腕と炎
自らの恋人が自分自身の好みの話で一喜一憂しているなどとはいざ知らず、当の静希はある人物から呼び出されて外出していた
呼び出されてしまっては出向かないわけにはいかないということで、静希は今大峡刃物店へとやってきていた
内容は事前に電話で聞いていた通り、以前頼んでいたものの試作品ができたということだったのだ
「源爺、来たぞー」
「お、静希君、久しぶりだね・・・えぇはい、一週間もあれば」
店内に入ると静希を迎えてくれたのは源蔵の息子でもある大峡武彦だった
帳簿を付けながらどこかへと電話しているようで可能な限り静かに近づくと、近くのメモに『奥に源蔵がいる』という内容の文章を書いてくれる
声には出さずに頭を下げて礼をして奥に向かうと、以前型をとった場所に源蔵は居た
「おぉ来たか静坊、こっちにこい、早速試すぞ」
「できたって・・・もうできたのか?二か月くらいしか経ってないような気がするけど・・・」
静希が源蔵に腕に武器を仕込むから作ってくれと頼んだのが九月末、今が十二月の頭だから本当に二か月ちょっとしか経過していないことになる
本業を続けながらもその合間にこの腕の武器を作ってくれていたのかと思うと頭が下がる思いだった
「いや、まだ完成とはいかんな、一度実際に試射してみようと思ってな、これが本体だ」
源蔵が取り出したのは無骨な筒だった、だがそのところどころに機械的な動作を組み込んであるような箇所が見受けられる
本業の人間ではないとはいえここまでのものを作り上げるとは、流石の技術力だと言いたいところだ
「すごいな・・・どうやって撃つんだ?」
「腕に取り付けるってことだからな、トリガーをつけるわけにもいかんし・・・腋の装甲のない部分に引っ張って作動するような撃鉄機構を取り付けた、それを思い切り引いて撃つというイメージだな」
よくよく見ると確かに引いて作動するタイプの機構が取り付けられているのがわかる、源蔵が取り付けてある取っ手を握って強く引っ張るとガチンと金属同士がぶつかり合う音が聞こえた
今のが撃鉄を当てた音なのだろう、発射機構自体はすでにできているようだった
「ここまでできてるなら、もう完成なんじゃないの?」
「撃つだけの土台があっても、撃てる弾が無ければ意味がない、今回試すのはこいつもそうだが弾の方を試すんだ」
発射用の砲塔を金具で強く固定し、その銃身の先にはドラム缶が設置されていた
その中を見てみるとコンクリと金属が敷き詰められており、試射しても貫通しないような工夫がされているのが見て取れた
「そういえば弾のリクエストってしてなかったけど、どんなの?」
「ん・・・知り合いに頼んでいくつか作ってもらった、これだ」
源蔵はそういって三種類の弾頭を静希に見せた
その全てが静希の予想していた弾丸より一回りほど大きいことに気づく
一つは弾頭部分が丸まっており、金属の塊をただそのまま打ち出すためだけの弾丸であるように見える
一つは弾頭部分にある加工がされていて、中にいくつもの鉛玉が込められている所謂散弾であることが見て取れる
一つは弾頭部分が鋭くなっており、貫通力が高いであろうことがうかがえる、三つの中でこれが一番長かった
どれも弾頭部分よりも炸薬の詰まっている薬莢部分の方が長いのが特徴的で、その太さは三十ミリで統一されているようだった
「随分と、あれだな・・・デカいな」
「イメージとして大砲ってことだったからな、強度的に問題ないギリギリを模索したつもりだ、早速試すぞ」
三種類の弾頭を一つずつ試すのだろうか、源蔵は建物の扉という扉を完全に閉め、防音用のシャッターも閉めてしまい、静希に耳栓を手渡した
一体どれほどの音がするのかわからないが、一応つけておいて損はないだろうと思われる
それにしても、まさか三十ミリの弾を撃ちだすことになるとは思っていなかった、せいぜいショットガン位が関の山と考えていたのだが、そんなものとはケタが違うほどの威力が見込まれる
