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J/53  作者: 池金啓太
十八話「雪の見えるその場所で」

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雪奈の誕生日

「へぇ・・・陽の能力がねぇ・・・」


その日の夜、いつものように自らの部屋であるかのように静希の部屋に入り浸る雪奈は炬燵の中に入って静希の体に背を預けながら暖を取っていた


「私は二人の言ってることさっぱりだったんだけど、ただの能力じゃないってことくらいはわかったんです」


そして雪奈に抱かれるように明利がその足の間に収まっている


マトリョーシカのように小さい順におさまっているところが何とも奇妙な構図である


「なるほどねぇ・・・それで今日はメフィが優遇されてたんだ」


「そういう事よ、たまにはこういうのも悪くないでしょ?」


今日の情報の代わりとしてメフィは静希を数時間抱きしめたままだったのだ、抱き着かれている静希は相当嫌そうな顔をしていたがそんなことは全く意に介さずに静希にほおずりしたりとやりたい放題だった


それを見て明利と雪奈が嫉妬心を燃やした結果が今の状態であると言える


「まぁ陽の能力は不思議が多かったしね、ようやく疑問が解消されてすっきりってところかな?」


「まぁな、ていってもまだ完全にわかったってわけじゃないけど、あとは鏡花に任せるよ」


「陽太君の担当はもう鏡花ちゃんだもんね」


明利の言う通り、陽太の担当はすでに完全に鏡花へと委託されている状態にある


昔は静希が中心だったこの班の構成もうまい具合に静希と鏡花とそれぞれ分担して行えていると思える


形だけだった班長である鏡花もだいぶ慣れたのか班自体をコントロールできるようになっているようだった


「それよりも静?私の誕生日プレゼントはもう考えてあるのかね?」


「ん?唐突だな」


雪奈がにやにやと静希の方を見ながら笑みを浮かべる反面、先日雪奈と話した内容を覚えていた明利は顔を赤くする


この言葉が何を意味しているのかを把握している故に顔が自然と赤くなってしまうのだ


「逆に聞くけど、何が欲しい?」


「えー・・・こういうのはサプライズが嬉しいんじゃん、聞くんじゃなくて察してよ」


何気に難しいことをさも簡単そうに言ってのける雪奈に静希は困ってしまう

雪奈が欲しいものなどありすぎるのだ


静希の部屋にきてテレビのCMやら新聞の広告やらを見てはこれいいなだのかっこいいなだの言っている、どれが本当に欲しいものかなど静希にはわかりようがないのだ


「あー・・・そうだな、ちょっと考えておくよ」


「え!?まだ考えてなかったわけ!?」


雪奈の言葉に静希は苦笑いしながら視線をそらす


なにせ雪奈の誕生日プレゼントほど困るものはないのだ


彼女が使用する頻度が高いのは刃物なのだが、女の子の誕生日に贈るようなものではないのだ


明利の首についているチョーカーを見ながら静希は雪奈の頭をなでて機嫌をよくしようと試みる、どうやらその行動は正しかったようで猫のように静希の手に頭や顔を擦り付けながら雪奈はご満悦に浸っている


自分の誕生日をこうも露骨に聞いてくるあたり何か仕掛けてきそうだなと静希は今までの経験から察しているのだが、一体何をするつもりなのかまでは見当もついていなかった


アクセサリの類は雪奈は身につけないし、化粧だって本当にごくまれにするくらいだ


衣服のセンスは彼女独特、髪型も一定のために髪留めなどは適切ではない

そうなると本当にあげられるものは限られる


雪奈でも身につけられるようなものが好ましい、せっかくプレゼントするのだ、可能な限り身に着けておいてほしいものである


そう考えた時にふと雪奈の腕に目が向く


普段前衛として戦っているのにもかかわらず細く白い腕だ、強く握れば折れてしまうのではないかと思えるほどである、自分の腕と比べてもその細さは女性ならではだと言える


「ちなみに明ちゃんはどんなプレゼントくれるの?お姉さんに教えてちょ」


「え?えっと・・・楽しみにしててください、喜んでもらえるように頑張ります」


「ほほう、ということはすでに決まっていると・・・静、明ちゃんを見習いなさい?」


雪奈の言葉にはいはいと気のない返事をしながらも、静希も雪奈に贈るものがもう決まった、雪奈が大切にしてくれるかどうかはまだわからないものの、あとは準備するだけである


