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J/53  作者: 池金啓太
十五話「未来へ続く現在に圧し掛かる過去の想い」

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強引な手段

「・・・なんでよ・・・何で私みたいな嫌な奴・・・」


鏡花は自分の性格を自覚している


口うるさくて、棘のある言いかたしかできない、不器用な人間


そんな人間を好きになるようなもの好きなど、どこにいるだろうか


「あぁそうだよ嫌な奴だよ、口五月蠅いしむかつくし、いちいち突っかかってくるし正論ばっか言いやがる」


うそを言わないからこそ、鏡花にはその言葉が至極当然のように受け止められた


いや、何時も陽太から言われているからこそ、当たり前のように受け止められた


何の痛みもなく、何の怖さもなく、まるでそれが当たり前であるかのように


「だったら・・・放っておけばいいじゃない・・・」


聞く限りそこには嫌悪しかないように思える、だが陽太の手は鏡花を離さない


「ざけんな、こんなとこにいつまでも置いとけるか!引きこもるなら自分ちで引きこもれ!」


「ふざけるなはこっちの台詞よ!勝手なことばっか言って!何一つ理屈めいてないじゃない!全部感情論ばっか!私は・・・私がいるとみんな嫌がる・・・今までずっとそうだった!だからここにいれば、みんな嫌がらないって・・・だから」


「・・・」


一度口に出したら感情が止まらなくなったのか、鏡花はわずかに涙を浮かべながら項垂れる


その姿を見て、その言葉を聞いて陽太は眉をひそめてしまう


どう答えたらいいのか、どう反応するべきなのかわからないのだ


「だから・・・私のことはほっといてよ・・・」


力なく首を垂れ、涙を落とす鏡花に、陽太は困っていた


どうしたらいいのか、何故鏡花が泣いているのか、何でそんなことを言うのか、本当にわからなかった


何か言われたのであろうことはわかる、だが陽太には幼い鏡花の声も、周りから響いていた怨嗟の声も何も聞こえていない


陽太が来る前に、それらはすべて消えてしまったからである


必死にない頭を動かしてどうするべきだろうかと悩んだ


泣いている女の子がいるのだ、男として何かしなくてはいけない、するべきなのだと自分の中の何かが言っているのだが、正解を導けるだけの頭脳が陽太にはなかった


「・・・あぁぁぁぁぁもう!」


少しして、考えることが面倒になった陽太は鏡花の体を強引に持ち上げて肩で担いでしまう


足を腕で掴んで顔が陽太の後ろを向くように、下半身が陽太の進行方向を向くように抱え上げ、悠々と立ち上がる


「きゃっ!なにすんのよ!」


「もうめんどくせえ!お前の話は全部無視する!お前の都合も気持ちも全部無視!」


そういって歩き出した陽太に鏡花は目を丸くしてしまった


話が通じない、というか話をする気を無くした


考えることを丸々放棄した陽太に、鏡花は口を開閉しながら自分が言うべき言葉を模索する


「はぁ!?なに言ってんのよ!?下ろしなさい!」


「嫌だね!ぐだぐだぐだぐだ長々とわけわかんねえこと言いやがって!俺が頭悪いこと知ってんだろうが!俺にもの伝えたきゃ三十文字以内にまとめろ!」


陽太が頭が悪いということくらい知っている、だが空気を読むこともできないのか


声が聞こえなくなった今、少し時間をくれれば元の自分に戻れたかもしれないのに、目の前の陽太はそれすら許さない


「な、なら、ここで下せ!私を放っておけ!」


「嫌だ!」


「何で!?」


「俺が知るか!」


「・・・は?」


考えることをやめた、自分の考えすらまとめる前に、陽太は鏡花を担いで歩いている


もはや人間らしい思考すらしていない、バカという領域を超えている


鏡花は考えないことができるのは才能だと、いつか言った


本当にその通りだと、今になってその才能の恐ろしさを再認識した


「俺だってわかんねえよ!けどお前をここに残していくのは何かあれだよ・・・その・・・もやもやすんだよ!」


「わ、わけわかんないこと言ってんじゃないわよ!バカじゃないの!?」


理由にもならない理由をとってつけたように鏡花に叩き付けて、抵抗しようものなら力づくで押さえつけて、それでも陽太は鏡花を離さない


その体から伝わる体温と、その言葉から響く声が鏡花の中に染み渡っていく


「あぁそうだよ俺はバカだよ!バカだからこんな風にしか出来ないんだろうが!」


「・・・っ・・・なんでよ・・・なんで・・・」


一人にしてほしい、なのに陽太は一人にしてくれない


ここに残してほしい、なのに陽太はここに残してくれない


自分に触れてほしくない、なのに陽太は鏡花を離そうとしない


自分の望んでいることと正反対のことをされているのに、なぜこうも涙があふれるのだろうか


何故、先程まで止まらなかった胸の痛みが止まっているのだろうか


鏡花は自分の変化に訳が分からなくなっていた


何故自分はこんなところで、陽太に担がれて泣いているのだろう


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