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J/53  作者: 池金啓太
十五話「未来へ続く現在に圧し掛かる過去の想い」

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太陽のような

時間は少しだけ遡る


陽太と静希がこの空間に入った頃、未だに鏡花は過去の自分の経験からくる怨嗟の声に震えていた


『お前がいるから俺らが馬鹿にされる・・・お前なんかいなくていい・・・あんたなんていなくなれ・・・あんたうざいよ・・・おまえなんて・・・あんたなんて・・・』


かつての同級生たちからの声が聞こえないように耳を塞いでいるのにもかかわらず変わらず頭の中に響く怨嗟の声に鏡花はどうすることもできなくなっていた


心を落ち着けようとすればするほど、頭の中にあの時の同級生たちの目が浮かぶ


自分に向けられる嫌悪の瞳、あれを思い出すたびに体から力が抜ける


『ねえワタシ・・・結局ワタシは誰のためにここに来たの?誰からも嫌われてるのに、何で誰かのために行動するの?』


「わ・・・わた・・・しは・・・」


眼前にいる幼いころの自分に鏡花は言葉を返すことができずにいた


最初は静希達は自分のことを嫌っていないと、そう思っていた、だが延々とこの声を聞いていると、全て自分の都合の良い勘違いなのではないかとさえ思えてしまうのだ


本当は誰も自分のことなんて必要じゃなくて、みんなが自分のことを嫌っているのではないか


そんな風に思い始めていた


そのせいでなぜ自分がここにいるのかすらも分からなくなってきていた


『ずっとここにいたいならそれもいいわ、誰も心配なんてしないんだから』


表に出れば、ここからでたら否が応にも静希達の顔を見ることになる、今彼らと会って自分を保てるはずがない、今出ることはできない、出たくない


怖いのだ、彼らが自分のことをどう思っているのか、わかってしまいそうで、それを確認したくなくて、ここから動けないのだ


『でもいいの?みんなに会いに行きたくないの?友達だと思ってるんでしょ?ワタシは』


「そう・・・あいつらは・・・友達で・・・仲間で・・・」


『でも、本当はどう思ってるのかしらね?』


一体目の前の自分は何を言いたくて自分に言葉を投げかけるのか、すでに思考も感情もぐちゃぐちゃでまともな精神状態を保っていることもできなかった


延々と続く怨嗟の声、目の前にいる幼い自分


この二つの要素は、鏡花の精神を崩すのには十分すぎた


『もうワタシが来てから随分経ってるわよね?何の音沙汰もないってことは、ワタシのことを見捨てたのかもね?』


「あいつらは・・・わたしの・・・ことなんて・・・」


鏡花の呟くような声が闇に溶け、幼い鏡花の笑い声と怨嗟の声が延々と続く中、それが鏡花の頭の中に響いた


『いい加減にしろお前ら、そろそろやめないと物理的に黙らせるぞ』


それは、かつて自分に向けて静希が言った言葉だった


あれはいつのことだっただろうか、最初に会って、陽太と一騎打ちをした後のことだったか


自分と陽太の顔の前にトランプを出した静希が自分たちに怒りを向けていった言葉だった


その言葉が響くと同時に、今まで続いていた怨嗟の声も、幼い鏡花の笑い声も止まっていた


『鏡花さん、ありがとうね、少しすっきりしたよ』


次に聞こえてきたのは明利の声だ、静希が死んだと勘違いしたとき、一人にしてあげたことがあった


あの時の明利は見ていられなかったのを思い出す、自分にそれだけの弱い部分を見せてくれたのだということを思い出す


『鏡花ちゃんならできるよ・・・お姉さんが保証してあげよう』


次に聞こえてきたのは雪奈の声だ


自分に静希達を頼むと言ってきたあの時の、雪奈の優しい声


額から伝わる体温がジワリと鏡花の体を温めたあの不思議な感覚がよみがえる


姉として、幼馴染として、静希達を自分にまかせた、あの人の声が鏡花の脳裏に過った


『なにをいまさら、それにお前が言ったんだぞ、俺のバカは才能だって』


さらに聞こえたのは陽太の声だ


自分が言った言葉を疑いもしない、あのバカの声


何度言っても分からない、理解しない、頭を悩ませるバカの中のバカ


忘れていたのだ、昔を振り返るばかりで、今一緒に居る人たちがいったいどんな人たちなのかを忘れていた


自分に遠慮などしたことのない腹黒な策士


周りに遠慮してばかりの優しい女の子


姉として幼馴染として信頼を自分に預けてくれた先輩


一度信じたら疑いもしない、底抜けのバカ


静希達の姿を頭に思い浮かべて放心していると、近くからガラスの割れるような音が聞こえてくる


一体どこから


それを確認するより早く、目の前の幼い鏡花が映っていた何かが砕け、急にあたりが明るくなる


一瞬にして、あたりが昼間になったのではないかという錯覚を受けた


幼い自分がいた空間に、突如出てきた赤い何か、それが腕であるとわかるのに少し時間がかかった


砕けた壁が炎の光を反射してその場所だけが今までの空間とは別になってしまったように、陰鬱さを吹き飛ばして見せた


暗黒を引き裂くように現れた光源、陽光に似ているそのオレンジの炎は、まるで太陽のようだった



