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J/53  作者: 池金啓太
十五話「未来へ続く現在に圧し掛かる過去の想い」

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願いの本質

「能力のせいで不遇な目に遭ってもそれでも、苦楽を共にした能力とともにいた過去を選ぶか、これから待つ膨大な未来を犠牲にしても」


「確かにこの能力のせいで、いろいろ苦労はした、変な連中にも会うし、一緒に住んでるし、面倒だってあった、でも過去を変えたら今まで俺がそうして過ごした時間もなくなる!今までの全部が無駄になる!そんなこと絶対にごめんだ!」


今まで自分が行ってきたことが無駄になる


これ程恐ろしいことはない


悩みも苦しみも、喜びも、幼馴染たちと過ごしたあの時間さえも変わってしまうかもしれないのだ


そんなもの、静希は認められない


「わずかな、そしてささいな過去に縛られ、膨大な幸福な未来を棒に振るか」


眼前の神格の失望したような声に、静希は心の中の怒りを燃やす


自らの過去を侮辱されただけではない、自分と共にいた、彼らと培ったすべてを侮辱されたのだ


「わずかだ?膨大だ!?そんなこと知ったことか!俺はいろんな奴とここまで来た!これまでずっと!あいつらと一緒にいた時間がささいだぁ!?ふざけんじゃねえぞ!てめえ何様だよ!俺のことを知ったようなこといいやがって!」


「私は、人間たちが神、または世界と呼ぶ存在、神は総じて大業を成した人物の願いを叶えるものだ」


静希の言葉にも何の反応も見せずに神格は両手を広げて見せる


静希にはその格好が滑稽に見えて仕方がない


「はっ、こちとらあいにくと神様なんざ見慣れてんだよ!ショートケーキでも買ってやるから神棚にこじんまりとおさまってろ」


日常的に神格、神様である邪薙の存在と触れている静希からすれば、神などに対して何の恐れもない、敬いもない


あるのは存在としての観点のみである


「出られるようにしてやるから、わかったらさっさと雪姉返しやがれ、俺は過去の改変なんぞに興味はないんだよ」


静希がトランプを展開していると神格は手を前に出して静希を制した


一体何のつもりだろうかと訝しんでいると神格が口を開く


「話を聞け、私はそなたの願いをかなえられると言ったはずだ、では過去は変えず、そなたの能力だけを今この場で変えるといえば、どうか?」


「・・・!」


過去を変えずに、今こうしている静希の能力を強くする


メフィと出会ったという事実を変えず、今の静希の力を強化する


これ程魅力的な提案はほかにないだろう


何せ静希は、ずっとこの矮小な能力を強化できない物だろうかと苦心していたのだ


「そなたが願えば、そなたの望む力が得られるぞ?この世界全員がそなたを見るだろう、悪魔でも、天才でもなく、皆がそなたを頼るだろう、全てのものがそなたを認め、敬うだろう・・・そんな力を得たくはないのか?」


「・・・」


それは一種の名誉欲にも近い


今まで静希は、自分自身が優れていると思ったことは一度もない


誰かが自分を頼っても、それは自分ではなく、自分の周りにいる仲間か、人外たちに向けているものだと思っていた


そしてそれは一部では正しいものだ


自分の幼馴染や鏡花は自分自身を頼ってくれている、それはよくわかる


だがほかの大人たちは違うだろう、静希の向こう側にいるメフィの力を、心のどこかで当てにしている


「今までもそうだ、その気になれば悪魔の力を行使し何もかも思うがままというのにそなたはそれをしない・・・何故だ?」


「・・・ははは・・・そうだな・・・そんなことが・・・メフィ達の力に頼って、あてにして、楽して、堕落して・・・そんなことができるような性格だったら・・・どんなに楽だっただろうよ・・・」


