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J/53  作者: 池金啓太
十五話「未来へ続く現在に圧し掛かる過去の想い」

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若気の至り

「えっと・・・それで、静希君が好きっていうのは・・・いいんですけど・・・今さら私にそれを言うってことは・・・その・・・静希君を返せって・・・ことですか?」


以前鏡花から言われたことを明利は思い出していた


もし雪奈が敵になったら


あの時もし雪奈が恋敵になったら、明利には勝ち目がないと思っていた


スタイルも、性格も、何もかも雪奈に劣っている自分が張り合ったところで雪奈に勝ちようはない


何より、雪奈と争うなど考えたくもなかった


「違う違う!そんなこと思ってないよ!・・・その、あのね、私は明ちゃんのこと応援してる、明ちゃんと静が仲良くしていられたらいいなって本当に思うよ・・・でもね、私も静と一緒に居たいの」


それは明らかに矛盾した願いだ


他人の恋を応援しておきながら、自分も同じ人に恋しているなどとありえないことだ


普通なら誰かと一緒に居るところを見たり、幸せそうにしているところを見れば嫉妬や悲しさが湧いてくる


だが雪奈にはそれがないのだ


静希と明利が仲良くしているのを見ると、逆に嬉しい気持ちになる、温かい気持ちになる


「私はさ・・・お姉ちゃんだからさ、静の一番になれないっていうのはわかってるんだ、たぶん、静の一番は明ちゃんなんだよ」


昔からずっと一緒に居たからこそ、陽太を含めた四人で一緒に過ごしていたからこそ、雪奈は誰が幸せになっても嬉しかったのだ


そして逆に、誰かが悲しんでいると、同じように悲しかった


静希と明利を見比べながら、薄く笑みを浮かべて明利の頬に触れる


「こんなことを言うのは・・・すごく・・・ずるいと思うんだけどね・・・二番でもいいから・・・愛人でもいいから・・・静と一緒に居たいの・・・姉っていうだけじゃなくて、女として、見てもらいたいの・・・」