三十ミリの弾丸というと、戦車などに積まれている固定機銃などの弾丸がそれにあたる
早い話、人間に撃つための銃とは一線を画する威力を誇っているのだ
今回打ち出す弾は三種類、機銃で用いている銃弾は三つめのそれが一番近いだろうか
一つ目の弾頭が丸まっている弾はショットガンなどに用いられるスラッグ弾に似ている、だがその大きさがショットガンのそれとは違いすぎる、ショットガン用の弾でさえ人に向けることは厳禁であるというのに、さらに大きいものとなるともはや対人用ではなく対物用の武器になっている気がする
二つ目は言わずもがな散弾、これは三十ミリの弾丸である必要はなさそうだが、その分大量の散弾が詰め込まれている、至近距離で当てればハチの巣になることはまず間違いないだろう
発射される際の衝撃はもはや語るまでもないだろう、以前軍の訓練中にショットガンを撃たせてもらったが、初めて撃った時は肩が外れるのではないかという衝撃が走ったほどだ
鍛えていたおかげでそれほどの痛みはなかったが、ただのショットガンであの威力、もしその倍以上の弾を同速度で撃ちだすほどの衝撃を腕に受けたらどうなるか
体ごと吹っ飛ぶかもしれないなと思いながら静希は準備をしている源蔵をただ見守ることしかできなかった
「よし、まずはスラッグ弾頭から試す、耳栓はつけたな!?」
静希と同じく耳栓を付けた源蔵が大声を上げると静希は何度も頷いて応じる
これから何が起こるかわかっているだけに目が離せない、通常の弾頭の何倍もの威力をぶつけようというのだから
弾を内部にセットし、砲塔を完全に固定し多少の衝撃では動かないように重しをいくつも設置して完全に動かないようにしている、そして射線上にある詰め物がされたドラム缶の周りには必要以上に移動しないように、また砕けたものがこちらに飛ばないように簡易式の壁が取り付けられている、これだけ見てもかなり厳重な状態での試射実験だということがわかる
「よし行くぞ!3!2!1!発射!」
カウントダウンが終わると同時に源蔵は取っ手部分を勢い良く引っ張って撃鉄を打ち付けた
瞬間、爆発音にも似た轟音が屋内に響き渡り重しをいくつも取り付けていた固定具ごと砲塔が一瞬上に浮く、砲身から射出された弾はドラム缶に直撃して鈍く響く音を奏でながらその金属の胴体に大きく穴をあけた
だが内部にコンクリと金属を大量に詰めていたのが幸いしたのか、貫通まではしていなかった、とはいえ大きく開いた穴の付近のコンクリは砕け、内部にあった金属に深々とめり込んでいるのがわかる、これだけの強度を簡単にここまで突破するとは思わなかっただけにその威力の高さがうかがえる、もしこれを生き物に撃とうものならその体はいともたやすく爆散するだろうことが容易に想像できた
少なくとも人間に当たったらどの部位にあたっても致命傷に近い一撃を与えられるだろう、腕などであれば一撃で吹き飛び、腹部に当たれば向こう側が容易に見渡せるレベルの大穴があく、いや、穴で済むかどうかすら危うい
「うわぁ・・・」
スラッグ弾はもともと貫通力を高めた銃弾ではない、丸い弾頭をそのまま回転しながら直線に進み、物理的エネルギーで破砕するタイプの弾丸だ
貫通力が高くなくてもこれほどめり込む、その事実に静希は驚愕していた
「まぁこんなもんか、それじゃ次行くぞ」
源蔵は実験結果に満足しているのか、意気揚々と次の弾丸を試すようだった
我ながら恐ろしいことを頼んでしまったかもしれないと少しだけ後悔しながら静希は再び耳を塞ぐ
次に試したのは散弾、一見威力だけ見れば大したことはないかもしれないが、その殺傷能力は高い
スラッグ弾が対物用の弾頭だとするならば、散弾は対生物用の弾丸だ、至近距離で小さな弾をばらまくようにあてることで全体的にダメージを与えられる
ダメージを与えるなどと言うとそこまで強くないような印象を受けるかもしれないが、実際はそんなに生易しいものではない
適切な距離で撃てば一撃で人間なんて簡単に殺せてしまう、仮に急所や胴体に当たらなくても四肢のどれかは確実に穴だらけになり使い物にならなくなるだろう
