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J/53  作者: 池金啓太
十五話「未来へ続く現在に圧し掛かる過去の想い」

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日常の節に

時間は過ぎて金曜日の夜中、すでに雪奈は実習へと向かっており、屋上で剣を振っているのは静希とオルビアのみであった


オルビアは実体を作って雪奈の持っている西洋剣を振るい、静希はオルビアの本体を振って剣の稽古をしている


オルビアの剣を受け続け、時折生まれる隙を見逃さずに反撃する


もちろん歴戦の騎士であるオルビアにあたるような攻撃はできないが、着実に防御に関しては上達しているのがわかる


自らの左腕についている義手もだいぶ馴染んできたのか、未だ誤差はあるもののそこは体を上手く動かすことで補っているようだった


「ふむ・・・もう私の実力ではマスターの防御は崩せなくなってきましたね」


「オルビアのお墨付きか、嬉しいけど・・・雪姉の攻撃を防ぎ切れないことにはなぁ・・・」


オルビアの実力は決して低くない、事実雪奈との戦いにおいて一撃もその体に浴びることなく終えた唯一の人物である


専守防衛に努めていたとはいえ、あの雪奈の剣撃を受け切って見せたのだ、オルビアは攻撃よりも防御に長けた人物なのだろう


そして目の前のオルビアこそ静希の目標とする剣術の完成形だ


能力を介することなく磨き上げられた確固たる実力


鍛錬のみで能力を使う雪奈に拮抗して見せるその姿


それこそ静希が目指すものである


オルビアの剣技は雪奈の鋭く速いそれとは違い、体捌きに重きを置いたものだ


立ち回りと言えばいいのか、剣単体だけではなく、全身を使っての攻撃が多い


叩き付けるように剣を振るうこともあれば、防御する際も体を動かしながら受け流したり受け止めたりすることが多い


自らが扱っていた剣の特性をよく理解した動きなのだろう、剣は小手先で動かせるほど軽くない、だからこそ戦いの中で全身を使った技術を身に着けたというべきだろう


だが静希にとってそれは見本とはならない


なにせ静希が使う剣、オルビアには重さがない


自分なりの技術を確立しなくてはならないのだから、攻撃を受け続けて自分で作り上げていくしかない


気の長い作業ではあるが、少なくとも不可能ではない


目の前のオルビアがその確信を強くする


「雪奈様は今頃どうなさっているでしょうか?」


「ん・・・まぁ住み着いた動物の駆除はもう終わってるだろうな、二日目からは本格的に家具排除に勤しむんじゃないか?」


雪奈たちの実力から言って、仮に奇形種だろうと瞬殺できるだろう


完全奇形が現れた場合、少し苦戦するかもしれないが、その場合はうまいこと連携して切り抜けられるだろう


なにせ雪奈たちは自分たちよりも多くの戦闘経験がある


屋内に住み着く動物程度を排除できないというイメージはどうしてもできなかった


「雪奈様のあの剣技、私も習得できればもっとマスターの助けとなるのですが・・・」


「あれを真似しようってのは無理だ、あれは能力の産物、一生剣に向き合ってないと到達できないようなものなんだから」


剣を振るいながら、剣を防ぎながら静希とオルビアは鍛錬を続ける


屋上に響く金属音、そして十月も半ばに移ることで冷えてきた風が二人の体をなぞる中、オルビアは一歩踏み込んで静希の持つ剣を切り上げる


重さがないことが災いし、簡単に剣は上へと持ち上げられ一瞬静希の体が無防備になる


振り上げた剣の勢いを殺さずに一回転してその手に持った剣を静希の腹部に叩き付けようとする


だが静希もそのままやられるつもりはない


オルビアの剣を持つ腕に蹴りを入れ、その動きを一瞬止めるとかち上げられた剣をそのまま振り下ろして攻撃する


以前静希が雪奈にやられたのと同じだ、剣だけでなく足まで使う防御


攻撃が当たると思った瞬間、オルビアの体が半歩横へと移動する


剣の切っ先がオルビアの髪に触れるが、その体までは届かない


中途半端な体勢で剣を振ったせいで、静希の体勢は完全に崩れてしまっている、そこを見逃すほどオルビアは甘くなかった


避けながら自分の足をいつの間にか掴んでいたのか、オルビアは静希の足を引っ張るように地面に転がしてその首筋に剣を添える


「攻勢に回るとお粗末になりますね、今の場面であれば腕の動きを止めた後切り払いながら後退するべきです、正しい姿勢で攻撃しなければ与えられる威力も期待できません」


「あはは・・・さすがに簡単にはいかないな・・・」


雪奈の真似をしようにもこんなに簡単に返されてしまう、まだまだ静希は未熟者らしい


以前雪奈とオルビアの戦いにおいて、実力を数字に例えた際に雪奈を十、オルビアを八としたが、今の静希の実力は恐らく四、よくて五あるかないかだろう


専守防衛の体勢をとっていても攻撃を防ぎきれないのだから


だが、最初は一もなかった実力をここまで伸ばせたのだ、先は長くとも、未だ到達点が見えないというわけではない


「ですが、これほどの時間鍛錬を行ってようやくの死亡一回目です、マスターの実力は確かに上がっていますよ」


「そりゃ嬉しいね、あとはもっと腕の動きが早くできればいいんだけどな」


未だ腕の誤差はコンマ数秒存在する


至近距離での戦闘に置いてその一瞬にも等しい時間は致命的だ


オルビアとの稽古では、体を上手く使えば何とかなるが雪奈との稽古では完全に間に合わないほどの隙となる


