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J/53  作者: 池金啓太
十六話「示した道と差し出された手」

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狡猾な男

通話の相手が静希であるとわかった瞬間に、電話の向こう側にいるテオドールは息をのんだ


一体こちらで何が起こっているのか、それを把握したのだろう、すぐさま日本語で返事が返ってくる


『・・・やぁミスターイガラシ、いや、ジョーカーとお呼びするべきか?まさかその携帯から電話がかかってくるとは思わなかったよ』


「ははは、ぬかせこのボケが、一度は見逃してやったのに恩を忘れて報復か?よっぽど俺の敵になりたいらしいな?」


気絶した男を道の隅に蹴飛ばしながら殺意を込めてそう言うと、テオドールは飄々と笑って見せる


余裕があるのかそれとも演技か、静希には判断できなかった


『違う違う、何を言うんだイガラシ、お前の敵になりたい奴なんてよほどの酔狂か薬物中毒者だけさ、俺をはじめとして、こちらの人間はお前の敵になりたいとは思っていないよ』


「ならどういう経緯でこいつの携帯の履歴にお前があるんだ?この哀れな男二人はお前のところの奴だろ?俺を納得させられるだけの言い訳をしてみろよ、嘘だとわかったらお前の組織ごと滅ぼすぞ?」


テオドールに対しては徹底的に強気に出るように城島から強くアドバイスをもらっていたために静希は殺意と怒気を含めた声で電話の向こうのテオドールに対して脅しをかける


無論、個人的にも非常に頭にきているために語句が強くなるのも仕方のないことかもしれない


それは静希だけではなく、彼と共にいる人外たちも同様だ


静希の温情をその身に受けておきながら手のひらを返したように誘拐を企むなど、言語道断、これは全面戦争も辞さないという雰囲気の中、携帯の向こう側からはテオドールのため息が聞こえてきた


『どうやら不幸なすれ違いがあったようだな、俺はお前をこちらに招待したいから連れてこいとだけ頼んだんだが、まさか手荒な真似でもされたのか?』


「あぁそりゃもう、いきなり車の中に連れ込まれて拘束されたよ、すぐ抜け出してやったけどな、これがすれ違いだ?威力偵察も兼ねてたんじゃないのか?」


静希の言葉に一拍置いてからテオドールは笑いながら面白いことを言うじゃないかと呟いた


テオドールは以前の静希との戦闘では、その能力を解明できていない、彼の言うように向こう、つまりイギリスに連れていくというのが目的だとしても、その中で軽く静希を試して能力を解明しようとしているのだと静希は推察した


彼にとって静希は目の上のたんこぶ、排除できるに越したことはないが、その為の条件を満たしていない以上、少なくとも現状の関係を続けるしかない


『うちの者が失礼をしてしまったことに関しては俺から詫びよう、すまなかったな、だがこちらとしても悪気はなかった、すでに日本の委員会の方には話を通してある、本当にお前をイギリスに招待したかっただけなのさ』


テオドールの言葉に、静希は城島に向けてメールを送る


現段階で静希に対してイギリスからのアプローチの有無、これがあった場合テオドールの言葉は本当だろう、連れて行きたかったという言葉だけは


だがその実、裏では何を考えているかわからない、十中八九この二人は力づくで静希を連れてくるように命令されていただろう


こういう見えないところでの駆け引きをしてくるあたりこの男はやりづらい、実戦経験の少ない静希からすればテオドールは能力を抜きにして確実に格上の相手だ


思考戦闘に置いて、彼と互角に戦えるだけの自信はない、前回の戦いは人外たちの協力と、多彩な手札で翻弄して思考をかき乱しただけだ


この男に弱みを見せてはいけない


静希は本能的にそれを察知していた


「オーケー、じゃあとりあえずこの話は置いておこう、後々お前からの賠償をしっかりもらうことにする・・・で、俺をそっちに連れて行きたい・・・もとい招待したい理由は何だ?」


