明利の言葉
『静希君との約束も守れなくて、いつもみんなの足を引っ張って迷惑かけてる、そんなワタシに、いる意味ってあるの?』
「・・・」
目の前の自分の言葉に明利は言葉を返さなかった
それは明利がいつも抱えていたコンプレックスだ
自分は静希のように、困難な現状を打開できるだけの頭脳があるわけでもない
陽太のように屈強な体と能力があるわけでもない
鏡花のように生まれ持った天性の才能と美貌があるわけでもない
明利は自分がひどく中途半端だと思っていた
索敵だって無駄に手間と時間がかかる、治癒だって応急処置レベル、かといって足が速いわけでも、自分自身で戦えるわけでも、頭が一際いいというわけでもない
自分は誰よりも劣っている、明利自身がずっと思い続けている事実だった
『静希君に告白して、返事を待つ前に唇奪って、晴れて恋人同士になれて・・・でもそれって本当に静希君の本心なの?同情で仕方なく付き合ってくれてるだけじゃないの?』
これも明利がひそかに抱える想いだった
静希は優しい
誰からなんと言われようと、明利は、静希は誰よりも優しいと思っていた
だからこそ、自分を傷つけないように仕方なく一緒に居てくれるだけかもしれない
否定できないからこそ、不安ばかり募っていた
『陽太君だって、鏡花ちゃんだって、もしかしたらワタシのことうざいって思ってるかもしれないよ?どっかいって欲しいって、いらないって思ってるかもよ?』
「・・・」
反論を受けないからか、目の前の明利は嘲笑と共に明利に向けて言葉を飛ばし続ける
どれもこれも、確かに明利がひそかに抱えているものだった
事実だからこそ、明利は何も言わなかった
『本当はワタシのことを、みんな嫌いかもしれないよ?そんなワタシが、どこに行って、何をするの?何にもできないのに?』
明利の声が、誰でもない明利自身に突き刺さる
そして明利は、自分自身と向き合って数センチ前まで近づいた
眼前にいる、見間違うことのない自分自身に、明利はわずかに目を細めた
「・・・そう・・・あなたは私じゃないんだね」
その言葉に、目の前の明利は目を見開いた
『・・・何言ってるの?私はワタシだよ?』
「違うよ、あなたは私じゃない、もしあなたが本当に私だったら、そんなこと言う意味がないってわかってるはずだもん」
明利の言葉に、目の前の明利は何を言っているのかわからないという顔をした
眉をひそめて自分自身をにらみつける眼前の明利に、まったく臆することなく明利は言葉を続ける
「さっきあなたも言ったよね?私自身を信じてない私が、何ができるのって」
それは先程、明利が言われたことだった、そして明利の中での事実だった
明利は自分を信じていない
情けなくて、自信が無くて、臆病で、だからこそ自分が一番信じられなかった
だからこそ日々努力を続けた、誰かの助けとなれるように、力になれるように
「私はね、あなたの言う通り私を信じてない・・・私は、静希君たちを信じてるの」
明利は自分を信じない、そして自分以上に、静希達を信じている
自分を、自分の家族を救ってくれた静希を
いつも全力で、まっすぐで、止まることを知らない陽太を
綺麗で、頭が良くて、かっこいい鏡花を
自分よりも他人を信じるなど、普通ならばありえないだろう
だが良くも悪くも、明利は静希達に強く依存している
陽太のように、何の根拠も与えずに静希の作戦を信じられるのと同じように、明利も静希のことを全面的に信頼していた
「静希君はね、私に言ってくれたんだ、好きだよって、ずっと一緒に居たいって・・・私はそういってくれた静希君を信じてる・・・私の姿の人の言葉なんて信じられないよ」
だって、私の言葉ほど信じられない物はないもん
最も疑うべき対象が自分自身である明利にとって、自分の言葉ほど疑わしく不確かなものはない、誰でもなく自分自身だからこそ自分の言葉の不安定さを理解している
これが他人の姿をしていたら、少しでも動揺したかもしれない、だが自分自身の姿をした、自らを自分自身だという誰かの言葉を信じられるほど明利は自信家ではなかった
明利の言葉に、眼前の明利ではない何かはわずかに表情を歪ませた後その場からゆっくりと消えてしまった
あれは一体なんだったのだろうか、何故自分の姿であんなことを言ったのだろうか
自分の言葉で事実を突き付けられたことで、少しだけ不安になり、明利はここから出て静希達に無性に会いたくなった
そんなことを考えていると明利の視界が僅かに歪む
瞬間、眼前には暗闇はなく、先程まで自分がいた静希達のいる部屋に立っていた
「お、戻ってきたか」
「明利、大丈夫?変なところない?」
「怪我とかはしてなさそうだな、やっぱ害はないのかな?」
三人が明利に近寄ると、明利は何も言わずに近くの静希に抱き着いた
自分であぁ言っておきながら、内心不安なのだ
信じるというのは難しい、いくら言い聞かせても、いくらでも疑いの心が生まれてしまう
「おぅ?ど、どうした明利?」
「・・・ううん、なんでもない・・・ちょっとこのままでいさせて・・・」
顔をうずめたまま上げようとしない明利に、静希は戸惑ってしまう
今までこんな明利を見たのは数回しかない
何かあったのだろうか
どういう状況なのか全くわからずに、部屋に残ったままだった三人は疑問符を浮かべながら静希の体に抱き着いている明利を眺めていた




