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J/53  作者: 池金啓太
十七話「追い追われる先に」

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その事件の裏と名無し

日が落ち切ってから、静希達は行動を開始していた


工作活動は夜に行う方がやりやすい、特に能力者の場合その傾向は顕著に表れる


収納、同調、発現、この三系統がそろっている状況ではさらに夜に置いての行動は行いやすい


一番最初に向かったのは山本孝之の事務所だ、城島の能力で半ば飛翔するかのように空中を落下し事務所の屋上に降り立つと、事務所内にフィアを用いて種をばらまき目標の人物がいないかを捜索したところ、目標はすぐに見つかった


まず最初にするのは彼に明利のマーキング済みの種を取り付けることだ


彼が身に着けている物のどれか、特に気づかれにくい足元に取り付けることにし、同じくフィアの力を借りてひそかに極小の種を仕込むことに成功する

今回は城島の指揮の下、まずは通信を切断するところからスタートした


電話線などを徹底的にフィアの持つげっ歯類の歯により噛み千切らせこの事業所自体の通信を途絶させた


目標はまだ異変にまったく気づいていない様子だった、自分が捜査の対象になっているということにまだ気づいていないのか、それとも気づいていながら何もしないのか、それともすでに工作は終えているのか


事務所内の様子をうかがっているとどうやら携帯で通話を始めたようだった


「五十嵐、私が仕込みをする、その間に侵入して動揺を誘え」


「了解です、明利ナビ頼むぞ」


「了解、ナビゲーションスタートします」


携帯にイヤホンをつないで耳に直接明利の声が届くようにした後通話状態を常にオンにしておく、そして城島の合図があると同時に静希は目標のいる部屋の隣の部屋の窓から侵入する


合図とともに城島が行ったのはこの建物の全ての電源を落とすことだった、行動自体はとてつもないようなことに聞こえるかもしれないが、能力を使ってブレーカーのスイッチを落としただけのことである


そして建物全体の電気が消えると同時にメフィの協力によって窓から悠々と中に侵入した静希は息を殺し物音をたてないようにゆっくりと移動を開始する


『目標、先程の部屋の中から移動しようとしています、このまま進めば数十秒で部屋を出るかと』


心の中で了解と呟きながら静希はゆっくりと部屋の前まで移動する


そして明利の予想通り数十秒後に部屋の扉をゆっくりと開いて携帯ライトの明かりを頼りにして移動している山本孝之が現れる


その姿と顔を確認すると、静希は死角から彼の足をひっかけその場に転倒させる


暗闇のおかげかこちらには気づいていないため、目標は容易に、そして簡単に転倒しその手から携帯を取りこぼした


苦しそうな声を出しながら、僅かに光を放つ携帯を拾おうとするが、先程まで手に持っていた、どこかに転がったはずの携帯はあたりには見当たらなくなってしまっていた


携帯はすでに静希が回収し、トランプの中に収納してしまっていた


目標が転ぶと同時に移動した静希は、彼が転ぶ音に乗じて携帯を回収しその場から脱出していた


「姿は見られていないだろうな?」


「問題ありません、指紋も残していませんよ」


その場に静希がいたという痕跡はなく、ブレーカーの落ちた事務所内で彼が携帯を無くしたという結果だけが残った


不自然なのは当然のことだろう、だがその不自然は確実に彼に不安を湧き上がらせていた


当然のように事務所の人間の誰かがブレーカーを上げ、事務所内に電気がともると彼は再び携帯を探そうとするが、いくら探しても携帯は見つからなかった


事務所内の人間に電話をかけさせても全く通じない


当然と言えば当然だ、静希のトランプの中に入れてしまった以上電波など通じるはずもない


もしかしたら落とした衝撃で壊れてしまったのではとでも思ったのか、先程携帯に連絡していた相手と通話しようと事務所の電話を使おうとしているが、それらは完全に機能を停止してしまっている