「行くぞ!3!2!1!発射!」
再びカウントダウンと共に撃鉄を起こすと先程と同様の轟音が響き、ターゲットとなっていたドラム缶に大量の穴をあけていく
ドラム缶の表面にある金属部分は軽く貫通した様ではあるが、その奥にあったコンクリ部分で止まっているようだった
一発一発の貫通力はスラッグ弾に比べるべくもないが、その攻撃範囲と密度は桁違いだ
確実に相手を負傷させるためにはこれ程適した単発弾もないだろう
「思ったほどじゃないが・・・まぁいい、静坊!そっちのドラム缶持ってきてくれ、重いから気を付けろ」
「わ、わかった」
どうやらターゲットのドラム缶を交換するのか、奥の方にあるドラム缶のところへ向かうとその重さが理解できた
内部に鉄柱、そしてコンクリを仕込んであるだけあってかなり重い、恐らく陽太でも能力を使用しない限り持つことはできないだろう、だから静希は少し斜めにしてから転がすことにした
こういう時に丸い形状をしていると動かしやすい、だが重さが重さなだけに転がして動かすのにも細心の注意が必要だ、もしバランスを崩せばすぐに倒れてしまうだろう、普段鍛えているとはいえ、この重量を支えられるかどうかは微妙だ
砲身のほぼ前方に移動させる頃にはすでに三つめの弾丸の使用準備が終わっているようだった、だがその異様さに静希はすぐに気づくことができた
三つめは貫通力の高そうな弾頭部分が尖っている種類の弾丸だった、機銃などに用いられる一般的なものに近いかもしれないのだが、最も長い弾丸であるが故か、砲身から弾丸の先端部分が少し見えているのだ
この状態で撃っても大丈夫なのだろうかと非常に心配になるが、とりあえず正面に目標となるドラム缶を置いて静希は退避する
「正面に置いたな?耳塞いでろ!3!2!1!発射!」
先の二回と同じようにカウントをしてから撃鉄を起こすと同じような轟音の後にドラム缶が小さく揺れる
今までの中で一番音と衝撃は小さかったようだが、その結果は見た目はそれほど大きな穴は開いていないものの、その弾丸は今までのどの弾丸よりも深いところに届いていた
ドラム缶の奥深く、というよりその内部まで深々と突き刺さっている
さすがに貫通はできなかったようだが、コンクリ、金属、そしてそのさらに奥にあるコンクリにまで届いていた
余分な破壊を起こさない分、貫通力が高かったのだろう、三つの弾丸の威力を比較するだけでその特色と使用状況の違いなどが見て取れた
一番目のスラッグ弾、これは表面的、そして内部にもかなりの衝撃と威力が見込める弾頭で至近距離で撃てばかなり効果的に作用することがわかる
二番目の散弾、これはゼロ距離よりも少し離れた近距離で効果を発揮する、適度に距離をとって確実に相手へと攻撃を当てられる弾頭だと考えるべきだろう
三番目の貫通弾、これは少し特殊になりそうで、弾自体の貫通力が高く、遠距離にも用いることができそうだが、この腕につけられる砲塔でのライフリング技術は恐らくまだ時間がかかるだろう、今すぐに使用するとなれば貫通力の高さから至近距離からの装甲突破などが有効的だろうか
「どうだった?威力の程は」
「もうこれ完成でいいんじゃないのか?威力も十分以上だし・・・」
片づけを手伝いながら先程まで弾丸を射出していた砲塔本体を見る、無骨ではあるが腕の中に仕込むのであれば見た目などは気にしなくても問題ないだろう、すでに完成は目の前と言ってもいいほどではないだろうか
「いや、この後微調整と、お前の腕につけられるようにもしなきゃいかん、つけた後でも容易に弾を装填できるようにしておいた方がお前も楽だろう?」
「あぁ・・・まぁ確かに」
今はただ単に球の威力を測るために撃鉄を打ち込むだけの機構さえあればよかったが、本格的に使用していくうえではまだまだ必要なものが多い
源蔵の言う通り次弾装填の動作がスムーズに行えることは必須だ、なにせ腕の大きさから考えてまず間違いなく単発式になるのだから