「そういえばおじさんとおばさんは誕生日の日は居るのか?」


「どうだろね、夜勤とかで忙しそうだし無理じゃない?まったく娘の誕生日だっていうのにうちの親は・・・」


雪奈の愚痴に対して静希は苦笑いしかできない、なにせ静希の誕生日の日に帰ってくることもなく郵送で誕生日プレゼントを渡してきた親である


放任主義すぎやしないかと思えてしまうが、その分信頼されているのではと思えるだけましなのだろうか


さすがに自分の娘の誕生日だ、しっかりと仕事にけりをつけてくるだろうが、少し不安も残るところである


「そういえばさ、この前鏡花ちゃんの家行ったときにさ、犬がいたんだよ、もうもっふもふでさ!」


雪奈はその時のことがよほど印象に残っていたのか、鏡花の家の犬、ベルのことを嬉しそうに話している


動物は嫌いではないのか、愛でた時のことを嬉々として話す中、明利も同じように楽しそうにその時のことを思い出していた


静希と雪奈はマンション、明利は親がアレルギーもちのためペットが飼えない、だからこそ触れ合えるのが嬉しかったのだろう





そうして時間は過ぎ、雪奈の誕生日当日、珍しく静希の家ではなく雪奈の家にやってきた一班の人間は雪奈の誕生日をささやかながら祝っていた


「ハッピーバースデーディア雪姉!誕生日おめでとう!」


静希の音頭と共に全員が雪奈めがけて祝福の声を上げる、テーブルの上には明利や鏡花の作った料理や出前などが並んでいた


「いやっはっは、祝われるのはいいもんだねぇ」


「これで雪奈さんは十七歳かぁ・・・青春真っ盛りって感じですね」


料理を口に運びながらそうつぶやく鏡花に雪奈は照れ臭そうにはにかんでみせる


見た目で言えば確かに十七歳というのは全く異論はないのだが、その中身まで伴っているかと聞かれると微妙なところだった


「ところで結局おじさんおばさんは?やっぱ仕事?」


「うん、どうしても今日は外せなかったみたい、その代わり明日に祝ってもらうんだ」


静希の親と一緒でさすがに多忙な毎日を過ごしているせいか、娘の誕生日でも休みは取れなかったようだ、すでにここまで大きくなったからあえて休みを取らなかったのかもしれないが、祝ってくれるだけありがたいものである


「さぁさぁ諸君、私にプレゼントを!いったいどんなものをくれるんだい?」


「ここまで堂々と催促されるといっそすがすがしいですね・・・じゃあ新参の私から」


年上であるはずの女性の子供らしい仕草に苦笑しながら鏡花は自分の荷物の中から包装されたプレゼントを取り出す


雪奈が嬉々として包装を解くと、その中には黒を基調としたジャケットが入っていた、いやジャケットというよりどちらかというと全身につけられるホルダーの集合体のように見える


衣服の下につける用の物のようで、下着の位置を考えて作られているようだった


「これは・・・?」


「雪奈さんって普段いちいちベルトとかホルダーとかに刃物をつけてるじゃないですか、だからそれ一つあれば全身に装備できるように一から設計して作ったんです、限りなく軽く、丈夫に作ったんで普段つけていても問題ないですよ」


鏡花がいろいろな雑誌や実物を参考にして試行錯誤を重ねた結果創り出したものだ、完全な一点ものの品に雪奈は感嘆の声を漏らしながら服の上から軽く装着して見せる


鏡花の言う通りかなり軽く、刃物を装着できる部分もかなりある、その気になれば二十近い刃物を服の下に仕込むこともできるだろう


「こりゃいいね、これから準備が楽になるよ!いちいちベルト付けるのたるくてさ」


「喜んでもらえて何よりです、サイズが合わなくなったら言ってください、微調整しますから」


こういう時に変換系統というのは本当に便利だと思えてならない、特に鏡花は変換系統の中でも上位に部類される能力者だが、素材さえあれば自分の設計で何でも作れるのだ、こういう時は本当にうらやましく思えてしまう