神格からすれば、理解できなかったかもしれない


人間社会の柵にとらわれている静希が不思議でしょうがないかもしれない


メフィの力があれば、ほとんどの物事は思いのままになるというのに、静希はそれをしない


「力を持つものを従えながらなぜそれを行使しない?今もそうだ・・・私の力を使えば、いかなる力も手に入るというのに」


「確かに俺は力がほしいよ、誰かを守れるだけの力がほしい、誰かを救えるだけの力がほしい、誰かを助けられる力がほしい・・・誰かに認められる力がほしい・・・」


それはずっと思い続けてきた静希の本心だ


強い力が、誰かに見てもらえる、頼られる、そんな力が欲しかった


だからこそ能力を強くしようと訓練した、だがそれは結局叶わなかった


毎日のように訓練を重ねた、いつか自分の能力も、実力も飛躍的に上昇するような奇跡が起こることを信じて、鍛錬を続けてきた、いつかすべてが変わるような途方もない奇跡が起こるのではないかと淡い希望を抱いて


そうでもしなければ、才能などない自分が強くなれるはずがなかったから


だがそんな都合のよい奇跡は起きなかった


努力もした、能力を強くしようと、体を強くしようと、戦い方を工夫しようと


だが一向に前に進んだ気はしなかった、強くなった気など欠片もしなかった

変わっていくのは周りだけ


自分はほとんど何も変わらず、自分の周りの環境だけが変わっていく


焦りもあった、悔しさもあった、だがそれ以上に、もっと努力しなければという気にもなったのだ


「でもな、それは俺が手に入れたい力だ、誰かから得た力じゃない!俺自身が手に入れた力がほしいんだ!」


今ここで神格によって力を変えられたら、それは静希が自分で手に入れた力ではなく、誰かから与えられた力だ


自ら勝ち取ったものでなければ、何の意味もない、何の価値もない、何も嬉しくない


今まで自分がこなしてきた努力も、なにもかも無に帰してしまう


静希はそれを理解していた


理解していたからこそ、静希は神格の申し出を拒む


「そなたがどんなに力を手に入れようとしても、もはやそれは叶わない、そなたの限界はもうすでに訪れているのだから、だからこそそなたは皆の力を借りているのだろう?」


神格の言う通り、静希の能力はすでに限界を迎えており、これ以上の成長は望めない


だからこそ、静希は多くの人の力を借りて日々訓練を重ねている


自分にできないことは誰かの力を借りて、策を練り、日々研鑽を重ねている


「そうだ・・・そうだよ、俺は昔からずっと誰かから力を借りてきた、陽太には昔から借りっぱなしだ、明利には昔から助けられてばっかりだ、鏡花にはいつも頼りっぱなしだ、雪姉にはいつも世話になりっぱなしだ」


自分にはないものを持つ幼馴染と級友、自分にはない才能を有しているからこそその力に頼り、協力することで静希はここまで来た


「メフィにはこっちから願うばっかりで何もできない、邪薙には守ってもらってばかりで、オルビアにはいつも支えてもらってる、ずっと俺の力じゃなくて、俺はいつも誰かの力に支えられて守られてきた」


人外たちには命を救われ、それでも彼らに何かすることは静希にはできない

せいぜいできるとしたら供物をささげるくらいの物だろう


それを差し引いても返しきれないだけの恩を静希は抱え込んでいた


人外たちからだけではない、静希の周りにいる人から、静希は力を借りて支えられてきている


「そんなことから解放されるのに、なぜ私から力を得ることを拒む?」


「・・・今までずっと頼ってきて、一緒に戦ってきて、何の恩返しもできてないのに、あいつらが苦労してる中俺だけ楽して強い力を手に入れる・・・そんなことできるわけないだろ」


