騒動と一日の終わりへ
部屋に戻り自分達も報告書をかけるように今まであったことをまとめていく
もちろん東雲には見えないように
「明利、お前も手が空いたらレポートの下準備しておけ、あとあと楽になるらしいぞ」
「うん、わかったよ」
後で見回りをしてきた人員にもこの作業をやらせたいが、自分たちが楽をしている分手を貸してやらねば
そう思いレポートを次々書き記していく
そろそろ夕方になろうというところ、話声とともに見回り兼フェンス強化に当たっていたチームが帰ってきた
「ただいまー、意外と重労働だったわ」
「お帰り、お疲れさん、首尾はどうだ?」
「なかなか頑丈なフェンスが出来上がったぞ、私のナイフでも数ミリしか傷をつけられなかった」
それは何よりとうなずいてとりあえず夕飯時までは休憩となる
フェンスさえ直ってしまえばあとは警戒の意味は薄い
問題が起きないように見張るだけでいい
雪奈のナイフで数ミリしか傷をつけられないのであれば普通の獣では逆に爪や牙が砕け散るだろう
ようやくとゆっくりこの田舎の景色を楽しむことができそうだ
「あぁそうだ、二人は後でこれに目を通しておいてくれ」
「なによこれ」
「今回の実習の事象を時系列順にまとめて、考察と状況分析を含めて書きこんである、レポートを作成する時の参考にでもしてくれ」
鏡花は有り難いわといって素直に受け取るのだが、陽太は非常に嫌な顔をしている
自分が提出しなくてはならないレポートだというのになんという反応の違いだろうか
「なんだよ、終わったらそれでいいじゃんか、なんでわざわざ紙に書かなきゃいかんのよ」
「自分でやったこととその時の考察、反省点などを書いておけば次の時に振り返れるだろ、自分がやったことのパターンもわかるし、何より評価がしやすい」
教員からすれば実際に見るだけではなく生徒がどのように感じたか、どのような理由で動くのかを記してあると非常にその生徒に対しての理解が深まる、その理解は次の校外実習を組む時の参考にもなる
「高校生って大変なんですね・・・」
「あぁ、まったくだよ、お前さんもいつかこうなるぞ?若いっていいなぁ」
東雲を見ながら心底うらやましそうにして現状に振り返ってからうなだれる
「今のうちに苦労しておかないと後々苦労することになるぞ」
「たとえばどんな苦労があるんだよ、俺はこういうデスクワークは苦手なんだよ」
紙を見ながら机に突っ伏す陽太を見て静希はそうだなと考え込む
「言っとくがそれ以上の手助けはしないぞ、自分で頑張れ」
「なんだよ・・・獅子は我が子を谷底に叩きつけるってやつか?」
「叩きつけるな、せめてそこは突き落とせ」
「叩きつけられたらその場でデッドエンドじゃない馬鹿」
谷底に我が子を叩きつけるなど、純度百パーセントの殺意を抱えて某筋肉的超人の放つなんとかドライバー的なものでもなければ親ごと谷底で仲よく生涯を終えてしまう
逆にドライバーが決まれば致死率百%だが
格言などを間違って使用する時ほど恥ずかしい瞬間はない
特に陽太は間違って物事を覚えがちである
「どうだっていいよんなこたぁ・・・こんなんやってもやらなくても別に何もないだろ?」
「もし仮に俺がそれを代わりにやった場合、今後作戦を第一に考えて効率よく戦わないと完遂できないようなガッチガチな実習ばかりになるかもな、自由の一切ない規律まみれの実習」
「嫌だ・・・なんだよそれ、考えたくもない」
「だったらお前が考えて思ったことを書いておけ、そのほうがいい」
誰にも向き不向きがある、陽太に規律や細かな作戦を言い渡しても意味がない、どうせ頭がパンクして完遂できないのが目に見えている
大まかなプランを渡して実行させた方がよっぽどいい仕事をする
逆に静希は時間を秒単位で実行プランを練っておかなければならない、能力の特性上、トラップや待ち伏せ、仲間との連携など、タイミングが命の戦い方をする静希にとっては精密さが何より重要だ
それがわかるようにレポートは書くつもりだしこれからもそうするつもりでいる
今回の悪魔に出会ってからはその限りではないが
「あぁもう、記憶だよりだからめんどいな、おい鏡花、ちょっと見せてくれ」
「なんでよ、あんたも静希の見せてもらいなさいよ」
「あいつのは綿密過ぎるんだよ、わかりにくいから簡単にしたのをみせてくれ」
「自分でやりなさいよその位」
「ちょっとくらいいいじゃねーか!」
もうさすがにここまでは面倒を見きることはできない
少しでもまともなレポートが出来上がることを祈るとしよう
陽太の場合誰の手助けもないと小学生の作文になる、ここは鏡花にいけにえになってもらうことにする
気付けば夕方、日も傾き、あたりは紅に染まっていっている
東雲は陽太と鏡花の声を聞きながら開いた窓から入る風を受けながら外の世界を眺めていた
のどかな風景の村は昼は緑に、夕方は赤に染まる
濃密な一日の終わりに静希は嫌でもため息が出る
まるで一カ月そこらを濃縮したような一日だった
もう二度とこんなことは味わいたくないものだ
時刻は五時、もうすぐ日も落ちる
「あー、歩き回ったから汗掻いたわ、お風呂入りたい」
「でもあと少しで飯だと思うぞ?」
「うぅ、それまでレポートね・・・嫌になるわ」
「あぁ、レポート・・・見るだけで嫌になる」
嫌になる理由は違えど二人にとって憂鬱な時間であることに違いはないようだ
さっさと終えればそれでいいのだが
「あの、私はどうすれば」
身体をゆっくり起こしながら東雲は静希に問う
「あぁ、晩飯か、動けるようなら一緒に食べた方がいいだろうな、身体の調子は良くなってきたのか?」
「はい、普通に歩くくらいなら、幹原さんのおかげです」
どういたしましてとはにかみながらも嬉しいようだ
こまめな同調と回復を繰り返したヒーリング、まめな明利の性格あってのことだ
後にわかった話なのだが栄養面は軽い失調程度だったのだが、手足の筋肉の繊維がずたずたに切れていたらしく、わずかではあるが治療を施しておいたそうだ
本人に知られないように黙っていたのだという




