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J/53  作者: 池金啓太
十五話「未来へ続く現在に圧し掛かる過去の想い」

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雪奈の言葉

真っ白な空間の中で、静希はため息をついていた


眼前にいた願いを叶える神格は今静希のトランプの中にいる


神格を縛っていた光の輪はトランプの中に収納した途端に霧散した


恐らく、もうこの神格を縛るものはないだろう


だが雪奈を解放してもらうまでは安心できないが、とりあえず問題は一つ片付いただろう


先程言っていた願いを叶えるという甘言を前に、静希は少しだけ揺れてもいたのだ


『マスター・・・よかったのですか?あれはチャンスだったのでは・・・?』


『んん・・・少しもったいないことしたかな?』


そう言いながらも静希の顔は晴れやかで、後悔などは一切ないように見えた


『断って正解よ?もしあんな奴にお願いなんてしてたら私、シズキのことを見限ってたかもしれないわ?』


『そうか?それじゃやっぱりお願いしときゃよかったかな?』


なによそれと言いながらも、それが冗談であることがわかっているのか、メフィはくすくすと笑いながら上機嫌そうにしている


悪魔として、静希と長くともにいた人外として今回のことは何やら嬉しかったようだった


何がうれしいのかは恐らくはメフィにしかわからないだろう


『・・・私としては少し複雑な気分だ・・・』


『あぁ・・・お前も一応神様だからな・・・』


『シズキの人生には口出ししないほうがいいか?』


『馬鹿言え、お前らは自分から俺に関わってきたんだろうが、今さら口出ししないなんて許さないぞ』


静希の言葉に邪薙はそうかと呟きながら、少し嬉しそうに鼻を鳴らしていた

人外と言っても特別扱いされるとやはりうれしいのだろうか、悪魔と神格はそれぞれ上機嫌で静希のトランプの中に納まったままになっていた


「さて・・・あとは雪姉か・・・」


真っ白な空間に取り残された静希は周囲を見渡す


周りはすべて白で覆われた奇妙な空間だ


この霊装に取り込まれたときに出た暗い空間とは打って変わって明るい状態を維持しているように見える


『先の神格の言葉が確かなら、出られるようにしてくれたら雪奈様を解放すると言っていましたが・・・』


『そうだな・・・おい、いつになったら雪姉解放するんだよ』


トランプの中の神格に話しかけるが、すでに口出ししないという願いを叶えている最中なのか、だんまりを決め込んでしまっている


『ったくコミュニケーションとることもできないのかよ最近の神格は、同類としてどう思いますか邪薙さんよ』


『いやまったく礼儀というものがなっていないな、最低限の対話もなく神格であるなどと名乗ることもおこがましい』


同じ神格からの言葉を受けても思成人為御神は何の反応もしない


こう黙っていられると本来の目的が果たせない


「仕方ない、とりあえず歩くか」


静希が数分歩くと、突然それ以上進めなくなってしまう


どうやら壁のようなものがあるようで、これ以上進めないようになっているようだった


さすがにこの何もない空間、しかも先ほど嫌味な神格との対話があったせいで静希も若干イライラしていた


『メフィ、お願いがあるんだか聞いてくれるか?』


『ふふふ、いいわよ?いったいどんなお願いかしら?』


周りに誰もいない空間ならば人外を外に出しても何の問題もない


静希はトランプの中からメフィを取り出して眼前の壁の前に向かう


「この壁ぶっ壊してくれ、もうこうなったら一直線に進むぞ」


「ふふ・・・そういうの結構好きよ?対価はそうねぇ・・・たまにはキス一回でどうかしら?」


「・・・口は無しな」


「えー・・・ま、メーリの顔を立ててあげるわ」


さすがにメフィとしても付き合ってそう時間も経っていない二人の仲を裂くつもりはないのか渋々いう事を聞いてくれた


能力を発動し光弾を創り出し目の前にある壁めがけて放つと、ガラスが割れるような音と共に壁は砕けてあたりに破片をまき散らした


その時一緒に聞きなれた悲鳴が聞こえた気がしたため、壁の向こう側を覗くと、破壊したときの衝撃のせいで吹き飛んでいる姉貴分、雪奈を発見した


「あっちゃー・・・そこにいたの・・・?」


「あー・・・まぁなんだ、雪姉、生きてるか?助けに来たぞ?」


少し気の毒そうな顔をしている二人に対して、倒れたままこちらに顔を向ける雪奈


あまりの唐突な攻撃にびっくりしたのか、それとも痛かったのか、目がしらに涙を浮かべていた


「うぅ・・・二人とも・・・私に何か恨みでもあったの・・・?」


「えっと、ごめんって、悪気はなかったのよ?」


「まさか壁のすぐそばにいるとは思わなかったんだって、悪かったよ」


実行犯のメフィと発案者の静希は倒れたままの雪奈に近寄って自らの非を詫びているが、雪奈はむくれてしまう


どうやら機嫌を損ねてしまったようだ


「ふんだ、静ならもっと格好良く助けてくれると思ったのにさ、お姉ちゃんがっかりだよ」


「悪かったって・・・それで怪我とかないか?あの神格に変なことされたり妙なこと言われたりしたか?」


「・・・ううん、とりあえず無傷だよ、むしろ話し相手もいなくて暇だったよ・・・」


雪奈の話を聞くと、この中に入って少ししてあの神格と出会い、静希を呼ぶための餌となるようにここにずっと閉じ込められていたらしい


