罠の発動
静希達は少しできた傾斜を進みながら直進し続けていた、足跡の続く方向へ歩くだけとはいえ、仕込みをしながら、追跡を確認し進むというのはなかなかに神経をすり減らす
万が一、銃での攻撃を警戒して先頭を陽太、次に鏡花、明利、そして殿に静希を配置し移動し続けていた
そして静希の目標地点とする場所がやってくる
それは事前ブリーフィングでも話題に出たスキー場のように木々が完全に撤去された地帯だった
その地帯と現在自分たちがいる場所は傾斜の違いが生まれ、小さな崖のようになっている
これが静希が鏡花に行わせた仕込みの一つ
移動中にわずかに傾斜を作らせていき、目標地点につくころには段差に近いほどの高低差を作らせた
視界が開けている中でこの傾斜は重要だ、自分たちを確認するためには意識的に前に出なくてはならないのだから
「静希、いつしかけるの?」
「俺らがこの地帯を通り過ぎて、最後の仕込みを済ませたらだな」
完全に木々のない場所では隠れてあとをつけるという事は不可能に近い、その為静希達がこの場所を過ぎるまで後ろにいる密猟者はこちらに接近できない
そこで静希が行うのは非常にシンプル、静希達がこの完全に木々を排斥した地帯を抜け、再び木々の生い茂る場所に移動し終え、密猟者が木々のない地帯にやってきたら罠を発動する、ただそれだけだ
この木のない場所を迂回するという事は距離的にまず無理、上から下まで数キロにわたって続くこの場所を迂回するのは時間がかかりすぎるのだ
それに引き換えこのままこの地帯を直進するだけなら数百メートルで済む、どちらを選ぶかは明白だ
もし相手が迂回するようなら静希達は急いで移動し、痕跡を消したうえで密猟者を撒けばいい、このまま直進してくるようなら罠にはめればいい、単純なことだ
「っと・・・完全に真っ白だな、いい景色だ」
「本当にね、木がないとここまで見え方が変わるとは・・・ここ本当にスキー場にした方がいいんじゃないかしら」
足跡を確認しながら進む中静希達はこの辺りを警戒し続けている
この木のない空間の傾斜は約十五度といったところだろうか、かなりきつめの傾斜だが、これはこれで好都合である
「にしても静希、本当にやるの?」
「あぁ、地図で見ても問題ないし被害はほとんどゼロだ、最後の詰めは俺がやるから大丈夫だよ」
「はぁ・・・憂鬱だわ」
鏡花の表情とは対照的に静希は嬉々とした笑みを浮かべている
どうしてこんな表情ができるのか聞きたいくらいだが、今はそんなことを言ってもしょうがないだろう、一度こうなった静希は止められない、そんなことはずっと前からわかっていたことだ
静希達が木々のない地帯から抜けて数十秒後、向こう側の木々の合間から先程の密猟者が駆け足でこちらへと走ってくるのが確認できた
陽太と明利は先に行かせ、木々のない地点からは見えないギリギリの地点、山の山頂方向へ数百メートル移動したところに鏡花が、そして進行ルートの先に鏡花が作った塹壕の中に静希が隠れてその様子を見ていた
そして密猟者が何もない空間のほぼ真ん中に着いた瞬間、静希が飛び出す
瞬間密猟者は銃口を静希に向けるが、静希は戦闘の意志がないことを両手を上げることで示した
「銃は勘弁してくれないですかね、犯罪者相手にまともに戦いたくないんで」
静希の言葉に密猟者は警戒しながらも銃口を下ろして静希をにらみつける
「・・・何の用だ」
「それはこっちの台詞ですよ、ずっと後をつけて来て、なんか用ですか?」
わかりきったことを聞く静希に密猟者は訝しげな表情をする、静希の言葉が本心からの物か、それともわかったうえで聞いているのかを測りかねている様だった
「お前たちが行動して、見つけた獣を俺が奪うつもりだが、何か問題でもあるか?」
「おいしいところだけ持って行こうってわけですか、気に入りませんね」
二人が視線に殺気を込めはじめる中静希は笑う、そして密猟者はその笑みを見てわずかながら不快感と疑念を感じていた
なぜ静希が今この場に出てきたのかそれが不思議なのだ
自分を足止めして残りの数名の後を追わせないようにするためだろうかと考え始めたところで静希は頭を掻いて邪笑を浮かべる
「こっちとしても、このままついてこられるとうざいんで、ここらへんでついてくるのをやめてくれませんかね?」
「こっちも仕事だ、はいそうですかってわけにはいかないな」
最後の警告のつもりだった言葉もはねのけられた、となればこの後の行動は決定したようなものだ
「それじゃあしょうがない、残念ですがここで足止めさせてもらいます」
静希が右腕を上げて合図をすると、集中を高めていた鏡花が能力を発動する
静希達の周りには何も起こらない、だが変化は確実に起こっていた
僅かな振動音と、地鳴り、密猟者がそれを理解するより早く、静希は邪薙の能力を借りて障壁を足場にして早々に上空へと逃げはじめる
そして、数秒も経たずに密猟者のいる場所より上の方から、轟音を響かせながら雪の塊が雪崩となって真っ白だった空間をさらに白く染め上げて行った