さらに言えば次弾装填のために必要なのが薬莢の排出だ、弾を撃った後に残された薬莢をどのように排出するかによっても次弾の装填の難易度は変わってくる
自動小銃などは、文字通り薬莢排出から次弾装填がすべて自動で行われるが、今回作っているものはそのような機構を取り付けられるほど大きさの余裕はない、限られた中でどれだけ実用的にできるかがカギになる
「ちなみにいつくらいにできそう?」
「まぁ今年中には仕上げておく、追加装備も考えておきたいからな、そこはおいおいってところか」
追加装備、オプションパーツとでもいえばいいのか、腕に取り付けられる手軽な武器を想像していただけに、その全容がどんどんと静希の想像から離れている現実に苦笑いするしかなかった
そのうちこの腕からの先にガトリングガン的なものがついていそうな気がしてならない、そんなことにならなければいいのだがと思いながら静希と源蔵は数十分かけてその場の片づけを終える
「ちなみにお前としてはどの弾頭を使いたい?それによって知り合いにまた作ってもらわにゃならんが」
「あー・・・じゃあ一番目と二番目かな、至近距離で使いやすいし、貫通の方はちょっと使いにくそうだ」
あまりにも貫通力がありすぎると目標を貫通して味方にあたってしまう可能性があるために少し危険だと思ったのだ
スラッグ弾や散弾なら極至近距離で撃てば味方に誤射するようなこともないだろうと判断した結果である
ふむふむとメモを取りながら源蔵は何度かうなずく、恐らくは銃弾を作ってくれた知人とやらに発注するのだろう、この腕の武器にかかる料金がかなりのものになりそうだと静希は覚悟していた
以前何度か依頼を受けたおかげで懐は潤っているとはいえ、痛い出費だ、無論それを払うだけの価値があるのも事実である
「にしてもこれだけでかいとやっぱ反動もかなりでかいだろうな・・・」
三十ミリの弾丸を飛ばす銃というと、ほとんどは機銃、つまり固定砲台からの射撃になる、固定されているからこそ人にかかる負荷はそれほどでもないが、もしその負荷を人がすべて受けた場合どうなるのか
しかも静希の場合その衝撃は直接腕に伝導する、至近距離で撃つことが前提であるために照準などはそこまで気にすることはないだろうが、腕ごと体が後方に吹き飛ぶこともあり得る
そうなった場合、射出と同時に肩部分を切り離しておいた方が静希への負担は少ないかもしれない、万が一の場合を考えてイメージを固めておくべきだろう
「反動に関しては我慢しろ、これだけの大きさの銃を人が使うなんてことがまず間違いだからな、使う時は注意しろ」
「わかってる・・・まぁ完成を楽しみにしてるよ」
実際にこの武器を付けて戦闘をするのは年明けの実習になるだろう、腕に武器を仕込んで戦うというのはまだ慣れないが、腕自体の動きにはだいぶ慣れてきた
この調子で行けば五体満足だった時と全く同じ動きができるのも時間の問題だ、日々の鍛錬とは本当に素晴らしいものである
「ところでさ、確認しておきたいんだけど、これっていくらぐらいでできそう?」
「ん・・・まぁざっとだが・・・こんなもんだな」
源蔵が数字を書いて見せると、静希は一瞬目がくらむ、自分が考えていたより高い
手間賃などもかかっているのだろうが痛い出費だ、それでも六桁いかなかっただけまだましだろう、恐らくだがこれでもかなり安くしてくれているのだということがわかる、なにせ一から全部作ってもらっているのだ、本当ならもっと高くてもおかしくない
身近にこういう事ができる人間がいて本当によかったと思うばかりである
「へぇ、じゃあ今年中にできるんだ、仕込み武器」
翌日、学校で雑談をしている時何とはなしに出した武器の話題に鏡花が興味深そうに言葉を返す
先日の冤罪事件から司令塔である静希と班長である鏡花、つまり一班の頭脳とでもいうべき二人はお互いの戦力状況を可能な限り正確に教え合うことにしていた
