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J/53  作者: 池金啓太
十五話「未来へ続く現在に圧し掛かる過去の想い」

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元の日常へ

「じゃあ本当に食材切ってただけなんですね」


「そうだよ、だから後半は暇で暇で・・・ま、来週はその分活躍するさ」


雪奈の言葉に来週?と一班の人間が首を傾げた


「あ、言ってなかったっけ?私たち来週校外実習なんだよ、一年生とはスケジュールずらしてるみたいだね」


校外実習の日程は学年ごとに異なる


全ての学年と教員が学校から離れるという事態は避けたいのか、基本少しずつずらす形で順繰りに校外実習を行っているのだ


「へぇ、どこ行くんすか?」


「まだわかんないよ、あと数日したらきっとわかると思うけどね、まぁどうせ私たちのところは戦闘ありの内容だと思うよ、だから静、今度ナイフよろしくね」


「・・・いい加減自分で用意しろと何回言えば・・・」


もはや耳にタコ、口が酸っぱくなるほどに言っているはずなのだが、雪奈はいいじゃんいいじゃんと言いながらのんきに料理にかぶりついている


この自由奔放な姉貴分に振り回されて一体何年だろうか、もはやこの関係は変わらないなと確信しながら静希は軽く雪奈を足蹴にして転がした後にその上に腰を下ろす


重いよー!と雪奈が暴れながらも静希はその体勢から変わることなく食事を続けている


この二人は本当に血がつながっていないのかと思えるほどだ


「そういやよ、静希も明利も雪さんも料理できるけど、鏡花ってどうなんだ?」


「・・・なによ、唐突ね」


陽太の言葉にそういえば鏡花が料理をしているところを見た者がいないことに気づき、全員の視線がこちらに向く


鏡花は実家暮らしのために料理をする機会はあまりないだろう、もしかしたら、という考えが全員の頭の中に過る中、鏡花はため息をついて見せる


「あのね、私が料理できないとでも思ってるわけ?そのくらいは誰でも」


「じゃあちょうど静希んちだしさ、作ってみてくれよ、なぁ静希、いいだろ?」


「ん・・・まぁいいぞ、冷蔵庫の食材使ってなんか作ってもらおうじゃないか」


にやりと笑う静希と、興味深そうにこちらを見ている明利


これは逃げられないなと確信しながら鏡花はあきらめて冷蔵庫の中を見に行く


冷蔵庫の中にあるのはありふれた食材ばかりだ


卵もあるし豆腐もある、野菜室にはある程度一般的な食材がそろっており、肉も鶏肉や豚肉がしっかりと常備されていた


一人暮らしにしてはしっかりと食事をしているのが印象的だったが、なるほど、定期的に明利がやってきていることを考えればなにもおかしいことはない


恐らくは雪奈も交えて食事を通して栄養管理しているのだろう、食材から明利の苦労がのぞける冷蔵庫だ


さてどうしたものだろうか


彼らに料理はできると言ったものの、やるからには驚かせたいものである


なにせ元が天才であるという風に見られているために、余計な弱みは見せたくない


特に陽太や明利は自分が何でもできるということを疑ってもいない


そういう風に見られるのは少しだけ嫌でもあったが、期待されている以上それに答えないわけにはいかない


鏡花は少しだけ気合を入れてこの食材でできる料理を考え始め、とりあえず食材を手に取って下ごしらえをすることにした


数十分後、買った料理に混じって鏡花の作った料理が並んでいた


主に洋食が多かったが、中でも目を引くのがトマトベースのシチューに軽く焼いたトーストをつけて食べるフォンデュのような食べ物だった


本人曰くほとんどオリジナルのようなものらしく、名前はないらしい


「せっかくみんなで食べるんだし、軽くつまめるものを作ったけど、どうよ、お味の程は」


「おお、お前やっぱ何でもできんのな、明利や静希の料理と違う!」


「この短時間でこれだけ作るのは凄いな・・・後で作り方教えてくれ」


「これ美味しいね、あまり煮てないはずなのに味が染みてる・・・」


鏡花の料理は静希達には絶賛で次々と皿が空になっていく


明利も料理は得意だが、彼女は家庭料理を主に作る、対して鏡花は店に出せるレベルの物を短時間で作成できるスキルを持っているようだ


「でも鏡花さん、どうやってこれ作ったの?こんな短い間じゃここまで煮込めないよね?」


「あー・・・それはちょっとこう能力を使ってね・・・裏技みたいなもんよ」


その言葉に明利はなるほどと納得する


鏡花の能力は変換だ


その変換対象は主に物質などの無生物に限定されている


新鮮な野菜はさておき、肉などはすでに死亡しておりただの物体としてカウントされているようだ


味をしみこみやすくするために形状や状態を変換しスープに溶け込ませたのだろう


鏡花の能力は本当に汎用性が高い


「ほんとお前ってなんでもできんのな、さすが天才」


「なんでもはできないわよ、私にだってできないことや苦手なことくらいあるっての」


「いいかい雪姉、これが正しい料理だよ、よく味わっておこうね、作れとは言わないからね、味わって食べるんだよ」


「うぐぅ・・・女として負けた気分・・・」


鏡花の料理で傷ついている雪奈はさておき鏡花は笑いながら料理を食べてくれる静希達を眺めて少しだけ嬉しく思いながら自分も作った料理を口に運ぶ

こうして三日間に及ぶ一般公開は完全に幕を下ろしたのだった





一般公開が終わってから数日、静希達はいつも通りの学生生活に戻っていた


特にこれと言って事件もなく問題もなく、平穏無事な日々を過ごすことができている