なにせ電話線自体が断線しているのだ、使用できるはずもない


「どうします?このまま情報を仕入れさせないようにして圧力をかけていきますか?」


「いや、この後奴は恐らく自宅か連絡できる場所へと向かうだろう、後をつけて妨害行動を続ける・・・あいつは今日は寝させないぞ」


「了解です」


今回徹夜仕事になるということは覚悟していたが、相手にもそれを強いるあたり城島も性格が悪い、そしてそのための行動を即座に思いつく静希もそれと同等以上に性格が悪い


そして城島の読みは的中する


事務所全体の連絡網が使えないとわかると、山本孝之は自宅に戻るのか、車を走らせ始めた


ここで事務員の携帯を借りないあたりはさすがだというべきか、他人の携帯に証拠にもなりかねないような情報は残さない、さすが黒い噂が絶えないだけはある


そして帰宅途中、信号で停止したところで静希は車の後部車輪の片方をパンクさせる


使用した釘も回収し、唐突にパンクが起きるという不幸な状態を起こし目標を混乱させた


携帯も紛失し、車もパンク、彼は近くの駐車場に車を止めその場からタクシーを拾って帰宅することにしたようだ


城島の能力で後をつけ、彼の自宅にやってくると事務所でやったことと同じ工程を繰り返し、完全に外部との接触を断たせる


相手を疲弊させるのはまだまだこれから、静希達の嫌がらせの夜は長い


自宅に帰ってからも電話が通じないという状況に、基地局自体が落ちているのではないかと勘違いしたのか、山本孝之は多少予定が狂わされたことで疲れたのか、そのまま就寝するようだった


もっともそのまま寝させるつもりなどない


低周波騒音とでもいえばいいのだろうか、城島の能力を利用し彼の寝室の窓ガラスや物品を小刻みに振動させる


不快な音が響く中、寝られないのか目標は何度も寝返りを打っているようだった


そんな状況が何時間続いただろうか、時刻はすでに朝の六時、意識の限界を迎えて眠りそうになった瞬間に城島の能力で疑似的な金縛りのような状態を起こしたり、静希のトランプを操って部屋にある小物を倒したりと、まるで心霊現象のような不可解な状況を何度も起こさせることでまったく眠らせることをしなかった


本気の嫌がらせというのは本当に恐ろしいものである、というより静希と城島をその気にさせてしまったのが運のつきと言うものだろうか


明利はだいぶ眠気が強いのか、舟をこぎ始めておりまともに意識があるとは思えない状況だが、すでに明利は十分働いた、後は彼が夕方まで妙な行動をしないように監視、およびこれからも逐一嫌がらせをするだけである


気分が高揚しているためか静希は全く眠くならなかった、完全に頭が回っているのがわかる、それほどまでに冴えわたり、山本孝之をいかに追い詰めるかの方向に思考が向けられている


ここまで嫌がらせに全神経を向けられる状況というのも珍しい


「どうします?完全に徹夜させたわけですけど」


「一度場所を変えるぞ、さすがに日が昇ってからはここでは目立つ、相手が寝てくれるのならそれはそれで成功だ・・・軽く見張る程度にしておこう、幹原も潰れたようだしな」


自分の体に寄り掛かって静かに寝息を立てている明利を見て僅かに苦笑しながらその小さな体を抱きかかえると、静希は城島と息を合わせて家の屋上から跳躍して音や衝撃の無いように地面に着地する


周囲に人影はない、見られてはいないだろうがすぐさま場所を移動する


家を徹底的に見張っていたが、結局目標は昼まで家から出ることはなかった

昼過ぎになって出てきたときその顔を見て静希は笑いをこらえられなかった、不可解な現象におびえながら夜を過ごしたせいか、一度寝たのだろうがその心的疲労と不安は顔に出ており随分とやつれたように見えた


車がつかえなくなったせいでタクシーを呼ぼうとしたのだろうが、携帯もなくし家の電話も通じなくしてある、歩きで出てきたところを見ると徒歩で向かうようだ


後を追うこちらとしてはありがたい限りである


そして彼が駅に着こうという頃、城島の携帯に連絡が入る


どうやら準備ができたようだ、夕方までかかると言っていたのに随分と早く準備が完了したものだ


こちらも情報を渡すのを急いだ方がよさそうだ、雪奈に連絡してこちらに情報を運んでくれるように頼んではあるものの、その情報がどんな形で届くかもわからないためもしかしたら予想以上に時間がかかるかもしれない、後で雪奈に確認をとっておくべきだろう


