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J/53  作者: 池金啓太
三話「善意と悪意の里へ」

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悪魔との生活

静希達一年生が初の校外実習を終えてから、数日が経つ頃、静希の生活はあまりにも様変わりしていた


それもこれも、なにもかも、静希の能力の中に住みついた悪魔、メフィストフェレスが原因である


学校の中では行動できない代わりに静希の部屋ではやりたい放題だった


もちろん物を壊したりなどではない、むしろそっちの方が良かったかもしれない


何を考えているのかもわからない、風呂に侵入してきたこともある、朝起きたら布団に入りこみこちらをニヤニヤと眺めていたこともある


静希の能力が物を媒介としていればある程度隔絶することもできたのだろうが、静希の能力は自身が作り出した一心同体の産物、切り離すことなどできない


だから寝ている時も勉強している時も物体の調合をしている時も完全に無防備でメフィの干渉を受けるような物だった


「ねえシズキ?食べさせてあげようか?はいあーん」


何をなすにも一事が万事この調子だ


ちょっかい出してこちらの反応を楽しむにしても朝から晩までこう絡まれては精神攻撃になりかねない


朝食のトーストを口に放り込みながら静希は大きくため息をつく


「ちょっと、ため息つくと幸せが逃げるわよ?」


「悪魔のお前が幸せを語るとかどうなんだ?」


悪魔が幸せを語る時は大概が誘惑して取引を持ちかける時と相場が決まっている


もっともメフィがそういうことをしようとしていないということはこの数日で理解していた


この悪魔は幸か不幸かただ単に静希に絡みたいだけなのだ


「それにしても本当に何も食べないんだな、腹減らないのか?」


この数日、メフィは何も口にしていない


少なくとも静希が見ている前では何も食べていない


「お腹はすくけどあなた達人間とは食べる物が違うのよ、ちゃんと腹八分目保ててるから大丈夫よ・・・ひょっとして心配してくれた?」


「するかよ、人間に心配されるようじゃ悪魔もお終いだろ」


「あら、言ってくれるじゃない、まったく素直じゃないんだから」


すごく嬉しそうに笑いながら静希の食事を見てくるこの光景もすでに静希には慣れたものだった


そして食事について一番驚いたのは先日のこんな会話だった


『シズキと味覚だけリンクして味わってるからいいのよ』


『お前そんなことしてたのか!?てかそんなことできんの?』


『昨日の肉じゃがおいしかったわよ?今日はハンバーグがいいなぁ』


『今日は魚だ』


『えー』


『文句言うな』


肉体を持たない存在だけの存在であるがゆえに物理現象や常識は通用しない、そんなことは重々承知だったが勝手に人の味覚を知覚できるとは驚いた


この状況の中で唯一の幸いはメフィがこの通り人間と同じ食事をとらないという点だろう


居候のような存在が増えたうえに食費までかかるとあってはさすがに静希も許容できない


そういう意味ではメフィは有している問題は少ないのだろう、暴飲暴食もせず、ただちょっかいを出してくるだけなのだから


そして些細なことではあるがメフィとたびたび意見が衝突することがある


今回のような例であげるなら晩御飯の献立だ


絶対に肉がいい、今晩は魚だと互いに譲らなかった時、二人は衝突した


結果は静希の勝利


家主であり食べるのは自分であるからということを理路整然と説明し若干の説教を混ぜた結果メフィが折れたのだ


そして以前は駅前のケーキを買ってきてくれなどといったこともある


断った際に子供のようにだだをこねたもので、帰宅後メフィを正座させてひとしきり説教をしたほどだ


悪魔に対して説教を行うなど静希位のものだろう


「さて、そろそろ行くか、ちゃんとおとなしくしててくれよ?」


「はいはい、ちゃんと中に入れてね」


言い方がいちいち気にかかるがすでに静希はそのくらいはスルーできるようになってきた


最初はいちいち突っ込んでいたが、もはやそれでは精神が持たないのだ


学校の準備を整えてカバンを持ち家を出る


『ねえ、そういえばユキナは起さなくていいの?どうせまだ寝てるわよ?』


トランプの中でメフィが話しかけてくる


トランプは静希の能力だ、その中の物がどうなっているかは瞬時に判断できるしどうやら意思疎通もできることがこの前初めて分かった


『あぁ、今日は雪姉は別件で朝早くに出かけたらしいからな、起こす必要はないってさ』


静希がトランプの中に意志を飛ばすとふうんと興味なさげにメフィはそれ以降しゃべるのをやめた


どうやらトランプの中であれば声を出さずとも意志疎通が図れるらしい、このことも初めて知った


何せ静希が意志を持った存在をトランプに入れるなんて初めての経験なのだ


静希の能力は基本的に生き物を入れることができない


それは静希の能力の持つ収納系統の特性上不可能なのである


物質であれば現状保存というのはつまり劣化の防止だ、それはどんな収納系統能力であれある能力である


それは酸化であり、耐久力の減退であり、効力の減少である


劣化を防ぐためにはいくつか必要条件がある、いや保存するための方法があると言った方が正しい


一つは時間停止、内部に入れた物質の時間を止め、それ以上の劣化を防ぐ


大多数の収納系統の能力者はこれに属している


そしてもう一つは能力による物質分解と再構築


これは物を何か異次元の内部に入れるのではなく、一度分解しその情報を読み取り、物質量だけを保存、そして取り出す際にその構造データを取り出して保存してあった物質量に読み込ませ、同じ物質を再現する


時間停止の場合、物質は確実に完全な状態で保存される


だが生き物は絶えず変化する、エネルギーの精製から排泄、行動、循環、あらゆる面で変化する物を現在の状態で生き物の時間を停止することも、ましてや分解して再構築などもできない


ごく稀に、生き物を入れることのできる収納系能力者はいるらしいが、その能力内容や特性などは分かっていない


今まで小さな生き物をトランプの中に入れようとしたことはあっても入れることはできなかった、つまり静希の能力は生き物を入れることはできない


その性質から判断するにこの悪魔、メフィストフェレスは生き物のカテゴリから外れているのだろう


かつて彼女が言った『存在だけの存在』


彼女の言葉を借りるなら静希の能力は存在だけの存在は保存できるのだろう


もっとも、この状態を保存というのかは甚だ疑問ではある


自由に意志疎通もでき、トランプの中の時間を停止しているわけでもないようだ


静希は自分の能力をトランプの中に入れた物を保存する物だと思っていたのだが、それにしてはこの状態は説明ができない


そもそも自分は本当に収納系統なのかすら疑いたくなってくる


今回から三話スタートです


二話より少し短め


お楽しみいただければ幸いです

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