左腕を完全に扱うには、まだ時間が足りない、だが少しずつ、本当に少しずつではあるがその腕は静希になじんできていた


土曜日、静希と明利がいつものように射撃訓練に勤しんでいる中、珍しくその場には町崎の姿があった


どうやら仕事でここに来る用事があったようで、静希と明利の射撃を眺めていた


なんでも、先日大野と小岩が世話になったから指導してやろうとのことらしい


二人が的めがけて弾丸を放つさまを逐一観察しながら、少しずつ二人の射撃の体勢や構えを修正していく


静止状態での射撃の構えは基本中の基本だ


今まで動きながら射撃することの多かった静希は微妙に基本ができていないのかよく修正を受けていた


一方明利はもとよりまじめな性格のため構えなども十分できていたのか、町崎がいるということも全く関係ないというかのように集中を高め、遠くにある的めがけて狙撃用の銃を用いて穴をあける


静希は拳銃を使っての中距離射撃、明利は狙撃銃を使っての遠距離狙撃を行い続けている


夏から始まったこの射撃訓練だが、こうしてしっかりと狙いをつけられる場所での技術はかなり高くなってきた


だが実際に動くとなるとこうはいかないだろう


以前鳥海の部隊で訓練した静希はよくわかっているが、動く相手に対して当てるのと、止まったままの的に対して当てるのとでは難易度が桁違いなのだ


だからこそ、複数表示される的を一つ一つ変えながら撃っているのだが、それでもやはり動いている物を打つ練習にはならない


そしてこの射撃訓練で一番変わったことがあるとすれば、やはり静希の左腕だ


この左腕は静希の思ったとおりに動くために、角度などの情報をミリ単位で調整することができる


所謂精密射撃が可能なのだ


今までは銃についているアイアンサイトを用いての調整しかできなかったのだが、今こうして自分の腕を思いのままに動かせるようになると如何に射撃を上手くできるかがわかる


手振れもなく、力を込めたことによる揺れもない


銃を扱うのにこれほど適した左腕もないだろう


とはいっても、扱うのが静希自身である以上まだ誤差はある


剣術も射撃も、静希の左腕の扱いにかかっていると言っても過言ではないだろう


「もしもし・・・あぁ・・・いる・・・いや幹原君も一緒だ・・・わかった・・・二人とも、城島が呼んでいるらしいぞ」


町崎からの言葉に静希と明利はいったん射撃をやめて振り向く


一体何の用だろうと自分たちの携帯を見てみると着信が何件か来ていた


「呼んでるって・・・今日休みだぞ・・・またあの人休みに働いてんのか?」


「今日は二年生の人たちの校外実習やってるし、それで学校にいたんじゃないかな?」


さすがに学校を空にしておけないのか、それともただ単に仕事が溜まっていたのか、城島からのラブコールに応対するべく静希は携帯で城島に電話をかける


「もしもし五十嵐です、城島先生ですか?」


『ようやく繋がったかバカ者、緊急事態だ、今すぐ制服に着替えて学校に来い』


静希は嫌な予感が止まらなくなる


このパターンは夏休みにも一度あった


あの時はいきなり悪魔の事件にかかわることになったために訓練中に城島から連絡が入るということ自体よい予感がしない


「あの・・・とりあえず何があったかくらい教えて・・・」


そんなことを話していると今度は別の誰かから着信が入る


どうやら熊田からのようだった


「あ・・・先生すいません、熊田先輩から電話が・・・」


『あぁ・・・そうか、丁度いい、詳しい説明は熊田から聞け、とにかく幹原もつれて急いで学校に来い、いいな!?』


城島はそのまま通話を切ってしまい、静希は不思議そうな顔をしている明利に視線を合わせて小首を傾げた


そして熊田からの電話に出るべく携帯を操作する


「はいもしもし、五十嵐ですけど」


『五十嵐か!?今時間は大丈夫か?』


「はい・・・えっと城島先生から熊田先輩に事情を聞けとか言われたんですけど・・・」


一体何が起こっているのか全く分かっていないために、考えることもできないのだが、電話の向こう側の城島の声や熊田の声がやたらと焦っているように聞こえて嫌な予感を加速させる


そして事情を聞けと言うだけで熊田はこちらの状況を理解したのか、一つため息をついた後で落ち着いて聞いてくれと釘を刺した上で通話を続ける


『深山から聞いていたかもしれないが、今日二年の校外実習があって、ある屋敷に来ていたんだ、そしてこの屋敷に巣を作っていた生き物も無事駆除できた』


「まぁ、雪姉とかがいる時点で楽勝でしょうね・・・それで何かあったんですか?・・・ひょっとして雪姉になんかありましたか?」


雪奈ではなく熊田から電話がかかってきたという時点で、静希はなんとなくの予想がついていた


そしてその予想は的中しているようで、向こう側から熊田の申し訳なさそうな声が聞こえてくる


あの雪奈に何があったのか、少なくとも怪我などの類ではないだろう、それならこれ程の焦りは起こさない、彼女はあくまで前衛、怪我をすることなど日常茶飯事だ


だがこの焦りは怪我などと言うレベルのそれとは違う


『実は・・・説明がうまくできないのだが・・・ある部屋を探していたら、深山が・・・消えたんだ』


日曜日なので二回分投稿


今週から少し私的に忙しくなるので誤字チェックが怪しくなるかもしれません


手を抜くつもりはありませんが、どうかご容赦ください


これからもお楽しみいただければ幸いです

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