そのほうが正確に状況を判断できるし、互いに楽になるだろうという考えからこのように情報を共有することにしたのだ
と言ってもただ話しているだけではない、授業の一環でランニングをさせられている合間にこうして話しているのだ
明利は話す余裕などなく、陽太は静希達よりも随分先を走っている
あの冤罪事件以降、実行犯と呼べる人間の手がかりは一切掴めていないらしい、逮捕された山本に事情聴取をした結果、静希の毛髪を入手させた犯人と実際に殺害を行った人間が同一人物であるという事まではわかったらしいのだが、そこから先が全く分からないとのことだった
犯罪を行う能力者が自分の痕跡を残すようなことはしない、半ば予想できていたことだけに、静希はそこまで落胆していなかった
そしてリチャード・ロゥのことに関しても、山本から得られた情報がごくわずか、日時ははっきりしないが、十月の終わりあたりから接触していたのだという話があるのだが、どうもそのあたりがはっきりしない、仮面の男に会ったというだけで、その会話内容などを記憶できていないようなのだ
何らかの能力によって記憶を操作されている可能性も否めない
結局、手がかりもまともにつかめないまま静希はまた日常に戻ることになってしまったのだ
「あぁ、年明けの実習から新武器が披露できるかもしれない・・・使わないに越したことはないけど」
先日の試射実験からその威力の高さを思い知ったために、少なくとも人に向けて撃てるような代物ではないということは十分に理解していた
使える相手は奇形種などの危険対象に限定されてしまうだろう
「こっちも予定通り、槍自体は年末までには完成するでしょうね、実戦投入も可能な段階よ・・・まぁその身をもって味わってると思うけど」
「あぁ・・・身に染みてな・・・まさか両腕同時に槍を出せるようになってるとは思ってなかったからな」
以前予定というより目標的な意味で出せたらいいなと言っていたのは覚えている、だがまさか本当に両手で槍を作れるようになっていたとは思わなかったのだ、コツでも掴んだか、陽太の炎の形成能力はかなり高くなっている
その発動までの時間も、劣化型であれば数秒で済むようになっており、このまま進歩すれば以前見せた巨大な槍も同じように数秒間で用意できるまでになるだろう
「鏡花としては槍を作れるようになれば完成なのか?」
「まさか、欠点だらけのあいつの改善点なんていくらでもあるわよ、それこそ槍はあいつが望んだから作らせたのであって、前衛として必要な能力はまだまだたくさんあるわ」
たとえ自分の好きな人間だろうと言う時には言う、それにしてももう少しやわらかな言い方はできないのだろうか、第三者が聞いたら鏡花が陽太を嫌っているように見えても仕方ない、というより本当に鏡花は陽太のことが好きなのだろうかと思えてならない
「それで?炎を変える方はどうなんだ?あっちの方が陽太の能力の本質に近いだろ?」
「あー・・・まぁその、ぼちぼちね、ようやく数秒間動きながら使えるようになったところよ」
どうやら炎の形成と比べると、炎の温度変化はあまりうまくいっていないようで鏡花はため息をつく、こればかりは反復を繰り返して陽太自身が糸口をつかむしかないために鏡花も苦労しているようだった
藍炎鬼炎、その名にふさわしい青い炎を纏った状態で戦闘を行えるのは一体いつの日になるだろうか
「・・・そういえばさ・・・本質で思い出したんだけどね」
陽太が静希達を周回遅れにさせた時点で鏡花が思い出したようにつぶやく
「ん?なんかあったのか?」
「んと・・・まぁなんていうのかな・・・あいつの能力のことなんだけどさ」
あいつとはまず間違いなく陽太のことだろう、陽太の能力のことについて鏡花が静希に聞いてくるのは久しぶりな気がした、今まで助言を貰おうとすることはあれどそのほとんどは自分で解明していたために静希に聞くことがほとんどなかったのだ
「あいつの能力って一応は発現系統に属してるってことになるじゃない?でもさ、この前変なことが起こったのよ」
「変なこと?」