委員会から直接の呼び出しでもなく、テオドールを用いての招待となると面倒事の匂いがプンプンする


テオドールは静希が悪魔と契約していることを知っている


知っていてなお、静希を連れて行きたい理由とは何だろうか


よもや今さら仲間に引き入れたいなどと言うことはないだろう、何せ間接的にではあるもののイギリスという国は静希に対して一度は敵対行動をとったのだ


『あぁ、実は会ってほしい・・・いや相手をしてほしい奴がいてね、こちらとしてもほとほと困り果てていてな』


「なんだよ、また悪魔の類か?いちいちそっちの面倒を俺に押し付けるんじゃねえよ」


『いいや、悪魔じゃない・・・が、ある意味悪魔よりずっと厄介な奴だ』


悪魔よりも厄介、そういわれるともはや静希には神格くらいしか該当するような存在は思いつかない


静希が関わってきた人外は悪魔神格霊装と様々だが、今のところまだ会話の余地があったからこそこうして平気でいられている


もし荒ぶる神を倒せとか言われても静希には無理の一言である、平静にすることはできるかもしれないが


「厄介さのレベルの話をしてるんじゃねえよ、そっちの面倒を俺に押し付けるなって言ってんだ、そっちはそっちで何とかしろ、俺は関係ない」


『それがそうもいかない、今回の相手はお前をご指名なんだよ、直々のな』


その言葉に静希は眉をひそめる


どういう事だと携帯の向こう側にいるテオドールに軽く殺意を覚えるが、こんな場所でいらだっていても仕方がない


「ご指名ってことは、少なくとも話の通じる奴ってことだな、詳しく話せ」


携帯に城島からのメールが返ってきたのを確認して、静希はそれを読み上げる


内容としてはイギリスの政府関係者の中の一人から秘密裏にではあるが五十嵐静希を数日お借りしたいという旨の依頼が来たことが記されていた


本人の了承が得られれば、正式な依頼として迎えをよこすらしい


委員会としては今回の件は容認しているようで、学校としても公欠の手続きを済ませる準備があるとのことだった


恐らく迎えとはここで意識を失っている哀れな二人のことだろう


片方は後で治療でもしてやった方がいいかもしれないなと思いながら、静希は電話に集中することにする


『以前、お前を狙ったとき、解決法として政府高官の人間を集めたのは覚えているか?』


「あぁ、そこで説得の映像を流す手はずだったな」


『その中の一人に、俺の古い友人がいてな、家族ぐるみで付き合いがあるんだが・・・お前のことを少し話した時にそいつの子供がお前に興味を持ってしまってな』


テオドールの言いたいことがわからない


政府高官の子供が自分に興味を持ったからといって、何故自分がイギリスにまで行かなくてはならないのか


もしかしてその子供が人外に取りつかれたとかそういう話だろうか


「それで?その子供がなんか関係してるのか?」


『あぁ、というか会ってほしい奴っていうのが、その子供なんだ』


「・・・話が見えないな、それでなんで俺を連れて行こうとしてるんだ?子供一人の我儘で国際問題にする気か?」


いくら政府高官の子供の頼みであったとはいえ、外国間での小競り合いを多発させるような行動をとるとは思えない


これで静希がただの能力者であったなら何の問題もなかっただろうが、静希は悪魔の契約者だ


知っている人間が一部とはいえ、委員会の人間が容易くそれを容認するとは思えない


まだ何かあるのだ


『まぁ、お前相手に隠しても仕方がない・・・お前に会いたがっている人というのは、現イギリス第三皇子の娘、つまりお姫様だ』


瞬間、静希の思考が一瞬だけ停止する


イギリス第三皇子の娘、それだけでもかなり面倒だというのになぜ自分などに会いたいと思ってしまったのか


ただの子供であれば何の問題もなかったのだろうが、相手は王族、そしてその王族が表向きただの能力者との会合を望んでいるというのに無碍にするわけにはいかない


なるほど、なぜ日本の委員会が話を通したのか納得がいった


つまり静希は体のいい外交のカードにされているのだ


日本の側からそれを申告したのであれば城島達にそれを進言した犯人を突き止めてそれなりの報復をするつもりだったが、今回は相手からの申し出だ、委員会からすればこれ幸いと言ったところだろう


表向きただの能力者一人会わせるだけで両国の関係を円満にし続けることができるのならば安いものであると考えたと考えてまず間違いない、そもそも断るだけの理由がない


日本とイギリス両国の関係は悪くない、むしろ諸外国に比べれば良いものだと言っていいだろう


だが前回の静希の一件でイギリスはわずかではあるものの負い目を作った


静希個人だけにではなく、国という一つの存在に借りを作ってしまった


そこで静希を外交のカードにしたかった委員会の要望を叶えるために、わざと自分たちの方からそれを打診する


これで貸し借りは無しにしようという腹積もりなのだろう、そして今回の件は静希が外交のカードとして役に立つかどうかを確かめるための試金石と言ったところか


両国の関係をより良いものに、そんなうたい文句があるのかもしれないが、その裏では高度なやり取りがされているのだろう


逆に、ここで静希が断れば今度は委員会の方から圧力をかけてくることだってあり得る


「お前・・・わざとそのお姫様に俺の話をしたな?」


『何を言っているんだ、友人と飲み交わしていた時につい口から出てしまっただけさ』


何故こんなことになったのか、静希の中でその答えはすでに出ている


表向きは、先日のイギリスとの一時的な対立から、関係の改善をどうにかしたいと思っていた政府高官の人間たちからの依頼でも入ったということにしたのだろう、何も知らない子供にまるでおとぎ話のような現実の話をして興味を持たせる


それがただの子供ならばよかった、だがその子供は一国の姫君


外交のカードとしてはこれほど都合のよい駒はいない


かたやただの学生の能力者、かたや一国の姫とはいえただの子供


大人たちの都合のよいように利用されていると思うと反吐が出るが、この状況では静希に断る選択肢は与えられていないようだった


「・・・これだからお前は嫌いなんだよ・・・」


『ははは、褒めてくれてありがとう・・・力だけじゃ解決できないこともある、お前ならわかるだろう?』


テオドールの勝ち誇ったような声に静希は苛立ちを隠さない


そう、現代社会において力というのはあくまで問題解決の手段のほんの一部でしかない


しかもその力が及ぶのは局地的で、全体から見た時のほんの一部のみ


静希が悪魔の契約者で、絶大な力を行使できるとしても、それは単なる駒の力だ、盤上をひっくり返すほどの影響力はない


力が強くても、それが及ぶのは目の前のみ、だが人と組織の力は目の前だけではなく広く遠くへも及ぶのだ


正面から倒せないなら搦め手で利用する


テオドールという人間は、静希が手本にしたいほどに狡猾な男だ


土曜日なので二回分投稿


実際にイギリスの王族が政治にかかわれるかどうかはちょっとわからないですがフィクションということなのでどうかご了承ください


あと日曜日もしかしたら帰れなくなるかもしれないので今日のうちに予約投稿しておきます、ご了承ください


これからもお楽しみいただければ幸いです

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