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J/53  作者: 池金啓太
十五話「未来へ続く現在に圧し掛かる過去の想い」

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バカの行動原理

静希と別れた陽太はとりあえずあたりを適当に歩いていた


「鏡花ー!女王様ー!お迎えに上がりましたよー!いずこー!」


やる気のない呼び声に返事をする者はいない、暗闇の中に溶けていく声をあざ笑うかのようにこの空間には静寂が満ちていた


「ったく・・・暗すぎてよく見えねえっての・・・おりゃ!」


自分の能力を発動し、その身を炎で包むと一瞬周囲が明るくなった錯覚を受けるが、相変わらず周りは真っ暗、何もない状態では光源があってもなくても変わらないということだろうか


「んだよ・・・陰気くさいところだな・・・おーい鏡花!聞こえたら返事しろ!迎えに来たぞ!」


陽太は能力を解除してから引き続き鏡花に向けて声をかけながら適当に進んでいくが、返事はなく、静寂と暗黒だけが陽太を迎えていた


どれほど歩いただろうか、鏡花を呼びながら歩いていると不意に自分とは別の声がする


それは確かに今の自分とは違う声だ、だがどこか聞いたことのある、懐かしい声


そう、自分の近くにいつの間にかあらわれた、昔の自分から発せられた笑い声だった


身長も低く、顔だちも幼く、声も高い


「出たなパチモン、鏡花はどこだ?」


『ははは・・・オレが知らないことを俺が知るわけないだろ?』


「なんでだよ、お前ここにいたんだろ、なんか知ってるだろうが」


明利の話していた内容などほとんど理解していない陽太からすれば、ここにいたんだから自分よりここのことを知っていて然るべきであるという理屈があるのだが、そんなことはないと言わんばかりに幼い陽太は首を横に振って見せる


「なんだよ・・・ったく、んじゃ俺こっち探すからお前向こう探せよ」


『・・・誰を探すんだ?』


「誰って、鏡花に決まってんだろ、俺が知ってることなら知ってんだろ?鏡花くらいわかるだろ?」


あぁわかるよと呟きながら幼い陽太は小さな体を揺らしながら笑っている


昔の自分はこんなに態度が悪かっただろうかと思いながら陽太は昔の自分を無視してさっさと歩きだす


少しして自分の後をついてきている小さな陽太に気が付いてため息をつく


「おい、何でついてきてんだよ、向こう探せって言っただろうが」


『何で俺がオレのいう事を聞かなきゃいけないんだよ、オレみたいな無能のいう事なんて誰が聞くかよ』


「・・・お前・・・そんなに自分を卑下にしなくてもいいんじゃないか?」


陽太からすれば昔の自分の姿をした誰かが自らのことを無能だと言っているように見え、少しだけいたたまれなくなっていた


自分が馬鹿にされているということ自体に気づいていない、こういう時に頭が悪いと会話が成り立たない物である


「あれだよ、俺もバカだけどさ、結構いいことあるからさ、お前もそんなに投げやりにならないで頑張ろうぜ」


『・・・何言ってんだ?俺はオレをバカにしてるんだぞ?』


「だからそんな馬鹿にすんなって、そう捨てたもんじゃねえよ?どっかしら取柄はあるもんだって」


微妙に会話が成り立っていないために、陽太の眼前にいる幼い陽太は眉間にしわを寄せている


バカと会話するべきではない、どちらが馬鹿かわからなくなるから


陽太はそれを地で行くような真正のバカだ


相手が何を言っているにしても、文面そのままを受け取ることがあるために皮肉が通じないこともある


そして目の前の幼いころの自分が、自分自身を侮辱しているなど毛ほども気づいていないのだ


『・・・オレって本当に馬鹿だな、言葉の意味も理解できないのかよ、そんなだから馬鹿だの落ちこぼれだの言われんだよ』


「おいおい、随分ひどい扱い受けてんだな・・・まぁまぁ、今はそうかもしれないけどさ、いつか分かってくれる奴がいるって、ちゃんと教えてくれる奴がいればいつの間にか少しはましになってるもんだぜ?」


会話が成り立っているようで成り立っていない


伝えたい意図を陽太が理解しない、幼い陽太は徐々にいらだちながら、自分よりも背の高い陽太の胸ぐらをつかむ


『鏡花がわかってくれるってのか?オレのことなんて何にも理解してないあいつを?いいや、誰だってオレのことなんかわかっちゃくれねえよ!鏡花も!姉貴も!静希も!明利も!雪さんだってオレのことなんざわかっちゃいねえんだ!』


「・・・?」


目の前の自分が言っていることの意味が分からずに陽太は疑問符を飛ばしてしまう


前後の文とのつながりがおかしいことに気づいて、陽太はここでようやくその意味を考え出した


『オレはわかったふりをしてるだけだろ?だからわかったふりをされてやってるだけだ、結局オレは一人ぼっちの化物だ、炎で誰もかれも傷つけて、ずっと一人で膝抱えてるのがお似合いだ!鏡花を探す?探して見つけたところで傷つけるだけだろ?なぁ化物』