「一足先に事務所の方に行くぞ、向こうも準備を終えているそうだ」


「了解です、明利、そろそろ起きろ」


「ふぁ?・・・あれ?あさ・・・?」


微妙に寝ぼけたままの明利を背負いながら静希は苦笑する


さすがに明利に徹夜させたのは無理があったかもしれないと少し反省しているのだ


城島もちでタクシーを使って一足早く事務所まで向かうと、その場には一見何も変わっていないただの事務所がある


すでに準備は終えているというが、一体何をどうするつもりなのだろうか


「五十嵐、事務所にあらかじめ潜伏しておけ」


「え?でも俺の役割なんてもうないんじゃ・・・」


城島の言葉に、もう自分の出番はないとばかり思っていた静希は明利をだっこした状態で首をかしげる


未だ意識がもうろうとしている明利を城島が担いでため息をつくと、その瞳が鋭くなっているのに気付いた


「最終確認のようなものだ、山本孝之が本当に今回の件の首謀者なのか否か、そしてもしそうなら、奴の後ろには必ず誰かいるはずだ、可能なら聞き出しておけ、方法は任せる・・・」


その言葉に静希はようやく理解する


ただの政治家が静希を邪魔に思う理由が見当たらないのだ、となれば何らかの取引の材料に使われた可能性が高い、となればその先に静希を邪魔に思う何者かがいるはずだ


言ってしまえば、静希の敵ともなる相手がいる


それが誰なのかわからない以上、知る必要がある


警察に引き渡されてまともに接触できる時間が少なくなる以上、これが静希が直接接触できるラストチャンスになるだろう、その機会を失うのは惜しい

相手が自分を脅威に思っているのであれば必ず何かしらの提案をしてくるはず、それが悪魔の契約者ほどの存在ならなおさらだ、そのあたりの立場を利用して相手から話を聞くのがベストだろう


「わかりました、これが終わったら、さすがに休ませてもらいます」


「好きにしろ、必要なら数日学校を休んでも構わん、上には私が通しておく」


犯人にされかけたのだ、精神的負担を負ったという風に言えば多少の休みは許してくれるだろう、最もその分周りの勉強は進んでいるからあまり長くは休めないが


ようやく終わりが見えた、そう実感して静希は自分に喝を入れる、あともう少しだと




山本孝之の昨日は散々だった


夜中に停電したかと思えば携帯電話を無くし事務所の電話は通じなくなり、家に帰る途中車がパンクし、家に帰れば同じように電話は通じず、また夜になると謎の怪奇現象のオンパレード


お祓いに行ったほうが良いかと考えながら慣れない電車通勤をして事務所までたどり着いた


件の事件のことについて最終経過を聞くまでは安心できない、だからこそ連絡を待っていたのに連絡手段が使えなくなるという事態だ、こちらから連絡してもよいが向こうの都合の悪い時に電話をかければ怪しまれる、今は連絡を待つしかない


