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J/53  作者: 池金啓太
十七話「追い追われる先に」

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静希VS陽太

人込みを経由して何とかまこうと静希は街中を多少足早に移動するものの、陽太の追跡を振りほどくことはできなかった


集中状態にある陽太の視力と聴力、そして嗅覚は欺けないのか延々と静希とオルビアの姿をロックして追いかけてくる


敵に回すとこれほど厄介な存在もないなと実感しながら静希はため息をつく


「どうしますか?このままでは振り切れるとは思えませんが・・・」


「そうだな・・・ここまで付いてこられるとなると・・・さすがにどうにかしないとな・・・」


このまま追跡され続けるというのは静希の現在の立ち位置を考えるとあまり良くない


それに陽太が単独でこちらにきているということは鏡花たちもそれに気づいている可能性もある、もし本気で静希を捕えようとしているのなら陽太を囮にして静希を完全に包囲するつもりかもしれない


もっとも今陽太は完全に単独行動をしているのだが、それは静希は知りようがないことである


一方、陽太が静希に気づいたのは本当に偶然だった、いや理由もないただの勘と言ってもいいものである、偶々通り過ぎた時に鼻から息を吸い込んでいて、その匂いを感じ取り、頭で判断するより早く足を止めた、そしてそこから振り返って視線の先にいる二人を見た


なんとなく、本当にただ何となく、あれは静希だと、そう思ったのだ


直感というにはいささか鋭すぎるその感性、もはや第六感と言い換えてもいいほどの直観力は、本人である陽太でさえ認識できていないだろう、最初疑いながらの追跡だったが、後を追えば追うほど、疑いは確信へと変わっていく


徐々にその姿は静希のそれと重なっていき、陽太は完全な集中状態に入っていた


やがて静希達はこの辺りで一番大きい公園に入っていった


大きな草原にも似た芝生、鬱蒼とした木々に園内にある池と川、そしていくつかの遊具やベンチなどが並ぶが、天候のせいか、その場にはほとんどどころかまったく人がいない


二人が入っていくのを確認して陽太もその後を追った、園内には三人しかいない


これで完全に追跡しているということはばれただろう、いや、静希のことだからもうずっと前に気づいていただろう、だからこそ陽太は気にもせずに早足で静希を追いかけた


そして公園の開けた場所のおおよそ中心部で、静希達は止まった


それを見て陽太も距離を開けたところで停止して見せた


「・・・静希、俺と一緒に来てもらうぞ」


ゆっくりと振り返り、傘から顔をのぞかせてこちらを観察するその顔は、静希の物ではない、だがその眼とその表情を、その空気を陽太は知っている、何年も見てきた、何年も一緒にいた自分の幼馴染のそれだ


静希は何もしゃべらない、声を出せば自分が静希であると公言するようなものだ、だからこそ何も言わず、踵を返しその場から立ち去ろうとする、それが静希の出した答えだった


ここからはついてくるな、これ以上はついてくるな


一度陽太の顔を見てから動いたのは、そういう意味をこの行動に込めたつもりだった


だが当然、陽太にそんな行動の意味が伝わるわけもなかった


「・・・そうかよ・・・!」


陽太は部分的に能力を発動し、急速に接近し静希の肩を掴んで自分の方を振り向かせ、その顔をわずかに炎で焼く


とっさに静希と一緒にいた女性が割って入り、持っていたギターケースで陽太を殴打し無理やりに静希との距離を作るが、すでに目的は達した


静希の顔は焼け、特殊素材と化粧が完全にはがれ、元の顔が、五十嵐静希本来の顔が見えていた


「・・・このバカが・・・少しは考えて行動しろ・・・」


僅かに負った火傷も、ヌァダの片腕の効果ですぐに修復される中、静希は悪態をつきながらその視線にわずかな敵意を込めた


「んなことわかってんよ・・・俺と来い、鏡花がお前を連れてくれば何とかするって言ったんだ、きっと大丈夫だ、だから来い!」


「・・・説得するにしてももう少しまともな理屈をつけろっての・・・」


まさか説得する理由が『鏡花が言ったから』などと言う突飛なものだとは思っていなかっただけに、静希は自分の幼馴染に同情にも似た感情を向けてしまった


だがそんなふざけた説得で応じる静希ではない


「・・・お前達じゃ今の状況は変えられない、こっちはこっちで何とかするから、お前はすぐに戻れ」


「ふざけんな!いいから来い!俺らが何とかしてお前の無実証明するから!」


「どうやってだ?警察の中の何人かはすでに抱き込まれてる、そんな状況で能力者・・・いや同級生が数人無実を叫んでも何も変わらない、そのくらい鏡花だってわかってるはずだ」


