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J/53  作者: 池金啓太
十八話「雪の見えるその場所で」

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遭遇する何者か

「・・・明利、種だしておけ」


「わかった」


何時でも周囲の索敵を広げられるように明利は懐から種をだし、静希に渡して集中を高めている


陽太は引き続き周囲を警戒しているが未だその気配の元はとらえきれていないようだった


鏡花は周囲よりも地面の方に意識を向けいつでも変換を行い班員を守ることができるように努めている


『邪薙、万が一の場合は防御頼むぞ』


『心得た』


トランプの中にいる神格へ向けて意思を飛ばしながら静希は周囲を警戒する、周りは完全に静寂に包まれていて僅かに風が吹いたときに木の葉が騒めく程度だ、足音は聞こえない


「陽太、まだ気配はあるか?」


「あるな・・・でもどこかはわからない、観察されてる感じだ」


「足音が聞こえないってことは移動してないのかしら・・・明利、種頂戴」


周囲を警戒しながら鏡花は明利から数個の種を受け取り地面にばらまく


バラまいた種を地面に取り込み、その地面を遠くに移動させるように変換することで半ば強引に明利の索敵範囲を広げる


その行動の意味を察したのか明利は集中し、鏡花の索敵によって陽太が見つけた何かを探そうとしていた


「これで相手が監査の先生だったら笑えるけどね」


「いいやあの人の感じじゃない、なんていうかもっとぬるりとした感じだ」


ぬるりとした感じ


抽象的過ぎていまいち理解できないが、あまりいい感覚ではないという事だけは把握した


足音も何も聞こえないということはこちらを観察しながらじっとしているのだろうか、それとも足音などが聞こえないような木の上などにいるのだろうか


しばらく静寂が辺りを包む中、明利の索敵に何かが引っ掛かる


「進行方向を十二時として・・・十時の方向、距離・・・七十メートル」


明利の報告の瞬間、全員がその方向へと意識を向けると索敵に引っかかった何かはすぐに行動を開始した


静寂の中に足音が響きながらこちらから遠ざかっていくのがわかる、その足音から二本足で走行しているのが把握できた


「逃げてるぞ、どうする!?」


「目標かもしれない、追跡するぞ!」


逃げていく何かを追って静希達も移動を開始する、陽太を先頭に雪に残る足跡を確実に追跡していく、相手はなかなか速くその姿を目撃することが難しいが十分追いつけるだけの距離だ


目標であればこのまま追跡、そのほかの存在であるのなら適宜行動を変える必要がある


「陽太、先行して目標を補足してこい!攻撃はするなよ!鏡花は進行ルートの雪をどかしてくれ」


「了解!」


「はいはい!」


静希の言葉に陽太は全身を炎で包み高速で移動を開始する、陽太の全速力ならばすぐに相手を補足できるだろう、そして鏡花の能力を使って進行ルートにある雪を少しでもどかして動きやすいようにする


