杯と鍵
能力が勝手に発動する
確かに今まで静希が手に入れたものの中でそういった霊装は確かに存在する
静希の左腕にあるヌァダの片腕、これは使用者の体に外的異常が発生したときに自動治癒する能力を保持している
それと似たようなものなのだろうが、今回のこの杯は微妙に違うように思える
藤岡達の話を聞く限りこの霊装が保持している能力は間違いなく収納系統だろう
雪奈と同じように杯の能力でとらわれるのであれば、雪奈と同じように出てこれないか、その場からいなくなったままになるはず
なのに三人は何の問題もなくここにいる
ということは何かしらの条件によってとらえる人間を変えている、または選んでいるということだろう
「この霊装の能力で飛ばされたとき、どんなところにいましたか?」
「えっと・・・そうだな・・・真っ暗な空間で・・・目の前に俺がいたんだ」
「・・・俺って・・・藤岡先輩が?」
藤岡は頷いて僅かに表情を曇らせた
「私の時も同じ、真っ暗な空間で、目の前に私がいたの」
井谷の発言に熊田の方を向くと、どうやら熊田も同じだったようだ
真っ暗な空間の中で眼前にそびえる自分自身
一体どういう事だろうか、コピーでもしているのだろうか
「それだけじゃない・・・なんかこう・・・今の俺らより少し幼かった、そんでなんか・・・いくつか思い出話っていうか・・・その・・・いろいろ話してきたな」
「・・・なんかよくわかりませんよその説明・・・」
鏡花の言葉に藤岡は申し訳なさそうに首を垂れる
自分でも要領を得ない説明だということは理解しているのだろう、熊田や井谷も同じ様子で、それ以上の説明はできなさそうだった
「収納された先に雪姉はいましたか?」
「いや、見当たらなかった・・・いたのは昔の自分だけだな」
熊田の言葉に静希達は思考を開始する
少なくともただ誰かを入れるという能力ではなさそうだった
同じ収納系統である静希は考えをまとめ始める
「とりあえず、この霊装の情報をまとめるか」
「そうね・・・能力自動発動で、水面を覗くと発動、能力の系統は収納、異空間に物体・・・というか生物を収納できる・・・その先に何があるかは若干不明」
「でも、雪奈さんは出てこれなくて先輩たちが出てこれてるってことは、何かしらの条件があるってことかな・・・」
「内側に鍵のついてるタイプか、鍵の設定ができるタイプか、どっちかってこったろ?」
陽太の言った鍵という例え
静希の持つ歪む切り札は収納する時に静希本人の入れるという意志が必要となる
だがそのカギは外側からのみであり、内側からはかけられていない、だから人外たちは自由に出てこれるというわけである
相手が無機物で意志を持たないのであれば出ようとすることがそもそもないために入れたままにできるが、意志を持つものは出ようと思えばいつでも出れる
静希の能力はそういう能力だ
だが目の前にある杯は恐らく逆、入ることに関して鍵は必要ないが、出るためには特定の条件が必要となるタイプであると静希達は仮定したのだ
「でもさ、なら何で水面に静希の顔が浮かんでるのかしら、これも能力の一つ?」
「さぁな・・・入った人間の心の中でも映してるのか・・・それともこの中に別の誰かがいるのか」
別の誰か、静希の言葉に全員に緊張が走る
「先輩、先輩方がこの中に入った時水面に変化はありましたか?」
「いや変わらず五十嵐の顔が映されていたが・・・」
少なくとも雪奈の心が影響して静希が水面に映っているわけではないようだ
「一回入ってみないことにはわからないかなぁ・・・」
「あの・・・さっき先輩たちが言ってた子供の頃の自分ってことは・・・たぶん中に入ったら同調が働くと思う・・・記憶とか、そういうのを読み取られるんじゃないかな・・・」
同調系統として、この杯に含まれている能力をもう一つ仮定する明利に静希達は唸ってしまう
このまま何もしないままでは雪奈は取り戻せないだろう
かといって未知の危険の中に飛び込むほど静希は無謀ではない
「ねぇ、静希の力でこの霊装をつかえるようにすれば何とかなるんじゃないの?」
静希にしか聞こえないように小さな声で鏡花が耳打ちすると、当の本人は微妙に眉をひそめてしまう
「それも考えたんだけどさ・・・城島先生だけじゃなくて他の先生もいるだろ?俺の能力で霊装の限定が解除されるってばれたくないんだよ・・・」
城島はすでに悪魔や神格と言った面倒事をここぞとばかりに抱え込んでくれている
だからこそ信頼に値するが、ほかの教員は一体どうなるかわかったものではない
もし委員会などの人間にばらされた場合、日本の管理下にある霊装をすべて限定解除させられかねないのだ、それは静希としても避けたい
「だったらさ、静希以外の三人が入ってみる?静希が入るのは最終手段で、ほかの三人で雪奈さんを捜索する」
「・・・あんまりやりたくないけど・・・そうするしかないか・・・」
一番やりたくない方法ではあるが、それ以外に手がない
虎穴に入らずんば虎子を得ず、何事もやってみなくてはどうしようもない
このまま何もしなくても時間ばかり過ぎるだけなのだから