何故鏡花が陽太を差し向けたのか、その意図を測り兼ねていた


陽太を囮にするのであれば、自分ならこの公園に入った時点で仕掛ける


だがメフィの入ったトランプを出入り口に置いて確認させていても、警察官が配置されている様子はない


どうやら陽太は完全に単独行動をしているのだということがわかるが、それを鏡花は承知のはずだ


何が目的だろうかと静希が悩んでいると、陽太は体を震わせた後で持っていた傘を投げ捨てる


「・・・鏡花からの命令だ・・・全力でお前を捕まえる」


陽太の言葉が静希に届くと同時にその体が炎に包まれ、周囲に存在する水を一気に蒸発させながらその姿を炎の鬼へと変貌させる


青い炎は未だ未完成なのか、いつもよく見るオレンジ色の炎だ、冷えた空間の中で強烈な熱量を放ちながら、陽太は静希に向けて唸るように威嚇をして見せる


「・・・やる気満々ってことか・・・」


陽太の言葉に、静希は陽太と同じように傘を投げ捨て近くにいた女性の腰元に手をかざす


女性は何のためらいもなくその場に跪き、ギターケースの中に入っていた剣を自らの主へと捧げる、瞬間、その体が剣の中に吸い込まれ、衣服だけを残しその場から消え去る


衣服をすぐさまトランプの中に回収して見せると、静希は自らの剣オルビアを握り陽太へと向け、静かな敵意を向けて見せた


鏡花が陽太に命じた、全力で静希を捕まえろという内容に、静希はわずかながらにその意図を掴んでいた、となれば、これ以外に取る道はない


「・・・正気か・・・静希!」


「正気も何も、お前がやる気だっていうなら、こっちはこっちで迎撃するだけだ・・・まだ捕まるわけにはいかないんだよ」


静希の冷えた言葉に反比例するように陽太の炎は熱く燃え盛っていく、周りの雨も水も関係ないというかのような熱があたりに発散される中、静希は自分の体を打ち付ける冷たい雨を肌で感じながら深呼吸していた


状況は雨、フィールドは開けており障害物は少し移動した場所に木々や遊具がある、敵は響陽太、雨による能力の減衰から考えて長期戦ならまだこちらが有利、だが長時間の戦闘は衆目に晒される危険性あり、早期決着が好ましい、相手の能力を考える限り、一撃でも貰えば戦闘不能になる可能性あり、攻撃の重要性を低く、防御よりも回避に集中する必要あり


考えれば考えるほど真正面から当たるなんてこと自体が自殺行為だと思わせるような相手だと実感しながら静希は集中を高めていく、同じように陽太も集中を高めているのか、右腕を前に突き出して見せた