ここで目標を見つけられたのなら可能ならば明利のマーキングをつけておきたいところだ、そうすれば今後の行動がかなり楽になる


だが数十秒後、先行していた陽太に回り込まれ佇んでいるのは小此木の言っていた未確認生物などではなかった


それは明らかに獣などではない、人間の姿をしていた


「・・・人?」


「なんでこんなところに人が?」


静希と鏡花はたがいに驚いている、そしてそれは先行していた陽太も同じなようだった


陽太に追い詰められて木を背に預けた状態でいる男性は、猟銃らしきものを陽太に向けている


完全に防寒対策もできているうえにそこまで体に雪がついていないことを見ると遭難者などではないようだ


ニット帽に無精ひげが印象的な中年男性である


「陽太ストップ!そこの人も銃を下ろしてください!」


静希の言葉に陽太が能力を解除すると、そこにいた男性もゆっくりと銃を下ろして見せた


どうやらこちらに敵意はないようだが、何故こんな所に人がいるのか


「おい静希、どうなってんだ?これが目標か?」


「いや違う・・・失礼しました、俺たちは喜吉学園の者です、今は校外実習でこの辺りを行動しています」


その言葉を受けて男性はようやく自分たちが敵意がないことに気付いたのかため息をつきながら静希達を見渡した


「なんだ、喜吉の奴か・・・驚いて損した」


「あの・・・あなたは一体何をしにここに?この辺りは今未確認の動物がいるため危険ですよ?」


喜吉の名を聞いてすぐに安心するということは彼も能力者だろうか、普通無能力者だったらその名前を聞いてもすぐには反応できないはずである


そして静希の言葉にも特に気にした様子はなく肩で銃を担いでため息をついて見せた


「知ってるよ、だからここらをうろついてるんだ、猟友会の方から話を聞いてな、珍しい動物がいるってんで依頼されてこの辺りを探してるんだ」


どうやら彼は自分の意志でこの山を散策しているようだった、とはいえ自分たちの実習の妨げになるのは勘弁してもらいたいところである


「あの、私たちは実習中なので可能ならこの山から一時的にでも離れていてほしいんですが・・・」


「そうはいってもなぁ・・・まぁ行動が被らないようには気を付けるよ」


そう言って男性はそのままその場からそそくさと離れようとする、こちらに敵意がないというのがわかっているのか随分と警戒を解いているように見えた


だが静希はその男性を思い切り警戒していた


「そうだ、一応お名前を聞いてもいいですか?」


「え?いや気にしないでくれ、こっちはこっちで勝手に」


「銃を所有している能力者に遭遇した、そういう風に報告しなきゃいけませんから」


その言葉に男性は歩みを止める


そう、静希は気づいていた、この男性が能力者であると


雪に隠れて見えにくくなっているが、その男性の足、正確に言えば靴の部分には氷のようなものがついている、それも、まるでスパイクのように鋭利な形状に


長時間歩いてもああいう風にはならない、明らかに能力の効果だ


「・・・じゃあ・・・名乗っといたほうがいいかな、俺は・・・」


「嘘はやめてくださいね、銃を保有している時点で銃の保有許可書から調べられますから」


名前を名乗るだけなのに少し言いよどんだ男性に静希は僅かに敵意を向ける

静希は彼の言葉の矛盾に気づいていた、そしてその矛盾が意味することも


「なんだなんだ、ずいぶん警戒するんだな、嘘なんてつかねえって」


静希が敵意を向けたことで男性も、そして陽太をはじめとする全員がいつでも戦闘を行えるだけの状態に入っていた


陽太は静希が敵意を向けたから自分も自発的に臨戦態勢に入り、鏡花は静希と同じようにこの男性の矛盾に気づき、明利はとにかく邪魔にならないように鏡花や静希達の後ろに隠れていた


「そうしてくれると助かります、ではお名前を聞きましょうか」


「・・・」


静希の言葉に男性は一瞬眉間にしわを寄せる、この質問をよく思っていない証拠でもある


そしてその理由は明白だ


この山での猟は禁止されている


それはつい先日静希達が小此木から聞いた話でもある


近くにレジャースポットがあるという時点で銃を使うこと自体が禁止されているのだろう、それはたとえオフシーズンでも同様、それなのに銃を持ってこんなところをうろつき、動物目当てに行動している、それが意味することはたった一つだ


この男性は密猟者である


恐らくは小此木が猟友会に連絡した際、何らかの情報網を用いてこの山に変わった動物がいるということを知ったのだろう


動物の毛皮は高く売れる、もし破損などが少なければ剥製にだってできる、それが数の少ない奇形種ならなお高額となる


こちらが嫌疑と敵意を向けていることに気付いているであろう男性はこちらの動きを観察しながら鋭い視線を向けている


互いの視線が交差し、再び静寂と強い緊張感があたりに訪れる


陽太も鏡花もいつでも能力が発動できるようにスタンバイしている、静希もまた同様だ


すると男性がにやりと笑う


「悪いな、事情が変わった」


男性が走りながら腕を振るうと静希達めがけ氷の刃が高速で飛翔してくる


瞬間陽太と鏡花が能力を発動する


陽太は炎を纏い氷の刃を叩き落し、陽太が防ぎきれなかった分を鏡花が壁を作って完全にさえぎって見せた


「なんだよあいつ!いきなり攻撃してきやがって!」


「密猟者だよ・・・しかも能力者、発現系統の氷ってところか・・・」


鏡花が作った壁を元に戻す頃には先程の男は静希達から遠ざかっていた


足跡は聞こえるものの、もうすでに姿は見えなくなっている


未だ現状を掴んでいなかったのか、陽太は憤慨しているが静希と鏡花は少しだけ心中穏やかでなかった


密猟者、つまりは能力者の犯罪者でもある


以前辛酸を飲まされているだけにいい気はしなかった


「どうする静希、追う?」


「・・・いや、俺たちの目的は未確認生物の調査だ、向こうが勝手に狩ってくれるっていうならそれでもいい・・・けど一応城島先生に報告だけはするぞ」


今回の目的はあくまで未確認生物の調査、前回のように護衛目標を追いかけるのとはまた話が違う


そして万が一の場合は対象を処分することも想定していたために、向こうがそれをやってくれるのであればそれはそれで楽にはなる


だがだからと言って無視できる問題でもない


なにせ相手は犯罪者、何をするかわかったものではないからである


可能なら明利のマーキングを施しておきたかったが、さすがにあの間合いでは無理がある


能力者が出てくることは想定内だったが、密漁者が出てくるということまでは想定していなかった


流石実習だけあって思うようにいかないものである


『もしもし、城島だ』


数回のコールの後に城島の声が聞こえ、小さな溜息の後静希は声を出す


「お疲れ様です五十嵐です、ちょっとばかり問題が発生しました」




静希の報告を受けた城島は面倒くさそうに小さくため息をついた


報告した内容は主に密猟者の外見的特徴と能力、見たままを伝えたためにそれほど認識の違いは起きていないだろう


『なるほどな・・・まぁ向こうの目的が目標の殺処分だとすれば、可能な限り余計な戦闘は避けるだろう、だがまず間違いなく後を付けられる、どこかしらで追跡を振り切っておけ』