店や出店、イベント会場なども一晩のうちに片付けられ、すでに一般公開が行われていたという面影は一切ない


唯一その証拠となるものと言えば、各学年の廊下に張り出された写真くらいのものだ


恐らくは教師陣が撮影したものだろう、生徒が店を手伝っているところや、一般人に対応している姿などが映されている


その写真全てに番号が記載されており、記入してから教師に提出すれば焼き増ししてくれるという学校らしいシステムだ


もちろんその中には静希達の姿もあった


表で接客していた鏡花と明利は当然だが、いつの間に撮影したのか、厨房の方で紅茶を淹れたりケーキを出している静希と陽太の姿まで写されていた


「前の優秀班の時も思ったけどさ、被写体に断るってことをしないのかしらねこの学校は」


「ていうかいつの間に撮影したんだろうな、厨房に人はいなかったと思うんだけどなぁ・・・」


廊下に掲示されている写真を眺めながら鏡花と陽太の二人は、とりあえず自分たちの姿が写されている写真はすべて記入していた


「意外と俺らが写ってるのあるもんだな、やっぱ手伝った分目に留まったのかな」


「かもね、あ!みんなで食べ歩きしたときのあるよ!」


明利が背伸びをして指さす先には確かに四人で食べ物をもって歩いている写真がある


すでに勤務時間外だったのにもかかわらず撮影してくれたというのはありがたい


もしかしたら自分たちの知り合いが撮影してくれたのかななどと言うことを考えながら静希も写真の番号をメモしていく


「陽太の顔ひどいわね・・・写真写り悪すぎ、ほとんど半目じゃない」


「こっちに何の宣告もなく撮られてんだからしょうがねえだろ、タイミングが悪いんだよ」


鏡花の言うように陽太の写真写りはそこまでよくない


他の全員がしっかりと目を開けているのに対して陽太だけ微妙に瞬きの途中だったりと、微妙に運が悪いようだった


普通に撮ればそんなこともないのだろうが、可哀想としか言いようがない


「HR始めるぞ、そろそろ教室に入れ」


城島がやってくることで外で写真を眺めていた生徒たちは自分の教室に戻っていく


今日一日の終わりを告げるHRをてきぱきと進めていき、恙なく今日の学業は終了した


城島に呼び出されるようなこともなく、面倒がやってくるようなこともなく、なんと素晴らしい一日だろうか


ここ数日は何の問題もなく過ごせているだけに、静希はのんびりと訓練と学業に打ち込むことができている


今週末からは雪奈が実習に出てしまうために、剣術の指南はオルビアに頼りきりになるが仕方ないだろう


今のうちに貸すナイフを出しておこうなどと考えて帰宅すると、静希がリビングにつくよりも早くインターフォンが鳴り響く


飛び出した人外たちの中のオルビアが間髪入れずに扉を開けると満面の笑みの雪奈がそこにいる


「・・・一応聞いておくと、なんか用か?」


「ナイフ貸して!」


恐らくは静希が家に帰ってきた音を聞いてすぐさまやってきたのだろうが、何故自分の物を使わないのかが不思議でならない


「もう実習内容は発表されたのか?」


「うん、今回はどっかの使われなくなった屋敷?の整理・・・っていうか中に住み着いたいろんなものを駆除して、その後に家具とかを片付けてほしいんだってさ」


雪奈の班の実習は基本戦闘があることが前提になっているような状況らしく、今回は平和そうだよなどと言っている


使われなくなった屋敷ということはどこかの金持の別荘か何かだろうか


そんな中に住み着いた動物、奇形種かどうかはわからないが、それを駆除した後に内部の家具などを破壊なり運び出すなりして屋敷をきれいにする


確かに戦闘メインというよりはどちらかと言えば清掃メインという感じだろう


屋内戦闘があることを考えると雪奈の装備は今回は刀とナイフ中心になる


投擲用ナイフを用いるかはわからないが、接近戦ばかりの戦いになる可能性があるため、手持ちのナイフだけでは足りないのかもしれない


「屋敷ねぇ・・・廃屋とかならゾンビとか幽霊とか出てくるかもな」


「あはは、ハンドガンかカメラもっていかないとね、弾丸とフィルムがあるかはわからないけど」


どこかの廃屋、そこに住み着いた何か


そう聞いたらゾンビが真っ先に思いつく


雪奈も男子と同じくらいのゲーム脳を形成しているためこの手の話題は事欠かない


というより雪奈に女子としての反応を求めるのは間違っているかもしれない


もし雪奈がゾンビと遭遇したらナイフ一閃、その首を迷いなく切り落とすだろう


幽霊に関してはすでに雪奈は見たことがあるために叫んだりはしないだろう


実際、あの時雪奈は明利を抱えながらも幽霊にナイフを向けていた、隙あらば切ることもあり得ただろう、切れるかどうかはさておいて


「使われなくなったってことは埃とか酷いだろうからマスクと軍手忘れないようにな、目にゴミはいるかもしれないから目薬とかも持って行ったほうがいいぞ、電気とかも通ってないだろうから懐中電灯も忘れずにな」


「はーいはいはい、静がいると必要なもの全部言ってくれるから楽だなぁ」


雪奈の言葉に静希はしまったと口を押える


こうやって無駄に口出しして考えることをさせなかった結果が目の前の雪奈だ


これからはもう少し厳しくした方がいいのかもしれない


だがどうしてもいつの間にか口に出てしまうのだ、長年の教育の賜物とでもいうべきか、弟として考え事をするというのが骨の髄まで染み込んでしまっている


これは本格的にまずいなと思いながら静希は雪奈にナイフを貸すことにする


土曜日なので二回分投稿


結局何回連続投稿したんだか・・・誤字が多いと困ったものです


これからもお楽しみいただければ幸いです

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