現れたのは太陽などではなかった


今まで何度も見た、自分が指導し続けた、同級生の姿


炎を纏った鬼が壁を完全に砕いて自分の前に立った時、鏡花は座り込んだまま、何も言えず、何も反応できず、ただ放心していた


「お、女王様発見、俺の勘も捨てたもんじゃないな」


能力を解除して自分の元にやってくる陽太、へたり込んだままの自分の手を取って、朗らかに笑って見せる


「お迎えに上がりましたよ?女王様、とっととこんなところ出ようぜ」


自分の手を掴んだまま力を込めるが、鏡花の体に力は入らない


立ち上がろうとしない鏡花を不思議に思ったのか、陽太は屈んで鏡花の顔を見ようとする


だが鏡花の顔はうつむいたままで、陽太の顔を見ようとしていなかった


「おいどうした?どっか具合悪いのか?」


自分のことを心配してくれているということはわかる、陽太の声は少しだけ不安を含んだものだったからだ


だが、鏡花は顔を上げられない、陽太の顔を見れない、いや正確にはその眼を見ることができない


陽太もあの目をしているのではないかという猜疑心が、鏡花の顔を上げさせなかった


「とにかく立てよ、具合悪いならなおさらこんなとこいないほうが」


「だめ・・・!」


ようやく声を出した鏡花に、陽太は首をかしげてしまった


何がダメなのか、何故だめなのか、まったく理解できなかったからだ


「なんだよ、なんかあるのか?」


「行けない・・・!行きたくない・・・!」


怖かった、静希達の顔を見るのが


彼らがどんな人間だったか、鏡花は確かに思い出した


だがこうして目の前に陽太がいると、怖くてたまらない、自分のことを恨んでいるのではないかと思えてしまうから


そして、それは静希達も同じではないかと思えてしまうから

「はぁ?なんでだよ、ここ暗いからあんまり居たくないんだって、ほら行くぞ」


「ほっといてよ!私は・・・ここに・・・!」


陽太の手を振り払って鏡花は膝を抱えてしまう


普段見ている鏡花の姿とは全く違うその様子に、陽太は唖然としてしまっていた


何があったのか知る由もないが、その体が震えていることから嫌なことがあったという事だけは理解できた


「なんで出たくないんだよ、俺馬鹿なんだから言ってくれなきゃわかんないぞ」


「・・・だって・・・私は・・・いるだけで、皆に疎まれて・・・嫌われて・・・必要・・・ないって・・・あんた達だって本当はそう思ってるんでしょ!?」


近くにいるのが陽太だからか、鏡花は全く遠慮もなしに叫び散らした


一体何を言っているのかと、陽太はあきれ返ってしまった


「あぁ!?ざっけんな!お前がいなくて誰が俺の特訓につきあうんだよ!?」


「・・・」


質問に対しての回答としては不適格だったかもしれないが、陽太の言葉には鏡花が必要だという意味が込められていた


うそを言うなどということをしない陽太の言葉は、疑いようもなく鏡花の中に響き渡る


「いいか、お前は俺が何年もかかって制御もろくにできなかった状態を、たった数カ月でここまで使えるようにしたんだぞ!?今まで何人も大人が俺にいろんなことを教えた、何とかしようとした!けど全員終いには『お前には才能がないから諦めろ』だ、皆匙を投げて知らんぷりだ、だけどお前はいったじゃねえか!あんたには才能があるって!」


今まで自分に物事を教えてきた人は大勢いた、その全員が陽太のことを見限ったのだ


だが鏡花は見限らなかった、確信をもって、陽太には才能があると思えたからだ


「・・・でも・・・」


「今更ウソだったなんて言わせねえぞ、お前の言った通りの力を俺は使えるようになってんだ、お前の言ってることはいつだって正しいだろうが!」


今まで陽太の訓練をしてきた鏡花の言葉が間違ったことはない


今まで鏡花が言った言葉に正しくないことなどない


自分が間違いまみれだったからこそ、陽太は心の底からそう思えた


「違う・・・私は・・・」


「人にここまで希望与えておいて、自信がなくなったからはいさよならなんて誰が認めるか、お前は俺が満足するまで一緒にいてもらうぞ」


「・・・っ」


別に自信がなくなったわけではない


そういう意味では陽太は微妙に勘違いしている


恐らく自分が間違いを犯したということを思い悩んで合わせる顔がないとでも思っているのだろう


鏡花がいもしない自分を嫌う誰かに会うのを恐れているなど、わかりようがない


「それに必要だとかそんなんじゃねえんだよ、お前がずっとここに引きこもっていたいって言っても、俺はお前をつれてくぞ、引きずってでもこっから連れ出す」


だが、陽太はバカなのだ


幸か不幸か、バカなのだ


馬鹿だからこそ、思っていることをそのまま口にするからこそ、その声は、その言葉は芯まで響く


鏡花の手を再び掴んで強く握るその手は暖かく、鏡花に力を分けているようだった


誤字報告が五件溜まったので二回分投稿


最近ずっと執筆してないってかする暇がない


ストックがあるからいいけど・・・二月に入ったら頑張る


これからもお楽しみいただければ幸いです

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