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J/53  作者: 池金啓太
十五話「未来へ続く現在に圧し掛かる過去の想い」

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小さな打ち上げ

「えー、それでは無事一般公開が終了したことを祝して、乾杯!」


「「「乾杯!」」」


例によって飲み物や食べ物を買い込んで、一班の人間は静希の家で軽いお疲れ様会を開いていた


と言っても食べて騒いでをするだけなのだが


人外たちもいつものように部屋でくつろぎ、のんびりしているが、その中でメフィだけが拗ねたように部屋の隅で体育座りをしている


「・・・ねえメフィ、何であんたそんなところにいるの?」


「・・・だってご飯味わえないもの・・・誰かが食べてるの見ると味わいたくなるもの・・・」


その反応に鏡花はなるほどと目を細める


メフィにとって食事はテレビと同じレベルで重要な娯楽なのだろう、しかも目の前で飲み食いしている現場を見せられてはさすがにつらいようだった


案外静希の課した一週間食事抜きという罰は効果的だったのかもしれない


しかも意外だったのはメフィが静希のいう事をきちんと聞いていることだ


同調などはされている人物はほとんど認識できないためにやろうと思えばいつでもできそうなものだが


どうやらメフィも少しは反省しているようである


「ねえ静希君、今日くらいはいいんじゃないかな?明日から一週間とかじゃダメなの?」


明利の言葉にメフィの顔が上がり、満面の笑みになっていく


救いを差し伸べられた子羊のような顔をしている、悪魔なのに子羊とはこれいかに


「甘やかすと癖になるだろ、きちんとメリハリはつけないとこいつのためにならん」


明利の提案をバッサリ切り捨てることで、再びメフィは顔を自分の足の間に入れてふさぎ込んでしまう


こんなに落ち込んでいるメフィを見るのは初めてだなと人外生活に慣れていない鏡花と陽太はふさぎ込んでいるメフィをまじまじと観察していた


なにせ普段は宙に浮いていることの方が多いメフィだ、部屋の隅で体育座りをしている姿などもう二度と拝めないかもしれない


「なぁ静希、せっかくのお疲れ様会だしさ、今くらいはいいんじゃね?」


「そうよ、甘やかすっていうのとは違うけど、周りが楽しんでるのに自分だけ楽しめないって結構つらいわよ?」


まさか鏡花までメフィの擁護に回るとは思っていなかっただけに、静希は少し意外だったが、メフィの顔が少し上がり、こちらを横目で見ているのを見て大きくため息をつく


「言ったとおりだ、俺の味覚に同調するのは禁止、一週間、それは絶対だ」


二人の言葉も一蹴し口の中に水を流し込んで、さりげなくメフィを見る


「だから、俺以外の奴の味覚に同調する事に関しては、俺は何も言わねえよ」


「し・・・シズキぃ・・・!」


感極まった表情を浮かべながらメフィはふわふわと浮いて静希の首に抱き着いてくる


その様子を見てほかの人外も安心したのかわずかに安堵の息をついていた


さすがのメフィも今回のことで懲りたのだろう、勝手に静希のトランプから出てくるということはなくなるかもしれない


「んじゃメーリ!舌貸して!」


「え!?私?!」


静希の首から離れて明利に抱き着くメフィを横目に静希は小さくため息をつく


「なによ、あんたも結構甘いじゃない」


「あの状態でいられたらせっかくの飯がまずくなるっての・・・まぁ、あいつも反省したみたいだしな」


鏡花にとって静希とメフィの間にある信頼関係は、どの程度のものなのかはっきりとは見えないが、その関係は相棒と言うにはあまりにも濃い


叱って甘やかして、迷惑をかけて頼って


その会話や態度は、彼が姉貴分である雪奈に向けるものと何ら変わらない


静希は人によってそこまで急激に態度を変えるような人間ではないが、それにしたってこの浸りようは普通ではない


半年以上も一緒に住んでいればこうもなるかと半ば納得しながら鏡花はジュースの入ったコップを傾ける


そんな中、チャイムが鳴り来客を告げる


まるでいつもの対応とでもいうかのようにオルビアが外に出て対応すると、ドタドタと駆け足でリビングにやってくる誰か


いや、こんな風に入ってくる人間は一人しかいない


「こら静!打ち上げやるなら私も誘ってよ!」


「・・・そっちはそっちで班の人とやればいいじゃんか・・・何でこっちに来るかな」


残念姉貴分こと雪奈、何故班の人間と打ち上げをやらずにこちらにやってくるのか不思議でならない


「うちらの打ち上げはもうやったんですぅ!今日私達の勤務時間短かったし午後のうちにはもう騒いで遊んでたよ」


班によっては働く時間はまちまちのために、どうやら午後に暇な時間があったようで、すでに雪奈は班の人間とは遊び倒したようだった


だがなぜここにやってくるのかという質問にはなっていないように思う


「あー、メフィ、今回静に迷惑かけたっしょ、反省しなさいよ」


「あはは、耳が痛いわ・・・気を付けることにする」


雪奈にも注意され、メフィは苦笑しながらばつが悪そうに宙に浮きながら回転する