幼い陽太の叫びに、陽太は目を見開いた、その言葉の意味をようやく理解したからである


「あぁ・・・!お前俺と口げんかしたかったのか?」


すっとんきょうな声で、自分の言いたい本当の意味をはき違えてはいるものの、その本質を上手くとらえている陽太の解釈に、幼い陽太は歯を食いしばる


この世界に入った誰かに対して、記憶を読み取って生まれた同一体に近しい存在は、本体のマイナス部分を刺激し続けた


捉えようによっては、それは口喧嘩をしようとしていたと取れなくもない


『本当に馬鹿だな・・・オレがそんなだから、いつまでたっても鏡花に迷惑ばっかかけてんだろうが、そんなオレのことを、鏡花はどう思ってるだろうな?』


「ん?そりゃバカだと思ってんじゃねえの?鏡花だけじゃなくて静希も明利もそう思ってると思うぞ?」


特に否定することもなく、むしろ肯定するように陽太はさも当然のように答えて見せる


自分が馬鹿であると自覚している、これほど厄介な人間は存在しなかった


『それだけじゃねえよ、いい加減うざいと思ってるかもな、オレみたいな落ちこぼれのバカの相手はさ、もう顔も見たくないって思ってんじゃねえの?』


「そりゃうざいだろうけどさ、俺のバカは才能だって、他ならぬあいつが言ったんだ、この才能を前にしたらどんな面倒事も・・・」


陽太はそこまで言ってあぁ・・・そうかと呟いた


周りを見渡して、ようやく事態を把握した


何故鏡花がここから出てこれないのか、いや、出てこないのか


それを理解すると同時に陽太は、幼い自分を無視して即座に歩き出す


話の途中なのにもかかわらず唐突に歩き出した陽太に驚きながら、幼い陽太はその進路に先回りする


『俺を無視してんじゃねえよ、どこ行こうっていうんだ?』


「決まってんだろ?鏡花んとこだよ」


まるで自分の行く先に鏡花がいることを確信しているかのように、陽太は自らの歩みを止めない


眼前にいる幼い自分など眼中にないとでもいうかのように歩を進める陽太は止まるつもりなど無いようだった


だが、幼い陽太からすれば自分を無視されることほど腹立たしいことはない


コンプレックスを刺激しているのに、トラウマを刺激したのに、一向に陽太は気にする様子がない


奇妙きわまる行動原理、記憶を読んだだけで創り出された幼い陽太からしたらまったく理解できないことだった


『あいつのところに行ってどうするんだよ?オレに会いたくないって言われたら?顔も見たくないって言われたら?化物ってののしられるかもしれねえぞ?』


「それがどうした、俺はとりあえずあいつを連れもどせばいいんだ、あいつのいう事なんて聞く必要ナッシングなんだよ」


静希から出されたオーダーは引きずってでも鏡花をこの空間から連れ出すことだ


話を聞くなどと言うことは最初から陽太の目的に含まれていない、だから仮に鏡花から何を言われても問題ないという風だった


『ざっけんな!オレに会いたくないって言ってるような奴相手にオレが行って何ができるってんだよ!』


幼い陽太は常に陽太の進行方向の先にいたが、やがて止まってしまう


そして陽太の体もそこで止められてしまう


目の前には壁がある、そこに幼い陽太を映し出しているようで、実際にそこにいるわけではないらしい


見せかけというには随分と安っぽいハリボテなのだなと陽太は嘆息する


『オレみたいなバカは誰の役にも立てねえんだよ!暴走して!勝手に暴れて!今まで何ができた!?静希を守ることもできなかったオレに!いったい何ができるってんだ!』


静希を守ることもできなかった


本来前衛として、静希達中衛の盾にならなければいけなかった陽太


だが結局、静希は大きく傷ついた、左腕を失い、その体にも心にも大きな傷跡を残す結果となった


その事を陽太は覚えている、理解している


「だからどうした?」


陽太は目の前の壁に手をついて能力を発動する


その体は炎に包まれ、鬼の姿へと変貌し、一瞬だけ周囲を明るく照らした


「やっちまったもんは仕方ねえだろ、次ミスしないようにすりゃいいんだよ」


『それでまた同じことの繰り返しだろ、バカなんだからよ』


「おおともよ、でもこの馬鹿は才能なんだ、あいつがそう言ったんだ、絶対そうなんだよ」


目の前にある壁に向けて拳を構えながら陽太は大きく息を吸い込む


「お前、俺と口げんかしたかったんだろ?化物とかオレの癇に障ることずっと言ってたしな」


腕を振り上げて力を込める陽太の声は、それほど抑揚があるわけでもなく、いつも通りの様子だった


何も変わったことはないとでもいうかのように


「けど悪いな、俺はお前よりずっと毒舌な奴と毎日口げんかしてんだ、あんなんじゃ挑発にもならねえよ」


毎日のように訓練をしながら、鏡花は激励とも侮辱ともつかない言葉を陽太にぶつけ続けている


それはすべて正しい内容だからこそ、陽太も聞いているし、反論もする、そんなことを六月から毎日のように続けているのだ、耐性もつくというものである


腰を落として眼前の壁めがけて狙いを定める、渾身の力を込めて陽太は拳を振りかぶった


「俺と口げんかしたかったらな、うちの毒舌女王様連れてこいボケがぁ!」


叩き付けられた拳が目の前の壁にひびを作り、そしてガラスが割れるような音と共に完全に砕け、向こう側へとその拳が吸い込まれていった


日曜日なので二回分投稿


小説書き始めて一年弱、ようやくまともにブラインドタッチができるようになり始めた、まだミスが多いけども


これからもお楽しみいただければ幸いです

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