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J/53  作者: 池金啓太
二話「任務と村とスペードのクイーン」

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東雲風香

さらにおびえてしまう東雲に腹を立てたのかずかずかと部屋に侵入して東雲の顔を掴む


「初めましてエルフの少女、私は城島美紀だ、君の名前を教えていただけると嬉しいな」


「し、東雲、風香で・・・す」


資料で知っているはずなのに意地が悪い、だが任務中に『偶然』保護したという体面上彼女について何も知らないことを装っていた方が都合がいいのも確かだ


「ようし、東雲、君はまず身体をしっかり治しなさい、幹原の話じゃ軽度の栄養失調の症状が出ているそうじゃないか、しっかり食べてしっかり寝なさい」


「は、はいぃ」


教員らしいことを言っているのにまるでいたいけな少女を脅す大人の図だ、仮にも教育者の姿には見えない


「先生、東雲がビビってます、それに陽太、女の子がいるのにノックするということをしないのかお前は」


「いやぁ、お前もいるからいいかと思って」


「いいわけないでしょ」


背中あわせから肩を抱いてゆっくり支えてやり、東雲は少しずつ身体を前に倒す


「この度は、私を獣から救っていただいたそうで、誠にありがとうございます、このご恩は決して忘れません」


必死に身体を前に倒して頭を下げる、その姿は十歳のそれとは思えない


エルフとは皆こうなのだろうか


「んなことより」


「ひぃ!」


眼前に迫った城島の目に驚き瞬間的に飛びのくのを静希が支える、さすがにあの目は怖すぎる、十歳児に見せる目じゃない


「君はどこまで覚えている?いや、何を覚えている?」


「え・・・あの・・・」


「最後にある記憶を思い出してくれればいいよ、意識を失う前の一番新しい記憶」


「は、はい・・・えと」


城島ではなく静希に言われると頭を整理しているのか、少し考えだす


「私が、精霊の召喚の儀式に呼ばれて、やっと私も精霊を使役できると思って、術を発動したところまでは・・・覚えてます、それで、何か出てきて・・・っ!」


突如記憶が混乱しているのか、それとも悪魔を呼びだしたことへの反動か、頭を抱えてしまう


「無理しなくていい、思い出せないならそれでもいい、ゆっくり息を吸って、深呼吸だ」


背中をさすりながら城島に目を向けると、何も言わずに立ちあがり頭をかきむしっていた


「あ、あと鏡花、仮面なんだけど、鼻から下が取り外せるように改造してくれるか?構造は任せる」


「へ?なんで?」


「もともとそういう構造だったんだと、これじゃ食事できない」


失念してたわと額に手を当てながら庭に置いてある岩から再度仮面を作り出す


「取り外しが自由にできればいいのよね?」


「たぶん、細かいギミックは任せるよ」


「りょーかい、私は職人じゃないってのに」


数秒して出来上がった仮面を静希に向けて投げる、見た目はまったく同じだが確かに鼻から下を自由に取り外せるようになっていた


「ほらお前ら、お姫様のご尊顔を覗けると思うなよ?あっち向いてろ」


「えぇ!なんだよせっかくだから見たいぞ」


「だめだ、ほれ回れ右」


「ちぇー」


陽太が渋々と、雪奈と熊田はそんな陽太を抑えながら廊下の方を向く


静希も明利も庭に出ている鏡花も反対側を向き誰にも見えないようにする


「ほれ、今ならつけかえられるぞ」


「・・・」


全員がそっぽを向いてくれている中、東雲が静希の背中に顔を寄せた


背中の服の裾を握るその手はわずかに震えている


すでに仮面を外しているのだろう、背中には温かな体温が感じられる


「・・・ありがとう・・・」


小さく、それは静希にしか聞こえなかったが、はっきりと聞こえた


そして温度は離れ、仮面をつけかえたのかどうぞという声とともに全員が振り返る


佇まいを直し、背筋を伸ばして身体を起こすエルフの少女がそこにはいた


「そうだ静希、この後どうする?俺らは村の見回り行くけどなんか追加あるか?」


「あぁ、そうだ忘れてた、鏡花にはもういったけど見回りと一緒に壊れたフェンスの修理と補強をやって来てもらう予定なんだ、その手伝いをしてもらう、雪姉と熊田先輩も村回りお願いします」


「了解、問題解決の後だから簡単な散歩みたいなものだな」


「あぁ、少しは気が楽だ」


「なによ、残業があるのは私だけ?」


不満を言っているのは鏡花だけ、だがこちらも少し仕事がある


「明利には東雲の様子を見るのと、お風呂に入れてやってくれ、さすがに何日も入っていないんじゃ気持ち悪いだろうから」


「わかった、後で一緒に入るよ」


「補助が必要なら雪姉にも頼むけど」


「大丈夫、任せて」


明利が威勢よく胸を叩く、小さな子を風呂に入れるのが嬉しいのか、それとも自分より小さな子に出会えたのが嬉しいのか朗らかに笑っている


「先生には後でお話があります、いいですね」


「あぁ、わかっているよ」


「何よ静希、あんたはさぼり?」


「俺にもやることあるんだよ、それも一番やっかいな・・・」


心底いやな顔をしてスペードのQを見せる


「あー!仕事って素晴らしいわね!」


即座に顔を真っ青にしてその場から逃げるように退散していく


「んじゃ皆頑張って」


「おうよ」


「行ってきま―」


「留守を頼む」


「いってらっしゃい、じゃあ東雲さん、ご飯終わったら一緒にお風呂入ろう?」


「は、はい」


今更ながら自分の体が臭くないかが気になるのか、身体を小さくしながらもじもじと自分の体を嗅いでいた


「それじゃ明利、東雲は任せた」


「うん、行ってらっしゃい」


「あぁ、東雲、ちゃんと食べるんだぞ」


「は、はい・・・あの・・・」


「ん?」


さすがに不安の色はぬぐえないのか、呼びとめながらも何やら口をもごもごと動かしているばかりだった


「あとでしっかり話せる時間はある、それまでにちゃんと飯食って、綺麗になっておけ」


「・・・は、はい」


じゃあなと言ってその部屋から退散すると、待っていた城島とともに大広間へと歩いていく


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