「さて、では次は俺が行かせてもらおうか」


陽太が取り出したのはかなり大きめの箱だった、取り出したというよりは床に置いておいたものをそのまま雪奈の前に置いたと言った方が正確かもしれない


かなり前から気になっていた静希と明利、そして今日の主役でもある雪奈はその中身を早く知ろうと包装を解いて中身を確かめる


「おぉ・・・?おぉぉぉおぉ!?」


雪奈が中から取り出したのか巨大なクマのぬいぐるみだった、一体どこで手に入れたのか、かなりの大きさと柔らかさをしているようで雪奈が顔をうずめるとその大きな腹にどんどん吸い込まれているようだった


「うわぁ・・・こんなん何処で買ったんだよ」


「ふふふ、実はこの前ゲーセンのフェアがやっててな、約三千円ほど投入してゲットした代物だ」


ゲームセンターのUFOキャッチャーなどで置かれているこの手の巨大な景品は地味に取るのが難しい、アームの強度だったり品物の配置で難易度が一気に変わるものである


一見して簡単に取れそうなものほどなかなか取れないように細工されていたり最終的には店側に採算が取れるようになっているのがUFOキャッチャーだ


「これ・・・いぃ!この柔らかさ!この大きさ・・・!いい!」


どうやら雪奈はこのぬいぐるみがかなり気に入ったらしくしきりに顔をうずめながら顔をにやけさせていた


思えばぬいぐるみなどの置物関係は全く彼女の部屋に無いことを思い出し、静希は今度プレゼントしようかなと思案していた


「じゃあ、次は私が・・・喜んでくれるとうれしいです」


明利の渡すプレゼントの包装を解くと、その中にはたくさんの美しく咲いた花と、その中には一つのチョーカーが入っていた


「あ・・・これって・・・」


「はい、私のとおそろいのを・・・これからも一緒に居られたらいいなって思って・・・静希君」


「あぁ」


それは明利のつけているチョーカーと全く同じものだった、そして明利の言葉と同時に静希が雪奈の後ろに回りその首にチョーカーを装着させた


「うぅ・・・明ちゃん・・・ありがとぅ・・・」


「お気に召したようだな・・・それじゃあこっちは俺から」


明利のプレゼントに感動する中、再び静希は雪奈の体に触れる


その左腕と右耳につけられたのは恐らく腕と耳で一組になっているアクセサリーだった


腕には細身の体に合う動きを阻害しないブレスレット、そして耳にはそれほど目立たないイヤリング、両方とも常につけることができるようにと静希なりに考えた物だった


「へぇ、静希にしては無難なもの選んだわね」


右耳にイヤリング、そして左腕にブレスレット、左右非対称のアクセサリを身に着け、雪奈は少し唖然としていた


今まで装飾品を付けてこなかったというのもあるのだが、こうして誰かに装飾品を付けてもらった経験がなかったというのが一つの理由でもある


「毎日つけてくれよ?せっかくプレゼントしたんだから」


「・・・えへへ・・・じゃあ毎日静につけてもらうよ」


後にいる静希に頭を預けながら少し頬を朱に染めたまま、雪奈は嬉しそうに微笑む


その姿は長年連れ添った夫婦のようにも見えた


実際生まれてからほとんどの時間を一緒に過ごしてきたのだ、あながち間違いでもないだろう


「これでこの中で誕生日迎えてないのは鏡花ちゃんだけだね」


「そうですね、今度はみんなに祝ってもらわなきゃ、でも今日の主役は雪奈さんですよ?」


そう言って鏡花はわずかに目を細めて雪奈と静希を見比べる


あの時の女子だけでの話の中で雪奈が言ったことが本気だとしたら、今日雪奈が望むのは静希との時間だろう、そのことを理解しているのか明利も少しだけ遠慮しているようだった