「・・・そうかよ・・・なら力づくで連れて帰る!」


陽太の炎が一気に燃え上がり、その炎が右腕に集中していく


時間にして数秒で、その右腕には大きな槍が顕現していた


以前刑務所の正門を突き破った時よりは細く小さいが、それでも長さは二メートルに届きそうである


劣化型であるとはいえ、以前は分単位で時間のかかったものをまさか数秒で行えるようになっているとは思わなかったため、静希は幼馴染の成長に大きく驚いていた


「もう一回言っとくぞ、俺と来い!無駄なケガさせたくねえんだよ!」


それは陽太なりに気を使った結果だろうか、幼馴染である静希に怪我をさせれば、明利も悲しむし、自分だって心が痛む、可能ならこのような手段はとりたくない


だが陽太のその心遣いに対して静希の返答はいつも通りの歪んだ笑みだった


「お前達じゃ状況は変えられない、だから俺が動いてるんだ、何度も言わせるな・・・それにお前じゃ俺は捕まえられない」


「・・・そうかよ!」


静希の言葉を聞き終えると陽太は姿勢を低くして明らかな突進体勢をとる


瞬間、その場にわずかな炎を残し、陽太が高速で静希めがけ直進する


静希の胴体めがけてためらいなく突き出された槍は、問題なく静希に突き刺さるはずだった


だが槍は静希に刺さらなかった


槍は静希の体の横を通過してしまう、突進の勢いを殺しきれず、陽太は体ごとそのまま通り過ぎ、静希から再度十数メートル以上離れたところで停止する


一体どうやって、陽太がその思考を始める前に静希の声が響いた


「軌道がわかりやすい、直線的過ぎる、攻撃面積が狭い・・・何より、雪姉より遅い」


静希が行ったのは、至極単純、いつものようにオルビアを使って防御しただけだ


もっとも、それはただの防御というには少しだけ技術が必要なものである


真正面から陽太の槍を受け止めれば、静希の体躯では簡単に吹き飛ばされてしまうだろう、だからこそ、静希は受け止めずにそのまま受け流した


剣を使って槍の軌道を僅かに逸らして身体を少し動かす、ただそれだけで陽太の槍を避けたのだ、普段至近距離で雪奈の剣戟を防いでいるのに比べれば、遠くから突進してくる陽太のわかりやすい一撃など、簡単に対処することができる


「・・・はは・・・オーケーオーケー・・・上等だ・・・!」


静希の言葉の中にあった雪奈よりも遅いという言葉に反応したのか、陽太の体を包む炎の総量が上がっていく


前衛としての対抗心か、それとも単純に静希との戦いに楽しさを見出したのか、その声音はひどく楽しそうだった


今度は陽太は突進することはせずに、それなりに速度を制御して静希に接近し、その槍を連続で静希めがけ突き出してくる


静希がオルビアという刃物を持っている以上、陽太も警戒せざるを得ないのか定期的に距離をとりながらも静希めがけその刃を振い続ける


時には突くだけではなく横振りや叩き付けなどを駆使して、静希の体を翻弄する


オルビアを盾にして踏ん張ろうとするも、膂力が違いすぎるために全く対応できておらず、軽々と数メートル単位で吹き飛ばされる


その度に地面を数度転がり、すぐに体勢を整えるが陽太の攻撃は止まらない


「ったく、容赦ねえな・・・こりゃ厳しいな・・・」


「ったりまえだ、まともな喧嘩でお前が俺に敵うわけないだろうが!」


陽太が接近し再び静希に攻撃を加え続けるも、その動き全てを静希は捉え、対処し続けていた、時に受け流し、時に体ごと避け、時に剣を盾にして防御する


雪奈の精練された一撃に比べれば、陽太の攻撃は力任せに振り回すだけ、速さはあるがそれでも反応できないなどと言うことはありはしなかった


見えていて対応ができるとは言っても、もともとの力量差がありすぎるためか、静希の体は度々遠くに弾き飛ばされてしまう


その度に静希は体勢を整え、陽太の状態を観察するがはっきり言って完全に劣勢だった


何度も遠くへと吹き飛ばされる中で、静希は徐々にだが陽太の動きに合わせて、少しずつ中心部から障害物の多い森林部へと移動しつつあった


もっとも、森林と言っても木々の密度は本物のそれに及ぶべくもなく、視界がわずかにさえぎられる程度でしかない、この程度の木々では集中力を高めた陽太の追跡は振り切れないことは静希も十分理解していた


周りに木々があるのを気にも留めずに陽太は炎を噴出し続ける、周りの湿気と雨が木々への延焼を防いでいるだけではない、陽太自身木に近づかないように注意している節もある


それが意識的かどうかまではわからないが、少し動きにぎこちなさが見られた


木々を縫うように移動する静希と、静希に向けて限りなく直線に近い動きで接近する陽太、二人が交差するときには決まって金属音にも似た音があたりに響く


数回のうち一回ずつ静希の体が宙に浮き、その度に体勢を整えるが周りに障害物が多いせいか途中で木に激突することも少なくない


「おらどうした!諦めたならとっととつかまれ!」


「誰が諦めるかっての・・・!この前衛バカが・・・!」


近接戦闘が得意とは言えない静希にとって、純接近戦型の陽太はまさに天敵と言えるかもしれない、身体能力と能力面からその攻撃性能はかなり高く、一発でも直撃を受ければ数分間体を動かすこともままならないかもしれない

