校一年生
流暢に英語が話せるわけでも、特殊なボディランゲージを得意としているわけでもない
その状態で海外の生徒たちと触れ合えと言われてもどないせーちゅーんじゃという感じだった
「なんだよ、静希は楽しみじゃないのか?」
「のんびりしたいってのもあるけど、最近いろいろあったしな」
もちろん静希も楽しみでないわけがない
初めての海外旅行だ、心が躍らないわけがない
だがどうにも胃の中に異物が入っているような不快感がある
「まぁ言葉の壁とかいろいろあるしね、通訳さんでもついてくれたら楽なんだけど」
「おはよう、三人とも早いね」
静希の後にやってきた明利を見て陽太はにやりと笑う
「まぁいざとなったら明利に何とかしてもらおう」
「え?え?何の話?」
「なるほど、明利なら同調もできるんだし、無理じゃないわね」
「え?どういうこと?何をするの?」
「確かに明利なら余裕だ、ここは明利に頑張ってもらおう」
「え!?静希君まで、何が何だか分かんないよ!」
一人会話についていけないようで明利はずいぶんとあわてている
自分の知らないところで自分が何かを任されているのだ、無理もない
「今度のゴールデンウィークのイギリス旅行、お前に通訳を頼むって話だよ、できるだろ?」
「え?あ、あぁそういうことか・・・うん多分大丈夫だと思う」
明利の本来の力は同調、同調を介してわずかにある強化を使い治療や植物の成長や索敵を行っているだけだ、最も強く安定した力はむしろ同調にある
「あ、でもさ向こうの人って思考も英語なんでしょ?それでも大丈夫なの?」
「うん、長かったり、難しい言葉は無理だけど」
明利の、いや同調系統の能力者は物質構造だけでなくその思考やさらに奥まで見通す者もいる
言語がなんであろうと、同調すれば何を伝えたいのか明利は感覚的に理解できるのだ
「そういや鏡花も少しだけど同調できるんだろ?訳せねえの?」
「私は無理、同調っつったって構造理解にしか使えない程度のものよ、明利にははるかに劣るわ」
「そ、そんな・・・」
同調の区分において明利と張り合うことはないと思うのだが
そう話しながらも静希がのんびり構えていると教室内に担任教師城島が入ってきてHRを始める
今日も一日が始まるのかとため息をつきながら静希は今日の教科書を確認し始める