この態度を見るに本当に反省しているのだろうかと思えるのだが、こればかりは気まぐれな悪魔を信頼するしかないと、静希は半ばあきらめていた


「あ、そうそう、はいこれお土産、みんなで食べてね」


雪奈がテーブルに置いたのは少し高めのプリンだ、コンビニなどで売られている安物ではないことが容器の違いから一目でわかる


「あ!これって駅前にあるケーキ屋さんのですか!?」


「そうなんだよ!友達がそこで手伝っててさ、確保しておいてもらったんだ、感謝したまえよ君たち」


「うっわ!行ったとき売り切れてたから諦めてたのに!雪奈さんありがとうございます!」


女子二人からの感嘆の言葉に雪奈は照れながら頬を掻いている、実習でもここまで感謝されたことはないだろう


能力者として年上として、一番の感謝を受けるのがプリンを買ってきたことだというのは少し情けなく思える


「あと、ワンちゃん神様にはこれ、私からの個人的なお供え物、お店手伝ってもらったしね」


そういって邪薙の前に出したのは同じ店で売られているシュークリームだ


通常のシュークリームと違いココアパウダーをふりかけ、少しだけ甘さを控えたものである


「ほう・・・これは重畳・・・」


「あー、邪薙いいわね・・・ねえユキナ?私にはないの?」


「ないよ、迷惑かけた本人が何言ってるのさ」


看板をもって客引きをやっている邪薙の様子を知っている人物からすればまったくもって正当な報酬だと言えるだろう


そして世界広しと言えど神に客引きを頼んだのは雪奈くらいのものだろう


お客様は神様だという言葉はあるが、まさか神に客を呼び込ませるとは


「んん・・・やはり働いて得る報酬というのはよいものだ・・・甘さが身に染みわたるようだ・・・」


邪薙も邪薙でまんざらでもないようで、眼前に置かれたシュークリームを独特の味わい方をして何度も頷いている


一見するとお預けをくらっているように見えるのだが、あれが邪薙の食べ方なのだと知っている面々は特に気にした様子もなく自分たちの食事を楽しんでいる


「そういえば雪奈さんのところはどうだったんです?食事処だったらしいですけど」


「いやそれがもうお昼時なんて地獄だよ・・・私は食材切るだけだったから楽だったけどさ、ほかの班員はもう右往左往、あっちゃこっちゃに動きまくっててさ、逆に申し訳なかったね」


切るのが楽などと言っているが、今日一日だけでも雪奈が斬った食材はかなりの量に上る


彼女の能力の特性上、最善の技術と身体能力を得られるということで、切ることに関しては何の苦労もなかったのだろうが、それを延々と続けることができるというのは脅威だ


雪奈のここぞという時の集中力はかなり高い、別の物に目移りせずに一つの物事に取り組むことができるというのも前衛として必要なものでもある


「表の接客には回らなかったんですね、せっかくの機会なのに」


「私だって出たかったさ、接客なんて滅多にやることはないだろうからね、でもうちの男衆が許してくれんかったのよ・・・まったくこんな美人を放置しておくなんて」


「雪姉が接客とか・・・ハハッ寝言は寝て言えっての」


あざ笑う静希に対しなにを!と憤りながらも自らの女としての実力を見せるべく軽くポーズをとる雪奈に鏡花は苦笑いしかできなかった、何故男性陣が雪奈を厨房に押さえておきたかったか、その理由が理解できたからである


雪奈は確かに美人だ


スタイルもいいし顔も整っている、黙っていればそれこそ男など引く手あまただろう


だがその性格は若干破綻している


良くも悪くもいいかげんなのだ


しかも前衛に出ているということで攻撃的、その技術も肉体面でかなり高い


もし明利が受けたようなセクハラを味わおうものなら手を掴んでひねり倒すくらいのことはするかもしれない


それだけならよいが、もし乱闘などになったら


そう考えると班の男性陣の判断は正しい


「でも厨房だったら料理とかは忙しかったんでしょう?雪奈さん料理できますよね?」


「そりゃ・・・できるはできるけどさ・・・」


雪奈は視線をそらして口を尖らせる


これはあまりよろしくない反応だ、どうやら雪奈は包丁さばきには自信があるようだが味付けや調理には自信が無いようだった


「雪奈さんの料理は・・・ダイナミックだから、お店には合わないよね」


「そう!そうなの!私の料理は日常で輝くのさ、お店なんてチャラついたものには似合わない!」


「ま、要するに味付けやら盛り付けやらが適当過ぎるんだよ、食えるは食えるけど、金取れる程じゃないし、この人レシピ通りに作らねえんだ」


いわば雪奈の料理は創作料理のそれに近いのだ


ネットなどでおいしそうな料理の作り方を調べるのだが、その食材が無かったりすると別なもので代用したり、こうしたら美味しくなるのではないかと勝手に食材や調味料を足したり


もとより勘がいいのか、それとも運がいいのか、それでなんとなく美味しくなってしまうのが雪奈の料理だ


もとよりレシピが決まっている大衆店などにはまったく合わない調理法をしているのがこの雪奈なのである


誤字報告が五件溜まったので複数投稿


最近誤字が多くてまいっています、今日はないといいですが


これからもお楽しみいただければ幸いです

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