「そういえば静希、あいつらはどうしてるわけ?今日見ないけど」


「ん、今日はなんか大人しくしてるってトランプの中にいるぞ、流石のあいつらも人の誕生日に変なことはしないって」


静希の言葉に鏡花は一瞬だけ明利に視線を向ける、すると明利はわずかにはにかんで見せた


恐らく先日の話し合いの後、人外たちにその話をしたのだろう、雪奈がしっかりと静希との時間を過ごせるように明利なりに気を遣った結果というわけだ


同じ人を好きになるというのは普通なら嫉妬するところだというのに、明利はそんなことはせずに本気で相手の幸せを祈れるのだ、そしてそれは恐らく雪奈も同じ


こんなにできた二人に好かれて静希は幸せ者だなと鏡花は小さくため息をついた


その後も誕生日会は進み、食べ物が減っていく中で鏡花は雪奈に小声で話しかけた


「雪奈さん、この前のあれって本気ですか?」


「・・・うん、本気だよ・・・」


小さく微笑みながらそう言った雪奈に鏡花は苦笑してしまう、きっと静希は目を白黒させるだろう、なにせ唐突に雪奈に誘われるのだから


ここまでまっすぐに誰かを求められるというのは一種の才能ではないかと思えてしまう


静希と明利のことも、ズルをせずに正面から伝えたからこそ成功したことだと言えるかもしれない


雪奈らしい


鏡花は内心そう思っていた


「さぁ、そろそろ片づけるわよ、ほら陽太手伝いなさい」


「うぇ、片づけは静希達に任せても・・・」


「陽太君、ほら手伝って」


鏡花と明利が率先して片付ける中、陽太も渋々ながら片づけを始めた、そして自分も片づけをしようかと静希が動く前に、雪奈は静希の服の裾を掴んだ


「・・・静、あとでさ、静の家に行っていい?」


「あぁ、いいけど・・・なんかあったのか?」


普段の雪奈と違う声音に、静希は少しだけ不思議に思っていた、それは姉として静希に向けられてきたどの声とも違う、女の声だったからである


「うん、大事なこと・・・大事なことがあるから・・・待ってて」


「・・・わかった、またあとで」


そう言って雪奈の頬を撫でた後静希は三人に混ざって後片付けをし始めた


自分の頬に残るわずかな触感をたどりながら雪奈は自分の中で覚悟を決めていく


今までの人生でここまで緊張したことは一度だけ、静希と明利に自分の想いを告げた時だ、いやもしかしたらあの時以上に緊張しているかもしれない


心臓がいつもより強く鼓動しているのがわかる、体温が上がっているのが感じられる、手や足、体の隅々まで火照った血液がめぐって僅かに汗をにじませているのがわかる


らしくないな


そう思いながら雪奈も片づけに参加することにした


片づけが終わってから少しして静希達は解散することになった、それぞれ家に帰ることになり、珍しく明利を鏡花と陽太が送っていくことになった


誰もいなくなって部屋の中で雪奈は小さく意気込んでシャワーを浴び、自分の中で覚悟を高めていく


自分で言うのもなんだが、いい集中状態だと思った


戦闘状態のそれとはまた違う、独特の緊張、肌にあたる湯がさらに体温を上げ心臓の動きを早めているような気がする


静希の姉として生きてきて、静希の女として生きたくてこうして身を清めている


雪奈は小さく息を吐き、清潔な服に着替えてから自分の家を出る


すぐ隣の家、恐らくこの中で静希は待っている


どんなことを考えているだろうか、どんな風に待ってくれているのだろうか

そして自分を受け入れてくれるだろうか


何度も何度も自分の中で問答を繰り返し、それを振り払うように首を横に振る


貰ったばかりのイヤリングが小さく音を出す中、雪奈は十二月の寒気を肌に感じながら口から白い息を吐き、そして大きく息を吸う


指が呼び鈴に触れ、その部屋にチャイムが鳴り響いた


土曜日プラス誤字報告五回分溜まったので三回分投稿


最近ものすごい勢いでお気に入り登録やpvが伸びています、何がどうしてこうなったのかビビってます・・・!


これからもお楽しみいただければ幸いです

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