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J/53  作者: 池金啓太
二話「任務と村とスペードのクイーン」

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初の校外実習 終了

「今回の件、ふう・・・東雲を助けてくれて礼を言う、ありがとう」


「別にいいってことよ、つかお前名前は?」


まだ自己紹介すらしていなかった現状に今更ながら呆れ、そしてエルフは佇まいを直す


「申し遅れた、私は喜吉学園高等部一年C組三班所属石動藍だ、重ねて礼を申し上げる、本当にありがとう」


「まぁいろいろ大変だったけど、無事だったからよしとするさ、俺は五十嵐静希、一年B組一班だ」


「面倒なのに変わりはなかったけどな、俺は響陽太、以下同文」


「こういうのは二度とあってほしくないけどね、同じく一班班長清水鏡花」


「お、同じく一班、幹原明利、ちょっとだけ栄養失調を起こしかけてたから栄養面は気をつけて安静にしてればすぐに元気になれると、思います」


「二年B組七班、『切裂き魔』の深山雪奈だ、よろしくな」


「そう突っかかるな、同じく七班熊田春臣だ」


全員の自己紹介が終わったところで静希が東雲の近くに腰を下ろす


「石動は東雲のことを知ってたのか?」


「あぁ、風香とは家が近所でな、よく世話をしたものだ、行方知れずとなった時は気が気でなかった」


確かに、静希も明利が行方知れずとなれば血眼になって捜すだろう


雪奈や陽太が行方不明になっても勝手に帰ってきそうな感じはあるが、きっと探すだろう


そういう意味で先ほどの城島の嘘は極めて性質が悪い


「普段は風香って呼んでるんだな」


「あ・・・いや、気にしないでくれ」


意識していなかったのか出てしまった、と言った様子で少々バツが悪そうにうつむいていた


「ま、なんにせよ後は先生方の協議の結果次第だな・・・そういえば石動、お前は今回のことをどこまで把握してるんだ?」


「今回のこと・・・というとふう・・・東雲のことか?」


「好きなように呼べよ気にしないから、何でこの子が村からいなくなったのか、その理由を知ってるか?」


今回東雲が暴走したきっかけは悪魔を召喚し、憑依させたことでエルフのキャパシティをはるかに超える魔素を注入され、少女が暴走した、結果こんなところまで来た


恐らく彼女には本当のことを話してはいないだろうが、一応確認だ


「私が知っているのは精霊召喚の儀式中にトラブルがあり、風香が暴走したということだけだ、その後、この村の方々にご迷惑をかけたのも先ほど聞いた」


東雲が寝ていなければできない話だ、ちょうど熟睡していてくれて助かった


「風香には、この子が村にやったことを話したのか?」


「いんや、獣の討伐途中で迷い込んできたところを保護したってことにしてる、その方がいいだろ、この子自身何も覚えていないみたいだしな」


東雲が大人びているとはいえまだ十歳の女の子だ、自分のせいで作物をいくつか潰し、なのに良くしてくれている村人を見るのは辛いだろう


「そうか、ではこの子が大きくなって、自分がしたことを理解できるようになったら、その時は私から話そう、その方がこの子のためだ」


知らないままということはできないだろうし、する気もないようだ


いつかは知らなければいけないことだし、知ることで彼女はこの村に何をするべきかを考えることができる


「あとはエルフの問題だからなぁ、俺達が介入するわけにもいかないし」


「あぁ、その点は先生方の采配次第だろう」


「先生の様子だと全面抗争しそうな勢いだったよな」


「確かにね、すごい剣幕だったし」


確かに城島のエルフへの不満や怒りはただ事ではない、明らかに敵意を持っていると言っていい


それほどに今回の対応がお粗末だったからだろうが、やり過ぎなければよいのだが


全員で唸っていると同じく東雲が唸りだし、どうやら目を覚ましたようだ