それからこの空間に出口がないか探し回っていたそうだが、壁に行きついてさすがに気力がなくなったのか、壁を背にして休んでいたところ、このありさまになったとのこと


どうやら明利達のように過去の自分が出てくるということはなかったようだ


あの過去の自分がなぜ出てこなかったのかについては疑問が残るが、雪奈が無事であることが何より静希は嬉しかった


踏んだり蹴ったりの状況にしてしまって、本当に申し訳なく思うばかりである


「まぁ・・・こうして助けに来てくれたからね、ありがとね静」


「まったくだ、人に心配かけるなって言っておいてこれだよ」


「あはは・・・面目ない」


寝転がったまま苦笑している雪奈の近くに座り込んで、静希は自分の額を雪奈の額にくっつける


額が体温を交換し合う中、静希はわずかにため息をついた


自分の姉がこうして無事にいるという、安堵のため息だった


「・・・心配した・・・」


「・・・うん・・・ごめん」


静希の小さな声に、雪奈は申し訳なさそうに目の前の静希の頭をなでる


「どれくらい心配してくれた?」


「・・・監禁した奴に地獄を見せてやりたくなるくらい」


「あはは・・・そっか、それじゃ今回は無理そうだね」


「そうだな、またの機会にするよ」


相手が人間だったのならばそれこそ生まれてきたことを後悔させて死にたくなるまでいたぶるつもりだったのだが、神格であっては静希では相手にならない


先程までの怒りのぶつけ先を失ったというのもあるが、今は雪奈が無事だったことの方が大きい


「来てくれるって思ってた・・・よくできた弟を持つと姉は楽でいいね」


軽口を言ってはいるが、雪奈自身不安だったのだろう、静希の頭をなでる手はわずかに震えている


相手は神格でしかも自分だけではどうしようもない状況


いくら雪奈が普段頼りになる前衛の要だとはいえ、ただの女の子なのだ、不安にもなるし怖がりもする


それをわかっているからこそ、静希は雪奈の額から離れない


お互いの体温を確かめるように触れ合う中、雪奈の手が止まる


「静・・・明ちゃん達はどうしてた?」


「心配してたよ、今は外で待ってると思う」


そっかと呟いて雪奈は静希の頬に触れて静希の顔が見えるように少し距離を作った


その眼は少しだけうるんでいた


不安でたまらなかった空間から救い出されて、安心したのだろうか、僅かに表情が緩んでしまっている


「静、明ちゃんは好き?」


「・・・?あぁ、好きだよ・・・俺はあいつを守ってやりたい」


唐突な脈絡のない質問に静希が正直に答えると、雪奈はわずかに笑って見せる


「私も明ちゃんが大好きだよ、あの子の泣いてるところは、見たいけど見たくないな」


明利の泣き顔は見ていて加虐心をそそる


静希もそれには同意だが、意図的に泣かせたいとは思わない、何度か本気で泣かせてしまっているからこれ以上泣かせるのは嫌なのだ


「だったらさっさと出よう、あんまり長居すると本気であいつ泣くかも」


「静・・・好きだよ」


言葉を遮るように告げられた雪奈の告白に、静希は少し目を見開いた


「あぁ・・・俺も好きだぞ?」


静希は姉弟として、幼馴染として好きだと捉えたのだが、雪奈は小さく笑って見せる


「違うよ、男の子として、異性として・・・静が好き、大好き」


雪奈は先程嘘をついた


閉じ込められてから何もなかったと言ったが、彼女の前にも、昔の姿の自分が現れていたのだ


そこで幼いころの自分が言ったのは、静希と明利の関係


ずっと昔から一緒に居た弟が、幼馴染の明利に盗られた、明利なんていなければ自分が静希と


もちろん雪奈はそんなことは思ったことはない、明利が静希のことを好きなのは知っていたし、彼女を応援したいと思ったのも本心からだ


だが雪奈自身、静希に恋心を抱いていたのは本当だ


自分よりも弱くて可愛い明利がいたからこそ、ある種諦めていたことでもあった、だが自分の言葉で言われるからこそ、諦めていたものが再びよみがえってしまったのだ


そんな想いを蘇らせ、明利に合わせる顔がないと思ってしまうほどに


幸か不幸か、ここには静希と人外しかいない


告白するには最適だったのだ


溜め込んでいた気持ちが、吹き出すような形でつい口に出てしまった、そして一度口から出たら止まらない


「雪姉・・・でも俺には」


「わかってる、明ちゃんがいるもんね・・・ズルはしないよ、ちゃんと明ちゃんにも言うよ・・・静が好きだって」


雪奈も雪奈で不器用な性格をしている、よく言えば誠実なのだ


嘘をつきたくないし、ズルなんてしたくない、本当ならこっそり明利の目を盗んで横恋慕してもおかしくないのに、雪奈はそれをしない


「私は一番じゃなくてもいいんだ・・・静と一緒に居たい、ずっと・・・」


目を細めて微笑む雪奈は、今まで見たことのないような、女の顔をしていた


静希は戸惑っていた


今まで見たことのない姉の姿に少しだけ気圧されたのだ


明利を裏切るつもりなどない、だからこそ告白は嬉しく思うものの断ろうと思っていたのに、明利にそのことを伝えてなお、雪奈は一緒に居たいのだという


雪奈がいったいどんな未来を見ているのか全く分からなくて静希は困惑していた


土曜日なので二回分投稿


少し時間に余裕ができましたが週明けからまた忙しくなりそうです、水曜日になれば少しはマシになるかな?


これからもお楽しみいただければ幸いです

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