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J/53  作者: 池金啓太
二話「任務と村とスペードのクイーン」

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傷とキス

「うぅ、もうお嫁にいけません・・・」


「はぁ、いい肌だったわ・・・」


「すべすべでしたね」


「まぁその、なんだ、ご愁傷様」


二人に徹底的にもてあそばれたのか、枕に顔をうずめながらかすかに震える東雲、気の毒という他ない

きっと風呂場では思う様弄られたりしたのだろう、枕をぬらす東雲と対照的に明利の被害は少なかったようだ、ほくほくと赤くなった頬で朗らかな顔をしている


こうしてみると獲物と捕食者の対比が非常によくわかる、これが弱肉強食というやつか


もっとも捕食者の方が肉付きが良いのは気のせいではないだろう


「それじゃあ鏡花ちゃん、一応任務ほぼ完了ってことでなにか一言」


「え?何で私が」


「班長だろー!ねぎらいの言葉をよこせー」


雪奈に陽太の先導で鏡花が立たされ、どうしたらいいのかという目を静希に向ける


「とりあえずお疲れ様的なこと言っとけ」


「うぅ・・・」


鏡花も疲れてすぐさま寝たいだろうに、眠気眼をこすりながら頭を回転させる


「えー、色々トラブルもありましたが、我が一班の初校外実習、無事任務完了、負傷者もほとんどなく、上々であったと思います、これも皆が力を出し切ってくれたからだと思います、皆お疲れさまでした」


その言葉に全員から拍手が送られる


突然引っ張り出されたにしてはずいぶんしっかりとした言葉だ


鏡花は人の前に出ることになれているのだろう


「もういいでしょ?疲れて眠いのよ」


「あー、それは俺もだ、気張りすぎたな」


「今何時?」


「十時だ、就寝には早い気もするが」


「もう限界よ、寝ましょ」


さすがに日の出からずっと行動しっぱなしだったので全員疲労のピークに達している、肉体面だけでなく精神面まですり減らしているはずだ、無理もない


「今日はもう寝よう、明日は東雲をきちんと送らなきゃだし」


ふと彼女の方を見ると東雲は枕に突っ伏しながら寝てしまっているようだった


その様子を見て全員が頬笑み、静かに電気を消して床につく


全員が寝息を立てる中、静希は尿意を覚え目を覚ました


おぼろげに残る記憶からトイレに向かい、用を足して戻ってくると外から月の光が入ってきているのに気づく


窓を開けて縁側に出ると空を埋めつくさんばかりの星、そしてよりいっそう輝く月が強く自己主張していた


「静希君?」


その光景に呆けていると隣から小さく声がかかる


明利だった


「なにやってるんだ?見張りはもうしなくていいのに」


「ううん、ちょっと目が覚めちゃって、静希君は?」


「ちょっとお花摘みに行ってただけだよ」


自分で言っていながらなんとも奥ゆかしい言い方だこと、と皮肉りながら明利の隣に腰を下ろす


明利は月を見ながらも何かを考えているようでたまにうつむいて手をいじりだしている


「なんか気になることでもあるのか?もう誰かが怪我をする心配はないだろうに」


明利がこうやって考え事をするのは珍しいことではない、むしろ彼女は誰よりも考え事をする


「そういうのじゃないよ、けど、気になってることは・・・」


「あるんだな」


「・・・うん」


明利の考え事は大概自分のことではない、誰かのことだ


東雲か、それとも班の誰かのことか


どちらにしろ静希はそれについて言及するつもりはなかった


ただ黙って横にいてのんびり月を眺めている


明利は言いたいことなら必ず自分から言う、それをわかっているから何も言わなかった


「・・・あのね」


「ん?」


「静希君、今日みたいなこと・・・もう・・・その・・・しないで・・・ほしいの」


今日みたいなこと、と言われて静希は考える


今日何か特別なことをしただろうか


特に明利がいやがるようなこと


そう考えると一つ心当たりがあった


メフィが明利に攻撃を仕掛けてきたとき盾になろうとしたことだろうか


「でもあの場合、仕方なかっただろ、でなきゃお前がやられてたんだぞ?」


「そうなの!?・・・いやでも、それでも・・・いやだよ」


そうなのなんて今更な発言だ、ああして敵意と攻撃を向けられていたのに


「まあ俺だってあんなのは二度とごめんだな、痛いし」


「え・・・痛かったの?」


「そりゃあな」


浅いとはいえ腹に指がめり込んだのだ、血だって出たし痛くないはずがない


「つ、次そういうことがあったら、私が、代わるから、静希君には・・・その、そういうこと、してほしくない」


「ダメだ、明利にそんなことさせられるか」


「でも・・・」


「ハイそこまでよ二人とも」


話に割って入って突然メフィが現れる


突然の登場に明利は驚いて腰を抜かしてしまっていた


「なんでこうも綺麗に会話が食い違うのか・・・聞いてたけど見事だわ」


「何が食い違ってんだよ、別におかしいことないだろ」


「おかしいことしかないわ、メーリちゃん、あなたが言ってたのって」


メフィが顔を近づけて静希に聞こえないように小声で


「私とシズキがキスしたことでしょう?」


というと明利は小さくうなずく


「それに対してシズキ、あんた私に刺されたこと言ってるでしょ」


「え?違うのか?」


てっきりそうだと思っていた静希はあっけらかんと答える


それを知った明利の顔は真っ赤になっていく


それはもうリンゴ顔負けの赤さだ


「うぅぅぅぅぅうぅぅぅぅ!」


恥ずかしさからか顔を覆ってその場にうずくまってしまう


「なんだよ、そのこと言ってたんじゃなかったのか?」


「察してやりなさいシズキ、いい男はこういう時やることがあるわよ?」


そんなことを言われても、と困りながらも静希は明利の頭をなでる


恥ずかしさが限界突破してもはや人の言葉すら話せないまでになってしまっているようだ


「まぁでもメーリちゃん、あなたかわいいし、シズキを半分こしてあげてもいいわよ?」


その言葉がとどめとなったのか、明利は勢いよく走りだし布団の中にもぐってしまった


「おいメフィ、あんまり明利をからかうなよ」


「だってあんなに可愛いのよ?もう見てるだけで微笑ましいわ」


どうやら満足したようで満面の笑みを崩さない


人をもてあそぶ悪魔、まさにこいつはそれだ、魂を持っていくかはともかく人で楽しんでいる


「もう眠くなってきたから寝る、お前も入ってろ」


「はいはい、お休みシズキ」


カードの中にメフィを収納し静希は布団にもぐりまどろみに意識をゆだねる


それから静希が眠るまで時間はかからなかった


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