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J/53  作者: 池金啓太
十五話「未来へ続く現在に圧し掛かる過去の想い」

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終わる三日間

その日、東雲姉妹と別れた後、静希はあるケーキ屋で二つほどケーキを買って家に持って帰っていた


それをテーブルの上に並べて人外たちを外に出す


メフィは正座させ、邪薙とオルビアは静希の近くにたたずんでいる


「さぁ二人とも、今日は本当にお疲れ様だった、これは俺からの気持ちだ、どうか受け取ってほしい」


さすがにホールでというわけにはいかないが、それなりに高いケーキで、普段静希が口にしている物とは一線を画すほどの違いがある


それを見ながらメフィは恨めしそうに二人をにらんでいる


「なによぅ、ずるいわよ二人だけ・・・私も味わいたいわよ!」


「はっはっは、この二人は俺のいない間にしっかりと働いてくれた、これは正当報酬だ・・・それに対してお前は何をした?勝手に脱走して好きなようにかき回して、どれだけ俺が走ったと思ってるんだ?」


邪薙が独特の感覚でケーキを味わっている中、静希はメフィに対して説教をしながらケーキを口の中に放り込みオルビアに味わわせ続ける


見る人が見れば非常に奇妙な光景に映るだろう、これが静希の日常における食事風景なのだ


人外と出会ってすでに半年が過ぎた、もはやこの光景は静希にとって当たり前のものになりつつある


「マスター、一つよろしいでしょうか?」


「ん?どうした?足りなかったか?」


「い、いえ、とても美味でした・・・そうではなく・・・先刻の東雲姉妹に対しての問いのことです」


静希が何の脈絡もなくあんなことを聞いたとは思えないオルビアは少し心配だったのだ


静希の周りには幸か不幸かエルフたちと同じように人外が存在する


その気になれば魔素注入などの荒事もできるために不安だったのだ


自らの主が、悪魔か神格に魔素を注入するように頼むのではないかと


「マスター、なぜあの二人にあのような質問を?何か理由があったのですか?」


「ん・・・まぁそれほど大した理由じゃないんだけどな・・・実際あの二人が心配だったのも事実だけど」


「・・・どのような理由で?」


質問の意図を測り兼ね、オルビアは不安そうな表情をする


なにせいったいどんな意図をもってあのような質問をしたのか本当に理解できなかったのだ


「いやさ・・・あの二人って一応エドと同じ一連の事件の被害者にあたるわけだろ?状況が随分違うと思ってさ」


エドとの状況の違い、それは暴走の有無だ


風香の場合はまったく事情を知らない静希達でさえ異常な状態だと見て取れた


恐らくは優花もそれに近しい状態だっただろう


だがエドの状態はそれとはまったく異なる


「あの双子は村の力になるために、私たちとラインをつなごうとしたのよ、その結果、魔素が流れて・・・あの子はそれを制御しようとしたのよ・・・そのせいで暴走した・・・」