だが、相手が陽太であるということが今静希にとっては救いだった


陽太から距離をとりながら木と木の間をすり抜けるように、障害物を利用して自分の体を少しでも陽太から隠すように的確に移動していく


一瞬でも陽太が自分を見失ってくれればいい、計略とは相手に気づかれないように行うものだ


そしてその時は唐突に訪れる


静希の体が木に隠れ、陽太が一瞬その体を見失った瞬間、独特の感触と共に陽太の体の炎が急激に勢いを失っていく


「あぁ!?」


陽太の背後から唐突に陽太に向けて放たれたのは以前陽太が暴走したときにも用いられた消火用の二酸化炭素ガスだ


不可燃物質によって構成されたガスは陽太の炎を一気に消火していくが、そのすべてを消すまでには至らない


炎の総量は減っているが、少なくとも槍の形状を保てなくなるほどの変異は起こっていない、多少集中が必要だが問題なく槍はその形を維持し続けている


トランプを操作することによって噴出されるそのガスを避けようと移動するが、陽太を完全にとらえたトランプを引きはがすには少し速度が足りていないようだった


今静希は陽太に挑発しているのだ


このトランプよりも速く動いて見せろと


「上等だ!トランプなんかで捕まえられると思うなよ!」


静希がトランプを動かせるのはせいぜい数百メートル以内、その中に静希がいることはわかっている、だからと言って自分の能力を減衰させ続けるトランプを引き連れたまま追跡するほど陽太もバカではない


静希の持っている気体の数には限りがある、最近はそこまで細かく把握はしていないものの、ある限定された用途しかないようなものを静希が大量に入れているとも思えない


そして静希が無策でこんな林の中に移動したとも思えなかった


つまり静希は陽太の炎を一瞬でも消すことを目的にこの林の中に侵入し、数の限られた消火用の気体を陽太に向けて噴出している


ならば陽太のとる行動は決まっていた


ジグザグに反復運動を繰り返しながら陽太はトランプを振り切り一度林の外へと出る


周囲の視界が開けたところであればトランプがいったいどこから飛んでくるのかもわかるし、すぐに反応できる、そしてトランプの飛んでいる範囲から静希の位置を特定しようと考えたのだ


だが、陽太の体が林から出た瞬間、それは起こった


まるで陽太を待ち伏せするかのように地面に配置されたトランプから突如何かが吹き出し、陽太めがけて襲い掛かる、それと同時に陽太の体を包む炎の勢いが一気に増したのだ


炎が減衰しかかっていたところに急に勢いが増したことで炎のコントロールができなくなったのか、その右腕にあった槍が形を崩し多大な量の炎となってあたりへとまき散らされる


炎による発光によって陽太が目をくらませていると、その周りに一気にトランプが飛翔しその体に残されていた炎を消火ガスで一気に消していき、さらにナイフが数本射出される


とはいえ、そこは前衛の陽太、自分の体の炎が消された瞬間に急所を腕で防御しながら緊急回避運動をとり、脇腹に一本小さな投擲用のナイフが刺さっただけに終わる


「一本だけか・・・まぁお前相手に当てたなら上等か」


林からゆっくりと歩いてくる静希の顔は、静かな笑みを浮かべている、周りにまき散らされ少しだけついていた炎も、雨によって次々と消えていた


「くそったれ、相変わらず卑怯だな・・・」


自分がまんまと誘導されたということを把握し陽太は立ち上がる前にナイフを抜いて悪態をつく


視界の悪い林の中、自分を追ってきたトランプ、外へ誘導させるための消火ガス、すべて陽太の行動を読んだうえでの行動だったというわけだ、付き合いが長いと簡単に動きが読まれるからいやなものだと歯噛みしながら陽太は静希をにらみつける


「当たり前だ、俺がお前相手にまともな喧嘩なんてするわけないだろうが」


先程のお返しか、静希は邪笑を浮かべながら陽太を見下ろしている、その周りには大量のトランプ、そしてその右腕には彼の剣オルビアが握られていた


誤字報告が十件たまったので三回分投稿


諸事情により今日から数日予約投稿になります、反応が遅れるかもしれませんがどうかご容赦ください


これからもお楽しみいただければ幸いです

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