陽太の能力は一応発現系統に属しているという話だった、というのも炎を出して身体能力を強化するという、発現系統と強化系統が同程度の割合で複合されている能力は非常に珍しい上に、その特性が明らかに異常だったからである
ただ炎を出すだけの場合、身に纏えばその体の周りにある物体は当然のように燃えてしまう、だが陽太の炎の場合、一部の物体が燃えずにそのまま残るのだ
ただの発現系統であれば、このようなことは起こり得ない、それは以前から静希も疑問に思っていたことの一つだ
「私たちが訓練してるところの近くでね、炎を出せる能力者が訓練してたのよ、それで私たちのところに流れ弾が来てさ、陽太に直撃したんだけど」
「あー・・・あいつ炎とか効かないだろ?」
静希の返しに鏡花はそこよと指をさして視線を鋭くする
「炎の攻撃がただ効かないだけならまだわかるわ、でもあいつ飛んできた炎を自分の中に取り込んじゃったのよ」
「取り込んだって・・・吸収したってことか?」
「そういうこと、ただの発現系統じゃ絶対にありえない現象よ」
発現系統はただ単に現象などを発現できる能力だ、対して陽太の場合炎に合わせてその体に炎に耐えられるだけの身体能力強化がかかっているからこそ、炎が効かないのだと静希は思っていた
鏡花の話を聞く限り炎を吸収するという現象が起こるような能力であると考えると陽太の能力は発現系統のそれとは大きく異なる
「一度本格的に実験してみたほうがいいかもしれないな・・・」
「実験?」
今までそう言うものであると思い込んでいた陽太の能力の根本ともいうべき部分に目を向ける時なのかもしれないと、静希は小さくうなずいた
「というわけで、いろいろ試すぞ」
放課後本来であれば鏡花たちが訓練に用いているコンクリートの演習場で静希と明利、そして鏡花と陽太が集まり陽太の能力の本格的解明を行おうとしていた
「・・・なぁ鏡花、どういうわけなんだ?」
「あんたの能力が不明瞭だからよ、自分の判断能力の低さがもたらしたことなんだから甘んじて受けなさい」
本来自分の能力は自分で管理すべきところなのだが、陽太は自分の能力の制御で手いっぱいで最低限の把握しかしていなかった、静希のいう通り制御に余裕ができた今本格的に能力の把握に努めるのもいいかもしれない
静希が用意したのはバーナーと鏡花の手によって作られた実験場のようなものだった
簡単に作ったものなのでその精度は低いが、能力による炎ではなく人工的な炎を作れる場所だと考えればいい
油、可燃性ガスなどを詰めてあったり、炎が継続して出てこられるような状況を作ったものである、もちろん教師である城島の許可は貰っている
万が一に備えて学校の備品の中でいくつか消火器を借りてきている、コンクリートの演習場であるうえ、鏡花も一緒にいるためそこまで警戒する必要はないかとも思ったが、一応必要なことだから仕方ない
「まず第一に、陽太の能力のおさらいだ、陽太自身が炎を出してその炎の総量と熱量に比例して身体能力が強化される、ここまでは問題ないと思う、けどその根幹部分が問題だ」
「・・・根幹って・・・どういうことだよ」
静希の言葉に陽太は理解が追い付かなかったのか胡坐をかいた状態で首をかしげている
そこで静希は何も書いていないメモ用紙を一枚陽太に手渡す
「お前の能力が本当に発現系統なのかどうかのチェックだ、それ持った状態で能力使ってみろ」
その意味がほとんどわかっていないながらも、陽太は静希のいう通り能力を発動する
その体から炎が吹き出し、人から鬼の姿へと変わっていく陽太、周囲に熱量を振りまきながら顕現した炎の鬼を見ながら静希と鏡花は頷く、だが陽太と明利は未だこの行動の意味が分からずにいた
「じゃあ陽太、能力を解除しろ」
「・・・?これに何の意味があるんだよ」
指示通りに能力を解除すると、先程持っていたメモ用紙は跡形もなく燃え尽きてしまっていた、それを見て静希は小さくふむと呟く