それは雪奈が抱えていた矛盾の一つだ


静希のそばにいたい


今までは姉としてという思いがほとんど、その中に幾分か含まれた、本人も気づかなかった女としての思い


過去の自分の姿をしたあの存在に触れて、雪奈はそれに気づいてしまった


「あ・・・あの・・・何でそれを私に・・・?私に隠れてでも・・・できたんじゃ・・・」


「・・・隠れてっていうのは、その・・・ちょっと嫌だったんだ、こんなこと言っておいて今さらかもだけど・・・私は、明ちゃんにも認めてほしかったんだと思う」


昔から互いを知っているからこそ、知ってほしかった想い


雪奈はうそをつくのが下手だ、そして誰かをだますのも下手だ


なのに、正直に言葉を綴れるほどの頭もない、とことん不器用な女の子なのだ


「私はね、静だけじゃなくて、静のことが大好きな明ちゃんとも一緒に居たいの・・・わがままだってわかってるけど、それでも一緒に居たいの・・・ダメかな?」


「え?あ・・・えっと・・・」


明利が静希の方に視線を向けてどうしたらいいのか問いかけようとすると、雪奈の手に力が入って明利の顔を自分に向けさせる


「明ちゃん、静に答えを求めちゃダメ、明ちゃんのことだから静がいいよって言ったら静希君がそういうならって言うでしょ?私は明ちゃんの答えが聞きたい」


懇願するように小さい声でそう告げた雪奈を見ながら、明利は少しだけ戸惑っていた


雪奈の言いたいことを、明利はようやくだが理解し始めていた


つまり早い話が公認で二股かけていいかどうかを確認しているのだ


普通なら許されることではない、だが断るだけの理由が明利にはなかったのだ


「あの・・・もし、ダメって言ったら、どうするんですか?」


「・・・その時は・・・しょうがないよ、明ちゃんの恋路を邪魔するのは嫌だし、嫌だけど・・・諦める・・・」


悲しそうな声でそういう雪奈を前にして、明利はどう答えていいものか迷ってしまう


明利は静希が好きだ


だが同じように雪奈だって好きだ


自分と、自分の家族を助けてくれた静希と、ずっと自分を気にかけて元気づけて勇気づけてくれた雪奈


今問われているのはどちらを選ぶか、それと同じだ


雪奈は明利と静希を天秤にかけ、どちらも選べないから、どちらとも一緒に居たいと言ったのだ


そしてその決定権を、他ならぬ明利に託した


仮に自分が選ばれなくても構わない、そういう覚悟で、明利にこうして対峙している


「わた・・・しは・・・」


明利は少し迷って、まっすぐに雪奈の目を見る


自分を映したその眼、自分に向けられたその瞳


明利はあの霊装の中であった、過去の自分を思い出していた


周りの人が自分のことをどう思っているのか


明利には確証がない、自分のことを信じられない


だが、誰よりも信頼できる人が、自分と一緒に居たいと言ってくれている


「私は・・・私も、静希君と、雪奈さんと、一緒に居たい・・・できるなら・・・ずっと・・・」


自分は信じられなくても、雪奈や静希のことは信じられる


明利は自分の額を雪奈の額にくっつけてそう告げた


「・・・いいの?本当に?」


「・・・はい・・・雪奈さんに悲しんでほしくないし・・・離れ離れも嫌ですから・・・」


「・・・め・・・明ちゃあぁぁぁぁん・・・!」


明利の言葉に雪奈は緊張の糸が切れたのか、それとも感極まったのか明利に抱き着いて泣き始めてしまった


雪奈なりに相当の覚悟をして、そしてそれが叶ったのだろう


感動も一入、というのもいいのだが、当事者の静希としたらどうしたものかと本気で悩んでしまう


今の日本は重婚など認められていない、どのようにこの二人と接すればいいのか本気で迷ってしまっていた


明利のことは勿論好きだし、雪奈のことだって好きだ


だが雪奈の好きが姉としてか異性としてなのかは静希の中でもまだはっきりしない


姉としての期間が長すぎたのだ


「さぁ静!明ちゃんの許可は貰ったぞ!あとは静がどうするかだ!」


「えっと・・・静希君はどう?私たちじゃ・・・ダメかな?」


「・・・その聞き方は卑怯じゃないか・・・?」


男としては女性二人から告白されるというのは幸福なことだろう、事実男としてこれほど嬉しいことはない


だが両者公認の二股というのは男としては最低な気がしてならない


時代が時代なら問題なかったかもしれないが、今の日本でそんなことをすればどうなるか


そもそも明利の両親と雪奈の両親にどう説明すればいいのか


「静、女の子に恥をかかせるものじゃないよ?甲斐性を見せなさい!甲斐性を!」


「あのなぁ・・・そんな簡単に言うけど、おじさんたちにどう説明するんだよ・・・」


「それを含めて甲斐性っていうんだよ、養うのも周りを説得するのも含めて甲斐性なのさ」


雪奈のいう事は正しいのだが、静希に求めているものは正しさの欠片もない、どこの誰が二股を公認するようなことをするだろうか


「それに、俺は雪姉のこと・・・まだ姉として好きか、女として好きかはっきりしてないぞ?」


「いいよ?絶対惚れさせてみせるから」


自分の体にふれながら微笑む雪奈に、静希は少しだけたじろいでしまう


たまに自分の予想もしていない反応と表情をするから困る


そしてそれを本気で言っているからまた性質が悪い


「静希君なら大丈夫だよ、メフィさんたちだって一緒に住んでるくらいだし」


「だよね、こんなわけのわからない人たちと暮らせてるんだから、静の懐は相当深いよ、女の子の一人や二人幸せにできるよ、お姉ちゃんが保証する」


明利と雪奈の笑みを前に、静希は小さくため息をついて苦笑する


もうごちゃごちゃと言い訳を考えるのはやめよう、この二人がこうなってしまったら静希でも説得できそうにないのだ


静希だって嬉しい、二人にこれほど想われて、嬉しくないはずがない


「わかったよ・・・二人とも面倒見てやる、ちゃんと幸せにできるように頑張るよ」


静希の言葉に二人はやった!と小さくガッツポーズをして見せた


人外でも許容できたからこそ、二人くらい幸せにできなくてどうする


もはやあきらめと嬉しさで静希としてはよくわからなくなっていた


これが若気の至りというやつなのだろうかと思いながら、二人の元に歩み寄ってその頭をなでる


「あのさ、静・・・その、キスしていい?」


「唐突だな・・・まぁ、明利だけにするのは贔屓だもんな」


そういって静希は雪奈の唇にそっと自分の唇を重ねた


明利のそれとは違う、少しだけ厚く、張りのある唇


ゆっくりと離れると、雪奈は顔を赤くして、緩んだ口元を直そうともしないで笑みをこぼしていた


「えへへ・・・いいもんだね・・・」


「し、静希君、私も!」


目の前でキスされてさすがに少しだけ嫉妬したのか、明利がせがむと静希ははいはいと苦笑しながら明利とも口づけをする


明利も雪奈同様に、キスを終えると頬を緩ませて笑みを浮かべていた


「あーらあら、見せつけてくれるわねシズキ?」


先程からずっと空気を読んで傍観モードだったメフィがふわふわと静希達の元へとやってくる


少し嫉妬しているのか、それとも面白いものを見て嬉しいのか、にやにやとしながら体を浮遊させて静希の後ろから抱き着いた


「そういえばシズキ、まだ報酬貰ってなかったんだけど?」


「え・・・今するのか?」


雪奈を助けた時にメフィに力を借りた、その時の対価は確かメフィへのキスだったはず


場所への特定はしていなかったから頬にでもすればいいかと思って軽視していてすっかり忘れていた


「報酬って・・・甘いものですか?」


「いいえ、シズキとのキスよ」


メーリに気を使って唇以外だけどねと付け足すが、明利と雪奈はえぇ!?と驚いたあと、メフィと静希を恨めしそうに睨んでいる


「そうねぇ・・・じゃあ、胸にキスしてもらおうかしら?さぁシズキ、御褒美頂戴?」


「う・・・仕方ねえな・・・」


悪魔との契約は絶対だ、断ればどんなことになるかわからない


というか明利がいるときにせがむあたり、気を使っているのかただ単に楽しんでいるのかわからない


恐らくは後者だろうと思いながら静希はメフィの胸元に唇をつける


唇をつけた瞬間僅かに震えながらメフィは自らの指を唇に添わせながら恍惚とした表情を見せる


誤字報告が五件たまったので二回分投稿


今日と明日が勝負です、それを超えれば時間に余裕ができます


これからもお楽しみいただければ幸いです

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