「あ・・・五十嵐さん・・・」


最初に目に入ったのは静希だったようだ、そしてあたりを見回してその姿を見つける


「あ・・・藍姉さん!」


眠気も何もかも吹き飛んだのか、東雲は石動に抱きついた


「藍姉さん・・・よかった・・・会えた・・・」


「風香、もう大丈夫だ、大丈夫だからな」


お互い顔も見えないのによく相手が判断できるものだと感心しながらも、微笑ましくも感動の再会シーン


若干仮面がその感動を阻害しているように見えなくもないが、この際そこは無視しよう


「東雲、今先生がお前を引き渡す手続きをしている」


はずだ


「もう少ししたら村に帰れると思うぞ」


「本当ですか・・・よかった・・・」


知り合いに会えたからというのもあるのだろうが、東雲は非常に幼い声を出している、昨日までの張り詰めた声ではなく年相応の声だ


「お姫様ともこれでお別れか、今のうちに愛でておくか?」


「陽、変なことしたら首と胴がさようならするからな?」


「わ、わかってるって」


ナイフを構えながら笑う雪奈は目が据わっている、あれは本気の目だ


どたばたと足音が聞こえてきて襖を勢いよく開いたのは城島だった


「お、東雲もちょうどよく起きたか、お前達も聞け、これから撤収作業に移る、清水、全員に指示を出して部屋の掃除片づけ、塵一つ残すな、村長夫妻が起きてしばらくしたら挨拶をしてからここを発つ、エルフの二人も同様だ、しっかり礼を言っておけ、以上、作業にかかれ」


「あ、ちょっと先生」


静希は城島を呼びとめようとするが、城島は少し静希の目を見ただけでそのまま行ってしまった


「それじゃ後片付けしましょ、布団やらなんやら片付けないと」


鏡花はテキパキと周囲の片づけを始める、布団、散らかした荷物、小さなゴミまで次々とまとめていく


現在の時刻は朝七時、ようやくあたりから朝らしい鳥の声が聞こえ始める


それからはもう時間が経つのが早かった


片づけをしていると夫妻がやってきてあいさつ、その後村を一周回って異常がないかを確認してから全員でバスに乗り込み、牧崎村を後にした


石動属する捜索班とは途中で分かれ、静希達は先に帰路につくこととなった


「結局、エルフとの対応はどうするんですか?」


「あの場にいる人員では決められん、だから後々お偉方を踏まえおど・・・交渉する」


一瞬脅すと言いかけたのは気のせいではないだろう


城島が言うと本気でやりかねないから恐ろしい


エルフの二人と別れる際に交わした言葉が、静希の印象には深く残っていた


『ありがとうございます、五十嵐さん、みなさん、このご恩は決して忘れません、いつか必ずお返しします、この仮面に誓って』


『大きな借りができてしまった、いずれ仮面に誓って返すことを約束しよう』


エルフの常套文句なんだろうが、非常に違和感のある台詞だったのを覚えている


「にしても、波乱万丈だったわね」


「あぁ、こんなに疲れる物だとは思ってなかったぁ・・・つかれたー、帰って寝てえ」


「でも、レポートも出さなくちゃ・・・」


「はっはっは、陽には厳しい課題が残ったな、まぁ誰もが通る道だ」


「今回はトラブルがあったが、十分な働きだったよ、この調子で頑張ることだな」


全員が疲れを残しながらも達成感ある顔をしている


問題は残っているだろうし、やることもまだあるが、とりあえずは校外実習が無事終了したことをみんな喜んでいた


こうして静希達属する一班の初めての校外実習は終わりを告げた


五体満足、班員もこれと言った不調もなく、問題もなく、何も変わりなく家路についた


静希のスペードのQの中に上級悪魔を宿したこと以外、問題はなかった


ようやく二話終了しました


本編の一話というだけあって少し長めのような気がします



楽しんでいただけたのなら嬉しいです


これからもがんばって更新していきます

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