静希は陽太が苦労しているところを間近で見てきている


彼が日々傷つきながらその力の制御に苦心しているところや、毎日鏡花と一緒に訓練を重ねているところを見ている


それを見てなお自分だけ楽をしようなどと言う考えは静希は毛頭ありはしなかった


何より、それこそ自分自身が続けた努力がすべて水泡に帰すことでもあるからである


自ら積み重ねたものをそんなに簡単にぶち壊せるほど、自分の過去は軽くない


静希はそう確信していた


「愚かな、他人を想って自らの願いを切り捨てるか・・・手に入る物も見えずに自らの欲を満たすこともせずに、他人に振り回されるのか」


「愚かか・・・如何にも神様みたいな言い草だな・・・」


思えば、確かに静希の今までは他人や周りに振り回されてきた


そう考えると、この神格の言いぐさもあながち間違ったものでもないかもしれない


「左様、私は神、全知全能、私に願えば叶わぬことなどない」


「はは・・・大仰なこと言いやがって・・・他人からもらった力なんて、借りものにも劣るっての・・・!」


誰かを傷つけるにしろ、力を持つにせよ、手に入れるだけなら簡単だ


静希の場合ならメフィに『お願い』してしまえばいいし、力を手に入れることなら簡単にできる


だがそれは静希の力ではない


自分自身で手に入れなければその力は本当の意味で価値を持たない


「借り物にさえも劣る能力を持つそなたが、何故拒む、理解に苦しむ」


「理解か・・・お前人の心とか気持ちとか考えたことないだろ」


「然り、我は神だ、人の心などを何故思考せねばならん」


その言い草に静希は笑う


願いを叶えようというのに、その願いがどんな意味を持っているのか、なぜそのような願いを求めるのか


この神は自ら、願いを叶えることこそ本質だと言っておきながら、その願いの本質を理解していないのだ


「はっはっは・・・人の心も考えた事のない奴が、何で人の願いを理解できる?どうやって人の望むものを与えられる?最初っから矛盾してるんだよお前は」


そもそも、本当に目の前の神格に願いを叶える力などがあるかどうかも怪しいものだ


過去を読むことはできるようだが、その心までは理解できない


そしてその力も明かしていないような人外を、静希は信用することはできなかった


「救いの手が差し伸べられているのに、わざわざその手を払いのけるか」


「救いだぁ?俺がいつそんなもん求めた、いつ俺が窮地に立たされた?今まで困ったことはたくさんあっても乗り越えられなかった事はねえぞ」


数多くの難敵や困難を前にしても、静希はこうして生き残った


中には死の淵に立たされることもあったが、それこそ多くの人物に助けられてここにいる


「それも今のうち、これからさらなる困難がお前を襲うだろう、それでもなお、お前は頑なに力を得るのを拒むか」


「当たり前だ、俺が欲しいのは俺の力だ、お前の力じゃない」


静希は頑なに神を拒絶する


自らの力を欲するが故に、神の力を拒絶する


それが決して手に入らない代物だろうと、静希は未だ若輩の身、これから先にどんな物事があるかもわからないうちから、神の力などと言う不明瞭な力に縋るつもりはなかった


「・・・では願いは無いと?」


「・・・それじゃあ神様、叶うのなら願ってやるよ、その小奇麗な耳かっぽじってよく聞きやがれ」


「申してみよ、人の子よ」


神を前に静希は大きく息を吸い込む


目を見開いて、自らのトランプを展開しその一枚を自らの右腕で掴む


「俺はいつか力を手に入れる、お前なんかじゃ用意できないような最高の力を手に入れてやる・・・」


静希はあきらめていない


全ての可能性がついえたわけではない、それを確信しているかのように、眼前の神の体にその右腕のトランプを触れさせる


「全知全能なんて胡散臭いものに興味もない、神様如きが、俺の人生に口出するな!」


「・・・人の子よ、その願いかなえよう、私はそなたの人生に口を出さん、そなたの生に幸福があらんことを」


その言葉を聞き届けると同時に静希は神格思成人為御神をトランプの中に収納した


誤字報告が五件溜まったので二回分投稿


ちなみに後ほどルビふりしますが、思成人為御神はしせいひといのみかみと読みます


邪薙とかもそうですが一つ一つ読みをルビふりしておいた方がいいのかな


少し考えます


これからもお楽しみいただければ幸いです

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