可能な限り余計な戦闘を避ける、それはつまり静希たちに余計な敵の相手をさせる可能性だってある、その場合下手に静希達から離れるよりも後をつけて安全に進んだ方がいいのである


先程の会話で未確認の動物がいるという事をすでに言ってあるという事から、静希達の目的もその未確認の動物であるという事はまず相手も予想済みだろう


そうなれば余計な手間暇をかけて捜索するよりも自分たちの後をつけて最後のとどめの部分だけをかっさらったほうが楽、今は静希達の視界の外、どこかしらに隠れて様子をうかがっているだろう


「了解しました、少々手荒な方法を使っても?」


『構わんが、可能な限り戦闘は避けろ、わざわざ危険に身をさらす必要もない』


了解しましたと告げて静希は通話を切る、今までの状況と周囲の地形を思い返しながら策を練り始める


とはいえ周りには障害物、具体的には視界を阻害する木々が山ほどある、しかも足元には雪、行動速度が下がっている中で相手の追跡を逃れるためにはやはり行動不能状態にするのが一番手っ取り早いだろう


「静希、これからどうするの?」


「とりあえず足跡の位置まで戻るぞ、それまでに考える、陽太は雪を溶かしながら警戒、明利は引き続き索敵範囲を広げてくれ、どこかにさっきのが隠れてるかもしれないから見つけたら随時報告頼む」


それぞれに指示をだし、とりあえず静希は手持ちの地図を確認して現在位置とこれからの進行先に何があるかを確認しておく


何があるかと言ってもその先には山しかない、正確に言うならどのような地形があるかという確認だろう


移動する間に全員に城島の指示とこれからどうするかを簡潔に伝えると、鏡花は静希の持っている地図を見ながら少し悩むような表情を浮かべていた


「ねぇ静希、戦闘を行わずに相手を行動不能にさせられればいいのよね?」


「ん?あぁ、それが一番だけど、なんか案があるのか?」


「あの能力だったらおびき寄せてもらえれば落とし穴にでも落とせば十分拘束は可能だと思うけど?幸い雪で足元も見えにくいし」


鏡花の言葉に静希はそれもいいかもなと思いながら進行先にある場所を見てにやりと笑う


落とし穴とは少し違うが、これは鏡花に頼むほかないだろう


「いや、もっといい作戦思いついた」


「・・・あんたのその顔見ると嫌な予感しかしないわね」


鏡花の視線の先にある静希の顔、いつものように策を思いついたときの、飛び切りの邪笑を浮かべている


この顔の時の静希が思いついたことはたいていろくなことではない


「幸い視界の悪いこの木の密集地帯だ、向こうからも俺らが見える範囲にいるだろうし、明利、索敵を密にして相手を補足できるか?」


「うん、種を少し多めに蒔けば大丈夫だと思う」


「オーケー、鏡花は明利の手伝いを、陽太は引き続き雪を溶かしながら足跡を追跡だ」


指示しながら地図に書かれている情報を逐一頭の中に叩き込み作戦を練っていく、こうなった静希は怖い、一体何をやらかすかわかったものではないからなおさらに怖いのだ


足跡の地点に戻り、数分が経過した後、明利の索敵に先程の銃を持った密猟者が引っ掛かる、どうやら自分たちの移動ルートをそのまま歩いてきているようだ


そのことを聞くと静希はよしよしと呟きながら地図を見ながらいくつか印をつけていく


「鏡花、明利の手伝いを中断して用意してもらいたいものがあるんだけど」


「はいはい、何をやればいいわけ?」


自分たちの後方にいるのであれば明利の索敵を直線的に続けている今の状態でも問題はない、一応明利の種を持たせたフィアを木々の間を飛び回らせて索敵範囲は広げている


「まぁまぁ、これを見てくれ、この通りに頼むぞ」


「・・・あんたまさか・・・」


そのまさかだよと呟きながら静希は邪笑を浮かべている


こいつは本当に恐ろしいと思いながら鏡花は地図に記された情報を頭に叩き込んでいく


静希のやりたいことは十分理解できた、そしてそのために必要なことも理解した


となれば後は自分が全力を尽くすだけだ


「あんたって手加減って言葉知らないの?」


「知ってるけどする気はないな、できるだけの余裕ないし」


手加減をできるほど静希は強くない、だから常に最善と全力を尽くす


聞こえはいいが、それはつまりどんな相手にも容赦しないという事だ


今回も相手に同情するわと呟きながら鏡花は能力を発動していく


静希のいった仕込みをするためにも、必要なことは適宜こなしていかなければならない


気付かれないように、それでも確実に


移動速度が遅いのが今回ばかりはありがたい、少しずつ能力での工作ができるのだから


今回の作戦は自分が鍵になる、そしてこの作戦は自分にしかできない


さらに言えば鏡花は、これからやろうとしていることが自分の能力の真髄に最も近いところにあるものだと理解していた


誤字報告が十件分溜まったので三回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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