王族との会話
「ふふ・・・あはははは・・・」
その様子を見ていたセラが耐えかねたように笑い始める
一体今のやり取りの何がおかしかったのだろうかと静希が不思議がっていると、ごめんなさいと言いながらセラはこちらを見ている
「テオドールにこんな風に接している人は初めて見たから・・・彼を言い負かすなんてすごいわね、話に聞いていた以上の人かも」
「それは・・・一応褒められてるのか?」
勿論とセラは微笑むが、静希からしたらあまりうれしくない褒め文句である
口喧嘩で勝とうと、実戦で勝てなくては意味がない
静希は一度テオドールに勝っているが、それは静希の純粋な実力ではない
人外たちに最高状態での補助を行ってもらってのやっとの勝利だ、純粋な一対一では確実に静希は負けるだろう
「ねえイガラシ、あなた魔獣を飼っているらしいじゃない?見せてもらえないかしら?」
「魔獣?」
いきなり魔獣と言われて静希は首をかしげるが、テオドールと戦ったときに一緒に居たフィアのことを思い出してあぁと手を叩いた
「セラ、今日イガラシは奴を連れてきていないようだ、見せるのは難しいのでは・・・」
「いや、連れて来てるけど・・・というかテオドール、魔獣なんて失礼極まりないぞ、あれでもレディーなんだからな?」
近くに巨大な獣の姿はない、近くにそれらしい影もない、一体魔獣などどこにいるのかとテオドールは部屋の中を見渡すが、この部屋に存在するのは静希、アラン、セラ、テオドール、大野、小岩、そして給仕の人間が二人だけである
この広い障害物のない空間にあれだけの大きさのものがいて気づかないはずがない、だが目の前にいるのは悪魔の契約者、何をしてもおかしくない
「一応言っておくが、交戦行動は控えろよ?そしたら俺がお前を拘束する」
「それはこっちのセリフだ、こっちに戦う意志がないってのにちょっかいかけてるのはお前達だろ?もう少しお淑やかにしたらどうだ?」
男に対して言うセリフではないのだろうが、テオドールはそれを皮肉と受け取ったのか舌打ちをしながらそのまま黙ってしまう
静希は自分の懐に手を入れ、そこから取り出したかのようにトランプからフィアを手の中に収める
テーブルの上に置かれた白い体毛に大きな尾を持ったリスの奇形種フィアは一体何事だろうと周囲を見渡して現状を把握しようとしていた
セラは目を輝かせ、テオドールとアランは置かれた小動物をまじまじと見ながら不信感を高めていた
「・・・これが魔獣だと?テオ、どういう事だ?」
「こんなかわいい子が魔獣だなんて、これが魔獣ならチワワだって魔獣ね」
王族二人からの言葉に、一番戸惑っているのはテオドールだった
あの時自分に向けて吠えていた獣はこんな小さなリスではなかった
だが目の前の静希がそんな面倒な嘘をつくとは思えない
「どういう事だイガラシ、ふざけているのか?」
「ふざけてなんかいないさ、こいつがあの時の俺と一緒に居た魔獣だよ」
そういってセラの肩に乗って頬に体を摺り寄せているフィアを呼び自分の頭の上に乗せる
ここが定位置だと言わんばかりに丸くなってしまったフィアを見てテオドールは若干イライラし始めていた
「ずいぶん人懐っこいのね、ペットなの?」
「えぇ、自慢のペットです、それじゃあ種明かしと行きますか・・・フィア」
静希が呼ぶとフィアは頭の上から身軽に地面に飛び降り能力を発動した
大野と小岩の間に着地したフィアの体の周りに見る見るうちに肉体が形成されていき、以前テオドールが見た魔獣へとその姿を変えていく
一瞬にして現れた魔獣に、事情を知らない三人と給仕の二名が一瞬驚くが、フィアがそれ以上何のアクションも起こそうとしないことで冷静さを保つことができたようだった
「彼女はフィア、俺のペットでね、とても頭がいい、魔獣なんて言ったら怒るから気を付けたほうがいいぞ?」
そういって自分の手を差し出すとその手に体を摺り寄せるように近寄ってくるフィア、それを見てセラも撫でようと手を伸ばす
テオドールが止めようとするのをアランが制止し、セラは巨大になったフィアの体をゆっくりと撫でた、フィアもその手に体を摺り寄せてそれに応じていた
「わぁ・・・凄い・・・ひょっとして、乗れたりする?」
「あぁ、俺もよく乗ってるよ・・・乗ってみるか?」
セラの笑顔を見た後で静希が指を鳴らすとフィアはその意図を読み取り、セラが乗りやすいようにその場に伏せて見せた
恐る恐るフィアにまたがると、その体を軽々と持ち上げて部屋の中をゆっくりと歩いて見せる
「わぁ!馬とはずいぶん違うわね・・・すっごい!」
楽しそうにフィアの体をなでているセラを横目に静希は紅茶を口に含む
その様子をアランとテオドールは若干不安そうに眺めていた
「安心していいですよ、敵意のない人間にかみつくほどあの子はバカじゃありませんから」
「・・・そうか・・・いや、君を信用しよう」
アランは目の前の静希を見て何かを感じ取ったのか、フィアと戯れる自らの娘を眺めることにした
父親として何かを感じているのか、それともあのフィアに対して何か思うところがあるのか、どちらにしろさすが王族、器が違うようだった
「イガラシ!この子頂戴!すっごく気に入ったわ!」
「だめに決まってるでしょ、それは俺の家族だ」
そういって口笛を吹くとフィアは静希の元へ駆け寄り元のリスの姿に戻り、静希の頭の上に登って眠り始める