鏡花もそれを見てノートにいろいろと記しているようだったが相変わらず陽太と明利はこの行動の意味がつかめていない
「じゃあ次、陽太、能力であれに火をつけてからその真上に腕を構え続けててくれ」
「わかった」
次に静希が指示したのは鏡花の能力で油が敷き詰められ、ロープに点火できるようにした疑似的な巨大蝋燭のようなものだ
陽太が火をつけると勢いよく高さ一メートルほどの火がともりあたりを明るく、そして暑くしていく
陽太が能力を発動した状態でその巨大蝋燭の上に腕を置くと、その腕よりも上の部分に炎が届かない
指示して低い部分に腕を置いても同じだった
「静希、こっち準備できたわよ」
「了解、んじゃ陽太、今度はあっちで同じように腕を構えててくれ」
「オーライ」
すでに考えることは放棄したのか、陽太は鏡花が静希の持っていたバーナーで点火した巨大蝋燭の真上に腕を置く
先程と同じように一メートル近い高さの炎があったにもかかわらず、陽太の腕よりも高く炎が上がることはなかった
「・・・なるほどな・・・確かにこりゃ・・・」
先程からロープの上から燃え盛っている炎は、先に鏡花が言っていたように陽太の体の中に、いや陽太の炎の中に吸い込まれているような印象を受ける
本来炎は燃え上っている先に物体が現れた時、その物体を避けるかのように湾曲し上へと燃え上がろうとする性質がある、なのに陽太の能力発動時の体に触れている炎はよけようともせずにその体にあたり続け、姿を消し続けている
「炎を吸収・・・いや・・・これは・・・」
「まるで炎と同化してるみたいね・・・」
静希が仮説を口に出すより早く、鏡花が言おうとしたことを口にした
炎と同化
その言葉に陽太と明利は相変わらず首をかしげているが、静希と鏡花は何かしらの解答を得たらしく陽太の体を注視しながらその特性をさらに把握しようとしていた
「あの・・・結局陽太君の能力っていったい何なの?」
さすがに疑問を抑えきれなかったのか、その場で見ていた明利が挙手しながら質問を飛ばすと、静希と鏡花は少し唸りながらどう回答したものか悩み始めてしまう
「・・・俺らも確信は持ってないけど、陽太の能力はまず間違いなく発現系統じゃないってのはわかった・・・ただその原理がわからないんだよなぁ・・・」
「変換も使われてるっぽいんだけど、こいつがここまで高度な変換使えるわけないし・・・んんんん・・・」
「えっと・・・とりあえず説明してくれないかな・・・」
思考能力が高い二人はすでに疑問を次の段階へと進めているのだが、一般的な頭脳しか持ち合わせていない明利はさっぱり状況が理解できなかった
一般以下の頭脳である陽太はすでに思考を放棄しているのは言うまでもない
「さっき俺が陽太にメモを渡してから能力を使わせた時、メモは完全に燃え尽きてた・・・これは陽太の炎が燃やす対象の分別なんだけど、手に持っている物は燃えたのに、陽太が着ている服は燃えなかった、ここが問題だ」
「・・・それって、今までもよくあったことだよね?」
今まで陽太が能力を発動した際、誰も気にも留めずに衣服などが燃えていないことを当然だと思っていたが、実はそうではない
燃やす対象が限られているのかとも思ったのだが、発現系統であると考えるとそれはおかしい
発現系統はあくまで現象を起こすもの、その体を炎で包むなら、その体含めすべてが炎に包まれることになる
仮に陽太が身体能力強化を行っているとしても、衣服は燃えるはずなのである
「そう、今までよくあったんだ、燃えてないもの、燃えてるもの、燃えかけてるものもあった、そこに違いがあるんだ・・・あれは燃えてないんじゃなくて、燃えない状態に変わってるんじゃないかってのが、俺と鏡花の結論だ」
静希の言葉に明利は首をかしげてしまう、静希が言いたいことがわからないのか、考えているのはわかるのだが、どうにも静希達の思考まで追いつかない
「私の仮説は、陽太が自分を含め、自分の周りの衣服を燃えない素材あるいは燃えないような状態に変換して、能力を解除すると同時にまた元の物体に戻すって感じの能力なんだけど・・・さすがにそんな高度な変換をこいつが行えるとは思えないし・・・」
