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J/53  作者: 池金啓太
十五話「未来へ続く現在に圧し掛かる過去の想い」

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苦労を越えて

「いらっしゃいま・・・ってなんだ静希じゃない、もう片付いたの?」


「あぁ、ようやくな、オルビアいるか?」


東雲姉妹を適当な席に座らせ、裏方に向かってウェイトレスの恰好をしているオルビアの下へと向かう


あまり混んでいないようで、店内には何人か人がいる程度だ、どうやらピークは過ぎたらしい


「マスター、お疲れ様です、ご無事で何よりです」


「もうこんな面倒は嫌だけどな、とりあえずお前もお疲れ様、面倒かけて悪いな」


「いえ、この程度何の問題もありません」


ずっとここで働いてくれていたオルビアをメフィや邪薙と同様の方法でトランプの中に入れるとようやく一安心できる


「静希、この後どうすんだ?また働くのか?」


紅茶を入れている陽太の言葉に静希は眉間にしわを寄せながら首を振る


「勘弁してくれよ、こっちはずっと走り回ってたんだ・・・東雲姉妹にご馳走するからケーキと紅茶出してくれるか?」


「あいよ、種類は?」


「たしか・・・ショートケーキとモンブランで」


昨日会った時に言っていた種類のケーキを注文し、紅茶と一緒にトレイに乗せて東雲姉妹の元へと持っていく


「お待たせ二人とも、この二つであってたかな?」


「「わぁ!ありがとうございます!」」


やっぱりこの二人は双子なんだなと思いながら、同時に仮面の口部分を外すのを見て軽く息をつく


「静希君、お疲れ様」


一緒に席に着くとそこに明利がやってきて静希にも紅茶を入れてくれる


「あぁ、ずっと走ってたからちょっと疲れたよ」


「ふふ・・・少しでも休んでね・・・あ・・・でも・・・」


明利のでもという言葉にいったいどうしたのだろうと思っていると背後から静希の頭を掴む何者かがいる


いや、何者などと見なくても分かる、この圧力とこの殺気、静希達が間違えるはずがない


「やぁ五十嵐、ずいぶんとお楽しみだったようじゃないか」


静希の頭部を掴んで満面の笑みを浮かべている担任教師城島


静希がいつかここに帰ってくるということを把握し、この店で待っていたのだ


「せ・・・先生・・・何の話でしょうか・・・!?お、俺はちょっと出歩いていただけで・・・!」


トランプの中で邪薙が『あ・・・』と呟いた気がしたが、静希にはそんなことは聞こえなかった


「残念だったな、大体の事情は犬顔の男性から聞いているんだ、非常に大変な思いをしたらしいじゃないか」


『・・・すまんシズキ・・・大まかにだが事情を説明してしまったのだ・・・』


「なん・・・で・・・!?」


それはどちらに向けていった言葉だろうか、どちらにしろ静希は絶望に浸っていた


せっかくオルビアや鏡花たちをここに置いてアリバイを作ろうとしたのに、一番ばれたくなかった人にあっさりばれていたという体たらく


やはり焦った頭で考えてもろくなことにならないなと今さらながらに後悔してしまう


「・・・まぁ、今回はお前に非はないからな、この程度にしておいてやる」


「うぅ・・・それでも痛いですよ・・・!」


頭を押さえていると明利と東雲姉妹が不安そうにこちらを見ている


それに気づいたのか、鏡花があきれ顔でこちらにやってきている


「あぁ、やっぱりこうなったのね」


「やっぱりも何もない・・・まぁ、今回はこいつも被害者だが・・・判断が甘かったのは事実だ、反省しろ、わざわざ被害を増やすバカがどこにいる」


「す・・・すいません、できる限りばれないようにしたくて・・・!」


本来は鏡花たち班員にも手伝ってもらって捜索するのが最善手だったのだろうが、城島達にばれないように行動したために多少消極的になってしまった


焦りで思考力が落ちていたとはいえ、もう少し何とかならなかったかなと思いながら静希は明利の入れてくれた紅茶を口に含む


「それで?奴はきちんと回収できたのか?」


「えぇ、ちゃんと回収しました、多少なりとも反省しているっぽいですけど・・・」


あの様子ではその反省も恐らくは数日しか持たないだろうなと感じながら苦笑するのに対して城島は額に手を当てていた


「もう二度とこんなことは起こさないようにしろ、もし学園側にばれたらそれこそ以前の比ではないほどに面倒が押し寄せてくるぞ」


以前委員会や軍部の人間がいた場でばれた際にはメフィの脅しという方法でその場を切り抜けたが、それだっていつまでもつかわからない


恐らく静希が学生のうちは問題ないかもしれないが静希が成人すればその立場を利用して静希にいろいろな面倒を押し付けることくらいはできるようになるかもしれない


そうなった時、静希が悪魔の契約者であるということを知っているのはほんの少しであるべきなのだ


「先生、そこまでにしておいた方がいいですよ?フィアンセが待ってますから」


「ん・・・そうだな、五十嵐、明日からは奴の動向に特に注意するんだぞ」


城島が席に戻っていくのを確認すると、その席には前原も座っている


恐らくはデートの途中だったのだろう、悪いことをしたなと静希は苦笑する


さっきの頭部への痛みもどちらかと言えばデートを邪魔されたことへの報復だったのだろう