自分の部屋に入ると、部屋がわずかに暖かい、誰かが暖房をつけておいたのだろうか


奥に行って自分の机に座り一息ついて窓の外を眺めていると扉の鍵が閉まる音がした


その方向を見るとそこにはスーツを着た黒髪の男性、いや少年が立っていた


「・・・誰かな?」


自分の問いに答えることなく、少年は自分の前までやってきて静かに笑う、

その顔を見て山本孝之は目を見開いた


「き・・・君は・・・!」


「・・・やぁ、初めまして山本孝之さん、俺が今ここにいる理由、わかってるだろう?」


この反応がすべてと言ってもいいほどに、山本は大きく後ろに飛びのいて静希から距離をとろうとしていた


静希はこの部屋の物陰で身をひそめ、機を見計らって出てきた、ただそれだけのことだ


何の訓練もしていない人間を相手に隠れるなんてお手の物とでもいうかのように完全に気配を悟られぬようにして唐突に現れるような演出をすることができた


そしてどうやらさすがに静希の顔くらいは知っていたようだ、自分がはめようとした人間の顔も知らなければさすがの静希も怒気を抑えきれなかったかもしれない


「なぜ君が・・・!?警察は一体何を・・・」


「もうすでに種明かしは済んだんだよ、あんたの差し金ってことも、あんたがやってたことも全部」


静希の言葉に冷や汗を流しながら一歩二歩と後退し少しでも距離を開けようとする


だが遠のいた分、静希もまた一歩二歩と歩み寄り距離を縮める


この反応を見る限り事の顛末をまだ正確に把握していないようだった、警察からの情報源は橋本署長に頼り切っていたのかもしれない


「最後の答え合わせがしたくて来たんだ、俺も俺の連れもご立腹でな・・・なぜ俺をはめた?お前の後ろには誰がいる?誰の差し金だ?」


山本を壁まで追い詰めて静希はどすの利いた声を響かせる


今まで溜まりに溜まったフラストレーションが噴き出しそうなのを抑えながら、膨大な怒気とほんのわずかな殺気を含めながらにらみを利かせるが、山本は笑っていた


「ま、まぁ落ち着いて、私の話を聞きなさい・・・そうだ、私に協力してくれないか?君となら」


「俺は質問をしたぞ?二度は言わせるな」


その瞬間、山本の背後から何者かの手が伸び、その首を強く締め付ける


その手は褐色、それはあらかじめ静希が配置し、山本の視線が静希に集中したすきを見て解放したメフィの腕だった


背後に誰もいなかったはずなのに唐突に現れた腕に山本は困惑しながら視線を静希に向ける


言わなければ殺すぞとでもいうかのような強烈な圧力を加えながら山本の命乞いとも取れそうな言葉を遮って視線を鋭くすると、さすがに観念したのか山本は歯噛みしながら悔しそうにうつむく


「・・・君が悪魔の契約者だと・・・教えてくれた人物がいる・・・君を潰せば、悪魔と契約させてやると」


その言葉に静希は表情こそ変えなかったが、内心驚きを隠せなかった


自分が悪魔の契約者だと知っている人間はかなり限られる、その中で自分を裏切りそうな人間に心当たりは、いくつかあるものの、もう一つの内容が問題だ


悪魔と契約させてやる


悪魔との契約ははっきり言ってリスクが大きすぎる、静希やエドのように特殊な条件で悪魔自体に気に入られでもしない限りまともに取り合ってもらえるとは思えない


悪魔にはそれだけの力があり、もし無理矢理にいう事を聞かせたいのであれば以前メフィの言っていた悪魔の心臓に細工をするしかない


だがそんなことが無能力者にできるとは思えない


「・・・それを言っていたのは誰だ?名前は?顔は?」


「・・・顔は知らない、仮面をつけていた、名前は、リチャード・ロゥと名乗っていた」


その名前が出てきた瞬間、静希は一瞬呆けた


今まで静希の周りに起こった召喚事件に関わってきたと思われる、リチャード・ロゥ


一度は静希の詳細を知らないまでも情報を漏らすだけで済ませていたようだったが、今度は名指しで、しかも確実に潰すように計らってきた


唐突に静希がしゃべらなくなったことで山本はどうしたのかとその顔をのぞき込むが、その表情は一瞬で凍り付いた


静希の顔は、満面の邪笑を浮かべていたのだ


「そうか・・・そうか・・・そうか・・・そうか・・・!」


邪笑を浮かべながらつぶやく静希を前に山本は完全におびえていたが、まだあきらめている様子はなかった


「こ、こいつと契約している悪魔、聞こえているならそのまま聞いてくれ、こんな子供は見限って私と契約しろ!望むものは何でも与える!こんな子供より、私の方が何倍も君にふさわしい!」


山本の言葉は事務室の中に響くが、何の反応もない、流石に今自分の首を絞めているのがその悪魔であるとまでは想像できなかったのだろうか、虚空に向けて必死に絞り出した声が部屋に染み渡るのを感じてから静希は邪笑を浮かべながら山本の口を掴む


「笑わせるな、ふさわしいかどうかは俺たちが決めることだ、何も知らないただの男に俺の悪魔がなびくかよ」


そう吐き捨てて静希はメフィを回収し山本の首が解放されると即座に組み伏せる、それと同時に何人もの警官が押し入ってきて山本を完全に確保した


その騒動に乗じて静希はその場から抜け出し、外で待機していた城島と国岳と合流することができた




「どうだった?裏は確認できたか?」


待っていた城島の横には先程まで意識を朦朧とさせていた明利がいる、どうやらもう完全に意識は覚醒した様でしっかりと目を開けて静希を見つめていた


「報告の前に、国岳さん、例のもの受け取ってくれました?」


「あぁ、警視庁で君のお姉さんを名乗る子から受け取った」


国岳の手には記憶メモリが握られている、恐らくはあの中に膨大な量の情報が入っていることだろう、あんな形で送られてくるとは思わなかったが、持ち運びが便利なことはよいことだ