それを残念そうに見つめているが、セラはあきらめたのか席に座って紅茶を飲み始める
「ところで、こんなお茶会のために俺をこっちに呼んだのか?ほかに何かあるんじゃないのか?」
いくら王族でも娘が会いたいからなどと言うふざけた理由で学生とはいえ能力者を引き寄せられるまでの理由にはならない
何か静希にやらせたいことがあるのだなと確信しながらそう聞きながらテオドールとアランに視線を移すと、二人はわずかにため息をつく
「それは・・・その・・・セラから説明してもらおうか」
「・・・そうだな、それがいい」
何やら歯切れの悪い二人の言葉に静希は訝しみながらセラの方を見る
相当フィアが気に入ったのか、静希の頭の上に乗っているフィアに手を伸ばそうとしているセラは視線に気づいたのか、咳払いを一つして佇まいを直して見せる
「今度ショッピングに行こうと思ってるんだけど、その時に私の護衛をしてほしいのよ」
「・・・そんなもん近くのSPとかにでも頼めばいいじゃないか・・・なんでわざわざ・・・」
王室ともなれば個人的な護衛などいくらでもいそうなものである、そこで極東の国日本からわざわざ静希を呼んでくる理由になるだろうか
「護衛なんて引き連れてるとすごい目立つじゃない、私は普通に買い物がしたいの、本当はテオドールに頼もうと思ったんだけど、あいつ私の頼みだとすごい嫌がるのよ、そこであなたの話を聞いたの」
学生だっていうから丁度デートみたいな感じで動けるでしょと特に気に留めた様子もなく言ってのけたセラに静希はポーカーフェイスも忘れて唖然としてしまう
何もかも理論的じゃない、買い物したいのであれば好きにしたらいい、護衛が必要ならつければいい、なのに普通に買い物がしたいなどと言うわけのわからない理由で普段つけているであろう護衛を拒み静希に願い出る
訳が分からなかった
「・・・テオドール・・・とりあえず今の姫の言葉を軽く分かりやすいように要約してくれるか?」
「あぁ、つまり屈強な奴や厳めしい面の奴を数人連れるよりも、一人だけの手練れを連れてデート感覚で買い物を楽しみたいらしい、俺はそんなことはごめんなんでな」
簡単な要約に静希は額に手を当ててため息をついてしまう
今回の件、静希を外交の駒に使えるかどうかを試すための委員会とイギリス政府の思惑にはまっただけだと思っていた
だがこれは外交上の駆け引きに使われただけではない、テオドールに体よく面倒事を押し付けられただけだ
「・・・一ついいかセラ、お前はテオドールと付き合いは長いのか?」
「えぇ、それなりよ、よく買い物にも付き合ってもらうわ、荷物持ちとして優秀よ?」
その言葉ですべて理解してしまった、テオドールは今回外交の調整よりも何よりもこのお姫様を自分に押し付けることを第一に行動していたのだ
テオドールが避けたいほどの面倒事、もう嫌な予感しかしない
「でもセラ、俺が一緒に行くってことはこの二人も一緒についてくるぞ、それじゃいつもと変わらないんじゃないのか?」
静希の後ろにいる大野と小岩を指さすとセラは少し迷っているようだった
この二人は一応静希の護衛だ、静希と一緒に行動するように指令を受けているし彼ら自身もそうするべきだと思っている
だからこそ静希が行くところには一緒に行く、そうなると何人も護衛を引き連れているのと同じになってしまう
「でもあの二人だったら観光に来た日本人に見えるし、気にならないわ、なんだったらダブルデートでも構わないわよ?」
「・・・セラが良くても俺が構うよ・・・」
ダメだ、このセラという女の子は完全に感情論で成り立っている、理屈が通用しない
まるで陽太としゃべっているようだと感じながら静希は頭を抱えてしまう
こんな時鏡花がいればと深く後悔しながら静希はテオドールを軽く睨む
その様子を見て彼は勝ち誇ったように笑みを浮かべている
軽く殺意を覚えながらも静希はそれを押えて大きくため息をついた
「じゃあ・・・あれか?学校終わってからだから今日みたいに夕方からか?」
「何言ってるのよ、明日は一日買い物よ?」
「・・・は?」
明日は日本もイギリスも平日だ、何の祝日でもないただの平日だ
何故一日中買い物などができるのだろうか
「日本からせっかく来てくれた方を放置して学校に行っているようでは外交は成り立たない、公務としてしっかりお相手します・・・っていうのが建前で、要はそれを理由にさぼりたいってこと」
子供特有の無邪気な笑みを浮かべながらセラがそう微笑みながら言うと静希はさらに頭をかかえてしまう
一体このお姫様は何を言っているんだという気分になってしまう、こんなのが王族でいいのかという疑惑さえ浮かんでくる
「・・・お父上としたらどうなんです?娘さん公然とサボる発言してますけど?」
「ん・・・まぁ、あれだ、一度言い出したら聞かないからね」
そこは叱れよと言いたくなったが、そういえば自分の親も基本放任主義だったなと思い出しながら静希はもうあきらめることにした
なるほど、テオドールが押し付けたくなるのも納得の傍若無人っぷりである
誤字報告が五件分溜まったので二回分投稿
最近pvの伸びがとても良いです、伸びすぎて鼻水が飛び出そうな日もありました
これからもお楽しみいただければ幸いです