「・・・えっと、陽太君は炎を自分で出してるけど、それは発現じゃないの?」
「発現系統の能力も入ってるだろうけど、陽太の能力はそれがメインじゃないんだとおもう、じゃなきゃこんなこと起こらない」
能力者の能力は何も単一の能力系統で形成されているわけではない、多くの系統能力が複合されて形成されているものがほとんどだ
静希の場合、トランプを自ら作り出す発現、トランプに物質を入れる収納、そして入れた物に特殊な効果を与える付与、この三つの系統で形成されている
明利は生き物への同調と、強化
鏡花は物質の変換と同調、このようにいくつもの系統が組み合わさり、その中で一番要素の強く大きいものがその人物の主系統能力となる
陽太の場合、発現系統の力も含まれるが、それ以外にも何かがあるのだ、それが何かというのが問題である
炎を出すだけの能力はいくらでもある、だが発現系統は本来の現象とは異なった形で具現することが多い
以前静希が戦った淀川も光そのものを創り出すのではなく、光に固体としての性質が加わったものを創り出していた、陽太の炎もそれに近しいものだと考えていただけに疑問は深くならなかった
だが今回炎を取り込むという現象を目にすることで話が大きく変わったのだ
陽太のメインの系統は、発現ではない
強化の能力もかなりの割合で入っていると思われるのだが、能力の根幹部分ではないのだ
「・・・考え方を変える必要があるかもな」
このままでは話が進まないと感じたのか、静希は一度視点を変えてみることにした
今の考えややり方で答えが出ないのであれば、別の考え方ややり方をするしかない
「どういうこと?」
「こいつの能力が、今まで存在した系統以外のものだった可能性を考える」
静希の言葉に鏡花は眉をひそめた
現在人間が能力を解析し発見した系統は『発現』『強化』『変換』『転移』『予知』『収納』『付与』『同調』の八つ
この八つ以外のところに陽太の能力は属しているのではないかと考えたのだ
「なるほどね・・・確か去年の秋ごろに新しい能力系統が発見されたかもみたいなことは言ってたけど・・・」
鏡花の言っているのは発現系統の中でさらに異質な系統の能力が発見されたというニュースだ、静希も詳しくはまだ知らないし、委員会の方でもまだ認められていないために正式には新しいとまでは言えない
静希の記憶では『創造』というカテゴリーだった気がする
だが今回の陽太の現象はそれとはまた違う
「陽太のはまた別で考えるべきだろうな・・・鏡花の言う通りこいつが高レベルの変換能力を使ってないってことを考えると・・・『そうなることが当たり前』の能力だとしたら」
汎用性の高い能力は、必然的にその汎用性の高さ故に普段行わないことほど集中力や努力が必要になってくる、だがまったく汎用性のない、一つのことしか行えない能力はさして集中力もいらず、努力もそれほど必要ではない
つまり陽太の能力は、ほぼ自動、無意識の状態でも体および周囲の物の変化を起こすことが可能な能力だということになる
「ただの発現や強化じゃないっていわれてもなぁ・・・」
当の本人は静希達の話についていけずに自分の能力を発動しながらあちこちうろちょろしている、見ていてあまり面白い光景ではないが、その言葉に静希は思い当たることがあった
それは一体いつのことだったか、かつて陽太が、そして静希が誰かから聞いた言葉の中にそんな言葉があった気がする
『へえ、ただの発現か強化と思ってたんだけど、面白いわね』
その言葉は、静希が初めて彼女と会ったあの山で、陽太が彼女に拳をぶつけた時に言っていた台詞
思い出した
そう小さくつぶやきながら静希は自分のトランプの中にいる人外へと意識を向ける
誤字報告が25件分溜まったので六回分投稿
とうとう六回分・・・!一気に・・・!
これからもお楽しみいただければ幸いです