私が魔素を緩めてなきゃそれこそ奇形が進んでいたでしょうねとメフィはあっけらかんとしている


召喚を行った人物が違うというのもあるが、その召喚の目的が違ったからこそ起こった事態だと言えるだろう


エルフたちは自らの力とするために双子に悪魔と神格を宿らせようとした


対してエドモンドの所属していた大学の研究チームは悪魔の召喚自体を目的としていた


恐らくは東雲姉妹の言う召喚陣からのライン生成がなかったのだろう


そのおかげでエドが無為に追われる羽目になり、悪魔の契約者にさせられてしまったわけだが


「お前らが召喚されたときってどんな感じだったんだ?」


「前も言ったかもしれないけど、気づいたらあの子の中だったわね、エドの召喚陣とはやっぱり別のアレンジがあったんじゃない?」


「何せ彼奴等エルフは召喚の技術を一手に担っているからな、人間の行うそれとは全く別の物だろうな」


一体何が目的でエルフやイギリスの大学研究者に情報を流したのかはわからない


だが静希が関わった事件のいくつかは以前聞いたリチャード・ロゥという人物がかかわっているのは間違いない


これまで進展がないせいで今どうなっているのか全く分からないのがもどかしいところである


「人のなかってどんな感じだ?トランプとかと一緒か?」


「全然、シズキのトランプの中は快適よ、ずっといると飽きるけどね」


「・・・そういやそろそろトランプ作り直すか・・・」


静希はトランプを定期的に作り直している


彼の能力によって作られたトランプは、その成長に応じて物質の許容量を変えてきた


定期的に作り直すことでその成長を確認しているのだが、その成長は中学あたりで止まったのである


ちなみに、静希が能力を使う際に最も多く魔素を消費するのがこのトランプの作成だ


一度作ってしまえば自分のイメージでいつでも出し入れ可能なためにめったに行わないが、その魔素消費は通常の能力消費の三倍近い


と言っても、普段の能力の値が低すぎるために、それでも鏡花の手加減した際の魔素くらいしか消費しないのが現状である


メフィへの説教もほどほどに、静希達の一般公開二日目はこうして幕を下ろす


そして一般公開最終日


最終日、しかも日曜日というだけあって恐ろしいほどの人の数である


湧いて出る迷子、やってくる客、蔓延る面倒事


最後の一日というだけあって手伝っている生徒も店の人間も教員も満身創痍だが、それでも最後の一日だと思うことで体を動かしていた


無論静希達も同様である


警備の仕事に店での手伝い、前日以上の人ごみにかなりまいってしまっていた


もし今日メフィが面倒を起こそうものならほかの人外と結託して徹底抗戦の構えをとるのも辞さないほどに人が多かった


勤務時間を終えると静希達はとりあえず近くのベンチに座り込んで項垂れる


参加している人たちからすれば時間があってもまわりきれないという思いもあるかもしれないが、運営側の静希達からすれば一刻も早く終わってくれという気持ちだった


「なんていうか・・・もう優秀じゃなくていいからこの手伝いやりたくない」


「あー・・・そうだな、今まで通り落ちこぼれでいいよ」


「あんたらね・・・もしわざと成績落とそうものなら埋めるわよ」


今まで落ちこぼれのレッテルを張られ、こんな行事に欠片も参加したことのない幼馴染三人からすればこのイベントは面倒すぎる


鏡花は鳴哀学園の方で何度かこうして手伝いを行っていたからこそなれている物の、それでもさすがに疲れている


能力を使うのではなく体を使い続ける内容のせいで少しずつ体力が削られている感覚だ


「でも結構楽しかったね、ウェイトレスとかできたし」


「そうね、ちょっとしたバイト感覚だったかも・・・まぁいい経験になったんじゃない?」


実際に接客をやっていた明利と鏡花としてはなかなかに貴重な体験ができたようだ


なにせ能力者が行えるバイトというのは限りがある


能力の如何にかかわらず、能力者が働く場というのはかなり限られる


特に大衆店などではほとんど雇ってもらえないこともある


能力者が働く場所は主に人とのかかわりが少ない場であり、新聞配達やらの肉体労働などが当てはまる


こうして接客業の一端を知ることができたというのは運が良かったのかもしれない


「お前らはいいけどな、こっちは裏方ばっかりだったぞ・・・もうやらなくてもいいや、ほぼタダ働きだし」


「んだな・・・やるんだったらもっとアグレッシブなのがいい、どうせならバイト代も出してほしい」


「あんたらは本当に俗物的ね」


今回の手伝いに対して経験以外の意義を見出せなかった静希と陽太からすれば、一日手伝ったらあとはもうやりたくないという印象だった


貴重な体験ができたのは確かに喜ぶべきことだ


だが三日も続けてやるべきものではない、貴重さが薄れてしまう


「なら、帰りに静希んちでお疲れ様会でもする?」


「お、いいな!今のうちにいろいろ買い込んでおくか!?」


「それじゃあお菓子とかご飯になりそうなもの探さなきゃ」


「人んちに来るのに家主の断りはなしかよ」


あら、いやなの?と返され静希はため息をついて答える


別に来られて困るわけでもない、それにとりあえずこの疲れをいやすためにのんびりと飯を食うのも悪くはない


特に今回はメフィのせいでとんだ迷惑をこうむった、せいぜい正論の塊である鏡花にしっかりたしなめてもらうとしよう


「そういやさ静希、メフィの奴はどうしてるんだ?なんかお咎めあったわけ?」


「ん・・・あいつは一週間俺の味覚に同調するの禁止だ」


「味覚に同調・・・ってあ、そっか、あいつらごはんいらないんだっけ」


「ご飯食べなくてもいいって便利そうだけど、それって罰になるのかな?」


肉体という概念から外れている人外たちは食事をするという必要がない


その為静希が食事している時に味覚同調をするのはあくまで娯楽の意味合いが強いのだ


その娯楽を一時的にではあるが奪う、迷惑をかけられた静希からのほんのささやかな罰のつもりである


もっともこれがどれほどの罰になるか静希はわからないのだが


「本当はテレビ禁止にしようとも思ったんだけどな、そうするとあいつ何するかわからないからな」


「テレビ・・・メフィって意外と現代になじんでるのね」


「最近のお気に入りは韓流ドラマらしい、何が面白いのかはさっぱりだが」


普段静希が勉強や料理をしている間もメフィはテレビを見続けている


ニュースにドラマ、バラエティーにアニメ、その見る範囲は非常に広い


暇さえあればテレビを見て妙な知識を詰め込んでいるため、静希としては次に何を仕出すのか予想ができなくもあるのだが、家にいる間じっとしてくれるのであればテレビを見るくらい何の問題もない


そしてもしこのテレビを禁止しようものなら静希に絡んでくることは火を見るより明らかだ


自分の生活を守るためにも、静希の部屋にテレビは必要不可欠


悪魔を抑え込む道具がテレビというのも何とも情けない話ではあるものの、それ以外に手がないので致し方ないと言えるだろう


時刻は夕方、もうそろそろ一般公開が終わる


三日間の一般公開、放送で終了のアナウンスが流れる瞬間、静希達は小さくハイタッチした


結局のところ、得られたものは職場体験の経験程度


だが学生らしいと思える半面、非常に面倒なことが起こるという、奇妙な三日間だった


誤字報告が五件溜まったので二回分投稿


誤字がやばい、けれどちょっと見直しする時間がない、悪循環です


これからもお楽しみいただければ幸いです

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