「で?結局この後はどうするわけ?もうそろそろ上がりたいんだけど」


「そうだな、東雲姉妹連れてどっか行こう、できるならのんびりできるところがいい」


お疲れのようだしねと茶化されるのに対し、反論する体力もない


静希と東雲姉妹が紅茶とケーキを食べ終えるのを待って鏡花たちは店の手伝いから解放され一般公開を回ってみることにする


日が傾いたおかげか、徐々に人は少なくなっており、快適に回ることができそうだった


屋台などで歩きながら食べられるものを買い、あたりを見てみる


特にこの学校に転校してきている鏡花は結構新鮮なようでいくつかの場所に食いついていた


普段見ない部分を見れているということもあって簡単な校舎見学のようだ


無論それは小学生の東雲姉妹も同様


普段自分たちが行かないところに出ている店を通じてどこに何があるのかというのを改めて把握しているようだった


「こうして回ってみると、本当に無駄にでかいわねこの学校・・・こうしてみるとより広く感じるわ」


あらかたの見るべきところを見終え、静希達は夕焼けに染まる屋上にやってきていた


普段は解放されていないようだが、今回は祭りごとというだけあって一時的に入ることができるようだった


と言っても周囲は高いフェンスと有刺鉄線に囲まれている


この程度で能力者を抑えられるとも思えないが、ないよりはましである


屋上からは周囲の様子がよく見えた、人が蟻のように小さくうごめき、どこにどれほどの人がいるのかを見て取れる


「ま、金がかかってるのは事実だろうな、だからこうしてスポンサーのために一般公開やってるわけだし」


「そういう事考える高校生もどうなのよ・・・普通に楽しめなくなるじゃない」


金の話を仕出せばどんなものでも裏があるように思えてくるから不思議である


下手に頭が回るとそういうところまで見えてくるからいやだ


この感覚は、後ろで綿あめを口にくわえた状態で東雲姉妹を肩車しながら走り回っている陽太にはまったく無縁の物だろう


「おい陽太、あんまり二人で遊ぶなよ?」


「何言ってんだ、遊んでやってんだよ、これ結構疲れんだぞ」


両肩に風香と優花を同時に乗せて走り回るそのバランス感覚と筋力はむしろ称賛するべきなのだが、いつ転んで二人にけがをさせるのではないかと明利は戦々恐々している


「ほれ、片方引き受けるよ」


「はいよパス」

風香を自分の肩に乗せて自分も焼き鳥をほおばると、風香は少し恥ずかしそうにしながらうつむいてしまっている


「そうだ、聞きたいことがあったんだ、風香に優花、お前らって精霊と契約してるんだよな?」


「「はい、しています」」


唐突に自分たちと一緒に居る精霊のことを聞かれ二人は首をかしげる


一体何を聞きたいのだろうかと不思議に思っているのだろう、何せ静希が人外とかかわりを持っているなどこの二人は知らないのだから


「お前らが能力使う時って精霊から魔素を受け取るんだよな、それって自動なのか?それとも話し合って決めるのか?」


「えっと、話し合うのが普通です、でも最初の契約時だけはリンクを作るために召喚陣である程度の流れを決めてしまいます」


召喚に関しては風香の方が詳しいのか、召喚時点での条件付けのようなものを簡単に説明してくれた


召喚してすぐに契約者との流れを作るために、召喚陣自体に最低限の術者への魔素の流れをインプットしておくのだという


もっとも、全ての召喚陣にそれがつけられているわけではないらしいが


「私たちの場合、契約したときの魔素では少し少なかったので、少しずつですが魔素の量を増やしています、そうやって自分の体に入れられる魔素の量を見極めることが必要なんです」


今度は陽太の上に乗っている優花のセリフだ、何とも二人同時に説明しているとどちらに顔を向けていいのか迷ってしまう


「ちなみにさ、私たち契約とかよくわからないんだけど・・・もしその魔素が自分の許容量を超えちゃったらどうなるの?」


「「それは・・・」」


鏡花の言葉に双子は言葉を詰まらせていた


どうやらやったことが無いのだろう、しかも周りのエルフも恐らくはそんなことをした人物もいないらしい


「たぶんですが、意識がなくなるか・・・奇形が進むと思います、奇形が大きくなるのか、それとも奇形範囲が広がるのかは私たちにもわかりませんが」


「どちらにしろ、そんなことをすれば大怪我ではすみません、とても危険だと思います」


普段のような同時ではなく順々に説明してくれたおかげでずいぶんと聞きやすかった


普段もこうやって話してくれればありがたいのだが


そんなことを考えながら静希は風香を自分の上から降ろす


人一人を抱えながら話をするものではないなと、改めてそう感じた


「でも五十嵐さん、どうしてそんなことを?」


「ん・・・いやいや、最初いろいろあったのに今ではすっかり普通だなと思ってな、その様子なら問題なさそうだ」


初めての召喚が行われた際に事故が起きた二人からすれば、この心配はひどく自然なものと受け取ったらしく、少し恥ずかしそうに、そして嬉しそうにうつむいてしまった


もっとも、静希が心配したことは少し別なところにあるのはまた別の話である


誤字報告が五件溜まったので複数投稿


今日はめちゃくちゃ寒いです・・・手が震えてうまく打てない・・・


これからもお楽しみいただければ幸いです

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