「なら、山本孝之の取り調べを綿密に行ってくれますか?特に今回のことを指示した人間に関して、それがわかったら教えてほしいんです」


「取り調べに関しては言われるまでもなくそうするつもりだ・・・教えられるかどうかはわからないが・・・尽力しよう、それじゃあ俺は仕事がある、またな城島」


用件は済んだのか、国岳は事務所の中に入っていく、この先が彼にとっての本当の仕事なのだろう、これから先忙しくなりそうな背中を見送って静希はわずかに目を伏せる


城島も同じく国岳の背を見送った後で、今度は視線を静希に向けた


「で、裏に誰がいた?」


「・・・今のところ何もわからないに等しいですが、一つキーワードが出ましたよ・・・リチャード・ロゥ」


その名前を聞いた瞬間に城島は鋭い目を見開いた、今回の件がどういう内容であるかを察知したようだ


それは城島も既知の内容であるうえに、彼女も少なからずかかわりのあった事件の裏側にいた人物でもあるのだから


「なるほどな・・・どこぞの『名無し』が本格的にお前に牙をむいてきたか」


「えぇ、どうやって俺のことを調べたのかは知りませんが・・・少なくとももう俺に敵意を向けているのは確実でしょうね・・・」


名無し、リチャード・ロゥという名がジョン・ドゥや名無しの権兵衛のような身元不明の人間を表す名であることを意図した城島なりの皮肉だろう、名無しというのはある種的を射ているかもしれない、顔も分からない、本名も分からないのでは名無しと呼ぶほかない


わざわざ静希を指名して行動してきたということはそれだけ静希が脅威になると感じたからでもあるだろう、どこかで召喚事件を二回も起こしている人間が邪魔に思うほど静希の脅威度は上がってきているという事でもあり、その分リチャード・ロゥが静希とは対極的な場所にいるという事でもある


直接的にではないとはいえ、確実に潰しに来た


日本にいるかまではわからないが山本孝之の持つ情報源は非常に役に立つだろう


今までつかめなかった尻尾がようやくつかめるかもしれない


自分を、ひいてはエドを巻き込んだ人間が今どんな顔をしているのか楽しみで仕方がない


笑っているのであればそれでもいい、いつかその笑顔を消して見せる


静希は笑みを浮かべながらどこかにいるであろう『名無し』に向けて心の中で宣戦布告する


城島はそれを見てため息をつくが、どうやら彼女としても止めるつもりはないようだった


実際に恥をかかされているのは静希だけではないという事だろう、なにせ自分の教え子が犯罪者扱いされたのだ、今回の件は警察に厳重に抗議すると言っていたが、どのような結果が生まれるかはわからないでいる


「あ、あの、静希君・・・そろそろ」


「ん、そうだな、そろそろ帰るか」


自分の裾を引っ張る明利の方を見て静希は微笑んだ


全てが終わった日、その時ようやく静希は普通に笑ったような気がする


緊張を強いられ、戦闘をし、考えを巡らせた中で、ようやくまともに気持ちを落ち着けてリラックスできたような気がする


明利には感謝しなくてはいけない、そして陽太、鏡花にも感謝しなくては

雪奈にはあとで謝っておかなくてはならない、ほとんど何も言わずにいなくなって勝手にお願いしたのだから


『シズキ、戻ったら今回のお願いの分、きっちり返してもらうからね』


『今回はかなり働いたからな、それなりの報酬を所望するぞ?』


『お疲れ様でした、まずはご自愛ください』


人外たちの言葉が響く中、静希は少しだけ落胆する


契約は契約だ、対等契約を結んでいるメフィにも、守護してくれている邪薙にも、自らの剣であり騎士であるオルビアにも、そして使い魔であるフィアにも今回はたくさんお願いをした、その分の返済がかなりたまっているのだ

今月は厳しくなりそうだなとため息をつきながら静希は明利を連れて鏡花と陽太のいるであろう警視庁へと向かうことにする


今回、静希は一時的にとはいえ社会そのものを敵にした


一度法を犯せば、今度は本当の意味でこの日本社会が静希の敵に回るだろう

人は一人では生きていけない、だからこそ社会と言うものがあり、社会に守られることで生きていける


社会を敵に回すことの恐ろしさを、静希は身に染みて理解した


もうこんなことはこりごりだと思い、違法行為などは可能ならばしないようにしようと心に誓ったのである


もっとも、それが自らの行いにすべて反映されるかどうかは、その時の静希の機嫌次第である


その行いが反映されるのがいつになるか、そして静希がこれから社会の中で、どのような形で生きていくのか、学生でしかない静希はまだまだ分からない


ひとまず今は、ようやく得た休息を味わうべく後始末に追われる仲間の下へと向かうことにした


二十回投稿完了


そして今回で十七話が終了しました


丁度いいところで切れました、今回はいろいろと思うところのある内容なので突っ込みどころも多いかと思いますがどうかご容赦ください


これからもお楽しみいただければ幸いです

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